Laughing at the blue sky 作:ロリコン先生
晴天の空の元、バイクを走らせること小一時間。
ある程度近場まで来たところで、ボクはバイクを止める。
「こっからは徒歩だ。いけるか?」
「はい。……あの、私なんかが質問するのは大変畏れ多いのですが……」
「あん?なんだ」
「そ、その。マーケットまではまだ遠い、と思うのですが」
「手癖の悪いやつが多くてね。うちの相棒が知らんやつに寝盗られちまう」
「な、なるほど」
こくこくと赤べこみたいに頷いたハルカは、愛銃であるショットガンの銃身をぎゅっと抱くように握っていた。
ギヴォトスのD.C地区から少し離れた、郊外に位置する場所にあるブラックマーケットは、郊外にあるという地理の関係から、他学校や連邦生徒会からの介入を避けられる位置にある。
そのため徒歩で行くとなると、少しばかり遠いが……そこはまぁ、我慢だ。
アビドス砂漠を一日中歩いたボクに敵はいねぇぜ。
そうしてしばらく歩いて見えてきたのはブラックマーケットの入口。高いビルや、違法に建築されたであろうゴテゴテした建物に囲まれてはいるものの、繁華街のようにも思える入口。
今回の待ち合わせ場所は、アソコだ。
「さて、トリニティらしき生徒はいるかね……」
「……あ、あちらの方ではないでしょうか……?」
ハルカが恐る恐る指さした先にいたのは、ブラックマーケットなんて仰々しい名前の土地には似合わない女子生徒が、一人ポツンと立っていた。
ベージュの髪の長髪を、後ろでふたつ結びにしたいかにもトリニティと言った感じの容姿。
制服もかなり改造されているが、トリニティのものだ。
「ビンゴ」
「ど、どうしますか?」
「そりゃ行くだろって……おいおい」
ソワソワとアタリをキョロキョロ見回している少女に向かって、柄の悪そうな三人組の生徒が近づいていく。
ありゃあ、ここらへんを縄張りにしているスケバングループのヤツらだろう。
七囚人の一人で、伝説のスケバンと称されていた筋肉ダルマを囲っていた奴らだ。
あれが矯正局送りにされてからは大人しかったが、やっぱり連邦生徒会長が失踪したってのがでかいのか、懲りずにまた暴れだしている。七囚人も矯正局から脱走したって話だし、物騒なことこの上ない。
そんな奴らにとっちゃトリニティの生徒が一人でいるなんて、カモがネギしょって歩いてきたみたいなもんだ。
「義を見てせざるはなんとやら、だ。ハルカ、ボクが撃ったら突っ込め」
「は、はい……!殺します!」
「ほどほどにな」
ボクは今回護衛の依頼ということで担いできた愛銃、SV-98を取り出して照準をスケバンの一人に合わせた。
こいつの有効射程は1000m前後。当然、この距離は射程内。
「まぁ、挨拶前のちょっとしたサービスさ」
サイレンサーによって抑えられてはいるものの、それでも鳴る乾いた銃声。
そして、それと同時にハルカが駆け出した。
「ぐえっ!?……きゅう」
「なっ、なんだ!?」
「ど、どこからの……!」
「え、えぇ!?」
スケバンとトリニティの生徒が突然の銃撃に狼狽えている。
さて、そこまで大きな隙を晒しているなら、もうボクの出番はないかもな。
「う、うわあああああ!」
怯え混じりの絶叫と共にズダンッ!ズダンッ!と間髪入れずに撃ち込まれる、散弾の乱れ撃ち。
怯えたような態度とは裏腹にまるで嵐のような弾丸の数々にスケバン達は抵抗することも出来ず、その場に倒れ伏していく。
「ひ、ひぃ〜!」
最後に残った一人は、仲間を捨てて逃げようとするが、それを見逃すボクじゃないぜ。
引き金を引き、特に狙いを定める必要もなく、発射された弾丸は逃げるスケバンの後頭部へと吸い込まれていくように飛んでいって、命中した。
「ぎゃあ」
情けない断末魔を出して最後のスケバンも倒れ伏す。
「ぜ、全部倒しました……!」
