傍に立つ君は完璧で究極のアイドル 作:カミキヒカラナイ
劇中劇の描写クソ難しすぎておハーブ生えますわ! 推しの子二次で2.5次元舞台編が省かれたりそもそもそこまで到達しなかったりするケースが散見されるのにも納得ですわ! お排泄物ですわ!
ちなみに地の文で主人公を指す三人称が彼と彼女で一定でないのは仕様でしてよ。そこに関しては誤字ではないのでご注意あそばせ。なんもかんも男のクセして女の役やってるあんチクショウが悪いのですわ!
ステージアラウンドとは、回転する円形の客席と360度からなる舞台とモニターによって構成された最新鋭の劇場である。
場面転換の度に幕が下りセットを作り直すような従来型の劇場とは異なり、ステージアラウンドにおける場面転換は極めてシームレスに行われる。幕が下りる代わりに客席が回転し、予め用意された別の舞台へと観客の視線を誘うのだ。テンポを損なうことなく素早く場面が切り替わるため、観客を飽きさせることがない。舞台上に広がる幻想の世界から現実に回帰する間を与えない。
客席が回転し、舞台は次の場面へと映る。
屍山血河の風が吹いていた。丈のある雑草に覆われていた原野は、平たく微塵に踏み潰された肉の原と化している。全てが人体の成れの果てだった。それがたった一人の鬼の手によってなされた戦果であることは言うまでもない。
ステージアラウンドの場面転換は極めて迅速に行われる。観客の意識が幻想の世界から現実に回帰する間を与えない。
場面転換と同時、またしても瞬間移動のようにして舞台の中心に飛来したその少女は、身の丈ほどもある大刀を鞘に納めたきり何をするでもなく佇んでいた。何か口上を上げるでもなく、殺戮の手を広げることもしない。
ただ立ち尽くし、戦場を睥睨するその姿。それだけなのに酷く恐ろしい。観客の誰もが彼女の瞳に目を奪われ、声の一つも上げることができなかった。
月光を浴びて影を伸ばし、その女は佇んでいた。双眸の奥には紫雲を帯びた血色の瞳が強く光っていて、断固たる圧力を放っている。髪の黒が揺れ崩れる様は剣呑な何かを感じさせる。
(何だこの威圧感は……こいつぁ、尋常のもんじゃねえぞ)
客の一人としてこの舞台を訪れていた
見目麗しいという言葉すら生易しく思える、神々しいまでの美貌。苦しむアクアをその懐に抱き締めた慈母の如き包容力。それら全てが幻だったと言われても納得してしまいかねない程に、今の彼から放たれる鬼気たるや常軌を逸していた。
血色のカラーコンタクトの下から紫紺の光が覗いている。紫色に冴え冴えと、煌々と、妖しくも惹きつけられる眼光。数多の魂を啜った魔剣が帯びるような、危うさの先へと至った戦気。
(千か、万か……いや、それ以上なのか……とにかく、あれはとんでもない数の人間の死を掌の上にする目だ。何てこった。こんな役者が無名のまま在野に埋もれてたってのか?)
