Laughing at the blue sky 作:ロリコン先生
パチリ、と目を開ける。
視界に飛び込んでくるのは清潔そうな真っ白な天井。窓から射す陽の光は室内を照らし、ただでさえ白い室内がより白く見える。
どうやらボクは寝ていたらしい。
寝たままもう少し辺りを見渡せば、これまた清潔そうなカーテンが目に入る。
なるほど。
察するにボクはあの時、壁に頭かなんかぶつけて気絶した後、ここの病院に運び込まれたって訳だ。
どうやら、また死に損なったらしい。全く、我ながらタフなもんだぜ。
ここが病室であると認識したボクは体を起こした。
「お、アンタも起きたんだな」
寝ぼけ眼を擦り、欠伸をしながら体を解すように上へと伸びをするボクに声がかかる。
声の聞こえた方角を見れば、人間大のデフォルメされた柴犬みたいなのが座っている。
この世界、学園の生徒以外は大抵こんな二足歩行して喋る動物かあとはロボットかオートマタしかいない。最初に来た時は驚いたが、三年近く生活してりゃさすがに見慣れたもんだ。
それに、ボクは彼を知っている。推定ハルカが爆破したと考えられる、柴関ラーメンの大将だ。
大将には迷惑かけたしちゃんと詫び入れねぇとな。
「大将、アンタも入院してたんだな」
「まぁな。つっても俺の方は軽い怪我だよ。お前さんは結構な怪我みたいだが。大丈夫なのか?」
「あ?あ、ああ……」
言われてようやく気づいた。
頭には包帯がぐるぐると巻かれているし、手足にも包帯がグルグルと巻かれている。なるほど、僕は確かに重症患者らしい。
つーか、すげぇ頭痛いわ。──おいおい、冗談じゃないくらいにすげぇ痛いぞ。
痛みを認識した瞬間頭の中身を締め付けられ、雑巾絞りがごとく締めあげられているような感覚がする。さながら西遊記の孫悟空だ。
───これヤバいんじゃねえのか。
「きぼちわるい……。吐き気がする……」
「おいおい。大丈夫なのかよ?」
「……だ、大丈夫じゃねぇかも」
だ、誰かー!ナースさん呼んでー!
とか巫山戯てる場合じゃねぇぞ!ギリギリと締め付けられてるような痛みがボクの頭を襲う。
「ぎゃ、ぎゃあ!」
「お、おい凄い顔してるぞ!ちょ、ちょっと待ってろ人呼んでくるから!」
「は、早くしてくれ……!うぎゃぁ」
バタバタと大将がベッドを抜け出していくのを見て、ボクは頭痛でこんがらがっている頭なりにふと思う。ナースコールで呼べばいいのでは?と。
しかしそんなこと忘れるくらいに、頭がバカほど痛い。
く、クソ。ボ、ボクが何したって言うんだ!最悪だ!厄日だ!これも全部アホのアルのせいだ!許さねぇぞ!
あ、やべ、これ死ぬ。
「絶対に許さねぇぞ、陸八魔アルぅぅぅぅ……」
そう死にたいながら呪ったボクはそのまま力尽きるのであった。
◇
パチリ、と目を開ける。
視界には真っ白な……こいつはデジャブだな。つーかさっきもやった。
頭痛は、ほぼ治まったな。体も痛くはない。お、頭の包帯も外れてるみたいだ。何時間寝てたかは知らねえが存外ボクの回復力は高いなぁと感心する。
「とりあえず、ナースさんでも呼ぶかね」
窓から差し込む日差しは相変わらずでどうやらそんなに寝ていなかったらしいと思いつつボクはキョロキョロと辺りを見渡した。ナースコールはどこだろうか。
そしてそんなボクの目に入ってきた人物に思わずギョッとした。
「そう、起きたのね」
「げ、げ、ゲヘナの風紀委員長、てっうおうがぁ!?」
そこに居たのはやけに毛量の多い白い長髪。ゴツくて禍々しさすら感じる紫のヘイロー。藍色の軍夫じみた制服に身を包み、その腕には赤の腕章が着いている。そして腕章には風紀委員の文字。
便利屋全員が恐らく、キヴォトスにおける一番の危険人物、かつ見つかってはならない相手と理解している、ゲヘナの風紀委員長。空崎ヒナだった。
そんな相手が当たり前のように病室にして、あまつさえ見舞いに来ている。そんな状況にはさすがのボクも驚いた。なんなら驚きすぎたもんでベッドから転げ落ちた。
「だ、大丈夫?」
「問題ねぇぜ……。よっ、と、と、と?」
いつもの調子で体を起こそうとするが、どうにも上手くいかない。
数時間寝てたくらいでこんなになるもんかね。
どうも、身体全体が弱っている感覚がする。まるで何週間も寝込んでいたかのような……。
上手く立ち上がれないボクを見かねて、空崎ヒナがボクを支える。
「悪ぃな……」
「気にしないで。それに二週間も寝ていたんだから体が弱っているのは当然よ」
「あ……?おいおいおい。マジか。二週間?冗談じゃねぇよな?」
