傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

33 / 46
お待たせ、待った?(震え声)

二ヶ月もお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。恥ずかしながら戻って参りましたよ、ええ。受験も無事終わりました。

いやホントにお恥ずかしい。東京ブレイドのIf脚本を書くのは結構ですが、書くなら書くで程々の文量で早々に終わらせるべきだったのに、自分の筆が遅いことを忘れて好き勝手話を広げていった結果、開幕から半年も経ってしまいました。時間かかりすぎィ!
読者が求めているのはあくまで推しの子の二次創作であって東京ブレイドの二次創作ではない……そのことを忘れて一人で盛り上がった結果がコレです。本当に申し訳ない(メタルマン)
挙句の果てにこれ以上話数を増やしたくないからと一話に詰め込んだ結果、文字数がけったいなことになりました。くどい、長い、読みにくいという三重苦に仕上がっております。何だこれはたまげたなぁ……

というわけでようやく東京ブレイド編閉幕です。色々言いましたが、それでもよろしければ見ていってください。

あと受験が終わりましたので、いよいよ満を持して推しの子最終巻を読了しました。
その感想……感想? を後書きでぶち撒けます。人によっては不快に感じる方もおられるかもしれませんので、各自の判断で読み飛ばしてください。



33.閉幕:火を継ぐ者達

 ──鍔姫(つばき)が立ち上がる。

 

 それはあまりに異様な光景だった。命尽き、完全に力を失ったはずの彼女は、まるで糸で吊るされた人形のような挙動で立ち上がったのだ。

 

「つ、鍔姫……?」

 

 かつての師にして比類なき英雄の死に涙を流していた刀鬼(とうき)は、(しかばね)となったはずの鍔姫が急に動き出したことに困惑を隠せなかった。

 足元は覚束ず、手に力はなくだらりと垂れ下がっている。瞼は閉じられたまま、まるで眠っているだけのようにも見える穏やかな……死に顔だ。

 

 なのに動いている。

 明らかに普通ではない。異変を察知した刀鬼が立ち上がる。次の瞬間、舞台の端から高速で飛来するものがあった。

 

 白銀に煌めく巨大な刀身。原初の盟刀“神喰(かみは)み”である。

 キザミによって鍔姫の手から舞台の端まで弾き飛ばされ、これまでずっと誰からも意識されず地面に転がっていた大刀。それが今、独りでに動き鍔姫の元に向かって宙を飛んでいた。

 

 死者が動き出す。だらりと垂れ下がっていた鍔姫の右腕が稲妻のように閃き、凄まじい速度で飛来する“神喰み”を掴み取った。

 瞬間、迸る雷光。鍔姫の全身を激しい稲光が這い回り、舞台の上を青白く染め上げる。

 

「ふ……フハハハハハハ────!!」

 

 もはや物言わぬ死者の口から迸る哄笑。だが、その声には死人ではあり得ぬほどの生命力と……まるでこの場の空気そのものを圧壊せんばかりの覇気が込められていた。

 

「ようやくだ……ようやく目覚めることができた。礼を言うぞ、小僧。()()()()()()()()()()()()

 

 鍔姫の口から紡がれる、明らかに鍔姫のものでない言葉。口調も違えば声色も違う。

 何より表情が違った。憎悪に染まり戦場の粉塵に塗れながらも、どこか侵し難い神聖さと気高さを纏っていた鍔姫。しかし今の彼女の表情に浮かぶのは、どこまでも純粋で底の見えない悪意だけだった。

 

 舞台照明が駆動し、複数の光条が鍔姫の身を照らす。

 舞台奥のスクリーンに映し出されたその影は、巨大な百足(むかで)の形をしていた。シャドーライティングと呼ばれる演出技法である。ありきたりと言えばありきたりな舞台演出は、しかしそれを演じるシオンから放たれる存在感により圧倒的な迫力を醸していた。

 

 

 鍔姫を起点に空間に満ち満ちる神代の息吹。人智及ばぬ絶海の神秘。

 それは古き神話に謳われる原初の怪物。神をも喰らう大魔虫。

 

 

「恐怖せよ。絶望せよ。我こそは“三上山の大百足”──神なる龍をも捕食せし大化生。日ノ本最強の神秘である」

 

 

 名乗りと同時、悍ましいまでに重厚な存在感と共に光が溢れる。一瞬で膨れ上がり、そして一瞬で収縮したその光は舞台照明の一切を塗り潰した。

 その光の正体はシオンやアイが生命力やオーラと呼ぶ魂の力……ではない。これはその余波に過ぎない。あらゆる物理法則に属さぬ埒外、無色透明の純粋無垢な“力”。太陽嵐の如き勢いで噴出したそれは総体からすればごく僅かなものでしかないが、しかし。

 

 不可視の力の渦動が大気を揺らし、それに巻き込まれた空気が急速に分解される。足元から紫色のプラズマが吹き上がり、腰を抜け背中より発し翼のように拡散した。

 加速する身体機能は生体電流を増幅させ、通常の数千倍にも達した電流は雷と化し青白い光を放つ。まるで雷霆の化身のようにして、その身に幾条もの稲妻を迸らせ身に纏う。

 

「畏れよ、畏れよ、畏れよ、畏れよ──脆弱なる人の仔らよ、屍の山に沈むがよい」

 

 それは山を呑み大地を蝕む、這う虫の災い。

 神すら餌とし、その血肉で喉の渇きを潤す、恐るべき神喰い虫。

 

 三上山の大百足──それは神話に謳われし怪物退治の伝説、その敵役。古英雄の放った一矢により頭蓋を砕かれ退治された神喰らいの大化生。他ならぬ盟刀“神喰み”こそは、この大百足を射貫いた弓矢の(やじり)を素材に鍛造された封印の要であった。

 

 そんな神代の怪物が、蘇った。

 数千年の時を経て、死せる英雄の遺骸を依代として。

 

 真なる絶望が、悪意の嘲笑と共に鎌首を(もた)げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やった! やり切った! アクアやり切った!

 何度か危うい場面はあったけど……何とか鍔姫を倒すところまでやり切ったよ!

 

『勝った! 勝った! 夕飯はドン勝だ! さっすがアクア! ママはアクアが最後までやり切るって信じてたよ!』

 

 アクアの背中に張り付いていたアイが大はしゃぎで乱回転しながら戻ってくる。

 アイとしてもひと安心といったところだろう。ずっとハラハラと不安そうな眼差しでアクアを見守っていたが、彼はちゃんとやり遂げたのだ。心的外傷後ストレス障害(PTSD)というものはそう容易く解消されるものではなく、本来なら専門の医師の下で長い時間をかけて治していくものだが……完全ではないにしろ、アクアは己の意志一つでそれを乗り越えた。凄まじい意志力、いや執念という他ない。

 

『これで最大の山場は越えたって感じかな?』

 

 そうだね。後はもう消化試合と言って良いだろう。

 何せここからの場面で舞台の中心となるのは「東京ブレイド」のタイトルロール……姫川さん演じるブレイドだ。アクアを侮るわけではないが、やはり劇団ララライの看板役者たる彼の実力、安定感は突出している。後はもう彼の演技に身を委ねるだけで十分だろう。

 

 とはいえ、勿論手を抜くつもりは全くない。姫川さんからも手抜かりなく本気でやるように言われているし、むしろ彼の胸を借りるつもりで全力で行く心算である。

 

 アイの念動力ですっ飛んできた模造刀をキャッチしつつ立ち上がる。アイはふわりと飛翔し、背後から僕の首に腕を回しいつもの定位置に収まった。

 

 ここからの僕は鍔姫ではなく、彼女の死体に取り憑いた「三上山の大百足」を演じることになる。

 

 設定としてはこうだ。盟刀“神喰み”は大百足を射抜いた英雄の鏃であると同時に、死してなお消滅しなかった大妖怪の怨念を封じる(くびき)でもあった。しかし長い年月と共に封印は弱まり、鍔姫の死を切っ掛けとしてそれは遂に解き放たれる。

 鍔姫の肉体を依代として現代に蘇った大百足の力は凄まじかった。鍔姫との戦いで心身共に疲弊した刀鬼はこれに抗う力を残しておらず、主力を欠いた渋谷クラスタは窮地に陥る。

 

 しかし絶体絶命かに思われたその時、一人の男が立ち上がる。手にする刃に暴風を纏わせ、気炎万丈の意気と共に敵の姿を睨むその男──名をブレイド。新宿クラスタの首領であり、この場において唯一の人間種でありながら純粋な実力で刀鬼に伍する有数の強者だ。

 

 かくして最終決戦の火蓋は切られ、東京と人類の命運は一人の剣客の双肩に委ねられた……というのがこのシーンのあらましである。

 

 ところで、実はここからの大百足VSブレイドの決戦シーンは他と比較して少し短めの場面となる。アビ子先生の意向で鞘姫や刀鬼のハイライトに多めに尺が割かれているため、その影響で最終決戦の尺がかなり削られてしまっているのだ。

 しかし、これはアビ子先生とGOA(ゴア)さんから姫川さんへの信頼の裏返しでもあった。彼ならば短い尺でも十分に観客を魅了する演技を見せてくれるだろう、という。

 

 事実として姫川さんはこの短い尺というハンデを気にも留めていないようだったし、周りもその態度を当然のものとして認識しているようだった。

 しかし姫川さんは大丈夫でも、相手役となる僕が下手な演技をしようものなら何の意味もない。彼が僕に本気を出すよう促したのは要するにそういうことだろう。その期待を裏切るわけにはいかないし、最後の最後で下手を打ってこれまでのアクアの頑張りを無駄にするわけにもいかない。