あれは本当に人なのか。それともこれが魔人というものか? 五反田は射竦められたように呆然とするよりなかった。動けないのだ。自分を容易に両断できる刃の上に立たされたとしたら、やはりこうなるのではないだろうか。ゴクリ、と唾を飲む音が大きく鳴った。
そして放たれる尋常ならざる鬼気は会場を覆い尽くし、関係者席に座す壱護達にも等しく降り注ぐ。少年の異常性をよく知る彼らだったが、その本質を実感として肌に浴びるのはこれが初めてのことだった。ルビーとミヤコはその戦気が帯びる鋭利を前に色を失くし、壱護は手の内に握り締められた汗を指先で確かめた。
(は、はは……間違いねぇ、これだ。あの夜に一瞬だけ感じた圧。巨大な霊峰を目前にしたかのような、圧倒的なまでの存在感。あの時は気の迷いか何かだったと片付けたが、とんでもねぇ)
童が纏う夢想の甘みなど欠片もなく、さりとて屈した者の諦観や酔狂もない。まるで
こんなものを目の当たりにして、彼が未だ齢十六の少年であるなど誰が信じるだろう。死神だ。あれこそはその掌中に人心を弄ぶ、生と死の流転すら超越した神の如き者の気配である。
壱護は覚えている。忘れるはずもない。脳裏にあの恐るべき光景が思い出される。あの奇跡の夜に目の当たりにした、人の世の歴史そのものを冷酷な高みから見下ろすような荘厳にして静謐の眼差し。泥濘の日常が破れて尋常の外の何某かが覗き見えたかのような、あの物凄まじき霊妙を。
まるで夜空が人の形をとって眼前に降り立ったかのような、恐るべき迫力を宿し秘めるその魔魅に。壱護は、法悦の中に己が命すら手放しそうになったのだ。
「そうだ、何もしなくていい。そうやってじっくりたっぷり、お前という天才の……いや、化け物の存在を観客に見せつけてやれ」
舞台裏の控え室にて、舞台上の様子を映したモニターを前にして金田一敏郎はそう独り言ちた。
それこそが「
金田一は欠けている人間の演技が好きだ。何かしらの理由によって精神に欠落を持って生まれた人間は、その欠落を埋めるようにして技術を吸収していく。
まともな人間ではない者が真人間のふりをしている。人とは違うから周りを観察して、世の中に順応しようとしてきた者の芝居。そういう“普通”ならざる者が見せる演技には隠しようのない異質さが滲む。その異質さは、異質であるが故に尋常の世界しか知らぬ“普通”の人間を惹きつけるのだ。
あれこそはその極北にして、全く次元を異とする地平に立つ者。金田一はシオンほど異質な人間を見たことがなかった。親を亡くし幼少期を養護施設で過ごした……それだけなら姫川大輝と同じだが、それだけでは到底説明のつかぬ異質さがあった。肉体的にも、精神的にも。
まともでない人間が真人間のふりをしているのではない。そも人間かどうかすら怪しい特級の異端が必死に人間の真似事をしている。だからこそ異質さを以て魅力とする役柄がこれ程までに合うのだろう。刃の上に身命を乗せ、研ぎ澄まされた牙で以て血肉を喰らう者……戦争というものが幻想となって久しい現代日本では到底お目にかかれぬ、真に命の重み、そして死の本質を知る者の演技だ。その異質さは推して知るべし。
まさにこの舞台こそはシオンの異質さを初めて世界に知らしめる契機となる。そして金田一は早くもその成功を確信していた。本番を迎えますます気合いの入った彼の演技は、画面越しに見ているだけの金田一をして思わず平伏したくなるような威風に満ちている。暴力的といっても過言ではない幻想がその総身から吹き出しているのだ。
ならばこそ
果たして、金田一の演出指導は効果的すぎる程に効果を発揮した。
佇んでいる。数多の視線の集中砲火にもまるで揺らがない巨大を
笑んでいる。その口元に浮かべるは上弦三日月の曲線。その目元に灯すは星空の如き紫紺の虹彩。
恐怖の風が吹いていた。身を竦ませる空気に満ちていた。戦場にあって絶え間なく感じられるそれが、戦争など無縁の世に生きる非力な者達を襲っている。
恐怖が押し寄せる。目を瞑ることすら許さずに。耳を塞ぐことさえ許さずに。煮え滾るような怒りと憎悪を刃と成し、なのにその表情は妖しいまでの色香を湛えた微笑みに彩られている。その笑みこそが何よりも恐ろしい。観客の誰もが自ずと理解した。舞台の中心で佇む彼女は、常人の理解の外にある狂気を以て笑んでいるのだ。
誰もが等しく理解した。理解させられた。あの鍔姫なる少女……否、それを演じるあの少年こそが怪物だ。怖気を覚えずにはいられない化け物なのだと。
(本当に、加減ってもんを知らないヤツだな!)