「冗談を言っている顔に見える?」
そう言われればボクはマジマジとヒナの顔を見つめた。
人形みたいに白い肌。若干眠たげな薄紫色の瞳。それとうっすらとできている目の下のクマ。って、んなもん見てる場合じゃねぇか。
彼女は至って真面目な顔をしているだった。まぁ、確かに冗談を言っている顔をには見えねぇな。
するとヒナは若干顔を赤らめてボソリと呟く。
「顔、近い」
「ん、ああ。悪かったな」
タバコ臭かったかね。
なんて思いつつ、ボクはヒナから顔を離し彼女の手を借りてベッドへと座った。
「それで、詳しい話が聞きたい。あの後どうなったんだ?ボクは間抜け晒してそのまま気絶したのはわかるがよ……。いやそれよりもどうして一体お前さんがボクの見舞いを?」
「……それはたまたま。あなたがここに運び込まれたことは知っていたのだけれど、お見舞いには行けていなかったから」
「そりゃぁ、天下の風紀委員長さんがすげぇ忙しいのはボクも知ってるがよ……」
察するに仕事に忙殺されながらも、その合間を見てボクの見舞いに来たということだろう。
……なんでだ?いや、アルとかが来るならわかるんだけどな。それでもなお風紀委員長が来る理由がわからない。
ボク個人としての関係性はともかく、便利屋と風紀委員は敵対関係……というか、しょっぴく側としょっぴかれる側の筈だ。
「……さすがに、ヘイローのないただの人間を迫撃砲の爆撃に巻き添えした上に、その相手が二週間も寝たきりなんて聞いたら組織の長として見舞いくらい行くわ」
「なるほど」
つまるところクソ真面目なだけというわけだ。しかし、あの爆撃は風紀委員の仕業だったのか。ボクらを追いかけてわざわざ人様の自治区に来たって訳か。
随分とご足労な事だな。そりゃ。
職務に真面目なのはいいことだ。とはいえ──
「律儀だねぇ……」
「そうでなければ一組織の長は務まらないと思う」
「そうかい。まぁ、お前さんが見舞いに来た理由は分かったよ。んで、うちのアホどもは?」
「知らないわ。私が来た時に逃げていたから……」
「随分と逃げ足の速いこって……」
アルたちはボクを置いてさっさと逃げたらしい。良い判断だとは思うが薄情だねぇ……。まぁボクの意識があったらそうしろって言っただろうしな。
恐らくカヨコ当たりがそう進言したんだろう。それでムツキが便乗。ハルカは、まぁ多分パニッくってたろうしアレか。ギリギリまでアルが反対していそうな気もするが、そこは上手く丸め込んだのだろうと予想する。
まぁ風紀委員とアビドスの三つ巴状態から逃げながらボクを救出、あまつさえこの空崎ヒナの目を盗んで脱出するのは至難の業だ。というか多分無理だ。
調子がいい日はゲヘナの不良ども全員シバキ倒すとも聞いたし、不可能なんじゃねぇか。
「なるほどね。概ね理解したぜ」
「他に聞きたいことは?」
「柴関の大将は?」
「もうとっくに退院したわ。幸い……というのはおかしいのだろうけれど、軽い怪我だったから」
「そりゃよかった」
とはいえそんなに心配はしていない。この世界の住人はヘイローのない動物からロボットまでみんな基本的に銃弾やら爆発には耐性がある。
むしろ撃たれただけで死ぬヘナチョコはボクとシャーレの先生くらいなもんだ。
だから平気でボクにも爆撃が飛んでくる。例外を頭に入れてないからだ。そりゃ当然なんだがな。
たんこぶができる程度、アザができる程度の威力で石を投げただけで死ぬ人間が世界に二人だけいる。なんて言われても理解はできても、常に考えながら戦えってのは難しい話だ。
「他は?」
「ねぇな。わざわざありがとうよ」
「別に、お礼を言われる筋合いはないわ。それに、あなたがこうしてここにいるのは私たち風紀委員のせい。だから正式に風紀委員として私が────」
彼女が頭を下げるのを察したボクは彼女が何か言う前に言葉を挟んだ。
「そういうのはなしにしとこうぜ。風紀委員長」
「でも」
「ボクら、というか…まぁボクか。ボクはただの小悪党。今回の一件もチンピラの一味がバカやらかしたことでしかない。しかも一般の市民様に迷惑かけてな。それについてウチのが謝罪したかどうかは知らねぇが、なんの罪もないラーメン屋を爆破した挙句人の自治区で大暴れ。やってることは間違いなく悪党だ。謝っても……ココじゃ許されるかもしれねぇが、それでもさ。そんなのに頭下げたら風紀委員長の示しがつかねぇぜ?」
ボクの言葉にヒナはしばらく考え込む。
そして面倒くさそうにため息を吐いた。
「……あなたも『大人』なのね」