 

 だから、本気だ。もちろん本当に本気を出せば大惨事は免れないので、現実的に許される範囲でという条件にはなるが、出せる限りの本気のパワーで舞台に臨もうと思う。

 

『いけーっ! 私のシオン! 本気の力を見せてやれーっ』

 

 アイの声援を受け、全身にグッと力を込める。

 すると体表面の空気が瞬時にプラズマ化し、バリバリと紫電が走った。

 

『……ゑ?』

 

 駄目押しに体内を流れる生体電流を加速させ、全身から電光を放つ。バチバチと激しく音を立てながら青白い電気が体表を這い回った。

 

『ワッザ!?』

 

 雷即ち神鳴り……神様すら容赦なく捕食対象とする大妖怪、三上山の大百足は神を喰らったことで雷の力を操ることができるようになったという。

 雷とは神にのみ許された力。だからこそ様々な特殊能力を持つ盟刀の中にも雷の力を持つものはないらしい。アビ子先生がそう言っていたのだから間違いない。そういう設定があるからこそ雷を操る大百足の強大さが際立つわけだ。

 

 ならば僕の力で本物の雷の迫力を再現してやれば、短い尺の中でも十分に大百足の脅威を演出できる。それが姫川さんに演技力で大きく劣る僕が導き出した“本気”である。

 

『えぇ……その、それ……なにその……なに?』

 

 何って……体表近くの空気を気合いで急速分解して窒素プラズマを発生させて、ついでに生体電流を強くして体外に放出しただけだけど?

 

『何の何の何!? そんな当たり前みたいな顔してやっていいことじゃないからねそれ!?』

 

 そう驚くことでもない。人間の身体には誰でも常に微弱な電流が流れている。新陳代謝や神経伝達に関わる生来の身体機能だ。

 僕はそれをちょっと意識的に強めただけである。

 

『“ちょっと”でできることじゃないんだよなぁ……デンキウナギかな?』

 

 まあ確かにこれが誰にでもできることだとは思ってはいないが……しかしアイは僕が普通の人間とはあらゆる面で違うことなど重々承知のはず。何を今更驚くことがあるのか。

 

 よく考えてみてほしい。ウナギにできることが僕にできないわけがないだろう?

 

『いや、そのりくつはおかしい』

 

 ともかくこれでラスボスに相応しい威厳は再現できたことだろう。背後のモニターにはおどろおどろしいBGMと共に雷のエフェクトが映し出されているが、僕の身体から発している本物の電気の方が迫力は勝っているはずだ。

 

「脆弱なる人の仔らよ、屍の山に沈むがよい!」

 

 僕はそんな台詞と同時に駆け出した。

 初速から最高速度。しかし常のように空気抵抗を掻い潜ることはしない。敢えて自ら空気の壁にぶつかっていき、爆ぜるような衝撃音を放ちながら音速の壁を超える。身体の所々に断熱圧縮が生じ、体表が熱を帯びて赤熱した。

 

 絶えず向けられていた同じ舞台の役者達の視線が僕から外れる。いや、僕が自ら外れたのだ。誰も僕の速度に視線が追いついていない。僕が動いたことを認識できていない。

 

 しかし焦ることはない。こうなることは稽古段階から分かっていたため、対策は既に講じてある。僕はすれ違いざまに役者達の肩を軽く叩いていく。力加減は完璧。これは合図だ。「これからアクションを起こすから身構えておいてね」という事前の取り決めである。普通の人間の目ではどうあっても捉えられない速度の中で、一人一人の肩をポンポンと叩いていく。言葉にすると何とも珍妙な絵面だが、肩を叩かれる役者達は元より、観客の目にもこの動作は映らないので問題ない。

 そして実際にアクションを起こすのはアイの役割である。他者に干渉するのに物理的な接触を要する僕がやるより、アイの念動力を用いた方が安全で、何より様々に応用が利くからだ。

 

 僕はぐるりと舞台の上を一周するように駆け回ると、最後に舞台の中心に着地しひと際強く放電する。それと同時にアイが念動力を解き放ち、合図を受けて身構えているであろう役者達を四方八方に吹き飛ばした。

 

『ヤーッ!』

 

 アイが気合いと共に両腕を振り上げる。不可視の力場が舞台上を覆い尽くし、一帯をその力の影響下に置く。今にも床に全身を叩きつけられようとしていた役者達は、まるで透明な巨人の手の平に受け止められたかのように、その勢いとは裏腹に一切の痛痒なく床に軟着陸した。

 

「畏れよ、人間。そして平伏すがいい。我こそは人界に終焉を齎すもの──貴様らの恐怖である」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは窮極の理不尽だった。

 それは常識の蹂躙者だった。

 空前絶後の幻想で現実を塗り潰す。この世のものでない宇宙法則を以て物理法則を侵蝕する。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 シオンには一切の自覚はないが、彼は三次元(上位)世界から二次元(下位)世界への来訪者である。それ故に彼はある絶対的な権利を生まれ持っていた。

 

 それは事象の再構築。彼独自の法度で以て物理法則すら塗り替える、世界そのものへ己の思い描くルールを強制する絶対権利。

 

 即ち、究極の現実改変能力。

 

 水は下から上に流れるのだと言えば海の水は川を遡って登山を始めるし、そろそろおやつの時間じゃない? と思えば今が午前十時だろうが正午だろうが午後三時になるし、カラスは白だと言えばとある少女の悲鳴を置き去りに世界全てのカラスの羽毛は真っ白に染まるし、地動説なんてダッセーよな! やっぱり今のトレンドは天動説! と唱えれば次の瞬間には地球は無言で真っ平らになって太陽と立ち位置を交代する。

 

 まるで紙の上の絵に落書きするように、戯れに文章を書き換えるように、シオンは好きなように世界を再構築することができる。その気になれば世界()歴史(ページ)を破り捨てるように過去の事象を丸々なかったことにしたり、未来の時間を消し飛ばしたりすることも可能としてしまう。

 

 そうならないのは、シオンはあくまでこの世界の人間と同じ思考次元の上に生きているから。要するに己の力に無自覚であるというだけの話だった。自覚してしまった瞬間、彼は神にも等しい存在となる。己の意思一つで既存の世界法則をも玩弄する、窮極の破壊神に。

 

 しかしそうなることは幸いにして未来永劫に起こり得ない。

 何故なら彼の傍らには(くさび)が存在しているからだ。シオンという上位者を人間の視座に繋ぎ止めた楔たる彼女がいる限り、彼はあくまで異端であるだけの人間として存在することができる。その異常性も引っ括めて彼の全てを愛し無条件の好意を向ける彼女の存在があるからこそ、シオンは世界の異端者たる己を一個の人間として肯定することができるのだ。

 

 とはいえ、それでシオンがその能力を使えなくなるわけではない。というより、既に無意識下で使っている、が正しい。

 そうでもなければ、流石にこうもドッカンドッカン大暴れしていて舞台や周囲の人間に一切の被害がないというのはあり得ない。本人は自分の力のコントロールが完璧だからだと思い込んでいるが──事実として力の規模からすれば神憑り的なコントロール能力なのは間違いないが──実際は無意識に行使している現実改変能力によって破壊力を抑えている、というのが事の真相だった。

 

 自分の力への無理解が故に大規模な事象改変は行われない。しかし小規模な改変ならばそれこそ望むだけで引き起こせる。相手や周囲の環境を壊したくないと思えば、たとえ山河を砕くような剛力で手足を振り回そうが周囲には一切の影響を及ぼさない。

 分かりやすく言うならば因果性の操作といったところか。人外の暴力の行使という原因に対し、当然伴うべき破壊という結果を好きに操作してしまえるのである。

 

 原因と結果を意思一つで切り離し、望む結果だけを世界に出力させる。だから当然生じるべき破壊が伴わず、シオンが思い描いた通りの演出だけが舞台上に現れるのだ。

 

 しかし繰り返しになるが、これら神の如き御業は全てシオンの無意識下にて行われている。当然彼自身にそんな離れ業を行っているという自覚はなく、

 

(あれ? このぐらい力込めても大丈夫なんだ)

 

 案外世の中って頑丈にできてるんだなぁ、などと。とある少女がその内心を知れば「そんなわけあるかっ……! 馬鹿っ……!」と叫ぶだろうことを呑気に考えつつ、シオンは段階的に出力を上げていく。

 最初は慎重だったものが、徐々に、だが確実に大胆になっていく。何せ本当に全く何の影響もないのだ。これまで無用な破壊を起こさないよう針の穴に糸を通すような繊細な力加減を行っていたのは何だったのかと思うほど、拍子抜けなほどに何の被害も起こらない。

 

 板張りの床なんぞ容易く粉砕するだろう脚力で踏み込む。発破を起こしたような爆音と共に盛大に床板が(たわ)み、なのに舞台は無傷のまま。

 音速なんてとっくに超過している。大気摩擦で体表面はプラズマを帯びながら真っ赤に赤熱し、しかし周囲に伝播する熱も衝撃も許容範囲内の最小限。

 

 明らかに因果が釣り合っていない。物理法則が歪んでいる。なのに現象として成立している。

 

