Laughing at the blue sky   作:ロリコン先生

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待たせたな、諸君。
ボクだよ。ロリコン先生さ。


session4 鉛玉は秘密の味

「敵情視察さ」

 

 蒼井ソラの口から出た言葉は、アビドス対策委員会の面々に緊張を走らせるだけのものがあった。

 

「やっぱりヘルメット団の……!」

 

 まっさきに声を荒らげたのは、短期かつ直情的なセリカだった。彼女は先程一戦交えた時から察していた。只者ではないこの男の口から出た言葉は、彼女にとってやはりと思うには十分なものであった。

 そんな鋭い目で睨まれるソラは飄々としながらこう続けた。

 

「だから、遠からず近からずって言っただろ?ちゃんと聞いてたか?」

「聞いてたわよ!でも、どういう意味かわかんないからこう言ってるんでしょ!」

「そりゃ簡単な話さ。ボクはヘルメット団とは関係がねぇ」

「そのかわり、ヘルメット団を雇っている誰かさんとは関係がある……って感じ〜?」

 

 ソラの言葉にホシノが続ける。

 その回答にソラはパチリと指を鳴らして、ニヒルに笑う。

 

「その通り。今のボクは雇われの身でね。今回は清掃員に扮して、ここアビドスの敵情視察に来たのさ」

「でも随分と古典的な方法ですね?」

「確かに……。敵情視察なら、ドローンを飛ばすなり他にも方法があったハズです。それに雇い主から私たちの情報を聞いているものなのでは?」

 

 ノノミの言葉にアヤネが頷く。

 キヴォトスにおいて、敵情視察をする上で直接乗り込むという行為は余程金がないか、腕に自信があるか。そのどちらかだろう。

 ドローンを使う。人を使う。他にも手段は色々とある。

 

(まさか、この人も使い走りの捨て駒でしかないと?)

 

 彼女の信頼している先輩、小鳥遊ホシノをしてこれくらいの拘束をしないと逃げられると言わしめた人間。それほどの実力を持つ人間をただの駒として使うのはどれほどの存在なのかと、アヤネは想像して身震いした。

 

 

「へくちゅ!」

「アルちゃん風邪〜?」

「はぁ。これから襲撃だって言うのに。大丈夫?」

「そんなわけないじゃない!アウトローたる私が風邪なんて引かないわ!」

「さ、さすがアル様……!」

 

 

「理由はある。一つはアビドスに恩がある。だから敢えてバレやすい方に決めたのさ。そしてこっちが本命。二つ目は……」

「二つ目は……?」

 

 ゴクリと唾を飲み込むアヤネに対して、にやりとソラは怪しく口角を上げた。

 

「……そんなもん買う金がねぇ」

「そ、そっち!?」

「まぁ視察に来たのは、ボク自身が確かめた情報じゃないと安心できないんでね。あとは、情報料を取られそうだったから止めたのさ」

「ほんとにお金ないのね……」

 

 思わず大声を上げて驚いてしまうアヤネ。隣で聞いていたセリカもガクッと思わず肩を落とした。

 「世知辛いですね☆」とノノミは笑い、「ん、世の中金次第」とシロコはどこか悟ったふうに言う。ソラの一言によって対策委員会の会議室は、先程の蔓延していた緊迫した空気が一瞬にして霧散した。

 

「うへ〜。やっぱりこういうとこが厄介だなぁ」

「気軽に話しかけやすい、フレンドリーな清掃員さんだろ?」

 

 ケロリとソラは笑った。

 

「……でも偽物なんでしょ?」

「志しは本物なんだけどな」

「心持ちだけ立派でもねぇ」

 

 また彼女らから呆れたようにため息が出る。弛緩した空気は引き締められる気配はなく、間延びした感覚だけがあった。

 

(喋らせると向こうのペースに乗せられる。それが嫌でこうしているんだけど、やっぱりダメか)

 

