傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

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今回冒頭に限りちょっとだけ掲示板要素があります。読まなくともほぼ支障はないため、苦手な方は飛ばして下さい。
今後も掲示板要素は活用する予定ですが、それがメインではないためタグを追加することはいたしません。ご理解の程よろしくお願い致します。


6.教室での交流

36:推し活の名無し ID:PeA54i8LB

 アク×シオ最高! お前達もアク×シオ最高と言いなさい

 

38:推し活の名無し ID:Om5bvVJjB

 どっちも顔面が強すぎる

 あんなの遺伝子の暴力だろ、いい意味で親の顔が見てみたいわ

 

41:推し活の名無し ID:K7w3FcK9Z

 アク×シオ最高!

 

43:推し活の名無し ID:hiot/30Gp

 アク×シオは絶対に流行らせろ

 

45:推し活の名無し ID:0f7Kjva8c

 ちょっとこのスレ腐臭漏れてんよ〜

 

46:推し活の名無し ID:8FFLVfpOE

 美少年同士の絡みは健康に良い

 

49:推し活の名無し ID:xEAMrs1Fj

 BLは──

 まだガンには効かないがそのうち効くようになる

 

51:推し活の名無し ID:kDdbjvCMb

 でもあれが普通のBLかって言うとちょっと違う気がする

 

52:推し活の名無し ID:1MDEHP+VQ

 わかる、シオン様がどう見ても女の子にしか見えん

 

55:推し活の名無し ID:eQdIXcBsI

 まず普通のBLってなんだよ

 

57:推し活の名無し ID:YZpgbwGvj

 BLはBLだよ

 

58:推し活の名無し ID:6NISEE5jJ

 は? シオン様は性別不詳の両性類なんだが?

 

60:推し活の名無し ID:5w/zLcMYV

 俺ずっとシオン様は女の子だと思ってた

 

62:推し活の名無し ID:ROjY2aN2Q

 私も

 

65:推し活の名無し ID:1B1PGZoeP

 あんな可愛い子が女の子のはずがないんだよなぁ

 

67:推し活の名無し ID:K8Xvyn8Ic

 それにしては仕草が女の子すぎる

 お前らも見ただろう、アクアに向けたシオン様のメス顔を

 

69:推し活の名無し ID:pLrNnl0kE

 あれね、破壊力ヤバかったね

 

72:推し活の名無し ID:B+0U0+4Y3

 ネットテレビだったから良かったものの、地上波だったらもっと多くの死人が出ていたことだろう

 かく言う私もあれを見て心停止したクチでね

 

75:推し活の名無し ID:/JycthOQ8

 成仏してクレメンス

 

76:推し活の名無し ID:T/P4lbkar

 あの表情がただ吐き気をこらえてただけという事実

 

77:推し活の名無し ID:b1PRYX2yL

 シオン様はゲボ吐く時も美少女なのか

 

79:推し活の名無し ID:97lQ5PP1C

 美少年なんだよなぁ

 

80:一番星の生まれ変わり ID:AI45510

 初めてのテレビ撮影で緊張しちゃうシオン可愛い

 

81:推し活の名無し ID:rkrW7I4Ms

 わかる、もっとクールなの想像してたからギャップがヤバい

 

84:推し活の名無し ID:sH0vsQgU7

 クールといえばアクアお前、出演者紹介シーンの時の爽やかイケメンキャラはどうしたんだよ!

 歯の浮くようなセリフでMEMちょを口説いてた時のあれは演技だったというのか!

 

87:推し活の名無し ID:CLUv9Pvhl

 シオン様と同じ制服だったし、もしかしてクラスメイトなんじゃないの?

 

89:推し活の名無し ID:miKRXtWRA

 なるほど、知った仲だからああいう遠慮のない口調だったのね

 

91:推し活の名無し ID:SjyH1aH4g

 つまりアクア君はあのぶっきらぼうなクール系キャラが素ってこと?

