Laughing at the blue sky   作:ロリコン先生

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session2 ミレニアムの”元”清掃員

「ちくしょう!なんでこんなことに!」

 

 ボクはバイクをのハンドルを握りながら叫ぶ。

 

「いいからもっと早く!スピード出せないんですか!?」

 

 すぐ後ろの後部シートでSMGを片手で撃ちながら、ユウカが怒鳴るようにそう言う。

 

「これで最高速度だよ!」

「ニトロを使えばいいじゃないか」

 

 サイドカーに乗りながら優雅に微笑んでいるのは、我らがクソッタレマイスターウタハ。

 しかも悪魔のような提案をしてくる。

 

「あんな欠陥システム誰が使うかってんだ!」

 

 相棒のエンジンをフルスロットルまであげる。

 マフラーからは相棒からの悲鳴のような爆音が鳴り止まない。

 トルクの回転は最高潮だが、そろそろ限界を超える。

 酷使していたからメンテナンスに持ってきたのに、なんでこんなことになってやがる!?

 ボクは小一時間前の記憶を思い返し始めた。

 

 

「それで、ソラさん?覚悟はいいですか?」

「よくねぇな」

「いいですね?」

「はい……」

 

 ボクはエンジニア部の工房。

 そこの出入口となっている無骨だが近未来的なデザインの扉の前で正座をさせられていた。

 当然床は金属なので足が痛くてしょうがない。

 

「まず、勝手に黙ってミレニアムを出ていった件について弁解は?」

「バイクの修理費とかその他諸々の借金は返しただろ……」

 

 ボクはミレニアムに転がり込んだ時に色々あって多額の借金を負うことになった。アビドスに比べれば雀の涙みてぇな額だけどな。

 とはいえ当時のボクとしては結構死活問題だった。何しろ金が返せない。バイクの修理費も払えないほどだ。

 とはいえそれも全部返し払った。今更どうこう言われても困る。

 そんなボクの態度を見て何かを察したのかなんなのか。はぁ〜と面倒くさそうにため息を吐いてゆっくりと頷いた。

 

「……はい。でも、こちらに何も言わずに出ていきましたよね?」

「いやぁ、それはほら。アレだろ……。別れってのは寂しいもんな?」

「は?」

「すんませんなんでもないです……」

 

 怒り心頭とばかりに腰に手を当てて、上から見下ろしてくる少女の冷たい目。そんな少女にボクは頭を下げる。

 もう下げるしかない。

 何せボクはこの少女。

 目の前に立つ、レディースのスーツのようなものの上にミレニアムの制服を羽織った、この学園の二年生。そしてセミナーの会計担当である早瀬ユウカには頭が上がらなかった。

 

「まぁご無事なのは前々から知ってましたが……」

「そりゃもうボクはいつでもピンピンしてるぜ」

「そもそもあなたは今、ミレニアムの庇護下に置かれているということを忘れたんですか?」

「そりゃもちろん。覚えてる覚えてる……。あー、そう。ミレニアムの清掃員さんだろ?」

「若干間があったのが気になりますが……。そうですね間違ってません」

 

 彼女はボクの言葉にゆっくりと頷いた。

 何を隠そう……。隠すほどのものでもないが、ボクはここミレニアムで働いていた。

 日々実験の副産物としての爆発や、その他諸々で汚れることが多いミレニアムの各地で清掃活動をしていたのだ。

 人呼んでミレニアムの清掃員さん。

 アビドスに侵入した時に着てたつなぎは、ここのお古ってわけだ。

 

「つまり、あなたの雇い主は未だ我々セミナー。ひいてはこのミレニアムサイエンススクールなわけです」

「ああ、まぁ。それはそうだな」

「それがどうして、犯罪組織になんて所属しているんですか!」

「ん?」

「しかも銀行強盗をしたとも聞きました!どうなっているんですか!?」

「んん??」

 

 ボクはユウカの言っている言葉を頭の中で反芻する。

 犯罪組織?便利屋が?