 ホシノは内心歯噛みする。

 短い間だったとはいえ昔からソラを知っている彼女だからこそ、危惧していたこと。

 別に話術が巧みだとか、そういうのではない。ただ、なぜかその親しみやすい雰囲気と、軽快な口調が思わず心を開きそうになる。それはまるでシャーレの先生のように。

 だからこそホシノはこのヘイローのない人間を誰よりも警戒していた。

 

「それじゃ、質問を変えようか〜。……いそーろーさん」

「ん?なんだ」

「誰に雇われたの?」

 

 ホシノのそれは、対策委員会にとって今回ソラが来た目的よりも重要な質問だった。

 

「生憎と、それだけは教えられねぇな」

 

 先と同じようにヘラりと笑う、しかしてその内容は先程とは違った。

 答えられたことを巫山戯ながらも答えていたソラだったが、此度の内容だけは答えることを拒否した。

 

「ふぅん、これは教えてくれないんだね〜?」

「生憎とこの仕事は信用が第一でね。顧客の情報なんておいそれと喋っちまったら、ボクのクビが飛んじまう」

 

 肩を竦めて相も変わらずヘラヘラとしながらそう答えるソラ。しかしその目は真っ直ぐホシノを見据え、決して冗談ではないのが伝わってくる。

 その言葉に対して、ホシノは銃口をソラに対してより近付けた。

 この部屋の中をピンと張り詰めたような空気が再び支配する。

 その二人以外は固唾を飲んでことの成り行きを見守る。それしかできなかった。

 

「……死んでも?」

 

 ホシノがそう口にして、銃口をソラの額に触れさせる。

 静寂が支配するこの部屋の中に、銃身から鳴るカチャリという音だけが静かに響いた。

 

「死ぬのなんか怖くねぇさ」

「いいの?本当に撃つよ」

 

 ホシノは先程まで外していた人差し指を、引き金へとかける。

 その光景には見守るしかなかった対策委員会の面々、何よりも先生が驚き、口を開いた。

 

「せ、先輩!?」

「“ホシノ待っ───”」

 

 しかし静止の言葉を遮るようにソラが大きく口角を上げた。

 

「やれよ」

 

 ソラが銃口を掴みより自分の額へと押し付ける。その姿は、本当に今から撃たれるかもしれないと思っている人間の姿ではなかった。

 ホシノのポーカーフェイスが一瞬歪み彼女は目を細める。すぐに彼女は引き金から指を離してパッと普段のように気の抜けた顔で笑った。

 

「……うへ〜、やっぱりこれじゃダメか〜」

 

 ただ行く末を見守ることしか出来なかった面々から、ホッと安堵の息が漏れ出た。

 

「お、驚いたぁ〜……」

「ホントに撃つのかと思いました……」

「“ほんとにね……肝が冷えたよ”」

 

 再度鳴り響く心臓を落ち着かせるかのように、あるいは一瞬でもホシノを信じられなかった自分を戒めるように息を吐く。

 ただ、そんなにふにゃりと笑うホシノを眉を曇らせたのはノノミだった。

 彼女は一瞬ホシノを心配そうに見つめた後、しかし誰にも心配させまいといつものように朗らかに笑った。

 彼女と同じようにホシノをずっと見ていたシロコはぽつりと呟く。

 

「ん、本当に撃つと思ってた」

「え〜?いやいや〜撃たないよ〜」

「目が本気だった」

「見間違いじゃない〜?」

 

 シロコとノノミは、きっと同じ気持ちだった。ホシノはきっと、殺す気はないが、撃つ気はあったと。何しろその目が本気だったのだ。真っ直ぐにソラを見据えて引き金に指をかける姿は、到底撃つ気がなかったと言い訳できるものではなかったように思えた。

 とはいえ結果的にホシノは撃たなかったのだから、その言葉を信じる他なく、二人はホシノの誤魔化しを怪訝に思いながらもその口を閉ざす他なかった。

 

 