 

92:推し活の名無し ID:NknHfEhhS

 キラキラ系王子様キャラではなくクール系王子様キャラだったのか

 “アリ”だな

 

94:推し活の名無し ID:H6GtSS4c5

 実際、あのメンツの中でシオン様と釣り合うのアクアぐらいだよね

 

95:推し活の名無し ID:xzypI6U6u

 あの二人だけ顔面偏差値おかしいもんね

 

97:推し活の名無し ID:3CZJJ6TXR

 顔もそうだけど、シオン様だけ明らかにオーラが違うよね

 シオン様が出てきた瞬間、一気にスタジオの空気が変わってた

 

98:推し活の名無し ID:M3MwnSURQ

 ぶっちゃけあの顔の良さで落ちない女の子なんていないだろうし、普通に男女の恋愛してても面白くなかっただろうね

 

101:推し活の名無し ID:qi8ZIQZcI

 わかる、結果のわかりきった恋愛とかつまんないよね

 

104:推し活の名無し ID:8tiNQU6Uw

 だからと言って同性に行くか普通?

 

106:推し活の名無し ID:2Boem9EP6

 おは老害、もう同性愛がマイノリティな時代は終わったんやで

 今は大LGBT時代や

 

107:推し活の名無し ID:3U+NrUvjn

 LGBTは政治色が強くて好かん

 

108:推し活の名無し ID:TYx9Lvg4z

 その点アク×シオは安心して見てられるよな

 

111:推し活の名無し ID:c+I1x7uy2

 どっちも見た目が良いから嫌悪感なく見れるよね

 二次元の綺麗なBLがそのまま現実に出てきたような感じ

 

112:推し活の名無し ID:DIbPnzDw4

 綺麗なBLとは

 

115:推し活の名無し ID:KtUZbJpXO

 うるせぇ百合豚は黙ってろ

 

116:推し活の名無し ID:2RjPRmfGq

 ちょっと待ってくれ、大変なことに気づいてしまった

 このままアク×シオのカップリングが成立するとしたら、まともな男女のカップリングはあと二組しかできない

 そうすると女の方が一人余ることになる

 

117:推し活の名無し ID:Mi8jfa+Vl

 草

 

120:推し活の名無し ID:lAFfb1fVA

 男四人・女三人の恋リアで女が余るってなにwww

 

123:推し活の名無し ID:8xc5+SrFl

 こんな展開になるなんて思わんやろ普通

 

126:推し活の名無し ID:sdPa0+mkt

 読めなかった……この海のリハクの目をもってしても……!

 

128:推し活の名無し ID:q4RpmXowQ

 お前はそろそろ節穴のリハクに改名しろ

 

131:推し活の名無し ID:l0O7jC/e/

 がぜん面白くなってきた

 どの子が余るんだろ

 

133:推し活の名無し ID:ffvrDg8Fm

 そりゃあかねじゃね? まだ数話しか放送されてないけど、もう既に空気じゃんあの子

 

136:推し活の名無し ID:LfMG9s3rf

 男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの

 

137:推し活の名無し ID:qTomHBher

 それでも結局女が一人余るじゃねーか!

 

140:推し活の名無し ID:jC7C+PdXd

 ダメじゃん

 

143:推し活の名無し ID:zMXT0nMjX

 草

 


 

「……バズったな」

「バズったねぇ」

「buzz ちゃったか」

 

 現在は『今ガチ』の収録時間外。教室を模した撮影スタジオをそのまま使わせてもらい、各々持ち寄ったお昼ご飯を食べて休憩時間を過ごしている。

 そんな中、食事を口に運ぶのとは反対の手に握られているのは現代人の生活必需品たるスマートフォン。七人のメンバー全員がスマホを手に持ち、その画面に目を落としている。

 

 そう、『今ガチ』メンバーは絶賛エゴサの真っ最中であった。

 

 僕の手元にもスマホがあり、その画面には某大手検索エンジンの検索窓が開かれている。

 キーワードは当然『今ガチ』。そしてズラリと並ぶサジェストには「アク×シオ」なる禍々しい検索候補が強く自己主張していた。

 

 ダラダラと冷や汗が流れる。怖くて隣に座るアクアの顔が見れない。

 何故なら、「アク×シオ」とは「アクア×シオン」……即ちアクアと僕のカップリングを示す単語なのである。

 困った。誰かの所為にしたいが自分の顔しか思い浮かばない。

 

(どうしてこうなった……)

 

 そもそもの原因は、初めてのテレビ撮影ということで緊張し過ぎてしまったことにある。モデル撮影の経験はあったが、僕の読モ経験は一年に満たない。まして共演者がいる状況での仕事など当然未経験。自分の失敗が他の仲間にも波及する恐れのある状況というものに不慣れであり、すっかりアガってしまっていたのだ。

 

