起きたらハムスターボールの中にいた。なんこれ? 夢?
「ハァーハッハッハ! 目が覚めたかゴースト!」
「いい眺めじゃねえか」
目の前に高笑いするヴォックスとヴァルがいるので、大体事情を察した。誘拐じゃん。
俺は自分が入れられているハムスターボールをペタペタ触り、これが檻だということを悟った。
押しても前に進まねえわ。ハムスターボールではなかった。
そして俺は重大なことに気が付いた。
「ちょっと待って、空気穴なくない?」
「酸欠で死んでも愛してるぜベイビー」
無茶苦茶言いやがるこの箱野郎。
マジで脱出できねえわこれ。途方に暮れて、俺はヴェルヴェットを見た。
「ヴェルヴェット~……俺たち友達じゃなかったのかよ」
「ごめんねゴースト、私だってあなたに戻ってきてほしいんだもの」
俺はヴェルヴェットに「久しぶりにパーティしましょうよ!」というメッセージをもらい、ここまで赴いているのである。
つまり罠だった。トラップにまんまとひっかかった。お恥ずかしい。
友情を利用されると俺は弱い。そのへんヴォックスよりよっぽどヴェルヴェットの方がわかってる。
「ゴースト用に作らせた檻だ、何に化けても絶対に出られんぞ」
「この後撮影で使うけどな」
どんなプレイのAV撮るつもりなんだ、空気穴のない丸いボールの中で。
「いや、まず聞くけど~。俺に何してほしいわけ?」
「戻って来てくれ!」
「戻ってるじゃん。たまには遊びに来てたしさ~」
「何!? 俺は知らんぞ!」
そりゃヴォックスに知られたら引き止めがめんどいと思って話しかけなかったんだわ。
ヴェルヴェットとヴァルがウインクする。
「ダイエットコークの差し入れありがと♡」
「期間限定のドリンクも悪くなかったぜ」
「2人が気に入ってくれてよかった~」
「おい! ずるいだろ! なんで俺にはない!」
ヴォックスがむくれている。かわいい。
お前金持ってんだから好きなだけダイエットコークも期間限定ドリンクも買えるだろ。
「ヴォックスはともかく、2人が協力してんのはなんでなのさ。俺いなくても2人は困らんでしょ」
「いや、困るね」
「そうよ。ゴーストほど気の利くやつなんていないんだから!」
ヴェルヴェットとヴァレンティノは、俺のいいところを指折り数えてくれた。
「SNSで気になってるって言ったアイテムをプレゼントしてくれるし」
「俺のアイディアを全部褒めてくれるしな」
「ジョークは面白いしクソモデルの抜けた穴埋めてくれるし!」
「お前が選ぶ飯屋は全部美味い」
「そもそもまともにお使いできるやつすらいないのよ、ここには!」
「お前のためなら何本でも脚本を書きおろすぜ、ゴースト」
ヴァレンティノに好かれるのは嬉しいが、俺はAVには出ないヨ……。それからヴァルのアイディアを褒めたことはない、全部「きゃあ、えっち!」と言ってきただけだ。えっちって褒め言葉か? そうかもぉ……。
ヴェルヴェットにジョークを気に入ってもらえているというのはうれしいことだ。
モデルの穴は俺が変身能力で埋めたりした。おかげさまで無駄にウォーキングがうまいぜ俺は。
「褒めてくれてありがとね~。でもホテルの連中が心配するからそろそろ帰りたいんだけど」
「いいや、ダメだね。どうしてもここから出たいなら契約するんだな!」
「え~? 曲作ったら出してくれよ~。どうせ俺の曲だけが目当てなんだろ、ヴォックスのえっち」
「どうしてそうなる?」
俺の体より俺の曲の方がえっちだからだが……?
ヴァルがヴォックスと肩を組んだ。
「そうだぜヴォクシー、契約するなら俺にも一枚かませろよ。ちゃんとえっちなゴーストが見てえだろ?」
「それが見たいのはヴァルだけだろ! うわーん、エロ同人みたいになってしまう、いや同人じゃねえ、商業だ!」
「お前がえっちなところを俺にしか見せたくないってんならそれはそれで構わないけどな?」
ヴァルに微笑まれ、俺は大混乱した。
え? 何? どういうこと? 俺今英語の能力が極端に下がったかも。
なんか今ヴァレンティノに口説かれているような気がするけど気のせいか?
