Laughing at the blue sky 作:ロリコン先生
路地で、怪しげにモニターを光らせる機械人形は、まるでニヤついてるかのようにその肩を揺らしていた。
「……なにやってんだ、ミスタ」
ロボは肩を揺らした。
ボクがミスタと呼んだ小汚い見た目のオートマタは、見た目に反して路頭に迷った不良や半グレに仕事を斡旋する、裏社会で仕事の仲介人をしている。
つまり、すっげぇ危ないヤツ。
ボクは一時期コイツにお世話になっていた。具体的には、ミレニアムの子飼いから抜け出して便利屋に拾われる前だ。
んなもんで、知り合いではある。つっても、あんまり顔を合わせたい仲じゃあないんだがな。
「懐かしい顔が見えタ。挨拶するのは不思議カ?」
「お前さんが相手だと腹に色々隠してそうで怖いだけさ」
「用心深いのはここでは悪いことじゃなイ」
数回納得したように頷けば、また肩を揺らした。
相変わらず、読めねぇ奴だ。ロボだからか?
「それで何を探しに来タ、ノライヌ」
「生憎ともう首輪がついててね。というか、お前と会った時から元首輪つきだって言ってんだろ」
「そうだったカ?」
「ポンコツロボめ。記憶メモリーがイカれてるんじゃないのか?」
「躾がなってないネ」
モニターをチカチカと光らせ、映っている模様を目玉模様に変えた後、ミスタはジロジロとボクの後ろに立つハルカとヒフミの二人を見た。
「何を探してル?ブラックマーケットにはなんでもあるヨ」
「え、ええと……」
「ペロロ様だよ、エイリアンのやつ」
ミスタは「エイリアン?」とノイズの混じった音声で聞き返す。
「はい!エイリアンペロロ様です!」
「それなら知ってるヨ」
「どこにある?」
「地下市場ダ」
「よりにもよってそこか……」
思わず苦々しい顔をしてしまう。
「地下市場……?」
「聞いたことありません……」
「だろうな」
彼女らは可愛らしくコテンと首を傾げた。ヒフミは話ぶりからも、それなりにブラックマーケットについて詳しいみたいだが、地下市場ってのは知る人ぞ知る場所だ。
「ブラックマーケットの中でも特にごちゃ着いた場所だぜ。何せ、表社会でもやってけなかったヤツらが、更にやらかしてブラックマーケットですら表立って活動するのが難しくなった末に行き着く、普通のやつは知るよしもねぇ危ねぇ所さ」
「そんなところにエイリアンペロロ様が……」
「どこのマニアが買い取ったのかねぇ……」
ボヤいた言葉は、誰も反応することなく紫煙と共に消えていった。
「……ミスタ、近い千葉の入口は?」
「北西の豆屋ヨ」
「また変わってやがんな……。情報料は?」
ミスタは指を二つ立てた。
「20万?随分安いな」
「にじゅっ……!?」
「ノライヌには良くしてもらっタ。これはサービス」
「そりゃあいい」
煙草を捨てて、踵で火を消してからボクは二人への方へと顔を向けた。
「んじゃま、行くか」
「あ、あの……」
「ん?」
「20万も、支払う方法があるのでしょうか……」
「フリーの時代の口座が幾つかある。アルにも秘密にしてるのがな。そこから落とすさ。残った金は、便利屋の方に回すから安心しな」
ハルカは「そ、そうですか」と一言、消え入りそうな声で言うと、そのままショットガンの銃身を普段通り握りながら、一歩後ろへと下がった。
「じゃあなミスタ」
「達者でナ、ノライヌ」
「出来ればもう会いたくはねぇがな」
ポケットに突っ込んでない左手を振り返らずにヒラヒラとさせてボクはその場を去る。後ろからは、とたとたとハルカとヒフミが走ってくる音がした。
◇
銃声が三発鳴り響き、そして人がアスファルトに倒れる鈍い音がした。
「たっく……数だけは無駄に多いな。不良ってのは」
ガチャンッとコッキングをしたハルカはブツブツとなにか呟いた後、こちらへと振り返った。
「お、お怪我はございませんか、ソラ主任」
「お陰様で」
「い、いえ!わ、私なんか何も出来てないですし、こ、これはただの害虫駆除ですから……」
「が、害虫……」
ゴミのように転がっている不良を見ながら戦慄の声をあげるヒフミ。
まぁ気持ちはわかるぜ。
これだけの数を難なく捌き、さらに害虫扱いしてしまうのは彼女が一重に強い証だ。
昔は虐められていたって話だが、どうやってこんな爆弾を虐めてたのか。気になるところだな。聞かねぇけどよ。
「目的地は、この辺なんですか?」
「まぁな。ちょうどあっちに豆屋がある」
「豆屋、ですか」
「食う豆から、目に見えない豆まで、なんでもござれの違法な店さ」