 それと、こういう言い方は少々恥ずかしいのだが……僕は少しばかり特別な人間だ。

 それは転生者であるというだけではない。どうも僕の魂は人よりかなり大きいらしく、その影響か生まれつき存在感とでも言うべきものが極めて大きいのだ。

 

 アイ曰く、常人の魂の大きさを野球ボールぐらいのサイズに例えるなら、僕の魂は太陽と同規模の大きさと熱量を秘めているらしい。正確なところは大きすぎて分からないらしいが、最低でもそのぐらいはあると思って良いとのこと。アイはそんな僕の魂から溢れ出た僅かな余剰エネルギーを糧にすることで存在を維持しているらしい。

 またその影響かは知らないが、僕は生まれつき身体が頑丈で力持ちだ。それは平和な現代日本では不必要なまでに極まっている。実際に試したことはないが、恐らく現代兵器の大半は僕の身体に傷一つ付けられないだろう。

 

 前置きが長くなったが、そういう化け物みたいな存在である僕は無意識に強いオーラのようなものを垂れ流している。アイの手助けもあって日常生活を送る分には支障がない程度にオーラをコントロールする術は身に付けたが、今でも仕事モードになって集中状態になったり、先日の収録時のように気が立っていたりすると途端に生来の存在感が顔を出してしまうのだ。

 その所為で周囲を威圧してしまい、あの時はあわや放送事故一歩手前な状況になってしまっていた。そういう時いつも話し掛けて気を紛らわせてくれるアイは何故か僕より先にゲボ吐いてグロッキーになってたし、何か行動を起こさなければという焦りから更に緊張するという悪循環に陥っていたのだ。

 

 そんな時、真っ先に動いて僕に声を掛けてくれたアクアの存在はまさしく僕にとっての救いの神だった。顔見知りが普段と変わらない調子で話し掛けてくれるというのは思った以上に僕を冷静にしてくれ、思わず安堵の笑みを浮かべてアクアを見上げたのである。

 

 ……で、そのシーンが放送されてネットでバズった。目を潤ませて頬を紅潮させた僕の表情がガチ恋顔やらメス顔だの何だの言われてめちゃくちゃバズった。目が潤んでたのは吐き気を堪えてたからで、ちょっと顔が赤かったのは安堵とフォローしてもらえた嬉しさによるものだったのだが、まあ重要なのは視聴者がどう思ったかなわけで。

 で、アクアはその流れに巻き込まれたというわけだ。彼にとってはとんだとばっちりである。僕としても折角フォローしてくれた彼の恩を仇で返すような形になってしまい大変遺憾なのだが、かと言って視聴者に文句を言うのもお門違いなわけで。結局のところ誰が悪いかと言えば本番で緊張してしまった僕が一番悪いのである。

 

「……はぁ。そんな辛気臭い顔するな。別に怒ってねぇから」

 

 すると、見かねたのかアクアがため息混じりに口を開く。

 

「今回は恋愛リアリティショーだから話がデカくなったが、そもそも男優同士が絡めばそういうことを言ってくる層は一定数いるもんだ。役柄によっては勝手にカップリング扱いして盛り上がる奴らだって珍しくもない」

「そ、そうなの?」

「モデル畑のお前には縁遠い話だったかもしれんが、俳優やってるとよく聞く話だよ」

「そ、そうだよ! 特に舞台だと二.五次元がBL需要のネタにされるなんてよくある話だし!」

 

 アクアに追従する形で黒川(くろかわ)あかねさんもフォローを入れてくれる。

 ありがたい一方で情けない話だ。歳下の子にフォローされるとは……いや肉体的にはあかねさんの方が一つ歳上なのだが。

 

「ま、最終的にどうなるにせよ、番組の盛り上がり的にもしばらくはこの関係でやってくしかねぇだろ。ここで下手に関係を否定したり露骨に距離をとるような真似すれば視聴者が冷めるだろうしな。悪いが我慢してくれよ」

「我慢なんて! むしろアクア君に迷惑かけてるのは僕の方だし……」

「芸歴は俺の方が上なんだから気にするな。こういうのは先輩がフォローするってのが業界の鉄則……っていうかそうだよな、お前芸歴一年あるかないかな上に映像系は未経験だもんな。雰囲気ですっかり勘違いしてたが」

 

 そういうアクアは三歳から役者の世界にいる筈なので、芸歴十三年の大先輩ということになる。

 恥ずかしい話だが、この道の経験に関しては到底僕の及ぶところではない。心苦しいがありがたく胸を借りるべきなのだろう。

 