 いやぁ、確かにそうと言えばそうかもしれねぇがそんな極悪非道の犯罪組織みたいな面で言われても困るんだよな。良くてセコい悪事ばっかりしてる小悪党の零細企業だぜ。それがどんな曲解でそんな話に。

 しかも銀行強盗ってなんだよ。

 

「おいおい。誰から聞いたんだよそんな話」

「先生とウタハ先輩ですが」

「あ〜……。そういや行ったことあるって言ってたな……」

「その反応!やっぱり本当なんですね!?」

「本当っちゃ本当だが誤解っちゃ誤解なんだよ」

 

 ユウカはまるで家族が人質にでも取られたかのように詰め寄ってくるが、ボクは冷静に顔を若干遠ざけながら彼女へと弁論する。

 

「そもそも今ボクが厄介になってるのはただの便利屋だぜひぜひ」

「便利屋?」

「ああ。金を積まれればなんでもやる。要人護衛から犬の散歩まで。例え犯罪ギリギリのことでもな。それがモットー」

 

 最初はなるほどーっと間抜け面で聞いていた彼女だったが段々と言葉の意味に気がついて訝しげな顔になり、首が傾いた。

 そしてポツリと。

 

「それは犯罪組織では?」

「まぁ否定はしねぇ」

「そこは否定して欲しいのですが……」

 

 ユウカは若干呆れたような顔をしてこちらを見る。

 否定できねぇのがうちのダメなとこだ。

 何しろ社長は指名手配されてるしな。

 

「では、銀行強盗についての弁明は?」

「それに関しちゃ全くの誤解だな。ボク達は銀行強盗なんてしちゃいねぇ」

「あれ、でも銀行強盗で手に入れたお金でメンテナンス代払ったと言ってなかったかい?」

 

 何やらいくつかの機材を抱えながらこちらに戻ってきたウタハが不思議そうに聞いてくる。

 

「そりゃお前の勘違いだぜ。ボクたちはしちゃいない。したのは、別のやつらさ」

 

 ウタハは合点が言ったように「なるほど」と頷くとまた向こうへ去っていった。

 納得したのはいいんだが、前から思っていたがやっぱりアイツボクの話は適当に聞いてやがんな。……つってもそれはお互い様か。ボクもアイツのロマン話とかは適当に聞き流してるからな。

 しかしウタハとは別に、ユウカの方は僕の言葉に興味を持ったようで続きをせっつくように口を開いた。

 

「別のやつら?」

「なんだったかな……。確かなんとか水着団とかいう集団だ」

 

 ユウカは、ボクの出した名前に引っかかるところがあったのか一瞬考え込む。

 そしてハッとした様子で顔を上げた。

 

「……それって、まさか最近噂のテロリスト集団『覆面水着団』のこと!?」

「え、あ……?あ、ああ。確かそんな名前だったな」

 

 アイツら今そんな有名なのか。

 確かにカイザーローンを襲撃した時は実に鮮やかな手口だったが。あれがアビドスの生徒ってバレてないのは幸運なのかね。

 

「よ、よく無事でしたね?」

「まぁ、ボクたちは一般の客としてそこにいただけだったからな」

「……じゃぁウタハ先輩に払ったお金は真面目に稼いだお金ってことですか?」

「……まぁそんなとこだな」

「なるほど……」

 

 ボクは特に何も言わず適当に誤魔化すように頷いた。

 真面目に稼いだ金かと言われれば、全くもってNOである。その辺に落ちてたカバン拾ったら入ってた金なのだか、むしろダメ寄りの金だ。

 覆面水着団がカイザーローンからかっぱらってきた金を拾ったんだからなボクら。怒られても仕方がねぇ。

 

「んじゃ誤解が解けた頃で。そろそろ正座やめていいか?スネがもう痛くてたまらねぇ」

「ダメです」

「おいおい……」

 

 ボクの提案はにべもなく断られてしまい、正座のままズッコケた。

 

「なんでだよ。もう良いじゃねぇか」

「よくありません。あなたはひとつ勘違いをしています」

 

 勘違い?とオウム返しで聞くのははばかられた。

 なにせユウカの態度が明らかに真剣なものになったからだ。間違いなく説教の本番はこれからか。面倒くせぇな。

 相変わらず痛むスネをできるだけ痛くないように座り直してから、ボクは相も変わらずずっと偉そうに腕組みながらこちらを見下ろすユウカにへと向き直る。

 

「そもそもあなたは自由に動いていい立場じゃないんです。それをいい加減理解してください」

「生憎と、縛られるのは苦手でね」

「言っておきますが、ここはあなたが自由に走りわまわっていい庭じゃないんです。そういう勝手な行為は許されないことだと、前の代の会計がお伝えしたと聞いていますが?」

「忘れちまったな」

 