 かくして本物の超常現象が舞台を席捲する。幻想的という次元を超越し、暴力的に過ぎる()()()()()()が雷鳴と共に現実を塗り潰していく。

 何が起きているのかは分からない。もはや常人の動体視力では影すら拝めぬ速度領域。しかし、結果だけは何よりも雄弁に戦いの結末を観客に知らしめる。

 

 それは蹂躙だった。

 無味乾燥なまでに容赦のない、圧倒的な蹂躙だった。

 

 苛烈でありながら絢爛なまでに華やかだったつるぎの剣も。(いわお)の如き堅牢にして峻厳たる意志の輝きを見せたキザミの剣も。悲愴の決意と己が身を削る献身で以て将器を示した鞘姫の剣も。血を吐くような壮絶な覚悟を放ち、嘆きと共に振るわれた刀鬼の剣も。

 

 その全てを、大百足の怪異は雑草を踏み潰すようにして蹂躙した。

 まるで嵐に巻かれる木の葉のようですらあった。技も駆け引きも存在せず、何事かを成し遂げんとする意志の煌めきもない。そこに人の矜持も尊厳も介在する余地はなかった。

 

 ただ、恐るべき雷霆の化身が全てを轢き潰していった。

 それだけだった。ただそれだけで、新宿と渋谷の総力を結集した連合軍は儚く瓦解した。

 

「ふむ……やはり盟刀使いといえどこんなものか。何と脆弱なものよ」

 

 美しい少女の肉体を依代に蘇った怪異が悪辣に嗤う。

 

 ただの一合とて抵抗できた者はいなかった。何やら百目(ひゃくめ)が「我が盟刀“稲羽之素菟(いなばのしろうさぎ)”は未来予知の神通力を持ち主に与える“予言の剣”! アナタの動きは既に見切っていますよ!」などと叫んでいたが普通に吹っ飛ばされていた。

 居並ぶ諸将は触れただけで抵抗らしい抵抗もできず倒れ伏し、一兵卒に至ってはその余波だけで壊滅した。傷を移せる味方がいなくなったことで鞘姫の不死身は失われ、刀鬼もまた鍔姫との戦いでの消耗が大きく満足にその力を振るうことができず膝をついた。

 

 つるぎ(有馬)鞘姫(あかね)は白目を剥いて倒れ伏している。無理もなかった。己のトラウマと恋人が突然放電しながら亜光速で舞台を駆け巡り始めたら白目も剥きたくなる。

 アクアも演技でなく本気で肩で息をしながら何とか意識を保っているような有様だった。つい先程まで結構悲壮感たっぷりな心境でいたはずだが、正直言ってそれどころではない。真剣に命の危険を感じる出来事を前にして、アクアは生存本能によるものか激しく目を血走らせながら目の前の下手人(バカ)を見据えていた。

 

 加減しろ馬鹿。

 この時、共演者達の内心は寸分の狂いなく一致した。

 

 本人に悪気はないのは分かる。シオンなりにこの舞台を漫画やアニメにも劣らぬ迫力あるものにしようと一生懸命なのはよく伝わってくる。

 しかし舞台を良くするためなら何をしても良いというわけではない。誰がここまでやれと言った。人間が生身で光の速さを出したらだめだろ。超能力者云々以前に生物としてどうかと思わないの?

 

 アクアはアドレナリンの過分泌で充血した目でシオンを見る。鍔姫を演じていた時とはまた違う、美しくも酷薄な悪意の表情だ。しかし目は口ほどに物を言う。その瞳を見れば彼の内心は瞭然だった。

 星の瞬きのような瞳には一点の曇りもなかった。一点の曇りなく、シオンは純粋に演技を楽しんでいる。役柄とは正反対に、そこに一切の邪念はなかった。

 

 シオンには自分だけが目立ってやろう、などという利己的な考えなど存在しない。あれはただ純粋に良い演技をしようと努力した結果に過ぎないのだ。その結果としてプラズマを放出しながら亜光速で動き回るのはマジで意味不明だが。

 

「他愛もない……やはり英雄なき世とは脆いものよ」

 

 嘲るように告げるその声音には隠しようのない喜色が滲む。封印より解き放たれた怪物は、その鋭敏な知覚で英雄の不在を知った。少なくとも、ただの一矢にて神喰らいの大化生を討ち滅ぼすような化け物(えいゆう)は確実に存在しない。

 そうであるならば、もはやこの怪物の蹂躙の歩みは止まらない。東京とそこに住まう全ての生命は為す術なく滅ぼされるだろう。

 

 ──この場に、その男がいなければ。

 

「どうした、もう終わりか? 貴様らが戦う意志を見せぬならば、我はこの地を破壊し尽くすだけだ……」

「待ちな」

 

 傲岸な眼差しで辺りを睥睨していた怪物はピタリと動きを止める。スッと目を細め、ゆっくりとした動作で声の主を振り返った。

 不遜にも己の言葉を遮った不調法者の姿を、空前絶後の怪物はその目で認識した。刀の峰で己の肩を叩く、飄々とした佇まい。赤の着流しに燃えるような赤髪が目に鮮やかなその男。

 

「ほう……我が疾走を前に死なぬばかりか、かように不遜な物言いをする余力を残す者がいたとは。よかろう、人間。名乗るがいい」

「俺の名はブレイド。盟刀“風丸”の主にして新宿クラスタの盟主……そして、いずれはこの国の王となる男だ」

 

 その姿は不思議と目を引いた。シオン演じる大百足の怪異から闇のように滲み出る圧力が濃さを増し全てが暗闇に沈もうとする中にあって、ただその姿だけが光っているようにも見えていた。

 ララライの看板を負って立つ、世代に冠たる天才役者……その肩書きは伊達ではない。姫川大輝は、その立ち姿だけでシオンに伍する存在感を放ってみせた。

 

 見る者を圧倒し魂を焼くかのような迫力を宿す両者が相対する。

 一触即発……と言うには両者の間に(わだかま)る空気は妙に緊張を欠いていた。それはブレイドの態度に起因する。波涛のように押し寄せる怪物の殺意を前にして、ブレイドはまるでそれに取り合っていなかった。常の調子で飄々として掴みどころがなく、迫り来る死の気配を目前として堪えた様子もない。

 

 何故なら彼はブレイドだからだ。理由などただそれに尽きる。普段の昼行灯ぶりとは裏腹に、その精神は常在戦場を常とし強敵との闘争に価値を見出す生粋の剣士にして剣鬼である。

 往々にして死地とは人の本質を露わにするものだが、ならば彼こそは死地の雄と言えるだろう。追い込まれるほどに、危険であるほどに、耐え難きを耐えて決して惰弱に堕ちない闘魂を秘めている。普段はそれをおくびにも出さないところを含めて、それが彼らしさ、ブレイドという男の本質だった。

 

 結局のところ、戦場における栄光とは命を賭け金にした先にしか存在しないのだ。誰であれそこに勝利を夢見る。程度の差こそあれ変わるものではない。

 であれば、常在戦場を生きるブレイドがこの期に及んで怖気付くわけもない。むしろ楽しんですらいた。彼にとって戦場を駆けること、死を隣人とすることはもはや人生そのものである。戦場とは死の生産だ。人を掴み、人を斬り、人を刺し、人を叩いた。たくさんをだ。それらの一つ一つが己の命を震わせて、魂に蓄積していくようにブレイドには感じられた。そこに幸福感と充足感とを味わっているのだから、堪らない。堪らないほどに楽しい。

 

 ブレイドとて恐怖を知らぬわけではない。彼もまた死を恐れる生き物だ。彼にとっては死の恐怖すら楽しむものに過ぎないという、ただそれだけのことだった。

 しかし、大百足にとってその態度はどこまでも不遜に映った。人間にとっては絶対の死そのものである己を前にして、なおも失われぬその余裕の態度が鼻につく。

 

「人間風情が、不遜であろう。その余裕がいつまで保つか……試してくれるッ!」

 

 絶望が大放電と共に動き出し、雷鳴そのものの轟音を放ちながらその場から飛び出す。

 

 雷光の速度で疾駆する大百足。瞬きの間より速く接敵し、大刀を大きく振り上げて斬り掛かる。

 当然ながらその動きは観客の目には映らない。もはや常人の動体視力で捉えられる領域にないからだ。残留するプラズマが空間に光の線を残し、それを以てようやく観客はシオンが駆けた軌跡を認識する。

 

 それほどの速度。如何に姫川が天才役者であれ、肉体的には一般人の域を出ないのだからこれに反応できるわけがない。事前の打ち合わせがあろうが何だろうが、もはや常人が合わせられるようなものでないのは自明だった。

 

 しかし、天才は常識を覆す。天災そのものの威力を発揮する埒外の演技に対し、姫川は己の全能を以てこれに追従する。

 

 鋼の打ち合う音が響き渡る。ハッと我に返った観客が目にしたのは、鍔迫り合いの体勢で静止する二人の姿だった。

 

「なにっ」

「しゃあっ!」

 

 裂帛と共に刀を押し返すブレイド。半ば呆然としていた大百足はその力に抗うことなく刀を引き、プラズマの残光を引いて大きく後退する。

 

 その困惑は当然のものだった。雷雨の化身たる龍神を喰らったことで雷霆の力を宿した大百足は雷の速度で動くことができる。速度にして秒速三十万キロという途方もないスピードだ。光と違い空気抵抗を受けるため実際にはもう少し落ちるだろうが、それでも亜光速の速度は人間が反応できる領域を逸脱して余りある。

