Laughing at the blue sky   作:ロリコン先生

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お久しぶりですねぇ!


vol.3 ブラックマーケットで捕まえて
session1 ブラックマーケットへいこう


「はい、これはソラの分」

「……」

 

 飯の時間になったので呼ばれたボクは、事務所の机の上に置かれた皿を見つめていた。

 安い髪の皿上に乗っているのは、塩と胡椒が振られた野菜炒めである。

 いい具合に焦げが着いている野菜たちからは、美味そうな匂いがしている。……の、だが。

 

「人間が生きる上での栄養分が不足してるんじゃねぇのか」

「文句を言わない」

「はぁ……」

 

 相変わらず金欠で嘆かざるを得ない零細企業である便利屋68は、カヨコ特製肉抜き料理の日々が続いていた。

 

「それに今回は、ソラだけじゃないんだから」

 

 カヨコが事務所のソファーに座って、自分の分の料理が載った皿を手に持って、肉抜き野菜炒めを箸でつつき始める。

 

「みんなが一緒だからって、なんでも許容できると思ったら大間違いだぜ。なぁ、ムツキ」

「え〜?ムツキちゃん的には、とりあえずその日の空腹がしのげれば文句はないよ〜」

「ああ、体ちっせぇもんな。それで足りるってわけか」

「クフッ、レディに対して体型の話題は禁物だぞッ☆」

 

 ムツキのウィンクを軽く流しつつ、野菜炒めを口に放り込む。味は悪くないんだよ。

 

「……アルを除けばうちのメンバーが揃いも揃ってヒョロいのは、やっぱりタンパク質が足りてねぇからじゃねぇのか」

「待ちなさい主任、それさりげなくこの私の事をおデブと言ってないかしら」

「そうは言ってねぇよ」

「ア、アル様の体型は、出るとこは出ていて引っ込むとこは出ている、理想の体つきで、す、素晴らしいと思います!わ、私なんか比べるのもおこがましい程に貧相で……すみませんすみません」

「はぁ……ハルカ、落ち着きなよ」

 

 いつも通り、ネガティブ思考に陥るハルカをカヨコが眺めてる後ろで、アルが自分の腹をムニムニとしながら「た、確かに太ってるかも……」と呟いているのが見えた。

 女ってのはどうして余分な贅肉を許せねぇのかね。ありゃあ幸福で、毎日しっかり食べられてる証だろうに。

 いや、ボク達は食えてないんだけどな?

 

「……そろそろ、依頼の一つや二つ入らねぇもんかね。確か、前に手作りの広告作ってたって話だろ」

「あれね〜。楽しかったよね〜」

「いや、感想じゃなくてよ。効果はどうだったんだよ?」

「別に聞かなくても分かりきってるでしょ……」

 

 カヨコのため息と、ムツキの反応から察するに効果は全くなかったんだろう。

 野菜炒めの最後の一口を、放り込んでボクはグデっとソファーにもたれかかる。腹が減ったなぁと、という気持ちは一旦置いておくことにした。

 ボクがくあっと大きく欠伸をして目を閉じると同じタイミングで、事務所の黒電話がジリリとその黒い受話器を揺らした。

 

「はい、こちら便利屋68、社長の陸八魔です」

 

 社長が受話器を取ったのを見て、ボクたちは顔を見合せた。

 

「依頼か?」

「みたいだね」

「割のいい仕事だと嬉しいけど……」

 

「はい…はい…」アルが何やら神妙そうな顔をして、依頼主からの話を聞いている。

 ボクとしては特段準備することもないので、食後の一服にでもいくとするか。

 

「あれ、主任さんどこか行くの〜?」

「タバコ」

「あまり長くならないでね」

「おう」

「い、いってらっしゃいませ……!」

 

 便利屋に来たばかりの頃はタバコを吸うと随分と嫌そうな顔をされたもんだが、一年くらい一緒にいれば、さすがに慣れたらしくこんな風に見送られるようになってきた。とはいえ、目の前で吸おうとするとさすがに口うるさくなるが。

 ただ、アルなんかは最初っからタバコに興味がある節をちょくちょく見せているのだが、さすがにまだ早い。タバコは大人になってからだ。

 こいつは大人の嗜みだからな。なによりそっちの方がカッコイイだろ?

