Laughing at the blue sky 作:ロリコン先生
あれから長い時が経った……。
長い、長く険しい旅だった。
ボクはようやく、ようやく着いたのだ。
だだっぴろい景色の変わらない砂漠を、時折その辺に生えてるサボテンや草を食って飢えと渇きを凌ぎ、歩くこと約一日。
長い、なんて長い旅だったのだろうか。
しかしボクはたどり着いて見せた。
そう、便利屋の事務所に。
あーあ、戻ってもアルにあーでもないこーでもない言われんだろうな。面倒くせぇ。
やたら金のかかっている、見た目は上等な事務所のオフィスの前へと物理的に重い相棒を押す。本当は道中ガソリンを入れられりゃ良かったんだが、ガソスタで入れるには金がかかる。
しかしクソッタレなことに金がない。
これも全部この無駄に高い事務所と、アビドスにビビったか、あるいはクライアントにビビったかは知らねぇが金を全部使い切ってバイトを大量に雇った阿呆のせいだ。
クソみたいに重たいバイクを事務所の横に着けて、ボクは事務所の階段を一段一段ゆっくりと上がる。そして、中へと通じる扉を開けた。
「戻ったぜ〜」
「……あ、やっと帰ってきた。おかえり。社長!主任が帰ってきたよ」
「やっと帰ってきたのね!」
中に入れば、カヨコがボクを出迎える。無愛想だがうっすらと微笑んで、ボクの帰還を迎えてくれた。
そして、ボクの帰還を伝えられたアルが向こうからドスドス歩いてくる。
「さぁ!主任───」
「待て、よく分からねぇが、ボクは腹ペコでね。まずは飯をだな……」
「フッ当然、ご飯もないし、それを買うお金がないわ!」
「なんでだよ!?襲撃はどうしたよ!?おい、まさか……」
いやほんとになんでだよ。
伝えたよなアビドスの脅威。というかコイツらの強さなら、あんな適当な報告がなくてもホシノさえ気をつけりゃなんとかなるはずだ。ホシノとてほかのメンバーがダウンした状態でこの四人を相手に戦えるほどじゃあないはずだ。
まさかとは思うが、失敗とかそんなわけは───
「そのまさか。失敗しちゃったんだよね〜。バイトがみんな定時で上がっちゃったんだ」
「それに社長が日和って、そのまま逃げ帰ってきたってわけ」
「すみませんすみません私がダメなせいです!お詫びに死んできます!」
「はぁ、ハルカ落ち着きなよ」
いつものようにため息を吐くカヨコ。テンパって謝罪天国になるハルカ。
ボクは思わず声を荒らげた。
「はあ〜?アルお前、そんくらい社長権限で引き止めやがれ!便利屋68はブラック企業扱い上等なんじゃねぇのかぁ!?」
「そんなわけないでしょ!?無理なものは無理よ!そ、それにそういう契約だったし……」
「なんで変なとこで律儀なんだよテメェは!」
クソっ、なんで会った時からこいつは妙に真面目なんだ。アウトローならもっと型破りにしやがれってんだ、たっく。
「はぁ……。それで?金がねぇのはわかったが、どこ行くんだ?」
「銀行よ」
「はぁ?これまたなんでそんなとこ。お前の口座は凍結されたんだろ?」
たしかゲヘナの風紀委員に指名手配されて口座を凍結させられたって聞いている。というかコイツが指名手配になったからボクとの出会いがあった訳だが。
それよか、なんでまた銀行に?
そんなボクの疑問に答えるようにアルは若干引きつった笑みを浮かべながら答えた。
「当然融資を受けるのよ!」
そんな答えにはさすがのボクもこう答えざるを得なかった。
「いや、無理だろ」
「だよね〜」
融資を受ける気マンマンなアルに対して、どう考えても無理であるとハナから諦めているボクたち。そうしてカヨコのため息が事務所の中に響いた。
◇
結果?もちろん無理だった。
だが朗報がある。金を拾った。しかも一億円だぜ?
いやこれがマジで拾ったんだよ。信じられないって?ボクも信じられないね。覆面水着団だとかなんだとか。
まぁアレだよ。日頃頑張ってるボク達に女神様が微笑んでくれたのさ。
は?そんなわけない?日頃の行いの悪さで言えばボクを超えるやつはいないって?
