Laughing at the blue sky 作:ロリコン先生
『つまり、すぐにはこっちに来れないってこと?』
「そういうこと。ガス欠でね。今からの合流は厳しいと思うぜ」
聞き慣れた吐息混じりのため息が、スピーカーから聞こえる。相変わらずため息が多いな。幸せが逃げちまうぜ。
バイクを手で押しながら、ボクはシートの上に乗せたスマホを見ながら、こっちも同じようにため息を吐いた。
腹が減ったしバイクも重い。
「はぁ……」
またため息が出た。参った、こんなんじゃ人のこと言えねぇな。課長よりも先にこっちの幸せが逃げちまいそうだ。
あれからカヨコに現状を説明し、今のままでは襲撃の時間に合流できそうにないことを説明した。
何せバイクはガス欠だ。
この広大な砂漠を押してアイツらの元まで駆けつけるってのは相当に時間がかかるだろうからな。ヒーローは遅れてやってくるとは言うが、ボクはそんな柄でもねぇ。なによりやってきたのに全部終わってたら格好がつかねぇしな。
「ま、襲撃には参加出来ねぇと思ってくれて構わねぇ」
『わかった……。後で社長に伝えとく。それで、さっきなにか言いかけてなかった?』
「あ……?あ、ああ!そうだよ。アルのアホのせいですっかり忘れちまってた」
カヨコの言葉でアルの叫び声で吹っ飛んだ記憶が、ようやく戻ってくる。
ついでにアルのキンキン声も耳に戻ってきたが、とりあえず共有しとく必要があるだろう。
『それで?何を思い出したの?』
「アビドスに盗聴器を仕掛けたのさ」
『それ本当?』
「もちろん」
実の所ボクは煙草のケースの中に小型の盗聴器を入れていた。拳銃も手榴弾でもさらにタバコでさえアビドスの奴らに悲しいことに没収されちまった。しかしこれが幸いして、盗聴器が意図せず棚の中に保管されているのをボクは見ている。
音質は劣悪だろうが、それでもミレニアム製だ。許容範囲内であるだろうし、集音性能は悪くないはずだ。
「事務所の棚に置いてあるヘッドフォンあるだろ?あれについてるコントローラーのチャンネルを68に合わせてみな」
『わかった。……社長』
スピーカーの向こうで、カヨコがアルを呼んでいる声が聞こえる。詳しい内容は聞き取れないが、今話した内容を伝えているのには違いない。
さて、あそこからここまでそこまでの距離はない。アビドスに電波妨害のアレこれなんてのはないだろうし、まぁ届くはずだ。腐ってもミレニアム製なのだから信じよう。
……信じた結果がこの徒歩だと考えるとやめた方がいい気がしてきたな。
「……んで?どうよ?」
『……聞こえないみたい』
静かにそう告げられた言葉はボクを驚かせた。
「おいおい、冗談だろ?」
『ホント。ノイズしか聞こえない』
「マジか……」
向こうさんの方が1枚上手だったってことか……。やられたぜ。
◇
「"そういえばノノミ“」
「はい、先生どうしましたか?」
「“あの人から没収したタバコってどうしたの?”」
「シロコちゃんとかが吸っても危ないので潰して捨てました〜」
「“そっか”」
◇
アビドス。予想以上に手強い相手だな。向こうではボクの様子に呆れたようにため息を吐くカヨコのやたら色っぽい息遣いが聞こえた。
『はぁ……。仕方ない。ソラの所感を聞かせてよ』
「所感ね……」
『誰が強そうだったとか。ソラなら色々とわかるでしょ?』
「そうだな……」
顎を擦りながら、彼女らのことを思い返す。風に吹かれた砂が顎についたみたいでジョリジョリとする。髭は剃ってるんだがな。身だしなみ関連はアルがうるさいのなんのでね。一応ネクタイだけは着けている。ジャケットや背広は着たり着なかったりだが。
さて、とりあえずアビドスの構成から言っておくか。
「あー、アビドスの構成人数は……」
『知ってる。四人でしょ?』
「惜しいな、外れだ。しかしやけに自信満々だったな?」
『会ったから。でもその時は四人だったけど?』
「そりゃ、随分とラッキーだったな。実はもう一人いるんだよ。ボクはソイツに監視されてたわけだ」
というか会ったってなんだよ。こいつら何してたんだ?