転がっている不良を足でどかして、道を作った先にあるのは『Beans』と看板に書かれたボロい店だった。
「あれが豆屋ですか?」
「ああ。地下市場への入口は、その隣にある店が管理してるのさ」
豆屋の前に立って、ボクはその呼び鈴を鳴らした。
中からは、痩せこけた狐が一匹。
「……今日はもう、店仕舞いだよ。……帰んな」
「そいつは悪かったな。ただ、豆が入り用でね」
「……なんの豆だい」
「ジャックの木」
「…………入んな」
カウンターの中に入るよう手招きする狐。
ボクはポカンとした顔で見る二人を見て「行くぜ」とだけ声をかけてカウンターの中へと入っていく。
「……ターゲットは?」
「今は廃業中でね。別件さ」
「……何をしに来た」
「ペロロ様を探しにな」
狐は、恐る恐る軒下に入ってきた二人を、チラリと横目で見た。
「……読めないのは相変わらずか」
「褒め言葉かい?」
「…………」
狐は何も言わず、奥の扉を指さした。
「オーライ。行くぜ、二人とも」
「は、はい……」
ヒフミはそう返事をし、ハルカはコクコクと何も言わずにただ頷くだけだった。
◇
扉を開けた先は階段だった。
今にも消え入りそうな蛍光灯が照らすコンクリートの階段は、どこか湿っていて、少しだけぬらぬらとテカリを帯びている。
ソラたち三人は雑に取り付けた、支えとしては頼りない鉄パイプの手摺を使いながら、慎重に一段一段降りていった。
「本当に、地下なんですね……」
「書いて字の通りさ」
「き、緊張してきました……。ど、どんなところなんでしょう」
ヒフミは言葉通り、その表情からも緊張が伺える強ばりを見せている。
ソラのすぐ後ろを歩くハルカとて、それは例外ではなかった。
「な、何があっても障害は全て、は、排除します!」
緊張がピークに達したハルカは突然大きな声でそう宣言する。
その甲高い声は、狭い階段ではよく響いた。
「おい、でかい声出すな。ここは、上よりも無秩序で、大雑把だ。目をつけられることはできるだけ避けてくれ」
「は、はい……」
「す、すみません!」
また声が響いた。
しばらくコンクリートの階段を降りていくと、下水道のような場所に出る。階段が湿っていたのはこの場所のせいだろう。
「確か、こっちだったはずだ」
ソラはポケットに手を突っ込見ながら、その眠たそうにている目を細めた後、キョロリと辺りを見渡してからそう言った。
「入口が変わっていても、場所は同じなんですか?」
「ああ、あくまで変わるのは入口だけさ」
「な、なるほど……」
「なんなら合言葉もその都度変わる。間違っても一人で来ようと思うんじゃねぇぞ」
ソラはそう告げて、再び歩き始めた。
途中、ハルカと位置を後退し、ソラが殿を務める形で隊列を変更した。
理由は、そろそろ危ない連中が彷徨いているから、との事。
(どうしてソラさんは、こんなに詳しいのでしょうか)
そんな疑問が湧いて出たヒフミではあったが、あくまで雇い雇われの関係である以上深く踏み込むのはやめておくべきだと判断し、ソラの背中を追いかけた。
「お前、賞金稼ぎだな」
そんな一行の前に、一人。いいや、五人ほどの人影が立ち塞がった。
その機械人形たちの顔に、ヒフミとハルカは見覚えがあった。
それは当然、ソラも。
「なんだ、むさ苦しい札付きどもがゾロゾロと。臭い便所なら上だぜ」
「黙れ、コソコソと嗅ぎ回りやがって」
「おいおい、全くの勘違いだ、今回は豆を探しに……」
「うるせぇ!くたば───グハッ」
ズドンッズドンッズドンッ!と機械人形の一人が腰に下げたホルスターから銃を抜くその刹那、先んじて引き金に手をかけていたハルカの愛銃が火を吹いた。
「す、すみませんすみませんすみません!」
二発三発と撃ち込まれた散弾の威力に、一体の機械人形が倒れた。
「やりやがったな!」
「先に抜いたのはてめぇらだろ?」
ハルカが一瞬ソラの方へと目を向けた。
ソラはその伺うような目に、にいっと白い歯を見せることで答える。
「はい!全部消します!」
「え、ええ!?」
驚きを隠せないヒフミを他所に「死んでください!死んでください!」と絶叫しながらショットガンを乱射するハルカ。
ソラも彼女にかまってる余裕がないようで、腰から拳銃を抜けば、機械人形たちへと銃口を向けた。
「ほうけてる場合じゃねぇぜ、クライアントさんよ!ドンパチの時間だ!」
その銃声は、正しく開戦の狼煙だった。
ブラックマーケット、あまり深い掘り下げがなかった気がするので好きに描写してますが、今後のストーリー展開しだいでは爆発しそうな気もしますね。