うるせぇ。
とにかく、だ。この前の請求されたメンテナンス代はそっちに振り込んでおくからよ。これからも頼んだぜ?ウタハマイスター。
そう言って通話を切った。全く、ウタハのやつ。ボクの話を全く信じやしなかった。銀行強盗したんじゃないかって疑われちまったぜ。
たしかに銀行強盗して手に入れた金ってのは事実だけどな。けど実際にやったたのはボクらじゃない。覆面水着団とかいう名前を騙ったアビドスの連中さ。つまり幸運にも金の入った鞄を拾ったボクらは悪くないってね。
スマートフォンをポケットにしまって、ボクは事務所へと戻る。こいつはミレニアムにいた時に買ったやつだが、当時でも型落ちだったのに今ではもう売られてるのを見ないレベルらしい。ミレニアムの技術の進歩はすげぇもんだ。
さて、あいつらの前でタバコを吸うと文句を言われるんで、吸殻は地面に落として火種だけ靴の踵で潰しておく。
そろそろ戻るか。
ボクは路地を出て、昼飯を取る予定である柴関ラーメンへと向かう。とにかくこの学園都市ではタバコを吸うにも場所がない。店の前で吸えば文句を言われるしコンビニもダメだ。
そもそもキヴォトスでタバコを吸うにしても酒を飲むにしても、入手が面倒なのだ。そこら辺のコンビニで売ってない。そりゃあここの治安を考えりゃ妥当なんだろうがよ。損な話だぜ。
そういや、もうアル達が席はとってるって話しだったな。
あいつらの事だろうからボクを待たずに食ってる可能性はあるだろう。というか、ほぼそうに違いない。許すまじ陸八魔アル。
ちなみに柴関ラーメンに来るのはコレで二度目だ。アイツらはもう何度も行っているらしい。なんならボクが寂しく……というわけではないが、命からがらの偵察中にも行っていたらしい。ふざけた話だぜ。
まぁ、ともかくだ。
柴関ラーメンは美味い。それだけは間違いねぇ。あいつらが虜になっちまうのも分かる話だ。
そして、ボクが柴関ラーメンが目に入って腹の虫を鳴らしながら一歩踏み出した瞬間。
柴関ラーメンが爆発した。
「は?」
ボクの昼飯は?
愛しの柴関ラーメンちゃんは?
つーかまだ爆発してねぇか!?
「うおおおっ!?」
軽く爆風に煽られながらもなんとか建物の影に避難したボクは、そっと爆発した方向を見る。
モクモクと立ち昇る煙の中に、四人の小柄な人影が立っている。それは、ボクのよく知っている四人、便利屋68のメンバー。
「……」
「ゴホン、ゴホン……。う、うあああ……」
何故か狼狽えている四人を見て、ボクは察した。
おのれ陸八魔アル。絶対に許すまじ。
「……テメェら!全員そこでなおりやがれ!」
「しゅ、主任!?」
「……良かった。またこっちに近づいてなかったんだ」
「でも、あれなんか怒ってない?」
「(グルグル)わ、私のせいですよね!?」
飯の恨みは怖ぇぞ……!
あの阿呆ども(主にアル)をシバくために足を前に出した瞬間、僕の背中に声がかかる。
「あ、あんた、この前の……!……ってことはそういうことだったのね!」
耳にキンキンと響く、姦しい声の主はつい最近知ったばかりの生徒。
アビドスの猫耳ちゃん、セリカだった。いや、アビドスのメンバーだ。ただホシノだけはいないらしい。メガネちゃんもホログラムってこと考えると、先生も向こうか。
たっく。タイミングがいいやら悪いやら
「あんたたち……!よくも、こんな酷いことを!」
「いや全くだ。さすがに爆破はねぇよ。そのせいでまた飯抜きだ」
「そうよ!あんたたち大将に……ってアンタも仲間でしょ!?」
「ああ、だからほら。足元注意だぜ」
「え?足元……?」
コロコロと軽い音を立てて転がる丸い物体。それを彼女らが視認した瞬間狼耳の、シロコだったか。彼女が叫んだ。
「グレネード!」
「まずっ───」
爆音とともに破裂したグレネードは辺りに爆風を起こす。どうやらアビドスの連中は避け損なったらしい。ファーストパンチとしては上々か。
油断大敵だぜ。
「ケホッケホッ……もう怒ったんだから!あんたたち許さない!ぜーったい許さないんだから……!」
「大将は幸い軽症です。既に避難が完了しています!」
「ん、これで心置き無く暴れられる」
僕はその驚きの隙に便利屋の面子の近くに走っていた。
「お、しゅにんさん生きてた」
「勝手に殺すんじゃねぇ!まぁいいさ。お灸を据えるのは後だ。それで?どうすんだ社長。おっぱじめんのか」
「いつか白黒つけなちゃいけないのは確かだけど……」
出方を伺うようにチラリと横目でアルの方を見るカヨコ。それに対してアルは一瞬の逡巡の後決意を固めたように、だいぶひきつった笑みで答える。
「……これでわかったでしょう!アビドス!私たちがどれだけ悪党かを!」
「……確保していた傭兵をこっちに呼ぶ」
カヨコはそう言ってその場を離れ雇っていた傭兵たちに連絡をしに行った。すぐに戻ってくるだろう。
「さぁ、かかってきなさいよ!」
「ハッ、そう来ねぇとな」
「あははは!じゃあ始めよっか!」
「私が一人残らず始末します、アル様」
ボクも前回のアビドス偵察とは違い、ある程度武器は持ってきている。さっきのグレネードがいい例だな。
まぁ本来の獲物はデカいんで、昼飯食べるだけのつもりだった今回は持ち合わせちゃいないが……。今回はコイツらがいる。なんとかなるだろう。
胸ポケットから拳銃を取り出してセーフティーを外したあとスライドを引く。
傭兵を引き連れて戻ってきたカヨコを見て、ボクらも戦闘準備を終えた。
向こう側もその様子を見てそれぞれ手にしている銃を構える。
いや一人ミニガン構えてるが。どんな怪力だよ……。さすがキヴォトスだな。
「覚悟はいい!?」
「お仕置ですよー!」
怒り心頭といったアビドスメンバーの様子に、アルはいつものアウトロースマイルを浮かべる。
「それはこっちのセリフよ。真のアウトローとはどういうものか、見せてあげるわ!」
さあ、ショータイムだ。