 ボクの態度に、ユウカは盛大にため息を吐いた。

 呆れてものも言えないって感じだな。昔からこうなんだ。そろそろ慣れて欲しいものだ。

 

「相変わらず、こういうのになると頑なですね」

「何があっても芯がぶれねぇのが取り柄でね」

「いや、結構ブレブレじゃないかな?」

 

 ボクらの会話にウタハがまた首を突っ込んできた。面白がっているのかと思ったが、どうも違うらしい。

 

「ユウカ、一応頼まれていた監視カメラの復元終わったよ」

「え?あ……忘れてた。私としたことが……。すみませんウタハ先輩。とりあえず見せて貰ってもいいですか?」

「ああ」

 

 突然ボクをそっちのけで二人が向こうに行こうとする。

 お説教は終わりか?帰っていいか?なんて聞けるわけもないが、さすがに正座はしんどいので床から立ち上がる。

 幸い足は痺れてないらしい。

 

「ちょっと、まだお話は終わってませんよ」

「今は中断するんだろ?なら後でまたやるよ」

「まったく……」

 

 ユウカはまた呆れたようにため息を吐けば、しかし今はあちらが優先のようで特に静止はせずにそのまま向こうに歩いていった。

 ボクも自然とそっちについて行く。

 お、あの子説明ちゃんじゃねぇか。目が合ったのでヒラヒラと手を降ればブンブン!と手を振り返してくる。

 良い子だねぇ……。服の着こなしは独特なんだが、まぁいい子だ。

 ウタハと比べれば百倍はいい子。

 彼女らに着いていけば、そこには何やらコードが繋がれたノートパソコンが置いてある。

 

「よし、流すよ」

「お願いします」

 

 ボクは何も言わずに彼女たちと同じように画面を見る。

 しかしそんなボクに気づいたのかユウカは怪訝な顔をしてこちらを見た。

 

「いや、これ機密事項なのでソラさんは一旦向こうへ行っててください」

「おいおいつれねぇな。ボクだってミレニアムの清掃員さんだぜ?」

「それはそうですが、あなたにそこまでの権限は……」

「うるせぇなごちゃごちゃ言わずに見せてくれりゃ良いじゃねぇか……どれどれ」

 

 ユウカを押しのけてボクも画面へと目をやる。「あっちょっと!」とか聞こえるが無視だ無視。

 画面を見ると幾人かの生徒、白衣を着てることから考えるとなんかの部活動のメンバーだろうか。

 ソイツらがワチャワチャとなにかの一室で机やら棚やらをひっくり返して探している。

 

「おっ、なんか盗まれてんじゃねぇか……。紙?」

「賞状だよ」

「……なんか急に興味がなくなっちまった」

「だろうね」

 

 先程まではこちらに視線をやっていたウタハは頷くと画面へとまた視線を戻した。

 ボクも興味がなくなったもんで画面を見るのをやめた。

 

「ならどいてください!」

 

 ユウカは興味をなくしたボクを押しのけた。

 程なくしてウタハとユウカは二人であーだーこーだ話し始めたのを見てボクは、二人をそこに残して工房の出入口の前へと近づいた。

 出る時は別に認証が要らないのがいい。

 それに、今は入館許可証も貰ってるからな。特に出入りも問題ねぇって訳だ。……この工房に入る権限があるやつだよな?これ。

 若干心配になってきたものの、またユウカにグチグチ言われるのも嫌なのでとりあえず工房を出る。

 そしてしばらく歩いて、ミレニアムのスタディエリアを出た。

 

「腹減ったなぁ」

 

 ここミレニアムでこうして腹がペコペコになっているのはどうも違和感がある。なにせ、ここで清掃員をやってた頃は特に食うには困らなかったからだ。金払いは良かったんだよな。まぁ、手取りとしてはあんまり多くなかったが。借金がな……。

 …そういや、今のボクはミレニアムの所属なわけだろ。飯屋とかミレニアムのツケで払えねぇか?試してみるか。

 そう思えば、とりあえず手頃なミレニアムにもあるチェーン展開しているのハンバーガー屋へと足を運ぶのだった。

 

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