残酷にして非情。乱暴にして凶猛。武力か暴力かと問うたならば間違いなく暴力であるところの、荒ぶり漲る戦気。狂える激情を辛うじて抑制しているかのような、震えるほどに危うい気配。
それらに晒され圧倒されてなお、アクアは頭を働かせた。歯を食いしばって意識を保ち、足の指で床を掴む思いで以て踏みとどまった。恐怖を呑み、それを腹に押し込んで、何とか
稽古を重ねる中で幾度となく浴びたシオンの本気のオーラ。しかし今、彼の命はそれに輪を掛けて凄まじいばかりの輝きを放っている。張り切っているのだ。今シオンはこの上なく張り切っている。緊張しているのではなく、ただ充実した意気が演技に乗っていつも以上の輝きを放ち、それが圧力となって伸し掛かっているのだ。
まさしく
だが、スターは何もシオンだけではないのだ。この舞台に才なき者など一人としておらず、そして
「鍔姫姉さま……?」
そう呆然とした様子で声を上げたのは、黒川あかね演じる
愕然とした表情を隠しもしない彼女の顔には戸惑いがあり、緊張があって……それだけで終わっていた。混乱と動揺と、何より恐怖がない。その理由はすぐに知れた。引き攣った顔には生物としての本能と鬩ぎ合う戦士の意思が閃いている。だから動きが柔軟だ。無理にシオンの放つオーラの矛先を受けようとはせず、通るに任せていなしているのだ。
流石は才学非凡を地で行く才女である。如何にしてシオンのオーラに気圧されずに己が演技を貫き通すかを研究し続け、遂にこの土壇場で完成させたのだろう。伊達にあれと並び立とうとしているわけではないということだ。
今し方あかねが見せてくれたやり口は大いに参考になる。そう感じたのはアクアだけではなかったのだろう。一人、また一人と舞台上に立つ役者達の身体から余計な強張りが抜けていく。アクアもまたそれに
時間としては一瞬のことだったろう。静かに呼吸し、速まった胸の鼓動を鎮める。
「どういうことだ……あんたは死んだはずだろう、鍔姫!」
何とか崩れることなく刀鬼の役を維持したまま、アクアは動揺の中に悲痛を滲ませてそう叫んだ。気圧され震えてなどいられない。ここで無様を晒すようでは、あれほど己の我儘に付き合ってくれたシオンに対して申し訳が立たない。
震える身に息を吸い入れ吠えたならば、果たして渋谷の勢力の中から追従の顔が幾つも広がっていった。その場に漂う感情を拾い上げることはアクアの得意とするところである。それを増幅し導くこともまた。
設定によると、鞘姫と刀鬼にとって鍔姫は憧れの存在だったらしい。家同士の結束のために許嫁となった鞘姫と刀鬼。そんな二人を鍔姫は姉として心から慈しんだという。
渋谷の未来を負って立つ当主の器として血族から期待を寄せられていた鍔姫は、その願いに応えるように率先して戦場に立ち、次々と戦果を上げ渋谷クラスタの権勢を確かなものとしていった。誰よりも強く、美しい。貴種としてまさに理想の姿を体現する姉を鞘姫は大いに敬愛し、刀鬼もまた当代に
渋谷に生きる誰もがその姿に夢を見た。
あるいは、彼女こそが「国盗り」の大偉業を成し遂げるのではないかと。
それが在りし日の鍔姫の姿。幼き二人は憧憬の眼差しでその背を仰いだ。
「そうだ、お前達の知る鍔姫は死んだ。ここにいるのは残骸に過ぎぬ」
果たして、渋谷の夢は戦場から帰らなかった。連勝に次ぐ連勝により勢力圏を広げる渋谷クラスタの躍進を疎んだ周辺勢力が手を組み、連合した盟刀使いの集団によって嬲り殺しにされたのだという噂が実しやかに流れた。それを裏付けるかのように骨の一欠片すら戻ることはなく、誰のものとも知れぬ血に汚れた鍔姫の盟刀だけが帰還したのである。
で、あるならば、眼前に佇むあれは何だ?