「……にしても、ちょっと意外だったなー。あのカリスマ読モにこんな可愛い一面があったなんて」

 

 そう声を上げたのは鷲見(すみ)ゆきさんだった。彼女は面白がるような、微笑ましいものを見るような目でこちらを見ていた。

 

「カリスマ読モ『シオン』って界隈では『モデル界の不知火フリル』って言われててさー。ちょっとしたアンタッチャブルというか、名前を呼んではいけないあの人的な感じの扱いなんだよね。それがこんなに初心(うぶ)な子だとは思わなかったよ」

「えぇ……何その呼び名。モデル界の不知火フリルって、元々不知火さんモデルもやってるマルチタレントじゃない」

「あー、でもちょっと分かる。なんつーか、オーラがヤバいもんなシオンって。まさにスター! って感じで」

 

 うんうん、と頷いてゆきさんに同意するのは熊野(くまの)ノブユキ君。彼が言うオーラというのは僕の場合少し意味合いが違うのだが……そのように見せているのは事実なので、スターのオーラだと勘違いしてくれている分には好都合だ。とはいえ怖がらせてしまったのは申し訳ないと思う。

 

「ごめんね、緊張してたってのも勿論あるんだけど、カメラが向いてるとどうしても仕事モードになっちゃうというか……つい気が張っちゃうんだよね」

「あ、それわかる。俺もカメラ回ってると仕事モードに入っちゃうタチだから、あまりシオンのこととやかく言えないんだよな」

「ケンゴ君も?」

「ああ。ほら、俺の職業的にカメラの前で演奏することはあっても誰かとコミュニケーション取ることって多くないからさ。つい自分の世界に入っちまうっていうか……この番組でカメラ映えするためにはもっと上手くコミュしていかないとな。元々その辺を克服するためにこの仕事受けたようなもんだし」

 

 森本(もりもと)ケンゴ君はレーベル所属のプロのバンドマンだ。聞けば作詞作曲も自分で行っているらしい。そういう芸術家肌の人は特に自分の世界に埋没しがちだと聞くし、僕とは似通った悩みを抱えているのかもしれない。

 少し親近感が湧いた。僕は親しみを込めた笑みでケンゴ君に笑いかける。

 

「じゃあ、乗り越えなきゃだね。お互い頑張ろう、ケンゴ君」

「ッ……お、おう……」

 

 するとケンゴ君は頬を赤らめながら目を逸らした。え、何その反応。何か変なこと言っただろうか。

 ……ああいや、考えてみればそうか。芸歴一年未満のアマチュアにお互い頑張ろうなんて言われるのは不本意だろう。この世界は芸歴が全てと言っても過言でないぐらいには経験というものが重視される。それを鑑みるに、確かに先程の発言は失礼だったかもしれない。

 

「ちょちょちょー! ストップストップ! またシオたんはそういう顔してぇ! スナック感覚で犠牲者増やすの良くないよぉ!」

 

 そう慌てたように声を上げたのはMEM(メム)ちょさんだ。ケンゴ君と並んでメンバーの中で最年長であり、持ち前の明るい性格からムードメーカー役を番組内で確立させつつある有名ユーチューバーである。

 あとシオたんという渾名はどうかと思う。まるで塩タンみたいじゃないか。……久し振りに焼肉食べたいなぁ。

 

『私は特上カルビ!』

 

 思い出したかのように口を挟んできたかと思えば、随分と図々しい要求をしてくる幽霊である。あと当たり前のように僕の思考を読むんじゃない。

 

「シオたんはもっと自分が顔面兵器なことを自覚すべき!」

「顔面兵器て」

「冗談じゃなくてぇ! 実は女形(おんながた)経験者なんじゃないのってぐらい女の子より女の子してるんだから、もっと自重してくれないと私達の立場がないのぉ!」

「えぇ……?」

 

 そんなつもりは微塵もないのだが……確かに僕は顔の造形から身体つきまで男らしさというものに乏しいが、今は仕事で女装してるわけでもなし。普段通りに男として振舞っているつもりなのだが。

 しかしMEMちょさんだけでなくゆきさんやあかねさんも深く頷いている。加えてアクア含む男性陣は露骨に僕から目を逸らしていた。

 