「よし。よくやったぜ、ハルカ」
「……そ、そうでしょうか」
嬉しそうにはにかむハルカ。こうしてると、小動物みたいな可愛さがあるんだがな。一度暴走すれば狂犬も恐れる猪具合、見た目では判断がつかねぇもんだ。
感心していると、トリニティの生徒が話しかけてきた。
「あ、あの……」
「無事かい?お嬢さん」
「は、はい!助けて下さりありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。その際に、背中に背負った奇妙なぬいぐるみみたいなカバンに目がいった。随分と不細工な……ペンギン?のカバンであった。
「それで、あんたがうちに依頼をしたトリニティの生徒でいいのか」
「あ、はいっ。便利屋の方だったんですね。助けて下さり、ありがとうございます。私は、阿慈谷 ヒフミと言います」
「そうか、無事なようで何よりだ。ボクは便利屋68の主任、青井 ソラだ。こっちは、平社員の伊草 ハルカ」
「よ、よろしくお願いします……」
朗らかな雰囲気を持つヒフミとは対象的に、ボクの後ろからおずおずと挨拶するハルカ。
これがトリニティとゲヘナの差か……。
「こう見えて便利屋一のタフガールだ。頼るならボクじゃなくてこっちにな」
「そうなんですね……!よろしくお願いしますね、ハルカちゃん!」
「は、ハルカちゃん……。そ、そんな。畏れおおいです……私なんかに握手なんて……。て、手が汚れてしまいます……」
恐る恐ると言った様子で、差し出された手を握るハルカだったが、すぐに手を離していつものネガティブモードになった。
過去に虐められていたせいなのかは知らんが、どうにもすぐにネガっちまうのがこいつの悪いところだな。
「それで、ヒフミさんよ。一つ聞きたいんだが」
「はい。どうしましたか?」
「今回の任務、実際のところ詳しい内容は知らねぇんだ。護衛任務としか聞かされてない」
「あっ、そういえば話してませんでしたね」
思い出したかのようにヒフミは語り出した。
「今回、便利屋の皆さんに依頼をした理由がこちらになります」
ゴソゴソと懐を漁って取り出したのは、スマートフォン。
そしてヒフミはスマホの画面をタップした後、SNSの画面を見せてきた。
「なになに……。幻の、エイリアンペロロ様発見……?なんだそれ」
「たしか、モモフレンズっていうキャラクターブランドだったかと……」
「お前、知ってんのかハルカ」
「す、少しだけ……」
「ほーん……。んでお探しの品はどちらで?」
ハルカの言葉に気のない返事を返していると、ヒフミがずいっと自信の背負っているカバンからぬいぐるみを取り出してこちらに見せつけてきた。
「はい!こちらです!これがペロロ様です!」
「ほーん」
「可愛いでしょ───」
「ブッサイクな鳥だねぇ……」
「──────え?」
「え?」
空気が凍った。
同じように、ピシャリとヒフミの動きも止まったのを確認したボクは、隣のハルカを見た。
ハルカは口に手を当て、アワアワとした表情でボクを見上げる。
「ど、どうしましょう。ソラ主任」
「……あー、どうするか」
次第にブツブツと何かを呟き始めるヒフミ。
「ペロロ様をブサイクなんて……」
何か発言をミスったのは間違いないが、ボクは率直な感想を呟いたに過ぎず、もはや訂正するには遅すぎたことだけをわかっていた。
「お二人とも」
「お、おう……」
「わ、私もですか……!?」
「ペロロ様がどれだけ可愛くて、素晴らしいか。今からみっちりと教えますね」
「いや、待てよ。護衛任務は……」
「そんなのはあとです!」
ずいっとこちらへと迫り来るヒフミ。気づけば、ボクとハルカを壁際まで追い詰める。
「あ、わわわわわ……!」
「お、落ち着けよ」
「ふ、ふふふ。次にペロロ様を見た時には、その魅力の前に可愛いとしか言えないようにしてあげますね……!」