何人も揺るがし難い巨大を華奢な体躯に秘めて、黒髪に薫らせるは死の陰影。側頭部からのたうつ炎のようにして伸びるは巨大な片角。双眸に赤とも紫とも定かならぬ妖光を灯すその姿は──
渋谷の民は知っている。人の才の抜群として誰よりも凄まじかった少女を。戦場を照らす星のように輝かしく可憐だった少女を。
渋谷の民は知っている。人に非ざる霊威を身に纏って強大だった少女を。渋谷の未来と呼ばれた少女を。
血脈の貴賎や兵法軍略の強弱巧拙を以て人の世の上位にあることを自認する者たちをば、ただの雑踏の一括りにして迷うところもない少女は……鍔姫という名の彼女は、霊験にも似た何かを感じさせつつ、炎に殺された英雄の如くしてそこに在る。呼吸している。立ち尽くす生者の群れを眺め見ている。
死者が生き返ることなどありはしない。それでも感知される霊妙不可思議がある。長く氷の槍に刺し貫かれていた心が、鞘姫の魂が、戦禍の中に死んだはずの姉がここにあることを感じ取っていた。
鞘姫は確信した。あれは死人などではない。あれは間違いなく我が姉鍔姫であると。
「生きて……おいでだったのですね。ならば、私は渋谷クラスタを統べる者として、血族の長として貴女に問わねばなりません。貴女は、何をしに再び現れたのですか」
「分かりきったことを聞くものではない、可愛い鞘姫。……ああ、それとも本当に知らぬのか。あの老人どもから何も聞かされていないのだな。道理で腑抜けた面をしている」
上弦三日月の曲線を描く恐ろしい唇が裂け、冷酷を滲ませて言葉を紡ぐ。鞘姫はその響きの澄明過ぎることに震えた。大きな声ではない。しかし広大さがあった。天空を轟く雷鳴がそうであるように。
「胸に遥かな大望を抱き、生きてきた。目に生活の逞しさを見て、耳に世界の宿業を聞き、鼻に戦火の燻りを嗅いだ。口に戦を準備して、腰に佩くは剣の一振り、手には鋭き槍を翻した。足は拍車を踵に
少女は謡うように言葉を重ねていく。そうするにつれて笑みは消え、僅かに瞼を閉じ、開いたならば鮮烈な眼光がある。
「だが全ては謀略の中に裏切られた。故にこれは正当な復讐である。私を貶めた恥知らずの血族どもを。私を辱めた憎き忌み角どもを。我が憎悪でその全てを浄化し、虫嵐のように全てを喰らって進み、大地と大河とを朱に染めて、以て私は東京の覇者となる」
抜刀。音もなく引き抜かれた巨大な刀身が照明を返して白光を宿す。身の丈をゆうに超える刃渡りは、およそ常人が扱うことを想定していない巨大さだ。鞘から引き抜くことさえ一人がかりでは難儀するそれを、鍔姫はいとも容易く操ってみせる。
何故か。まるで空間に固定されたかのようにして、長大な刀身を納めるに相応しい巨大な鞘が中空に浮遊していた。鍔姫はそれが当然のことであるかのように虚空に留まる大刀の柄に手を掛け、身体ごとひねるようにして抜刀したのである。
少女斬遊、災禍の舞。踊るようにして命を刈り取る、美々しくも恐ろしい黒髪の広がり。千の視線を絡め取って離さぬ魔性が薫る。
身体の動作に合わせて美しい黒髪が靡く。黒染めの絹を思わせるその長髪は、驚くことに被り物ではなく自前の代物だった。役に合わせたった一夜にして腰まで伸ばされたという髪は黒紫色に妖しく輝く。
「あ、あれは!!」
「知っているのか、百目!?」
冷気すら帯びて玉散る刃が月下に晒され、その白刃を目にした渋谷クラスタの将の一人が瞠目した。
「実物を目にするのは初めてですが……間違いない。あの怖気すら感じる鋭利、遠目にも見て取れる神秘の斬光! あれこそは紛れもなく──伝説の盟刀“
盟刀“神喰み”。それこそは始まりの大業物。二十一本あるという伝説の刀、その一本目。古い神話に謳われる神喰らいの大百足の頭蓋を射貫いたという古英雄が放った一矢、その
最初の一振りにして最強の神秘殺し。百年前に担い手の命と引き換えに三度振るわれ、その三振りのみで当時の日の本を揺るがした大戦を終結させたという記録を最後に行方の知れなかった伝説の刀。
「よもや生きてその刃を目にする日が来ようとは! これは凄まじいことですよ! 即ち神の実存が証明されているのです! 今! まさに! 我々の目の前で! 眩いばかりの説得力で以て!」
狂乱したように興奮を露わにする、みたのりお演じる百目。その狂騒ぶりが伝説の存在に説得力を添える。