「普段通りのつもりなんだけどな……あ、一人称を変えるとか? “俺”って言えば男らしく感じるんじゃない?」

「オレっ娘……!? ダメダメダメ! 新たにニッチな層を引き寄せるだけで逆効果だよぉ!」

「どないせいっちゅうねん」

 

 ホントにどうしろと言うのだろう。確かに自分が世間一般の水準と照らし合わせて美形に属するのだという自覚ぐらいはあるが、それを言うならここに集まる面々だって平均を遥かに超える美形揃いだろうに。

 

『シオンが“俺”!? そうやってすぐ私を誘惑して……! これ以上可愛くなって私をどうするつもり!?』

 

 どうもしないが。

 何なんだこの幽霊は。何故かは知らないがここ最近アイの様子がおかしい。爽やかイケメンキャラを演じるアクアを見てゲボ吐くわ、アク×シオのハッシュタグがトレンド入りしてるのを見て白目剥いて気絶するわ。まあ後者は自分の息子のことなので分からなくもないのだが、前者は意味不明だ。何故ゲボ吐いた。というか何を吐いた。幽霊なんだから胃の内容物はおろか胃液すらないだろうに、よもや僕の魂から得てるという生命エネルギーを吐いたのではなかろうな。

 

「……そういえばずっと聞きたかったんだが、紫音はどうしてこの仕事を受けたんだ? いや、鏑木(かぶらぎ)Pに誘われたってのは分かるんだが」

「あー、それか……」

 

 アクアに問われ、僕は鏑木さんにこの仕事に誘われた経緯を思い出す。

 プロの道に興味はあるが、プロとしてやっていける自信がないと言った僕に、鏑木さんは「自信をつけるのにお誂え向きの仕事がある」と告げたのだ。

 それがこの恋愛リアリティショー『今からガチ恋始めます』だった。若者のリアルな青春や恋模様を売り物にするこの番組には台本がない。それ故に求められるのは役を演じる演技力ではなく嘘偽りない自分自身。桐生紫音という素顔を曝け出した上で番組で結果を出せば、間違いなくそれは自信に繋がるだろう、と。

 

「あと、自分がどのくらいのレベルにあるのかを実感してこい、とも言ってたよ。まあ、こんな調子じゃまだまだ先が思いやられるけどね……」

「ああ、そういうことか。……クソ性格悪いなあのプロデューサー

 

 こうして同じ世代の若手と仕事をしてみて思うのは、やはりこの世界は経験が全てだということ。それを知識ではなく実感として知ることができた。

 年齢こそ近いが、この場にいる誰もが僕のようにカメラの前で緊張するようなことはない。俳優であるアクアやあかねさんはまあ当然としても、仮にも同じモデルであるゆきさんでさえテレビ撮影を前にして固くなるようなことは全くなかった。それだけ経験というものは大きいのだ。

 

「……ちょっと待って。プロとしてやっていける自信がないってそれマジで言ってる? まさかずっとアマチュアでやってくつもりじゃないよね?」

「いや、流石にずっと読モでいるつもりはないよ。この番組の結果次第ではプロの道に行くことも考えてる。お世話になってる事務所から勧誘も受けてるし、個人的な事情もあるしね」

「……そ。まあそれなら良いんだけど。正直言って君みたいな目立つ人がアマチュアだとさ、プロの立つ瀬がないっていうか? 比較されて肩身の狭い思いすることも多かったからさぁ。せめて同じプロにはなってほしかったんだよね」

 

 プロと比べたらタダ同然のギャラであの「シオン」が雇えちゃうんだから、私達(プロモデル)にとっては悪夢みたいなもんだよねー、と。冗談めかした口調で、だが微塵も冗談とは思っていないような顔でゆきさんはそう言った。

 ……自分がそこまでモデルとして評価されているとは思っていなかったので無自覚だったが、なるほどアマチュアのままだとそのような弊害があったのか。たった二、三時間の撮影で得られるものとしては破格の給与を貰っていると思っていたものだが、確かにプロを雇うとなれば支払われるギャラはアマチュアの比ではない。撮影側としては安く雇えるに越したことはないのだから、実力のあるモデルをアマチュア価格で雇えてしまうというのはある種の価格破壊に等しいのかもしれない。

 

「じゃあこの番組が無事に終われば晴れてプロ仲間ってわけね。お手柔らかによろしくね、カリスマ“モデル”さん?」

「あ、いや、実は僕プロモデルじゃなくて霊能力者として売り込んでいこうと思ってて……」

「何でよ!?」

 