 マジで撃たれるかもと思った。

 ボクは背中に冷たい汗が垂れる感覚を覚えながら、顔には出さないように安堵した。シロコとかいう生徒が言う通り、実際にホシノはボクを撃つ気があったんじゃないかと思う。

 殺す気か?いや殺す気なのか。殺す気があったら死んでるか。

 ボクが内心安堵の溜息を吐くのと、セリカちゃんが盛大に溜息を吐くのは同時だった。気が合うね〜。

 

「は〜。なんか、安心したらお腹すいちゃった」

「そうですね……」

「なら、柴関ラーメンにでも行きましょうか☆」

「賛成」

 

 なんか空気感が変わりほっこりしたと思ったら飯食いに行く話しを始めるアビドスの面々。

 おお、すげぇな。マジか。思わず面食らってしまった。一応こっち敵情視察に来てる敵なんだけども、そこんところどうですかね。ホシノさん。

 とちらりと彼女を見るが、変わらずにへら〜となんとも言えない顔をしている。

 

「あ、でも彼はどうしましょうか」

 

 どうやら眼鏡ちゃんがこちらのことを気にかけてくれてたらしい。見た目通り真面目で気が利くようだ。多分いい子。

 

「ボクとしては御一緒させて貰えると嬉しいねぇ」

「いやダメに決まってるでしょ!?」

「そいつは残念」

 

 肩を竦めれば、「もう!」とセリカちゃんは怒った。ホントいじりがいしかねぇなこの子。でも弄りすぎるとホシノに怒られるか。引き際を見極めるのが得意なボクなんでね。主に、カヨコのお陰である。

 

「“じゃあ私が見てよっか?”」

「それは駄目。仮に抜けられたら弱い先生じゃ捕まえられない」

「“ぐぅのねも出ない……”」

 

 我こそはと立候補した先生だったが、さすがに一刀両断される。きっとボクと同じなら、彼も弾丸で当たり前のように傷つき、血を流し倒れるだろう。

 それに、見た感じ軽く鍛えてはいるのだろうが、それもあくまで軽く程度であり、その肉体はスーツ越しでもわかるほどに平凡なものだ。

 少なくともボクは彼を片手で制圧できる。もちろん鍛えてるからな。

 

「でもどうましょうか……」

「ならおじさんが見てよっか〜?」

「えっ、でもホシノ先輩もお腹減ってない?」

「いいよいいよ〜。おじさんももう歳だから油っこいものは胃が受け付けなくて……」

「だからアタシと歳そんなに変わらないでしょ……?」

 

 その後、狼耳ちゃんも残ると言い出す等紆余曲折あったが、最後まで渋っていた先生が折れて、結局ボクとホシノちゃんがここに残ることが決まった。

 

「“ホシノ、危なかったらいつでも助けを呼んでね”」

「ん、すぐに駆けつける」

「ありがと〜。みんなも気をつけてね〜」

 

 会議室から出ていく面々にヒラヒラと彼女は手を振って見送る。彼女らが一通り退室すると、ホシノはクルリと振り返った。桃色の長髪が、彼女の動きに合わせて舞う。

 

「それじゃ、続きしよっか」

「おいおい。冗談きついぜ」

「まぁ半分冗談だけどさ〜。……私と二人きりなら多少は話してくれるかなって」

 

 うへ〜と昔から変わらない腑抜けた笑みを浮かべる彼女に思わず吹き出してしまった。

 

「おじさんなんか面白いこと言ったかな?」

「いいや。……ま、いいぜ。ちょっとだけなら話してやるよ」

「お、言ってみるもんだねぇ」

「ただ、その前にちょっとした小粋なトークで場を和ませねぇとな?」

 

 ボクは手と足を拘束している縄を解き、ヘラりと笑った。

 対するホシノ、小鳥遊ちゃんはこちらの様子をジトーっとした目で見たあと、はぁと溜息を着く。

 

「しょうがないなあ」

 

 彼女は近くにある手頃な椅子を掴んで、背もたれを正面にやり、そこにもたれ掛かるようにして座った。

 

「それで、どんなのがご所望かな?」

「昔を懐かしむちょっとしたトークさ」

 

 言って、ボク達はヘラりと笑った。

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