『ソラを監視できるなんて結構やり手だね』
「そりゃもう。あのチビがアビドスの要だよ」
『チビ?見た目は?』
「ピンク髪のチビで、両目の色が違う。武器は盾とショットガンで立ち位置は見るからにタンクって感じだったな」
『名前は?』
「小鳥遊ホシノ」
名前を言えば、カヨコは一瞬押し黙った。なんだ、聞いたことでもあるのか?
『聞いたことがある、ようなきがする』
「ほーん。まぁでも気のせいかもしれないぜ」
『……だろうね。アビドスのことなんて全く知らなかったから』
実際アビドスの話はそう聞くことは多くない。ボクとてキヴォトスに来てから長い訳じゃないが、それでもあのミレニアムにいたわけだ。こき使われていたとはいえ多少は耳にしても良いはずだが、さっぱり聞く機会はなかった。
昔マンモス校だったらしいが、昔は昔というわけだ。過去の栄光はもはや遠い話、か。悲しいもんだ。
『他に気になる生徒は?』
「そうだな。2年の連中だろうな。青いマフラー巻いてるガキと、乳のでかいゆるふわガールには気をつけな」
「……は?乳?」
何を聞いたのかわからないというふうな声が返ってきた。
「いや、デカい乳だ」
『下品な表現はやめて』
「それが1番わかりやすいんだって。マジで」
パッと見で分かるくらいにはでかい。
あれで多分ホシノの後輩なんだから、成長ってのは残酷だぜ。まぁ、ボクはもっと色気のある方が好きだけどな。あれじゃ宝の持ち腐れってやつだ。
いや、あるいは最近流行りのバブみってやつか?それになる気がしてきたぜ……。
「まぁとにかくそいつらも結構やり手だろうな」
『あとは?』
「一年の連中は二人いるが特に気にしなくていいぜ。経験とか、まぁ色々と不足してるからな。それに一人は後方支援担当だろうしな。だからお前らで相手する必要はない」
「ん」
カヨコは大体聞き終えたのか、そこで言葉を止める。ただ、ボクとしてはもう一つだけは報告、もとい忠告しなければならなかった。
「あと、もう一人。『先生』には気をつけな」
『先生って……。あの、シャーレの?』
「ああ。実力人柄性格全部分からねぇが……、少なくともかなり厄介になるはずだ」
『……』
これは勘だ。実際に見た訳では無いし、彼の情報も又聞きしたものでしかない。
しかし同じ大人として、何より、指揮官の重要さを知っている身として。ボクは彼女らに忠告しなければならない。
彼、『先生』は気をつけるべき厄介な相手であると。
「ま、とにかく気をつけな。そんじゃな」
『ちょっと、待っ───』
ボクはスマホに表示されている赤いボタンを押して通話を切る。
そして、未だ遠くに見えるアビドスの居住区画へと目を向けた。
「遠いな……」
この重いバイクを押しながら進むにはあまりにも遠い距離。嫌気が差した。
「レッカーは……あるわけねぇか。…………腹減ったなぁ……」
こんな砂漠にそんなものある訳もなく。そして鳴り止まぬ腹の虫にボクはため息を吐いた。そのため息は広大な砂漠の中へと静かに流れていく。
この後、数時間かけて便利屋の事務所へと戻ったソラだった。
一応、この小説はゲーム本編の設定を主軸にして一部独自解釈と設定を織り交ぜています。
それゆえ、アニメの描写等と食い違うところは多々あるかもしれませんがご了承くださいませ。