 頬杖をついていたゆきさんがガクッと体勢を崩す。彼女のみならず他のメンバーも信じられないものを見るような目で僕を見ていた。

 まあ当たり前の反応なのだが。

 

「霊感商法ってこと!? そういうの良くないと思うっていうか、え? マジで言ってるの!?」

「考え直せシオン! 絶対モデルの方が向いてるって!」

 

 ゆきさんとノブユキ君が身を乗り出して声を上げる。

 彼らの反応は至極当然のものだ。自称霊能力者による悪徳商法の被害は過去枚挙に(いとま)がなく、世間における霊能力者へのイメージは(すこぶ)る悪い。

 

 だがこれはアイと相談して決めたこと。いずれアイが僕以外の人間の目にも映るようになった際の理由付けのためだ。

 何故ならアイは故人である。その衝撃的な死はニュースとなって全国を巡ったし、葬儀も多くのファンに見守られながら大々的に執り行われた。それが急に墓から(よみがえ)ったとなればその混乱は計り知れない。他ならぬ実の子であるアクアとルビーが一番混乱するだろう。

 だが、僕が霊能力者として確かな実績を持っていれば話は変わる。過去にいたような似非霊能力者や霊能力者とは名ばかりの詐欺師とは違う、“本物”であるという社会的信用を得ていれば、その時が来た際にアクアもルビーも疑うことなく心から母との再会を喜ぶことができるだろう。……死者を甦らせる霊能力者とか聞いたこともないが、実際に蘇生させるわけではなくただ霊感のない人でも見えるようにするというだけなので別に構いはしない。要は死者の霊を引き連れていてもおかしくないと思わせられればそれで良いのだ。

 

「そうだな……ねえMEMちょさん、その唐揚げ美味しそうだね。もしかして手作り?」

「え、うん。一応手作り……だけど」

「一つ貰っても良い? 代わりに僕の卵焼きあげるから」

「もちろん良いけど……」

 

 許可を貰ったのでありがたく頂戴するとしよう。僕はさりげなくアイにサインを送る。

 

『お任せ〜』

 

 するとアイは僕の弁当箱から卵焼きを一つ(つま)み、ひょいっとMEMちょさんの弁当箱に放り込む。そして代わりに唐揚げを摘むと僕の弁当箱に……ではなく、そのまま僕の口元まで運んできた。

 

『はいシオン、あーーーん♡』

「む」

 

 ……こやつ、この状況で僕が拒めないのを良いことに揶揄(からか)いおるわ。

 対外的には僕は自分の意思でこれをやっていることになっている。自分でやったことを自分で拒むというのは意味不明なので、僕は恥ずかしさを堪えて運ばれてきた唐揚げに口をつけた。

 屈辱だ。よもやこの歳になって人に食べさせてもらうなんて……あ、この唐揚げ美味しい。

 

「すごい、MEMちょさんって料理上手なんだね。冷めてるのにジューシーですごく美味しいよ」

 

 気恥ずかしさを顔に出さないよう努めつつ、何でもないことのようにMEMちょさんの料理の腕を褒める。

 そう、これが手っ取り早く僕が霊能力者であると世間に認めさせるための方法である。霊能力者といえばやはり霊視だろうが、いくら霊が見えていると主張したところで余人にはそれが本当かどうか確かめる術はない。であれば、このように誰の目にも明らかな超常現象を起こした方がよほど分かりやすいだろう。広義的にはこのような神通力を起こせる者も霊能力者と呼ぶらしいし、構うまい。

 ……アイを体の良い金稼ぎの手段に使っているようで心苦く思う気持ちはあるが。同意は得ているし、本人も楽しそうにしているのでとりあえず良しとしておくとする。

 

 周りの反応を確認してみれば、全員開いた口が塞がらないといった様子で愕然としている。

 それはそうだ。僕が何も細工を行っていないことはこの場の誰もが知っている。MEMちょさんがお弁当を取り出すところから全員同じ部屋にいたのだ。その手の小細工を施す隙などありはしない。文字通り種も仕掛けもないのである。

 

『な……何だそりゃあああああ──!?』

 

 一拍置いて、全員の口から同時に絶叫が上がる。

 おお、アクアの仰天した顔とかレアなもの見れた。いつもクールな無表情を貫いているからとても新鮮である。

 