 にもかかわらずブレイドはそれに反応したばかりか、それほどの速度で迫り来る斬撃を受け止め押し返したのだ。

 

「……国盗りの宿業に踊らされる愚者風情が……地に伏せよ!」

 

 内心でそれを(まぐ)れだと結論付けた大百足は、今度こそその首を落とさんと刃を走らせる。

 稲光と共に雷霆が迸り、再びプラズマの残光が舞台を駆け巡る。その斬撃は目にも留まらない。蒼白に輝く雷霆が光の尾を引きながら螺旋を描くように上昇し、さながら断頭の刃の如くしてブレイド目掛け天墜する。

 

「ヒェッ…」

 

 思わず漏れ出た某教唆犯のか細い悲鳴は激しい雷鳴とけたたましい金属音によって掻き消される。目を焼く雷光と巻き上がる豪風に反射的に目を閉じた観客が再び目を開くと、そこには思いもよらぬ光景が広がっていた。

 

 盟刀“神喰み”の刃はブレイドを斬り裂くことなく、強かに大地を打ち付けていた。対するブレイドは刀の間合いから半歩踏み込んだ位置に立ち、盟刀“風丸”の刃を大百足の首筋に添えている。

 

「なっ……」

「やっぱりな……お前、刀振るの下手だなぁ」

 

 ブレイドの言葉に誰もが耳を疑った。先般の戦いにおいて卓越した剣技を披露した彼女に対し刀を振るのが下手とはどういう了見なのか。

 

 しかし考えてみれば当然の話で、彼女は今や大百足であって鍔姫ではない。

 鍛錬によって培われた技術というものは、肉体を乗っ取ったからといってそう簡単に自在に扱えるものではない。肉体の操縦者が大百足である以上、発揮される技術は大百足のものに準拠する。そして本来は異形の怪異である大百足に剣の術理が備わっているわけもなく、結果として鍔姫が有する剣技は欠片も発揮されていなかった。

 

 素手で盟刀使いをも圧倒する天賦の肉体に、更に卓抜した技量が備わっていたからこそ鍔姫は脅威だったのだ。技というものは本来弱者が強者に対抗するために磨かれるもの。それを生粋の強者が振るうという理不尽。まさに鬼に金棒とでも言うべき有様に、肉体的にはただの人間でしかないブレイドは震えたものだった。

 

 しかし今眼前に立つこの敵に技術はない。鍔姫の肉体由来の剛力と、大百足由来の雷霆の力、それによるスペックのゴリ押し戦法。それはそれで十分以上に脅威であるわけだが、しかしまだ対処できる部類の脅威だった。少なくともブレイドにとっては。

 

 何故なら人間であるが故に根本的に鬼族に肉体性能で劣るブレイドは、技を以て力を制することをこそ得手とする。とはいえ東京にて覇を競う名のある鬼共は皆等しく盟()使いであり、力一辺倒の与し易い敵などただの一人もいなかったのだが……今ブレイドの目の前にいるのは、一切の技も駆け引きも有さぬ、本当の意味で力一辺倒の敵だった。

 

 当然である。何故ならあれは化け物だからだ。技だの駆け引きだの剣の術理だのといった人間の培った技術を無慈悲に轢き潰す暴の化身。その身一つで山を呑み神をも喰らった生ける災害である──かつての伝説の中では、という但し書きが付くが。

 

 伝説において、大百足は三上山を七巻き半するほどの巨体を誇ったという。身動ぎだけで天変地異を引き起こすと謳われただけあり、その大きさはまさに規格外。そんな大質量が雷の速度で動き回ったというのだから、なるほど神すら恐れる大化生の名に偽りはないのだろう。

 だがそれも今は昔。比類なき英雄の手によってただ一矢の下に頭蓋を砕かれ滅ぼされ、神喰らいの大魔虫は今や封印の刀にこびりつく怨念でしかない。弱き者と見下して憚らぬ人の子の肉体に取り憑かねば動くことすら儘ならぬまでに落ちぶれたかつての伝説。人の身でありながら剣の腕一本で鬼を下し、新宿の頂点に立ったブレイドにとって、それは相対的に有利な相手だった。

 

「……馬鹿な。あり得ん」

 

 怒りによるものか、あるいはそれ以外の感情によるものか。危うい戦慄(わなな)きと共に吐き出された大百足の呟きは、この場の全員の総意だった。

 

 そう、あり得ない。確かにブレイドは技によって力を受け流す術に長けるのだろうが、それにしたって限度というものがある。

 受け流すこと自体は、可能か不可能かを論じるなら可能なのかもしれない。しかしそれ以前の問題として、人間では雷の速度に神経が追いつかないはずなのだ。雷速とは即ち光の速度に等しい。雷の速度で迫り来る人間大の質量を受け流すなど、もはや人間業ではない。

 

 だが現実にブレイドはそれを為した。そこには想像を絶する技の冴えと、明確な絡繰が存在する。

 

「俺の盟刀の力は文字通り風。その刃は風を纏い、雷を宿す。お前は雷の速さで動けるのが自慢のようだが、残念ながら速いだけじゃ俺と“風丸”から逃れることはできないぜ」

 

 そう、盟刀“風丸”は風の力と雷の敏捷を持ち主に与える。これは持ち主に無類の身軽さと瞬発力を齎すつるぎの盟刀“磐裂(いわさく)”の明確な上位互換であり、かつて彼女がブレイドを襲撃したのもこの刀の力を求めてのことだった。

 

「技ってのは手前(テメエ)の剣を相手に(とお)す術だ。だから剣の術理を知る盟刀使いの剣を受け流すのは骨が折れるわけだが……お前の剣に技はない。虫が刀の扱いを知るわけないからな。刀に取り憑いた怨念であるお前は、そうやって誰かに持ってもらわなければ動くこともできないからやむを得ず刀で戦ってるだけなんだろ? そんな奴の振る剣なんざ怖くもねぇ」

 

 盟刀“風丸”の担い手たるブレイドは大百足の操る雷霆の力に対抗できる唯一の存在。それが通用しないとなれば、後に残るのは技の伴わぬ力だけ。そしてその力ですら鍔姫の肉体に依存している。

 

 そう。雷速を物ともしないブレイドにとって、今の状態の大百足は──鍔姫の下位互換でしかないのだ。

 

「馬鹿な……風と、雷の力だと……? あり得ん、そんなことは……!」

 

 あり得ない──そう繰り返し叫ぶ大百足の動揺の程は尋常ではなかった。

 原作を良く知る読者であれば大百足の動揺に理解を示すだろう。何故なら雷とは神に由来する力。太古の秘術から生じた盟刀といえど、それが人の手によって生み出されたものである以上、神の権能たる雷の力を再現できるはずがないからだ。

 

 何より、“神喰み”の封印の内より盟刀の血塗られた戦いの歴史を数千年に渡り眺めてきた大百足は知っていた。二十一あるという盟刀の名と、それぞれが司る能力について。

 何せ“神喰み”とは最初に鍛造された原初の盟刀、二十一本の一本目だ。全てはこの刀から始まった。こと盟刀に関しては、大百足はまさに生き字引に等しい。

 

 その上で大百足は断言する。断じて──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かに“風丸”なる盟刀は存在する。それを振るい風の刃を以て戦う盟刀使いの姿も幾度となく目にしてきた。だがいずれの使い手も、大百足からすれば微風にも等しい風を操る程度の取るに足らない雑兵に過ぎなかった。

 

 あるいは過去の使い手は“風丸”の真の力を引き出すことのできぬ雑魚ばかりで、ブレイドの代になってようやく秘められた本当の力を発揮できるようになったのか。

 否、それにしても不可解な点が多すぎる。多くの盟刀使いは嵐に紐付けられるため風と雷を近しい属性のものだと誤解しているのかもしれないが、本来この二つは現象としては何の関連性もない。あくまで風を操り刃と成すだけが能の“風丸”に、雷に関連する力など存在するはずがないのだ。

 

 しかし事実としてブレイドは刀から風と共に紫電を走らせ、雷の速度で斬り掛かった大百足の斬撃に反応してみせた。この現象にどう説明をつけるのか。

 

 いや、そもそも──あれは本当に“風丸”なのか?

 己は一体、何を相手に戦っているのだ?

