Laughing at the blue sky 作:ロリコン先生
さて、正面からの侵入はセンサーやらカメラやらが置いてあって難しそうだったので、壁をよじ登って裏からの侵入を試みたが、どうやら上手く侵入できたようだな。
アビドス高校の窓は全部閉まっているわけじゃないようで、一度入ってしまえば校内に侵入するのは容易かった。
今のところ誰かが来る気配はないようだし、けたたましく何かが鳴り響く気配もない。
以前来た時だってそうだったのだから何かが変わっている、というわけじゃねぇのかもな。
ともあれ今回は清掃業者という体できたわけだ、とりあえずトイレにでも……こいつは偏見かね?とはいえ学校の清掃つったらトイレだろ。やっぱり偏見か?
コツリコツリと靴音を響かせながらボクは手近なトイレへと向かうことにした。
「以前と構造が何も変わってなきゃいいんだがね……」
しばらく廊下を歩く。
どうやら杞憂だったようで、アビドスの校舎の構造は以前と何も変わっていないらしい。
内装はと言えば至って普通の高校と言った感じで、ボクが知っている学校の校舎と言えば正しくこんな感じだった。ここキヴォトスの高校つーか学校はどうも個人的には見慣れないものが多いせいで、こうした校舎は落ち着くね。ガキの頃を思い出す。
そうして懐古に浸りながら歩けば、トイレが見えてくる。キヴォトスの学生は女しかいないからか、トイレも基本女子トイレが多い。というかほとんどがそうだ。それこそ来賓用の多目的トイレだとかじゃない限りはだいたい女性マークがついている。ボクも初めは結構戸惑ったものだった。
ジャーっと水の流れる音が聞こえるトイレに近づいて……。
ジャー?
「あ、やべ」
「……?誰?」
気づくのが一足遅かった。ボクはトイレから出てきた女子生徒と鉢合わせる形になる。
トイレから出てきたのはスレンダーな体型をした、獣耳、恐らく猫だろうか。猫耳が頭に生えているツインテールが特徴の少女だった。
知らない女だ。
「……あー、リクハチ清掃会社から来ました〜清掃業者です。ここの清掃を頼まれまして」
「へぇ……。って、そんなのが来るってアタシ聞いてないわよ!」
「やー?そうですかね?もしかして話がいってないだけかもしれませんよ」
「そんなわけないでしょ!さっきまで先輩達と話してたのよ?話がいってないなんてありえないわ」
「ああ……そりゃあ、結構なことで」
猫耳の少女はますます怪しんだようで、ボクをまじまじと見る。その後真剣な顔になった。こりゃ、やることやらねぇとダメか?
「それに、ヘイローのない普通の人の清掃業者がいるわけないじゃない!」
「あ〜……そいつは盲点だった。確かにそれもそうだな。やるね、お嬢ちゃん」
ぱちぱちと手を叩いて目の前の少女を賞賛すれば、彼女の顔はみるみる赤くなっていった。沸点低いな。
「馬鹿にして!」
「ははは。まぁ、とにかくボクはただの清掃業者っつーことで、ここは一つ見逃してもらえやしねぇか?」
「ダメに決まってるでしょ!あからさまに怪しいヤツを放っておくことは出来ないわ」
「一応知り合いはいるんだがな」
「知り合いって誰のことよ?」
「なんつったかな……やたら乳のでかい嬢ちゃんと、目の色が違うチビのガキだったんだが……」
命の恩人に変わりはねぇが、名前を覚えていられるかどうかは別ってな。ユミ先輩だったか?なんかちょい違う気もするが。
ボクがウンウンと名前を思い出そうとウンウン唸っていると、猫耳少女は業を煮やして目を鋭くさせた。
「あーもう!とにかく誰かは分からないけど、侵入者で不審人物なのには変わりないんだから、大人しく先輩たちのところに着いてきてもらうわ!」
「嫌だって言ったら?」
「力づくでも着いてきてもらうわよ」
「武器もないのにか?」
「あんた一人くらい武器がなくたって余裕よ」
「だったら、試してみるかい?」
「上等じゃない!」
ボクの言葉を皮切りに猫耳の嬢ちゃんは床を強く踏み締めてこちらとの距離を詰めてくる。
さて、お手並み拝見と行こうか。
彼女が動き出すのを見てバケツをその辺に放り投げた。そしてブラシの柄を両腕の脇で背中を通して挟むように構えた。
それと同時に距離を詰め終えた嬢ちゃんが頭目掛けてハイキックを繰り出すが、もちろん見えているのでボクは頭を下げることで躱す。その際にチラリと見えた。ほーん、白か。
しかし猫耳が生えてるからかどうかは知らないが、思っていた以上に疾いその一撃は、ボクの被っていた帽子を持っていった。
「いきなりハイキックとは豪胆な嬢ちゃんだ。だけどその短いスカートじゃ、そいつはちょいとはしたねぇんじゃねぇか?」
「〜〜っ!この変態!」
これ以上喋らせたくないのか執拗に顔に向かって、連続でジャブを打ってくる。それを最小限の動きで避けつつ、打ち終わりに彼女の背中をブラシの柄で叩く。
よろめいた所をすかさず追撃するために、ブラシの柄で再度叩くが今度はしっかり腕でガードされ、ちと驚く。いい反応だな。
「このっ!」
「とっ、危ない危ない」