 

◇◇

 

「ブラックマーケット?ハルカと?」

「ええ、そうよ。不満?」

「や、やっぱり私なんかとじゃ不満ですよね」

「いや、そういうわけじゃねぇさ。ただ……」

 

 ボクは一服後事務所に戻ると、アルから依頼の話を聞かされた。

 なんでも、ボクがいなかった間にもう一件依頼が入ったらしく、二件の依頼を抱え込むことになったのだ。

 この場合依頼が急ぎじゃなければ早かった方を優先するのだが、どちらも護衛任務で、しかも日付も同じ日。というか明後日だ。

 こうなるとメンバーを分ける必要がある。いつもなら、大体はボクとムツキかカヨコという組み合わせになることが多いのだが、今回は違うらしい。

 

「また……珍しい組み合わせだな?」

 

 ソファーの背もたれにもたれ掛かるように座っていると、僕の言葉にアルが頷いた。

 

「ええ、ブラックマーケットに詳しい主任をそっちの依頼に派遣するのはすぐに決まったのだけど……」

「相方をどうするかが決まらなかった。護衛ってなるとソラだけじゃ不安だから」

「撃たれりゃ死ぬからな」

 

 ヘイローがないってのは、やっぱりキヴォトスにおいては足枷にしかならねぇな。年下のガキどもに、それがないってだけで不安がられるし、舐められる。

 

「ってなると〜、しゅにんさんと護衛対象を守る前衛が必要でしょ?」

「ああ、だからか」

 

 ボクはムツキの言葉に納得した。

 確かにハルカならうってつけだな。便利屋きっての前衛、そのタフさだけなら便利屋どころかゲヘナで見ても随一だろう。

 向こう見ずな猪突猛進系女子だが、その辺のフォローはボクがすりゃいい。

 

「適切な人選だな」

「わ、私のようなダメなやつがソラ主任と、く、組むのは畏れ多いのですが……。せ、精一杯努めさせていただきます!」

「おいおい、そこまで畏まらなくても……まぁ、いつもの事か」

 

ぺこりぺこぺこと頭を下げまくるハルカを見て、ボクはため息を吐いた。

 

「んで、依頼主は」

「トリニティの学生ね」

「トリニティぃ……?……まぁ、羽振りは良さそうだな」

「くふ、広告のおかげかも?」

「それはないと思うけど……」

 

 トリニティ。正式名称をトリニティ総合学園。

 三大学園と称されるクソデケェマンモス校でお嬢様学校。いわゆる、ミッション系と言うやつだな。

 ウチみたいな弱小かつ、ゲヘナ出身で固められている企業に依頼なんて、珍しいことこの上ない。

 何せ、ゲヘナ生徒とトリニティの生徒は互いに嫌いあっている、というのは世間の常識だ。

 うちの社員は、社長含めてゲヘナのはみ出しものだからそうでもないんだが……。

 ゲヘナの万魔殿……正式名称パンデモニウムなんちゃらとかいうゲヘナの生徒会にあたる組織と、トリニティのティーパーティーとやらはいつでもバチバチしてるらしい。

 風の噂だけどな。

 

「ソラが不思議がるのも分かるよ。あんまり、うちとは関わりのなかった学校だから」

「ええ。だからこそ大きなチャンスと捉えなさい主任。ここで依頼を無事達成すれば、トリニティにも私たち便利屋68の名が知れ渡ることになるのよ!」

「なるかねぇ……」

 

 アルは「なるわよ!」と大声で怒鳴り散らかしているが、「へいへい」と投げやりな返答をしつつボクはソファーから立ち上がった。

 そのまま両手を重ねて上へと伸ばし、背筋を伸ばした。バキバキと背中から音が鳴ったのを聞いてから、ボクはハルカへと目をやった。

 

「ふぅ……。んじゃ、行くかハルカ」

「は、はい!」

 

 ひょこひょこと後ろを雛鳥のように着いてくるハルカ。

 そんなボクらにカヨコが声をかけた。

 

「気をつけて」

「ま、なるようになるさ」

 

 事務所から外に出る。

 照りつける日差しが眩しい。季節はまだ夏に近づいているだけで、暑さとしてはそこまでだった。

 これからもっと暑くなるって考えると嫌になってくるぜ。

 

「バイクでいいか」

「だ、大丈夫です……!」

「んじゃ、メット」

「あ、ありがとうございます……」

「どこでもいいから、捕まってろよ。ちょいと飛ばすぞ」

「はい……!」

 

 グリップを捻って、ボクはゆっくりとバイクを走らせた。

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