 

 未知なるものを目前とした困惑、動揺……あるいは恐怖。

 その故は“風丸”が普通の盟刀ではない──その正体までは未だ判明していないが──ことを知る原作ファンであれば理解できるだろう。しかし連載最新話辺りの知識を持たないライト層、または単行本派の読者層にとっては、設定だけはやたら大仰なこの化け物が、何をそこまで恐れているのか理解が及ばないかもしれない。

 

 しかし、この場において大百足の内心はさほど重要ではない。

 重要なのは、この化け物がブレイドあるいは“風丸”に何かしら異質なものを感じ、それを警戒しているのだという事実。それさえ観客に理解してもらえれば問題なかった。理由については判然としなくとも、ブレイドという男の“なにか”を大百足は恐れた。

 

 ()()()()()()()()()()。要するに観客に想像の余地を残したのだ。その理由については尺の都合やら今後のメディア展開を見据えた大人の事情やら本誌の方のネタバレを避けるため等々複数あるが……その是非についてはさておき、この場における演出意図はそういうものだった。

 

 それで十分だった。この場面に説得力を持たせる役はブレイドが……姫川大輝が担ってくれる。

 大仰な伝説を背景に衝撃的な登場を果たした埒外の怪物。鳴り物入りで現れたその存在が、己の能力が通用しなかった程度で動揺を露わにする……ともすれば滑稽にも映りかねないその姿はしかし、威風堂々たるブレイドの存在によって印象が覆る。

 

 この怪物が弱いのではない。ただそれ以上にブレイドが凄いのだと。

 それは正しく主人公たる者の風格だった。

 

「一ノ刃──“疾風刃雷”」

 

 盟刀“風丸”が有する基本にして奥義たる技が雷鳴と共に解き放たれる。

 真空の刃を纏い、紫電を放ちながら雷速の剣閃で敵を斬り裂く……そんな設定の技。吹き荒ぶ風の効果音が音響機器から流れ、背後のモニターには閃く稲妻のエフェクトが映し出された。

 

 しかし実際に全身から放電しているシオンと比較して、やはりどうしてもその演出は陳腐に映る。無意識の内にシオンのトンデモ演技に順応しつつあった観客は、それが普通だと頭では理解しつつも、心のどこかで若干の物足りなさを抱いてしまう。

 

 主人公の必殺技なのだから、もっと派手な方が良い。

 それは一瞬だけ脳裏を過ぎった、不満とも言えぬほんの一抹の心模様。

 

 しかしその時、そんな多くの観客と全く同じ思いを抱いた人物がいた。誰あろうシオンである。

 

(うーん、自分だけじゃなくて相手も放電させてあげられたらなぁ)

(放電させてあげられたらな???)

 

 放電させてあげたいとかいう謎のパワーワードにアイは首を傾げる。

 

 そもそも人間は放電できる生き物じゃないんだよ、という事実をどうやって伝えるべきか頭を悩ませるアイ。

 しかし彼女がそれを言葉に表すよりも、上位次元の来訪者の意思を世界が受信する方が早かった。

 

 物理法則が「ハイヨロコンデー!」と自ら捻じ曲がる。

 瞬間、ブレイドが手にする刀から本物の雷電が迸った。

 

「えっ」

『えっ』

 

 姫川とアイの声が重なる。呆気にとられる両者を他所に観客席はやにわにヒートアップする。

 やはり派手なのは良い。彼らはすっかりシオンの演技に毒されていた。

 

 一方、物理法則さんに無体を働いた張本人はと言えば、当然ながら己が仕出かしたことに対する自覚は皆無だった。

 シオンには何もないところから突然電気を生じさせたという自覚はない。何せ彼は「姫川さんの刀からも電気が出たらこのシーン盛り上がるよなぁ」と思っただけである。そう思考しただけで即座に現実に反映させてしまった世界さんサイドにも問題があるかもしれない。

 

 いずれにせよ、シオンは全くの自覚なしに疾風刃雷(ガチ)を再現してしまったわけである。

 そして彼は自分でやったという意識がないだけに、これをアイが己の意を汲んでやってくれたものと勘違いした。

 

(流石はアイだ。キザミの時みたいに対象物を光らせるだけじゃなく、電気を発生させることまでできるなんて)

 

 『チガウ…ワタシヤッテナイ…ワタシソンナコトデキナイヨ…』というアイの蚊の鳴くような声は、シオンの身体と姫川の刀から迸る雷鳴によって掻き消された。

 

「来な。お前の伝説に終止符を刻んでやるよ」

「ほざけ、小僧ォッ!」

 

 咆哮と共に稲妻と化す大百足。瞬間、舞台の上を蒼白の光線が埋め尽くした。

 ジグザグの軌道を描きながら疾走するその姿が空間にプラズマの残光を残し、それが光の線として観客に認識される。地を駆け、壁を這い、空を蹴り、光の線は舞台上の空間を縦横無尽に貫いた。

 

 まるで重力など存在しないかのように滅茶苦茶な軌道を駆けるシオンの意図は時間稼ぎだ。もし真っ直ぐ走って斬り掛かったとすれば、その速度差からシオンは姫川が刀を振るまでの間に千の斬撃を叩き込めてしまう。それでは殺陣として成立しない。かと言って露骨に速度を落とし手加減しようものなら場を白けさせる。そのため、シオンは()()をつけることで姫川が刀を振り抜くまでの時間を稼いだのである。

 そうして生まれた猶予の内に振り抜かれた姫川の刀に向かって、シオンは満を持して飛び掛かり大刀を叩き付けた。これが絶対的な身体能力差を覆し殺陣を成立させるための方法。受け手が攻め手に合わせるのではなく、攻め手が受け手の速度に合わせることによって成立させたのである。

 

 互いにタイミングを示し合わせるのではなく、シオンはあくまで姫川が振った刀に向かって後出しで刀を振るっているだけ。しかしこれでは両者の間に隔たる厳然たる速度差はそのままだ。いくらシオンがド派手な演出で目眩しを行おうと、見る者が見ればその不自然さは分かってしまうだろう。

 

 姫川には有馬かなや黒川あかねのような超人の域に片足突っ込んだような身体能力もなければ、星野アクアのように謎エネルギーを無線供給してくれる不思議な幽霊もいない。

 しかし、姫川大輝は天才だった。こと演技に関する事柄において、彼にできないことは殆ど存在しない。内外からハイレベルな役者が集った東ブレの稽古は、ただでさえ才気に溢れた姫川に更なる飛躍を齎していた。

 

 白刃が閃く。それは稲妻のような激しさを伴いつつも、まるで吹き抜ける風の如き清澄な涼やかさを内包していた。

 彼我の速度差を物ともしないほどに、その剣筋は美しかった。たった今ブレイドが披露した一太刀と比較すれば、鍔姫の剣など力だけの棒振りに過ぎない……ただの一般人である観客でさえ直感的にそう思うまでに、その一刀に込められた技量は隔絶していた。

 

 雷田Pが起用した殺陣師の中には剣道の有段者もおり、彼はその技を余すところなく吸収した。殺陣と剣道は似て非なるものだが、刀を扱う技という点においてその本質は共通している。そして殺陣が演技の一種である以上、演劇の申し子たる姫川にそれを体得できぬ道理はない。今や彼の技量はプロが手放しで絶賛するレベルにある。その気になればすぐにでも正式に殺陣師の資格を得られるだろう。

 

 人外の幻想を振り翳す相手にあくまで現実に即した技術で対抗してみせた姫川は、やはり天才と言うほかない。その一刀は観客の目を幻惑させる。実際には両者の間には比較するのも馬鹿らしくなるほどの力の差があるが、姫川は技を以てその差を埋める演出を為した。シオンが非現実的なまでの暴力で観客を虜にしたのならば、姫川は圧倒的な技量で観客を魅了したのである。

 

 そして、演劇史上最も過激であると後に評される、伝説の一分が幕を開けた。

 

 姫川演じるブレイドはこの一分間に全霊を注ぎ込んだ。全身全霊を以て、シオンの巻き起こす超常現象の派手さにも劣らぬ剣技を披露する。

 姫川はシオンのことを見ていない。というかそもそも速すぎて見えない。故に端から相手を視認することを放棄し、思うまま、心の赴くままに剣を振るう。それはさながら剣舞にも似て美しかった。実際に舞を舞っているわけではないが、高速で動き回る相手を捉えるためあらゆる無駄を省いた最短最速の動作は機能美的な洗練さを醸す。その技の冴えは剣術について無知な観客の目にさえ鮮やかに映った。

 

 シオン演じる三上山の大百足は、そんな姫川の剣舞に全力で合わせつつ、更にその力を激化させていった。

 空気の壁を蹴って空を()()ことのできるシオンにとって、三次元機動などできて当たり前のことだった。その機動力と自由度はワイヤーアクションなど及びもつかない。青白い雷光と紫色のプラズマ光を尾のようにたなびかせながら縦横無尽に舞台を駆ける。その軌道は時に舞台を飛び出し観客席の直上にまで達することもあった。

 同じ空間を共有しつつも不可視の境界によって隔絶していた舞台と客席は、この瞬間に限りその境目を失った。舞台という空想の世界から、客席という現実の世界に。シオンという究極の幻想は圧倒的な現実感を伴って舞台上すら飛び出し、凄まじい臨場感を以て観客に戦場の風を浴びせかけた。肌を叩く暴風、網膜に焼き付く雷光、鼻腔を突くオゾン臭、耳朶(じだ)を震わす撃剣の調べ。観客はまるで己もまた戦場の只中に立ち、眼前で繰り広げられる壮絶な戦いの場に立ち会っているかのような錯覚を覚えた。

 

 尋常ならざる力と技とが舞台を席捲する。究極の暴力と極限の技量はどちらも常識の外側にあり、故に観客の目には拮抗しているように映った。

 事実として、ブレイドと大百足の力は拮抗していた。ブレイドの中の人こと姫川は内心で白目を剥いていたが、それはそれとして彼らの戦いは互角だった。

 

「何故だ……何故攻めきれん……ッ! 何故倒れぬ……ッ!?」

 

 幾度となくぶつかり合う雷と雷、鋼と鋼。剣戟の応酬が三十合に達しようかという段になり、大百足は堪えかねたように戦慄の声を上げた。

 

 これ程までに己と互角に渡り合う人間など存在するはずがない。それは決して驕りではなく、極めて正しい現実認識だった。

 確かに大百足は最大の武器たる巨体を失ったことで全盛期とは比べるべくもなく弱体化している。しかし彼は現在の宿主である鍔姫の力を正しく認識していた。その肉体は鬼族であることを加味しても異常なまでに強靭であり、パワーも耐久も生命体としての限界を超えている。そこに雷霆の力が加わるのだから、たとえ技などなくとも並大抵の敵など鎧袖一触にして余りある。大百足の生きた神代の基準でも十分に化け物と呼べるレベルだった。

