ミムジーと名乗り歌い上げながらハズビンホテルにやってきた女性の後から、俺もホテルに入る。
俺は珍しくホテルを留守にしていた。その辺の街頭で、軽く楽器演奏して歌を歌ってきたのだ。
ちょっとした小銭稼ぎでもあり、誰でもいいから俺の音楽を聴いてくれという、俺にとっては呼吸に近い行為の帰りである。
帰って来てみれば、ホテルは妙に誰かの歓迎ムード。ミムジーはアラスター以外からあまり歓迎されていなさそうだったので、別の誰かだ。
「ごめ~ん、なんか出遅れちった?」
「ゴースト、お帰りなさい! 紹介したい人がいるのよ」
「おっ、誰々~待って当てるわ、そっちのハイソサエティなお方だろ? そうだな……」
チャーリーが紹介しようとしているのは、もちろんこの場で俺の知らない人物だ。
ミムジーはもう名乗ってもらったから除外していいよな?
見覚えのない紳士が一人いる。
真っ白な肌にチャーミングな赤いほっぺ、ギザギザのイカした歯列に、貴族じみた上品な仕草。
これは俺でも当てられるぜ。自信満々に言った。
「チャーリーのお兄ちゃんだ! 超似てる!」
「ワーオ。政治に詳しくない俺でも知ってんのに、ゴーストってさすがだね」
エンジェルが呆れたように言ったので、俺はむくれた。
「地獄じゃ3歳なんだから仕方ね~でしょ、有名なの?」
「失礼。私はルシファー、チャーリーの父だ。娘が世話になっているね」
「ワオ! 兄じゃなくて父!? ごめん、俺地獄の悪魔の年齢見てわかんなくて、若く見えるって言うのは失礼にならない!? でもそう、しっかりして威厳あるなって思ったから弟じゃなくて兄って言ったんだぜ!」
俺は早口に言い訳をした。これ失礼になってる!?
てかプリンセスの父なら地獄の王じゃねえか! やば! 最高権力者!
だからさすがのエンジェルでも知ってるっつってたのか。伝説のポルノ俳優なの? とか口走らなくてよかった。
よく見たらホテルの壁に飾ってある肖像にいる顔だし、よく見なくても気づけよ俺。
「パパ、彼はゴースト・ライター。素晴らしいミュージシャンなのよ」
「ちょっ、チャーリー、そんなこと言われたら俺照れちゃうよ、へへ」
俺は照れて顔を赤くした。もじもじしながら、ルシファーに言う。
「生前あんまり楽器触れなかったから死んでからいろいろ勉強中なのです」
「それはいい。私もいくつかなら教えられるぞ。ヴァイオリンは覚えたかね?」
「まだ! 教えてくれるの!? え~チャーリーのパパかっこいい~! いろんな楽器できるのか!? チャーリーの歌がうまいのもパパ譲り?」
「ハハハ。それはどうだろうね」
てことはママも歌上手いのかな。音楽一家いいな~。
「てか、マジで、チャーリーのパパってことは、親……だよな?」
「えーっと……そうよ?」
「俺、チャーリーに親紹介してもらえるほどの仲になったってこと!? それってつまり、マブダチじゃん!? 親友!? 家族ぐるみの付き合い!? やば!」
超、超仲良しってことじゃん!?
俺はそばにいたニフティを捕まえて頭上高く掲げた。
「ニフティ! 俺チャーリーに親紹介してもらった! すごくね!? みんなに自慢しようかな!」
「アハハ! 私も紹介してもらった!」
「そうじゃねえか! ここにいる全員紹介してもらってるから自慢できねえ! クソーッ! 俺のアホーッ!!」
ニフティを掲げたまま一周ぐるんと回ってから、俺はハッと気づいた。
「てことはみんなチャーリーのマブダチで、マブダチのマブダチはマブダチだから、俺たちみんなマブダチってこと!?」
「ええ、そうですねゴースト。我々みんな家族のようなものです」
どっかから湧いて出てきたアラスターが俺の肩にそっと手を置いた。俺は感動した。
「アラスターがそんなこと言うなんて……! これを記念して曲にしねえとか!?」
俺は謎空間からアコギを取り出して軽く鳴らした。
途端、エンジェルが俺の肩を掴んで押した。
「よしよし、邪魔になるから向こうでやろうねゴースト」
「おーん、そうだな、完成したら聴かせるね~! はい、デモできた、聴きたい人!」
エッギーズがはいはいと手を挙げたので俺は気合を入れてアコギを持ちなおした。
「この後曲に納得いかなくてギターをたたき割る、に賭けようかな」
「賭けにならねえよ」
エンジェルとハスクが端の方でそう言っていたのは聞かなかったふりをした。
そりゃ俺だって毎回納得のいく曲をつくれるわけではないが、その度に楽器をぶっ壊しているわけでは……まあまあの頻度でやってることは認めよう。
みんなはものを大事にしようね! 地獄に落ちるぞ!
原作5話