ずらりと刃が剣呑な光を放つ。悍ましさすら覚える狂気的な鋭利を巨大な刀身に宿し、鍔姫はその
「来るがいい、東京に集いし
「証明してみせよう。私と──“神喰み”の力でな」
その言葉は峻厳な響きを持っていた。
物凄まじい発言だった。言葉の雷撃がこの場に集う全ての人間を打ち、痺れさせ、それを聞く前の世界に生きることを禁じたのである。
尽きせぬ憎悪があった。計り知れぬ憤怒があった。壮絶なまでの覚悟があった。それらが綯い交ぜとなり渾沌とした感情の波が視線に乗って投射され、居並ぶ将兵らに選択を迫っていた。理解できない者は殺気として受け止め恐怖すればいい。受け止め切れない者は心を手放して惨めを晒せばいい。理解した上で反発する者の挑戦のみを受け容れると。
常軌を逸した確度と硬度の感情演技だ。感情とは心、即ち魂の奥底より発されるもの。ならばこの世の何ものよりも巨大な魂を持つ彼の感情が常人の理解を超えて壮大なのは道理である。
小柄な体躯に巨大な魂を滾らせる様は大山の鳴動にも似る。外にあっては悠然として大いなるその山だが、内にあっては物凄まじい溶岩を秘めている……世界を
綺麗だった。恐怖すると同時、観客の誰もがその姿を綺麗だと感じた。内と外との乖離を微塵の揺らぎもなく一身で管理しきって、熱を放射しつつ世界の中心に佇むその姿は輝かしく見えた。
脳裏に焼き付き、魂に一撃されたようなその衝撃が記憶から消えることはないだろう。その時の己の情動を如何なる言葉で表現すべきかも分からぬまま、ただ凄まじい体験であったと、忘れ難い体験であったとだけ振り返るのだ。
大山が鳴動し、その熱を放出することによって見る者に覚悟を迫る。即ち、受容するか拒絶するか。
「──さっきから黙って見てりゃ、渋谷の連中ばかり盛り上がってんなぁ。寂しいじゃねぇかよ」
果たして、彼はそのどちらをも選ばなかった。受容するでもなく、拒絶するでもなく、受け流したのだ。飄々と、涼やかに、まるで風のように。
頭の後ろで一括りにされた赤髪が風に揺れる。赤の着流しに身を包んだその益荒男は不遜に笑み、トントンと鞘に納まったままの刀で己の肩を叩いている。
「仲間外れは良くないなぁ。俺も入れてくれないと」
「ほう──」
この場においては唯一の純粋な人間種でありながら数多の鬼族を刃の下に従え、短期間の内に新宿を統べるに至った傑物。
その名、ブレイド。恐怖の風が吹き荒ぶ中にあって、その男だけは常と同じ揺るがぬ在り様で地に足をつけていた。
「この私を前にしてその不遜……なるほど、盟刀“風丸”の使い手か」
「この刀を知ってるのかい」
「ああ、先代を殺したのは私だからな。貴様に似て風のように掴みどころがなく、太々しい面構えの男だったが……中々手応えのある剣士であった。まさか十年と経たず次代の担い手が現れるとは思わなかったが」
「へぇ、因縁があるってワケだ……だが先代と同じと思ってもらっちゃあ困るな。俺の名はブレイド! 新宿クラスタの頭で……いずれは“国盗り”を成し、この国の王になる男だ!」
そう大言を吐く姿には、この場に充溢する死の威風を前にしてまるで堪えた様子がなかった。その表情に緊張感といったものはなく、常と同じく油断も隙もあった。だからこそ異彩が際立つ。ブレイドという男の
その姿を目にした観客達は、その一時恐怖を忘れ興奮を露わにする。強大な敵を前にしても揺るがず己を突き通す様は、紛れもなく彼ら原作ファンが思い描く通りの「ブレイド」の姿だったからだ。
どこにあっても己の流儀で大いに楽しむ……それは類稀な適応力のなせる技だ。多才を背景にして世界を広く見下ろしているところがあるようだった。それが俗な嫌味や世を斜めに見る皮肉に堕さない理由は一つきりである。
死だ。一見して無敵にも思える精神性のブレイドだが、彼とて死を恐れないわけではない。彼もまた死を畏怖している。それでいて、そこにもまた己の流儀を当て嵌めることを止めないのだ。彼一流に生き、彼一流に死す……そのためには命をどのように用いればよいのか、それを知っているに違いない。自ずと読者にそう思わせる説得力を自然体のままに身に纏う、ブレイドとは不思議な魅力を持つキャラクターだった。そういう男だからこそ、魅力的なキャラクターが数多く登場する群像劇の中にあって最もファンから愛され、“主人公”として物語を牽引する役割を過不足なく担えているのである。