 

 にもかかわらず、盟刀使いとはいえただの人間一人を相手に攻め切れないという現実がある。それは異常なことだった。

 客観的事実として、人間は弱く脆い。鬼と違ってすぐに怪我をするくせに傷の治りは遅く、鍛えた者でなければ刀一本まともに振れぬほどに非力である。全ての面において人族が鬼族よりも下等というわけではないが、戦士としてはやはり生来の戦闘種たる鬼族の方が明確に優れている。東京にて覇を競う勢力のほぼ全てが鬼族であることがその証明だ。

 

「まさか、貴様もそうだというのか……? かつて我を討ったあの忌々しき人間と同じだとでも……!」

 

 しかし、ごく稀に脆弱な人間の中から突然変異とでも言うべき超抜種が現れることがある。人の身でありながらあらゆる不条理を覆し、鬼すら逃げ出す難行をも身一つで乗り越える、神に愛されたとしか言えぬほどの才と運命を宿した人間が。

 

 そんな存在を、人々は畏敬を込めて「英雄」と呼ぶのだ。

 

 そして今、災厄そのものとも言える存在を相手に正面から立ち向かうブレイドの姿は……まさしく英雄と称されるに相応しいものだった。

 その背中の何と心強いことか。新宿クラスタの首領として麾下の指揮もこなすこの男は、その個人としての武勇もさることながら、どんな状況にあっても揺らぐことのない大柱のような存在感がある。

 

 共に人を超えた力を以て大なる存在感を放つ者同士。しかし一方は敵の胸中に恐怖を喚起し、一方は味方の胸に勇気の気炎を灯す。

 この差は何か。怪物と英雄を別つものとは何か。武を扱う者が暴に堕さないためには、何が肝要であるか?

 

 武力と暴力とはどちらも力であって本質的には変わるところなどない。少なくとも殺される人間にはどちらであれ死は死としてやってくる。

 その一方で、見る者には両者の違いはあるのだ。ある者が目を背けたくなるような乱暴を振るう一方で、ある者は人を斬っておいてなお清々しさを身に纏っていることがある。

 

 前者は今まさに暴虐を振るう大百足であり、後者とは即ちブレイドのことである。彼の剣には鍔姫や大百足にはない清らかさがあった。

 

 暴力とは見苦しく、武力とは美しいものだ。美しき武人とは、思い切らない者なのかもしれなかった。ブレイドは実に見事な武人だが、剣を振るう前後に相手を断じ見下すというところがない。斬れば見下ろすことになる相手をも、誰であれ対等に見て剣を振るう。剣を交えて友情を育むといったことも彼ならば可能だろう。あれは天性のものだ。

 そう。ブレイドは弁舌によってではなく、剣の交わりによって語らう者だった。言葉を交わすよりも、刃を交わすことによって彼はより深く相手を理解することができる。その者が何を思い、何のために剣を振るうのか。どのような剣筋を好み、如何なる戦場を潜り抜けてきたのか。それこそ手に取るように分かる。

 

 ブレイドが大百足の猛攻を凌げるのはそれ故のことだった。彼は相手の思考や攻撃の癖を読み取る術に長ける。この先読みの技と卓越した剣技が合わさることで、彼は鉄壁の守りを実現しているのである。

 そしてそれは相手の剣が単純であればあるほど読みやすい。力と技を高度に両立させる刀鬼の剣は非常に読みにくい一方で、獣の本能で剣を振るう大百足の剣筋は実に読みやすかった。

 剣で戦う者は剣でしか攻撃しないため尚のこと読みやすい。これで生来の膂力を存分に活かした蹴りや殴打を巧みに織り交ぜられればもっと苦戦したことだろうが、理由は不明ながら敵は刀での攻撃に固執しているのもブレイドにとって追い風となった。

 

「言っただろ。速いだけじゃ俺と“風丸”の刃から逃れることはできないってよ」

 

 掠めればそれだけで人間にとっては致命傷となる猛攻を汗ひとつかくことなく、ブレイドはそれこそ笑みすら浮かべて淡々と捌き続ける。

 剣の読み合いとは詰将棋にも似る。焦りによるものかどんどん攻め手が単調になっていく大百足。それと反比例するように次手の予測をより正確なものにしていくブレイド。

 

 やがて拮抗状態は崩れ、勝負の天秤は一方に傾いた。

 

 ジャスト一分。予め決められていた刻限に達した瞬間、照明演出の変化を合図として姫川は事前の取り決め通りの型をなぞり剣を振るう。それまでの流麗な剣技から一転、荒々しさすら思わせる剛剣へと。

 

 その一刀目掛けてこの日何度目とも知れぬ落雷が降り注ぐ。刹那の静止の後空中でひと際大きく放電した大百足は、景色が歪んで見えるほどの脚力で虚空を蹴り、噴出する殺意の渦動で地鳴りのような鳴動を(どよ)もしながらの突撃を敢行した。

 

 互いに必殺を期して放つ渾身の斬撃。

 それは乾坤を賭す、勝負の行方を定める一撃だった。

 

(うけい)ノ刃───“八握劒(やつかのつるぎ)田斬雷命(たぎりのらいめい)”」

 

 瞬間、音が途絶えた。

 電光の閃き、雷鳴の唸り、吹き荒ぶ陣風、そして皮膚を貫き精神を揺さぶる魂の圧力が。この空間を熱していたあらゆる喧騒が、まるで世界そのものが真っ白に静止したかのように消失した。

 

 モニターに映し出された文字列は、原作ファンですら知り得ぬ未知の技の存在を示している。恐らくは盟刀“風丸”に秘められた真価によるものだろうが、それを知るのはただ一人があるのみ。

 謎に満ちた結末ながら、幕切れは明白だった。大百足は断末魔すら上げることなく、胴体に深く刻まれた刀傷から深紅の燐光を吐き出しながら地に倒れる。

 

 澄んだ納刀の音が静寂の内に響き渡る。小さな紫電が名残のように鞘の上を伝い、最後に弾けて消えた。

 

「姉さま!」

 

 この場を満たしていた悍ましい瘴気が消え去る。戦いの終局を悟った鞘姫は裾を乱して倒れ伏す鍔姫の元に駆け寄った。

 

 抱き起こされた鍔姫は薄く目を開く。驚くべきことに彼女にはまだ意識があった。命奪の盟刀によって臓腑を貫かれ、神代の怨霊に肉体を乗っ取られ、雷霆を宿す風の刃に胴体を一刀両断され……それでもまだ命の灯火を絶やしていなかった。

 しかし時間の問題ではあった。心臓はとっくにその鼓動を止めており、もはや鍔姫は気合いで息をしているに等しかった。伝えねばならぬことがあり、聞かねばならぬことがあった。冷え切った身体に愛する妹の体温を感じながら、霞む目を懸命に見開きその姿を視界に収める。

 

「ああ……大きく、なりましたね……鞘姫……」

 

 憎悪の霧の晴れた視界に映る鞘姫の美しさに、鍔姫は稚げな笑みを零す。記憶の中の童女は、クラスタを統べる傑物として今や立派に成長を遂げていた。

 

「姉さま……私は貴女に酷いことを言いました。寄って集って貴女を殺しました。貴女の身に起きたことを知りもせず……」

 

 鞘姫の知る限り、鍔姫こそは最も世界に影響する者であった。彼女は社会に規定されたあらゆる価値とは無関係に、ただその光輝のみを己の資格として、誰も知らない未来を獲得しようと戦っていた。それは革新の最先鋒だった。時代を切り拓く剣の刃先だった。旧来を穿ち破る槍の穂先だった。歴史とは彼女の踏破した道程として記され続けているものと確信していた。

 しかし、その輝きは永遠に失われてしまった。今まさに失われようとしている。長老衆の裏切りが、忌み角の悪意が、太古の怨念が、彼女という英雄から光輝を奪ったのだ。彼女が壮健でさえあれば、千年の国盗り戦はとうに終わっていたかもしれないのに。クラスタは違えど同じ国に生きる同胞を殺すこともなかったかもしれないのに。

 

「いいえ……それは違います、鞘姫」

 

 鍔姫は静かに首を横に振った。

 

 確かに事の発端は長老衆の裏切りだった。忌み角の残忍と悪虐が彼女の心に憎悪を生んだ。大百足の怨念がそれを増幅し戦場の狂気に駆り立てた。

 

 しかし、手にする刃を血に染めたのは間違いなく彼女自身の殺意だった。裡より生じた憎悪と憤怒を以て、彼女は多くの非武装の同胞を手にかけた。無理矢理に戦場に立たされた民を、ただ職務に従っただけの兵士を、主義主張は違えども王権を尊び伝統を共にする貴族を……国盗りの戦乱の明けた後には同じ空を仰ぐべき者達を相手にして、鍔姫は昏い衝動の赴くままに強者の強引を以て処断し、その全てを無惨に踏み潰したのだ。

 

「かつて救世を志し、千年に渡る国盗り戦の勝者たらんと盟刀を手に取った私は……醜い憎悪と怒りに囚われ、その目を曇らせてしまいました。何者も、何事も、排することなく、罪することなき優しき楽園……遍く衆生の救いとなる楽土を求めて剣を取ったかつての誓いは、恩讐の彼方に塵と消え果てました」