「タバコも酒も嗜む、立派な大人さ。お嬢さん」
彼女は表情を変えずに、じっとこちらを見ていた。
「……よく分からない人。なら、謝罪はなし。ただし、せめてものお返しとして捕まえるのはやめにするわ」
「……もしかしてそっちが本命だったり?」
「…………」
何も言わずにクルリと踵を返すヒナ。
そういえば、と思い出したボクは一つ彼女の背中に声をかける。
「ああ、そうだ。一つ頼まれてくれやしねぇか」
ヒナは扉へと歩を進めて、既に扉へと手をかけていたのだが、ボクの言葉にピタリと足を止めた。
「なに?」
そして、顔をだけをこちらへと振り向かせそう問いかける。
「万が一があるかは知らねぇが……。仮に、先生か、あるいはアビドスの連中から頼まれ事したら一つ、了承してやってはくれねぇか」
「あなたには、関係ない事だと思うけれど」
「あそこには昔世話になってね……。まぁ気が向けばでいいさ」
「……考えておく」
そう言って、今度こそ彼女は外へと出ていった。
カラリと音を立ててスライドしながら、最後はポンと扉のゴムがサッシに当たる音が小さく聞こえて扉が閉まる。
これで病室にはボク一人なったわけだ。
……しかし2週間も寝ていたと認識すると、腹が減った。
グウウウウ~
腹の虫も大暴れしてやがる。
……腹減ったなぁ。
最近、常套句と化したセリフを内心ボヤきながらボクは枕元に置いてあったナースコールを押すのだった。
◇
それから後。
病院から連絡を受けたのかアルたちが病室へとなだれ込み、まぁ色々とひと悶着あったのだが面倒くせぇので割愛する。
ああそれと、一緒に先生も来た。
アビドスのメンバーはボクのことは苦手なので来ないと言っていた。当然だな。
先生とはいくつか言葉を交わしたあと彼は去って行った。
そういや便利屋では先生の依頼を受けたと盛り上がっていたが、詳しいことは知らん。
更に経って、概ね一ヶ月が経った頃。
ようやくボクは退院となって、病院の前に立っていた。
「空気が美味い」
ぼんやりと、呟いたボクは空を見上げる。
今日も大きなヘイローが浮かび上がるキヴォトスの青い空は、眩く輝きその陽射しでボクを照らす。
ボクが来た時と変わらない綺麗な空だ。ボクが目を奪われた青い空だ。
「良い天気だ」
その眩しさに目を細めながらボクはそう呟いて、カヨコへとメッセージアプリであるモモトークを使ってメッセージを送った。
『退院したんで、戻るぜ。移転した事務所の場所は?』
そう聞けばカヨコから住所が送られてきた。
『ここだから』
『了解』
『どうせお腹減ってるでしょ?』
そんなメッセージにボクは歩きながら「お」とつぶやく。たしかに腹が減っている。病院食は味気なくて困っちまう。ボクは肉が食いてぇんだ。
便利屋が持ってきてくれたバイクに鍵をさしつつ返信のメッセージを送った。
『腹がペコペコで背中とお腹がくっついちまいそうだ』
『ご飯作っておくよ』
『メニューは?』
ブォンブォン!と大きな音を立てて、エンジンを奮い立たせるボクの相棒。1ヶ月ぶりともなれば気合いも入るってもんだろう。
ボクもカヨコが作る料理を楽しみにしつつスマホの画面を再び見る。
そしてそこに書かれていたのはこれだった。
『特製青椒肉絲』
ボクは一言返す。
『肉は?』
そして即返ってきたメッセージにため息を吐いた。
『ないよ』
「……だからよ、肉のない青椒肉絲は青椒肉絲とは言わねぇんじゃねぇのか」
そう一人呟いて、また、大きくため息を吐くのだった。
vol.1アビドス・サンド・ファンク
終了
次回予告
「……ああ?宅配便がなんだって?」
「盗まれたんですよ!」
「何が?」
「ミレニアムプライスの!賞状が!」
「なんで」
「知りませんよ!いいから追いかけてください!」
「なんでボクが……」
「文句を言わないで、走るんですよ!!!」
次回 vol.2【ミレニアムランナーズ】
近日投稿
※補足
ソラが寝てる間とリハビリ含めて経過観察している間に対策委員会一章と二章が終わりました。
本来なら退院ももっと早いんでしょうがなにぶんキヴォトスには本来一人しかいないはずの銃弾で死ぬ人なので、重めに見られてこれくらいの長い期間病院にいることになりました。所詮ヘイローない人間は敗北者じゃけぇ……。
それと、ヒナがソラの見舞いに来た主目的は監視のためです。
本来であれば起きてしばらくしたら捕まえる予定でしたが、今回の一件と、もう一つとある事情のせいでつかまえるのを辞めました。
それはまたどこかで触れられたら良いですね。