一瞬の硬直の後、彼女は柄を払い下段の蹴りを飛ばし足払いを狙ってくる。それを僕はバックステップで回避しつつ、ついでにブラシの先端で横薙ぎを入れるが、猫耳少女は間一髪で回避していた。
とにかく疾いな。反射神経もいい。さすがにキヴォトスの人間って感じだな。それも学校の生徒だ。一筋縄じゃいかねぇか。
「やるね」
◇
「やるね」
目の前で軽口を叩きながらヘラヘラと笑う人間に対して、黒見セリカはおちょくられているのを感じて怒りのボルテージがが上がりつつも、どこか冷静だった。
(この人……強い)
その感覚がだけ彼女の頭を冷静にさせていた。
これで目の前の人物がよく相手をするヘルメット団のようなチンピラだったらいつものように激情の赴くままに戦っていたことだろうが、今回の相手はそうはいかないような気がしたのだ。
今、このアビドスに来ているシャーレの先生と同じくヘイローのない人間。恐らくキヴォトスの外から来たのだと考えられるその人間。彼は弾丸で傷つき、血を流す程度には弱い。
故に彼女は、制圧するのも容易いと思っていた。しかし現実はどうだろうか。彼女の繰り出す攻撃は全ていなされ、逆に相手の攻撃は的確に隙を着いてくる。
(それに確かに強い、んだけど、それは別にホシノ先輩程じゃない。でも、この人はとにかく……巧い。一つ一つの攻撃がいやらしい)
セリカは格闘技に精通しているわけじゃない。しかしそんな彼女ですら今の短い打ち合いの中で、目の前の人物がどれだけ優れた技術の持ち主かということは理解ができた。
フィジカルはそれこそ普通の生徒並みの身体能力である彼女はもちろんのこと、先輩である小鳥遊ホシノのような強者などには遠く及ばない。だが、その差を埋めるだけの技量を彼女は感じ取っていた。このままでは防戦一方になることは明白だった。
故に、セリカは打開のために思考を巡らせる。しかしそれは目の前の不審人物にとっては大きな隙であった。
「なんだ、考え事か?さっきの威勢の良さはどうしたんだ?」
「べ、別になんでもないわよ!」
「そうか?なら遠慮なく行くぜ」
モップを槍のように構えて下段突き。意識が逸れた瞬間を狙った突きは避けることが出来ず、思わずよろめいてしまう。そこからは予想通り防戦一方だった。
「きゃっ!」
「さぁどんどん行くぜ」
相手は勿論ヘイローを持っている彼女に対して油断などする気は一切ないようで、どの攻撃も急所である鳩尾や顔などを狙う。弾丸を痛いで済ますことの出来るヘイローを持つ生徒の一人であるセリカだが、流石に急所を狙われた一撃は避けるしかなく、それが彼女の冷静さを欠いていく。元から、冷静な戦いなど苦手な彼女なのだから余計に焦っていく一方だった。
「このっ!」
「とっ」
セリカはやぶれかぶれで再度顔を狙って蹴りを繰り出した。が、その豪脚はつなぎを着た人物に当たることはなかった。
しかし、二人は戦いながら少し場所を移動していたようで、相手が戦闘開始と同時に投げ捨てたバケツが、たまたま近くにに落ちていた。そしてセリカが繰り出した蹴りがバケツクリーンヒット。鈍い音を立てたバケツは、そのまま廊下の窓ガラスを突き破って外へと落ちていった。
それを一瞬驚いたような、あるいは少し面白がっているような顔をしながら繋ぎの人物は目で追ったあとカラカラと笑う。
「おいおい、一応うちの会社の備品なんだから大事にしてくれよ」
「うっさいわね!あんたが抵抗するから悪いんでしょ!?それに会社って……あんたやっぱりヘルメット団に雇われた傭兵かなにかね!」
「まぁ遠からず近からずってとこだが……ちょいとおしゃべりが過ぎたかな?それに、残念だが時間切れみたいだ」
そう言うと同時に聞こえる複数の足音。そしてドン!とけたたましい発砲音が二人しかいないはずの廊下に響き渡る。その刹那二人の間に散弾が着弾し、フローリングの床を抉った。
それは決して二人には当たらないように計算された牽制の弾丸ではあったが、それは同時に次弾は当たることが容易であるという警告の弾丸でもあった。
先程までブラシを構えていた相手もピタリとその動きを止めて、弾丸が飛んできた方へと顔を向けた。
「うへ〜。おじさんとこの後輩に手を出すのはそこまでにしてもらえるかな〜」
間延びした声が廊下に響く。
セリカは彼女がいる廊下の反対側を見ると、そこには彼女の見知ったメンバー、アビドス対策委員会の面々が立っていた。
それぞれがいつもの銃を持っているのを見るに、セリカの安否を気にして来てくれたようだ。
「みんな!」
「ん、セリカ無事?」
「随分と長いお花摘みだったみたいだから心配して来ちゃったよ〜」
「ですが、来て正解だったみたいです」
「うんうん。無事間に合ったみたいですね☆」
安堵の息を漏らすセリカとは別に、対する人物は冷や汗を流しながら、薄らとその口元をあげる。
そして、一言呟いた。
「なんだよ。いるんじゃねぇか。とっくに卒業しちまったのかと思ったぜ」
その視線の先には、小鳥遊ホシノがいた。
「……久しぶりだね。いそーろーさん」
彼女はなんだか、一瞬複雑そうな顔しながらも、直ぐにいつものようににへらと笑った。
とりあえず便利屋が出てくるメインストーリーの話は触れる感じで。