 

 それでも、だからこそ、鍔姫はその願いを失いたくなかった。かつて己が歩んだ道程を嘘にしないために。願いのために斬り捨てた敵の命と尊厳を無為にしないために。

 優しき世界。優しき理。優しき王。絶えず戦乱の続くこの日の本に安寧を齎してくれる理想の王を求めて、憎悪を掻き立て内から魂を蝕もうとする大化生の怨念に正気を削られながら、彼女は再びその手に刀を取ったのだ。

 

 全ては……己を上回る王の器を見出し、願いを託すために。

 

 鍔姫が東京の全てを巻き込む戦火を引き起こしたのは、大百足の怨念による狂気の結果でもあったが、同時に己以上の英雄を世に生み出すための試練たらんとしたからでもあったのだ。

 

 鍔姫は心弱き故に憎悪に呑まれてしまったが、それでも己こそが最も王座に近かったという自覚はあった。

 であるならば……この願いを託すならば、それは何者にも敗れぬ武力と、何事にも折れぬ心の強さを併せ持つ、完全なる英雄でなければならない。

 

 そうでなくば、この戦乱は永遠に終わらない。

 盟刀が駆り立てるは国盗りの宿業。それは人界を修羅の蠱毒と成さしめる。

 

「果たして、英雄は現れた。刀鬼、鞘姫……そして、ブレイド。あなた方になら……この国の未来を託せる」

「……鍔姫、お前は……」

「手前勝手なことを言っているという自覚はあります。あなた方がどのような王道を行こうとも、敗者である私に何事かを言う資格はありません。……それでも、願わずにはいられぬのです。願わくば、戦火の夜の明けたその先に──美しい風景の在らんことを」

 

 それは、あまりに綺麗な願いだった。

 特に深い背景や高尚な理想などなく、戦の昂揚が導くままに国盗りの王を志したブレイドにとって、それは理解し難いほどに純粋すぎる願いだった。

 

 鍔姫は本気でこの国に泰平を齎し、救世を為すべく戦っていたのだ。それはブレイドが抱く戦場の哲学の外側に位置する理想だった。彼は今更ながらに渋谷クラスタの者達が彼女に心酔する理由を理解した。

 それでもブレイドは己の王道が間違っているとは思わない。しかし、その思考に一欠片の変化が生じたことは確かだった。

 

 その変化がどのような結末を齎すのか、それはブレイド自身にも分からない。

 それでも分かることはある。それは今にも死にゆくこの女の願いを無下にするべきではないということ。そして、全てに裏切られ、全てを敵としてなお救世の志を捨てなかった英雄の生き様を、必ずや語り継がねばならないということだった。

 

「……俺は俺が信じる道を行く。そこにお前の夢見た楽土があるかは分からねぇが……俺は王となり、必ずやこの天下に泰平を成すだろう」

 

 ブレイドはどこまで行っても戦場の雄であり、乱世の王でしかあり得ない。それでも彼は戦争を平定し王となった後の世にまで闘争を求める戦狂いではなかった。

 これまでブレイドは漠然と王としてこの国の頂点に立つことしか考えていなかったが、彼は今初めて王となった後の世界のことに思いを馳せた。それは良きにつけ悪しきにつけ、間違いなくこの先の未来に何らかの変化を及ぼすだろう。

 

「……どうか心安らかに、姉さま。渋谷に生きる者達は誰もが貴女の理想を受け継いでいます。世に平穏のあらんことを──かつて姉さまが語った夢は、今や我ら全員の夢でもあるのです」

「我々は貴女の理想に夢を見て、貴女の背中に未来を見た。貴女の志は確かに鞘姫に受け継がれている……俺は鞘姫の刃として、必ずや彼女を新たな世界の王としてみせる」

 

 鞘姫と刀鬼は不退転の意志と共に告げる。

 

 彼ら渋谷クラスタの将兵は特別だ。彼らには戦乱の狂気に呑まれまいとする奮起があった。戦禍の瘴気に侵されまいとする高潔があった。なけなしの力を蓄える堅忍があって、その力を研ぎ澄まし前進していく勇猛があった。

 彼ら渋谷の民は例外なく血族に忠を誓い、その伝統と栄光を己が誇りの拠り所としている。その鉄の結束を生んだのは間違いなく鍔姫の功績だった。天に白雲、地に戦旗、人に目覚めの勇躍をこそあるべし──彼女の掲げた天窮の理想は戦乱の世に荒廃する人心に火を灯し、その火は次代の血族に継承され今も燃え盛っている。

 

「……ありがとう、次代を担う英傑達。火は絶えず、夜明けは来る。ああ、私の憂いはたった今立ち消えました」

 

 鍔姫の瞳から涙が溶けて零れた。裏切りの絶望と暴虐の仕打ちにも終ぞ涙ひとつ流さなかった女の瞳から零れたそれは、確かな熱を持っていた。

 鍔姫はそれを涙であると自覚できたから、悲しさの内に確かな喜びを持ち抱くことができた。冷たく乾いた己の身体にも新しい火の一欠片が宿っていた……そう確信できたから。

 

「彼の者らに勝利を。新しい朝よ、美しく在れ。どうか、どうか──」

 

 火を継いだ英雄達に見守られながら、遂にその時が訪れる。

 それは静かな、実に静かな終わり方だった。

 

 彼女は時代を響めかせ、内乱を過激化させた悪鬼としてその名を歴史に刻まれる。朝は遠く、盟刀を巡る国盗りの内乱は未だ終わらない。その規模は歴史絵巻を現実に見聞きするようなものとなるに違いなかった。地には夥しい戦旗がたなびき、将兵の血肉を以て戦功が行き来して、人々は疲弊したその顔で明けることなき戦火の夜の果てを遠望することになるだろう。

 

 それでも夜明けは来る。希望の灯火を継いだ英雄達がいるからだ。

 

 この日、新宿クラスタと渋谷クラスタは約定を結んだ。それは無期限の休戦協定。そして新宿と渋谷が東京最後の勢力となった暁には、尋常なる果たし合いによって雌雄を決することを。つまりはブレイドか鞘姫か、いずれかの盟主が王となることを認め合ったのである。

 

 


 

桐生(きりゅう)紫音(しおん) / 鍔姫(つばき)

 自分をゴジラだと思い込んでいたが実はスペースゴジラなのではないかと気付き始めた真ゲッターの皮を被ったゲッターエンペラー。融通の利くアザトース。

 本来は物語の内に生きるのではなく外から物語を紡ぐ側の存在であり、それが何の間違いか一登場人物として物語に参加しているような状態。本人には全くその自覚がないのが唯一の救いである一方、無自覚であるが故に本人の意図とは無関係に影響が出てしまう危険性も孕んでいる。

 某疫病神ちゃんがやたら彼を恐れるのはそれが理由である。何故なら対面したシオンが頭の片隅で「カラスって近くで見ると意外と大きくてビックリするよね。ハトぐらいのサイズなら可愛いのになぁ」とか考えただけで己の前世及び神核(アイデンティティ)が崩壊する可能性を捨て切れないからだ。くるっぽー。

 

 そしてそんな規格外の力を演技に使うとこうなる。グッと力を込めただけで十億ボルトの生体電流を放ち亜光速で動き回る、怪物を超えた怪物の誕生である。

 そんな怪物を超えた怪物の元ネタはそのものズバリ「三上山の大百足」。FGOでお馴染みお米のお兄さんこと俵藤太(たわらのとうた)、即ち藤原秀郷(ふじわらのひでさと)に退治された神話の大妖怪である。死してなお現世に残り悪影響を振り撒く大百足の怨念を封印したのが藤原秀郷が放った矢の鏃であり、それを加工して作られたのが最初の盟刀“神喰(かみは)み”……という設定。使い手が殆ど存在せず、数少ない歴代の使い手も例外なく数度の使用の後に死亡しているのは大百足の怨念に耐えられず狂死したから。故に怨念に耐えられる強靭な肉体と精神を持ち、胸がないこと以外は非の打ち所のないグッドルッキングガールである鍔姫は大百足にとって宿主ガチャUR(ウルトラレア)な存在だった。

 

 そこにブレイドがいなければ。

 

 弱体化と相性ゲーの不利により今度こそ完全消滅した大百足の怨念から解放された鍔姫の本性は、盟刀を巡る戦争の終結と天下泰平を望む心優しい少女だった。狂いながらもその夢を諦めなかった鍔姫は、自らが世界の敵となることで己以上の英雄を見出し、更に戦乱が及ぼす悲惨と盟刀の力に浮かれる愚を世の群雄に知らしめることで戦争の早期終結を狙ったのである。顔が良いから許されてるタイプのメアリー・スー。ただし編集には許されなかった。

 その志はブレイドや刀鬼ら主人公勢力の者達に受け継がれ、やがて彼らは盟刀のルーツと国盗り戦の真相、そして裏で暗躍する何者かの存在を知ることになる。

 

【星野アイ】

 最近並行世界の日本に完璧で九冠(きゅうきょく)のアイドルホースとして異世界転生した完璧で究極のアイドル。……なに? アイ違い? でもあっちのアイちゃんもおめめキラキラやし……

 

 無事アクアが山場を越えたことで一安心。あとは「見なよ……オレのシオンを……」と後方彼女面で相棒の演技を見守るだけだったのだが、件の相棒が唐突に超サ〇ヤ人化したことでそれどころではなくなってしまった。昔はもうちょい一般人寄りの感性だったような……そうでもないような……