そして、かように独特の世界観を有する人間性を十全に演じきってみせる、その男の凄まじさに誰もが震えた。誰もが納得と共に称賛の念を禁じ得ない。流石は姫川大輝、次代の演劇界を担う器との呼び声も高き天才であると。
黒川あかねのように、自他の境界が曖昧になる程に深く役に埋没しているわけではない。あくまで姫川大輝は姫川大輝のまま、彼はまるで衣を纏うかのように自然に役を身に帯びるのだ。それでいて彼が天才と口を揃えて呼び称されるのは、
感情という名の色彩を巧みに操り、精巧緻密な織模様となすその手腕は並外れている。役というものを付け替え可能な衣装のように扱いながら、その再現性において右に出る者はいない。
深く役に嵌った際の再現力はあかねの演技の方が上かもしれない。しかし、観客に訴えかける感情の振れ幅、一挙一動が帯びる情報の密度と確度において彼はまさに随一だった。姫川大輝の演技は如何なる外的要因によっても左右されない。己という確固たる柱があればこそ、
ブレイドは不敵に笑みを浮かべたまま、鞘をなぞって柄へと至り、布の巻かれたそれに指を絡めていく。それだけで胸に灯る戦気がある。人が鋼の刃を手に取る意味はそれだ。肉の身にあり得ざる硬さが心身と合一し、心を研ぎ澄まし、精神に熱を持たせる。
一度それを持ち立ったのならば、今はただ思い切るべし。ブレイドと化した今の姫川にはそれができる。あかねのように
「ふふ……王、王か。随分と大きく出る。夢想家だな。嫌いではないが……己を厳しく律し、勇気の気炎で胸を焼く者以外が語るそれは酷く臭う。まるで酒場に英雄を論じて息巻く男の反吐のようだ。そういう人間を甘やかすほど、盟刀の宿業が駆り立てる“国盗り”の道は易くはないぞ」
今や鍔姫の視線は鞘姫達からは完全に離れ、たった一人ブレイドのみを視界の中心に捉えていた。彼の立つ足場に亀裂を生じさせる程の圧を視線から放ち、冷めきった瞳の色とは対極の熱量を迸らせる。噴出する殺気に、姫川の熱演に沸いていた客席は再びの沈黙を強いられた。
この場に集った誰もが己の魂に熱を感じていた。魂を焼き尽くされると錯覚する程の、それ程の微笑を……彼女が神であると言われたならば信じてしまう程の筆舌し難い美麗に、彼女が悪魔であると言われたならば信じてしまう程の恐るべき酷薄を香らせる微笑を浮かべて……鍔姫は、笑みの内に断固たる拒絶の意思を揺らめかせていた。
「ブレイド。この戦乱の渦の内に一抹の夢を抱く男よ。お前は弱く、まだ幼い。死を経ぬ何者にも私を止めること
「良いのかい? 時間はこちらに味方するばかりだと思うが」
ちらりと意味深に渋谷側の勢力を見やって、ブレイドはおどけたようにそう言った。
「元より今宵は宣戦布告のために来た。不意打ち紛いの決着などに頼らずとも、我が覇道は正面からあらゆる敵を打ち砕き、悉くを殺し尽くす」
「そうかよ」
少女は幽界の赤紫色に発光するかのような眼光で全てを見渡し、青年は不敵な笑みに戦気を漲らせそれに相対する。
それは絵物語にしては現実的な威力を持つ在り様であり、芝居にしてはあり得ざる迫力に満ちていた。復讐を謳い覇道を為す謎に満ちた鬼族の少女に、気炎を胸に王道を行く人族の青年。観客の誰もが物語の主役として十分な二人であると認識した。いや、知られざる物語を紡いでいく象徴としてこれ以上の二人はあるだろうか……誰もが興奮に鼻息も荒々しく、誰にというわけもなく頷いた。納得したのだ。新たな物語を受容するに足る根拠を得たのだ。
第一幕はかかる次第を以て閉幕する。
それは、東京の全てを呑み込み渦を巻く、壮絶な戦禍の幕開けであった。
【桐生紫音】
理由なき強さの象徴。クソデカ魂からお出しされるクソデカ感情演技にクソデカオーラが備わり最強に見える。しかもテンションアゲアゲ⤴︎⤴︎で稽古の時より数割増しの迫力がよろしくニキした模様。加減しろバカ。
こづか「唐突に現れて現場をしっちゃかめっちゃかにした挙句クサい長文ポエム垂れ流すとか、鮫先生公認とはいえやっていいことと悪いことがあると思うっス。忌憚のない意見ってやつっス」
鍔姫「ククク……ひどい言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど」
◇この女の目的は……!?