俺は一般的な恋愛観を持つ悪魔なのでェ……浮気前提の恋とかしたくねえなァ……。
「ヴァルのえっちなところも今後俺以外に見せないってんなら考えるけど」
「はぁ!? 考えるな!」
ぎょっとした顔をしたのはヴァルではなくヴォックスであった。なんで?
ヴァルは煙草をふかし、笑いながら首を横に振った。
「無茶言うなよ。生きてるだけで俺はえっちだぜ?」
「確かに~」
「納得するのか!?」
ヴォックスのツッコミがうるさい。
「今のは私が言っても成立する会話か、ゴースト!?」
「え? いや、ヴォックスは生きてるだけではえっちでない」
「そういうことじゃない!」
どういうことだったんじゃ。
「待て、生きてるだけではと言ったな? 私をえっちだと感じる瞬間があるということか?」
「え、ああうん、ヴォックスがえっちなときは――」
突如、轟音を立てて壁がぶっ飛んだ。
その吹っ飛んできた壁――もう瓦礫と呼ぶべきそれは、ヴォックスとヴァレンティノのいたあたりにどちゃっと積み上げられた。
わあ。もう瓦礫しか見えない。
「ああもう、心配したのよゴースト! 大丈夫、怪我はない?」
その瓦礫を踏み越えてやってきたのが、われらがチャーリーであった。
瓦礫が吹っ飛んできたおかげで、俺が閉じ込められていたハムスターボールのような檻も半分崩壊した。
というか危なく俺も瓦礫の下敷きになるところだったな。運が良かったぜ。
瓦礫を踏みつけて、俺はチャーリーに抱き着いた。
「うわーん、ありがとうチャーリー! 助けに来てくれたんだな~!」
「いったい誰がゴーストにこんなことしたの!?」
チャーリーは怒りのあまり、額に大きな角を生やしている。
ちょっと引いてるヴェルヴェットが、チャーリーが今立っている瓦礫の下を指さした。
「えっ!? あら嘘、下敷きに!?」
「心配するなよチャーリー。潰される前から平面の奴と、どんなプレイでも耐えられる奴だから」
「え? ええと……大丈夫ってこと?」
「大丈夫ってこと」
俺がサムズアップして見せると、チャーリーは安心したようだった。
そんなんでいいんかと思わなくもない。
「チャーリーがゴーストを助けに行くって言ったときはまた妄言をと思ったんだけどさ~。マジで捕まってるとは思わなかったよ」
チャーリーの後から瓦礫を乗り越えてきたエンジェルは言った。
「だって根拠が、ゴーストが出かける前に『パーティについたら友達との写真撮ってチャーリーに送る~!』って言ってたのに30分メッセージが来ない、きっと危ないことに巻き込まれたのよ! だぜ? そんなのパーティが楽しくて忘れてるだけだと思うだろ」
「でもゴーストは約束破ったことないのよ!」
俺ってば信頼されとる。
「疑ってたのに来てくれたんだなエンジェル! だいすき!」
「ワオ! 俺も好きだよ、毛玉ちゃん♡」
「きゃあ! 俺もしかして今恥ずかしいこと言った!?」
顔を真っ赤にして照れていれば、ヴェルヴェットが深いため息をついた。
「行っちゃうのね、ゴースト」
「ごめんねヴェルヴェット。君が俺のことそんなに好きでいてくれてると思わなくてさ。あんまり会いに行ったら迷惑かと思ってたんだ。もっと遊びに行っていいってこと?」
「もちろん、大歓迎よ! 面倒なんだったらヴォックスにもヴァルにも来たこと黙っててあげるから、もっと一緒に遊びましょ!」
「わ~い! じゃあなヴェルヴェット、今度はちゃんとパーティで会おう!」
おっとその前に。
「ヴェルヴェット、ツーショット撮ってもいい? 友達の写真送るってチャーリーに約束したからさ」
「うふふ、いいわよ!」
パシャ、と撮って「よし、もういいよ、みんな帰ろ~」と振り返る。
チャーリーが瞳をうるうるさせてこちらを見ていた。
「友達っていいわね、ゴースト!」
「そうだな、チャーリー! もちろん君も俺の友達だ!」
俺はチャーリーと友達っていいな♪のデュエットソングを歌いながらハズビンホテルまで帰った。