 

【星野アクア / 刀鬼(とうき)

 超サ〇ヤ人化したシオンの演技に極めてなにか生命に対する侮辱を感じ、あと普通に命の危険を覚えてシリアス状態から我に返った。嘘だろお前……こんなの絶対おかしいよ。舞台でやっていい動きじゃない。いや舞台じゃなくても人がやっちゃいけない動きしてるよ。こんなフィジカルモンスター仕草しといて超能力者名乗るとか各方面に失礼だよね。……なに? 孫〇空も瞬間移動の超能力を使う? そもそもサイ〇人を比較対象にする時点でおかしいんだよばか。

 

【有馬かな / つるぎ】

 やることが派手だねぇ……人間やめるのも大概にしろよこの顔面兵器。その顔面で光の速さで動き回るな。

 そう遺言を残し、有馬かなは眠るように息を引き取る感じで眠りについた。何とかカーテンコールには参加できたものの、紙みたいな顔色でフラつきながら辛うじて立っているような有様だった。だが観客の方もリアリティの意味を履き違えたような圧を全身に浴びまくり顔面蒼白だったので相対的に目立たなかった。

 

【黒川あかね / 鞘姫(さやひめ)

 ↑人の皮を被った(ヒグマ)がほざきよるわ。後追いで超人化したあかねは先人である有馬がどれだけ肉体的に化け物かを理解している。うっかり手加減忘れてビンタでもしようものなら、人間の頭など三回転した上ですぽーんと簡単に引っこ抜けることだろう。

 まあ有馬がそのレベルということなら力の大元であるシオンはもう理解不能な領域にあるわけだが……しかしあかねはそんな暴の化身である点も含めてシオンの全てを恋い慕っているのだという自負があった。何かある度にシオン君を見てひっくり返ってるかなちゃんとは格が違うのよ格が! とは本人の弁。

 ……舞台では二人仲良く白目剥いてぶっ倒れてただろって? その後の演技に支障はなかったしカーテンコールにも問題なく参加できたからヨシ! タフという言葉はあかねのためにある。

 

金田一(きんだいち)敏郎(としろう)

 へんじがない ただのしかばねのようだ

 

雷田(らいだ)澄彰(すみあき)

死んでいる

  OK  

 

姫川(ひめかわ)大輝(たいき) / ブレイド】

 穏やかな微笑みのまま──シオンが、姫川に急接近する。凄まじい移動速度。姫川は微塵も反応できない。彼を警戒していたとしても──瞬きする暇もなく、呼吸する暇もなく、姫川/ブレイドの視界の中で、シオン/鍔姫は、その表情を変えないまま、刃を、心臓に向けて──

 

「うおおおおおお!!??」

 

 思わず出てしまった素の悲鳴は、幸いにして鋼の衝突音と轟く雷鳴によって掻き消された。観客の耳には届かなかっただろう。

 

 姫川は後悔していた。軽率に「本気出していいよ(キリッ)」などと言い放ってしまった過去の俺の姿はお笑いだったぜ。

 

 稽古時の動きと、実際に本番で動いている様子を見て、つい思ってしまったのだ。これならもっと激しくても大丈夫だと。あれがシオンの本気でないことは分かっていたが、それでも姫川はもう少し彼の本気の力を低く見積もっていた。常識の壁が姫川に判断を誤らせたのだ。()()()()()()()、シオンも超能力者とはいえ人間である以上は限度があると。

 

 限度? ねぇよんなもん。シオンは当たり前のように超サイヤ〇化した。姫川は泣いた。

 

 い、いくら何でもひどすぎる……こ、こんなことが……こ、こんなことが許されていいのか!? おかしいだろ! 何で人間が電撃を放つんだよピ〇チュウじゃねーんだぞ! いやピカ〇ュウのじゅう〇んボルトだってもう少し控えめな威力だろ! だって音がヤバいもん! バチバチでもバリバリでもなくてズガガガガズドドン!! って感じだもん! 目の前で雷が落ちてるんだよ冗談じゃなくて!

 あとシンプルに速すぎる! 目にも留まらないとかのレベルじゃなくて、ガチのマジで瞬間移動なんだよ! 目の前で動いてる気配はするし音も風も感じるのに残像すら見えないの恐怖でしかない……パッと消えたと思ったらパッと目の前に現れて刀振りかぶってるのホラー以外のなにものでもないんだよ! こちとら全く目で追えないから適当に刀振ってるのに、当たり前のように感覚で振った刀の先に突っ込んでくるの怖すぎる……マトモじゃない……ていうか絶対あれ人間じゃない……化け物……いや悪魔だ! 信じられない、こんな馬鹿な……こんな理不尽なことがあっていいわけ

 

 

 どうしてこっちの刀からも電気が出てるんですか????

 

 

 ア、アバッ……アバーッ!? バカナーッ!? こんなことが!? こんなこと聞いてない! こんなことできるなんて聞いてないよお! 言っといて! そんなんできるんやったら言っといて最初に! どうしてこんなひどいことするの!? 確かに本気出してとは言ったけど、ここまでやれとは言ってない!

 

 う あ あ あ もう一分経った……もうラストアクションかよってぎゃああああ゛あ゛あ゛!! 雷が!! さっきまでより三倍ぐらい火力マシマシの雷が桐生から!! 嘘だろまだ上があったんですか!? まだ本気ではなかったと!? Really!?(ネイティブ)

 

 ウワーーーーーーッッ!! やめろやめろやめてマジでお願い!! 死んじゃう!!その威力は掠っただけで死ぬ死んじゃう!!

 

 ヤメロー!! シニタクナーイ!! シニタクナーイ!!

 





【以下後書き】最終回未読の方はネタバレ注意です







Q:推しの子のラストはどうでしたか?

A:頃すぞヒューマン!

確かにわえは! 誰かが苦しんでおるところが見たかった!

でも頑張って報われないのは! マジで大嫌い!!(王道少年漫画展開大好き邪竜並感)


……と、アクアが死んでしまったことだけが最終回における私の唯一の不満点でした。

いえ、百歩譲って死ぬのは良いです。ルビーを「人殺しの妹」にしないためにカミキと心中する、というのは確かにベストでは決してなくともベターな選択の一つだったかもしれません。

でもそれなら「心が 体が 生きたいと叫んでる」シーンは要らなかったでしょ! せめて死ぬなら死ぬで悔いなく綺麗に死んでほしかった……見てて辛かったよあのシーン……誰よりも苦しんで、誰よりも頑張った君は、誰よりも報われてほしかった……

しかしながら、私が不満に思ったのは本当にその一点だけです。
無力感に打ちひしがれるあかねちゃんの姿は胸が締め付けられるようでしたし、滂沱と涙を流して泣き叫ぶ重曹ちゃんを見てつい私まで泣いてしまいました。周囲の反対を押し切って上映に踏み切った五反田監督と鏑木Pの男気に胸が熱くなって、立ち直った重曹ちゃんに連れられて立ち上がるMEMちょの姿に勇気を貰い、バリバリ働くミヤコさんとやっぱりコキ使われてるバイトの壱護くんにちょっと笑って、

何よりも、絶望の淵から立ち上がり、かつてアイがそうしたように、暗がりで立ち上がれないでいる誰かの道行きを照らす夜空の星になれたルビーの姿に感動しました。

終わり良ければ全て良し。では終わりが良くなければ全てが良くないのか? もしそうであるなら、アクアの死後に続いた彼ら彼女らの物語を見てここまで感動することはなかったでしょう。少なくとも私はこのエンディングに納得しています。
というか見まして奥さん? ドームの舞台で輝くルビーを見て、俯いていた顔を上げて目を輝かせる少女の横顔! あんなのズルいやん。あんなの見せられたら全部許しちゃうよ根が単純馬鹿だから。ぼくああいう「受け継がれる意志」みたいなのだいすきなの。アイもアクアも死んでしまって、それでも消えない光がルビーに受け継がれていて、その光はまた別の誰かを暗がりから救う極星になるんやなって……「推し」は人生を照らす光なんやなって……

と、まあそんなことを思った次第であります。長々とイタイ長文でお目汚し大変失礼しました。

色々言いましたが、私は「推しの子」という作品に出会えて幸せでした。魅力的なキャラクター達が織り成したこの物語が大好きです。
ありがとう「推しの子」! ありがとう「アイ」! 赤坂アカ先生、横槍メンゴ先生、完結おめでとうございます!







それはそれとしてカミキくぅん……君は結局救いようのないド外道だったねぇ……哀しき過去とかどうでもよくなるぐらい普通に「吐き気催す邪悪」系ラスボスだったねぇ……!

これで全ての憂いはなくなった……! 複数考えていたこの小説のエンディング……その道筋がいま定まった……!

名付けて……! 「世界観☆完☆全☆無☆視☆の超ご都合主義オリ主のパワーでカミキをこの世から消し去ってしまえ〜!(ピロロロロー)」エンド……!

この私にあるのは、シンプルなたったひとつの思想だけだ……()()()()()()! 「誰も犠牲にならないハッピーエンド」! ()()()()()……それだけが満足感よ……!
過程や……!
方法なぞ……!

どうでもよいのだァ────ッ!!


というわけで、東京ブレイド編のエピローグ的な〆の小話をちょっと挟んで、次からようやく宮崎編に入ります。予定ではここから大きく物語が分岐していくことになると思いますので、次回以降も引き続きよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。