【星野アイ】
全く描写がなかったが、裏では念動力によるサポートを頑張っていた。鍔姫の初登場シーンで一般兵士役のモブを安全にぶっ飛ばしたのはアイの念動力によるものだし、鍔姫の盟刀が宙に浮いていたのはシオンの背中に引っ付いたアイが鞘を持ってあげていたから。役者の動きに合わせてタイミング良く念動力使うのも大変なんやで。もうちっとリスペクトしてくれや。
【五反田泰志】
戦友……理由なき強さほど、危ういものはないぞ……!
うぉ……それは流石に強すぎ……
会場を襲った特に理由のないオーラの暴力にドン引きする。けっこう呑気してた五反田も、アイの再来を思わせる可憐な容姿と星の瞳からお出しされる屍山血河の威風にはビビった。
【斎藤壱護】
ルビーとミヤコは何気に初めて目にするシオンの本気(当社比)のオーラを前にして血の気を引かせたが、壱護にとってこれは初めての経験ではない。
本人的にはちょっと脅す程度のつもりで放たれた、廃病院に拉致られた壱護に向けられたシオンの威圧。今まさに会場全域を覆い尽くすそれを、壱護だけは一身に浴びた経験を有するのである。
……こんなものをたった一人の人間に向けて浴びせるとか、人の心とかないんか? そこになければないですかそうですか。
【金田一敏郎】
「強すぎ」じゃないよ、それは
それはまだ強くない
お前への心ない「強すぎ」はすべて俺が受け止めてやるから
もっと本気で、強くオーラを出してみろ
最初に俺に見せたのと比べてみろ、まだまだ大丈夫だ
お前の強さへの挑戦は、まだはじまったばかりだ
うぉ……それは流石に強すぎ……
【黒川あかね】
【速報】あかね、遂にシオンのクソデカオーラを受け流す術に開眼する【さよなら人間】
「ただの人間にあれを受け止めることはできない……」
せやな。
「ただの人間じゃない、戦闘者である鞘姫なら受け止められないまでも受け流すぐらいはできるはず!」
そうかもしれん。
「なら身も心も鞘姫になりきれば良いじゃん!」
は?
「できた!!」
そうはならんやろ。
【星野アクア】
アクア「えぇ……あかねの奴シオンのオーラを受け流しやがった……しかも何か他のララライのメンツも同じことし始めてる……あいつら頭おかしい……」
疫病神ちゃん「なんだろう、
メルト「やめてください! それ以前の問題で泣いてる人だっているんですよ!」
【みたのりお】
セリフあるだけで面白いのズルい。しかもドラマ二本掛け持ちとかいう強者感も兼ね備えている。すき。
というか舞台東京ブレイド(現実)の公式サイト見たら、渋谷クラスタの登場人物紹介欄に刀鬼・鞘姫・匁と並んで百目がエントリーしてるの普通に笑う。一人だけ存在感が違うんだよ。
【姫川大輝】
ブレイド「仲間外れは良くないなぁ。俺も入れてくれないと」
姫川「嘘ですそっちで勝手にやっててくだしあ」
ブレイド「俺の名はブレイド! この国の王になる男だ!」
姫川「なんとかなれーッ」
ブレイド「良いのかい? 時間はこちらに味方するばかりだと思うが」
姫川「はやくどっかいってくださいなんでもしますから」
……以上、ブレイドの仮面の下で割といっぱいいっぱいだった大輝お兄ちゃんの心の声でした。勘違い系主人公かな?