ボクは、次からは発言にもう少し気をつけようと猛省した。
◇
「酷い目にあった……」
「はい……」
ブラックマーケットの街路をボクらは、ルンルン気分で歩いているヒフミの後ろをとぼとぼと思い足取りで着いていく。
言葉通り、酷い目にあったぜ。
まさか1時間みっちり魅力について語られるとは……。下手なことは言うもんじゃねぇな。
語りの後、依頼内容を説明したヒフミは目的地は特にないといった。今回はブラックマーケット内で見られたという、幻のエイリアンペロロ様を探すのが主目的だ。
どこで取り扱いがあるのかも、どう売られているのかも。何一つ調べがついていない。
そのためにはブラックマーケットをしばらく歩き回る必要があるんだとか。
砂漠で一粒の砂金を探すよりはマシだが、それでもあまり気は乗らない方針だ。
何せ、ブラックマーケットは言ってしまえばキヴォトスのスラムであり、闇の中だ。
悪徳企業に、裏社会の人間。表では馴染めなかった半グレ。
そういった、光ある所では目を潰されて馴染むことの出来なかった、ゴミみたいな人生を送っているクソどもが、表の人間を目敏く狙ってはカモにしてやろうと目を光らせている。
自分たちと同じように、ゴミみたいな目に合わせてやろうって魂胆なわけだ。
それに、ココ最近は妙な連中が増えてきた。
トリニティでも、ゲヘナでも、ミレニアムでも。ましてや、周辺学区の学校でもない。
まるで、これから戦争でもおっぱじめるんじゃないかってくらいに、ピリついたやつらだ。
そんなヤツらが彷徨いては、違法なルートの武器や弾薬を買って行く。
商売時と見るやつもいれば、そのきな臭い雰囲気に、目を細める奴もいる。
ボクは後者だった。そのせいでまともに買い物もできやしねぇ。この前なんかでかい壺を買わされた。ボクに似合のツボなんだと。どこがだよ。
とはいえ、今はエデン条約なんて、大層な条約を締結しようとトリニティとゲヘナがピリピリしている。
ほんと、臭いを出すには嫌なタイミングだよ。何もなければいいんだがな。
「うーん、見つかりませんね……」
しばらく、特に不良生徒からの襲撃もなく歩いているボクらは目当てのものが見つからず、途方に暮れていた。
といっても、主にヒフミがだが。
「す、すみません……。私みたいな陰気臭い女がいるせいで、運気も逃げていってしまって……!死んできますね!」
「死!?お、落ち着いてください!ハルカちゃんが気にすることじゃないですよ!それに、私もあまり運がある方ではありませんし……」
「ま、運はともかく、このままじゃラチがあかねぇのは実際、問題だぜ」
ボヤいては紫煙をくゆらせた。
コイツらの前ではあるんだが、長時間歩いていれば、ヤニも切れる。さっき許可を取って吸った。
いつもだったら反対されるんだが、今回は口うるさいカヨコも、興味はあるものの社長としての体裁を保つ為か、やめろと咎めてくるアルもいない。
吸い放題ってわけだ。
「なんかねぇのか?目撃情報の詳しい位置とかよ」
「ええと……」
ヒフミは懐からスマホを取り出した後、目を凝らしながら画面をスワイプする。
ボクは後ろからその画面を眺めては、空に向かって煙を吐き出した。今日も快晴で何よりだ。
「あっ」
ハルカが思わず口からついてでたのか間抜けに口を開けたあと、ハッとしてすぐに口を噤んだ。
「どうした」
「い、いえ。その、なんでもありません……。き、気にしないでください」
「そうか?」
「はい……」
しかしどうにも気になるようで、彼女はチラチラと路地の方へと目をやる。
ボクも自然とその目線を辿っていけば、そこにいたのは。
小汚い出で立ちに埃や砂に塗れさせたモニターをこちらへと向けているオートマタ。
「あ?」
そいつはボクと目が合うと、モニターを怪しげに光らせるのであった。