「何!? 何今のどうやったの!? え? 糸とか通してたの!?」

「いや、そんな感じの動きじゃなかったぜ! もっとこう、フワッて感じで浮かび上がってた!」

「ほ、本当に霊能力者なの!? いやでもこれ、霊能力というより超能力とかそういうのなんじゃ……」

「もう一回! もう一回やって見せてくれ!」

「ついでに動画も撮らせて! アップしたら絶対数字取れるからぁ!」

 

 叫び声を聞きつけたスタッフ達が何事かと教室を覗き込んでくる中、一斉に席を立ち詰め寄ってくるメンバー達。彼らの目にあるのは僅かな疑いの色と、それを上回る好奇の眼差しだった。

 

『やったねシオン! 反応は上々だよ!』

 

 どうやらそのようだ。霊能力者というものに強い疑いを持ち、超常的な力など端から信じていないような彼らからこのような反応を引き出せたのであれば結果としては悪くない。これなら世間からもそれなりの反響を期待できるだろう。

 

 あと動画撮影はともかく、アップするのはまだダメだ。どこのプロダクションに所属するにせよ、どのタイミングで霊能力者を名乗り売り出していくかに関しては事務所の判断に任せることになるだろうし。

 

「そんなー!」

「まあでも、有名ユーチューバーのMEMちょさんのチャンネルで紹介してもらえるのなら広告としてはこの上ないよね。そのうち機会があればコラボとかお願いしようかな」

「やったぁ! 約束だよ!?」

 

 良い動画ネタゲットォー! と叫び拳を突き上げるMEMちょさん。

 しかしその一方で、アイはと言えば愕然とした表情でワナワナと震えていた。

 

『シオンが……シオンが私をダシに女の子とデートの約束を取りつけたぁ────!?』

 

 人聞きの悪いこと言うんじゃありません。デートではなくコラボです。手っ取り早くファンを獲得するには有名人とのコラボが最短の道程(みちのり)なのである。

 しかしそう説明したくとも周りに人がいる状況で大っぴらにアイと会話するわけにもいかず、結局その日は最後まで膨れっ面のアイを視界の端に入れながら撮影に臨む羽目になったのだった。

 




桐生(きりゅう)紫音(シオン)
 アホみたいにクソデカい魂と、それに相応しいバカほどクソ頑丈な肉体を持つ。また頭おかしいぐらいデカい魂の影響でびっくりするほどのクソデカオーラを全身から放っている。そのままでは信じられないぐらいの影響を周囲にクソほど与えてしまうため、一番星が四万五千五百十回生まれ変わった最果ての姿とまで言われた狂った才能の持ち主であるアイが協力することで辛うじて何とか日常生活を送れる程度にはコントロールすることが可能となった。しかしこの狂った男はクソデカい魂とは裏腹にミジンコレベルに肝がクソ小さいため、少し緊張するとそのバカオーラをバカほど垂れ流しにしてしまうのであった。バーカ。

参考文献:クソデカ羅生門


星野(ほしの)アイ】
 周囲に人がいるとシオンと会話ができないため、どうしても独り言のようになりがち。テレパシー能力をシオンが使えれば良かったのだが、そういう超常能力に目覚めた瞬間ゲッペラー化(比喩)する危険性が高まるため、逆ご都合主義という名の作者側の都合によりシオンが特殊能力に目覚めることはない。これからもシオンはただ見た目が良くて幽霊が見えるだけのハルクLv.99のままである。
 ちなみにアイはアクアもルビーもとっくに自分の死は過去のものとして乗り越えていると勘違いしている。気付いていれば今のように呑気せずさっさと自分の存在をバラしているが、気付いていないため呑気にエネルギー充填中。急にママが現れたらアクアもルビーもビックリするだろうなー★ とかアホなこと考えてる。ビジター、悪いがその冗談は笑えない。

星野(ほしの)アクア】
 ホモ疑惑やら呑気してるアイの件やらですっかり被害者枠が板に付いてしまった可哀想な星の子。今のところはクラス:復讐者(アヴェンジャー)だが物語終盤にはクラス:大泉(おおいずみ)(よう)にクラスチェンジしているはずなので安心されたし。
 紫音の毛髪をDNA鑑定に出したところ、自分達とは全く血縁上の関係はないことが判明し一安心。しかしアイの面影を感じることに変わりはないため、紫音に対してだけ無意識に優しく接してしまう。それがアク×シオ信者の貴腐人方に更なる燃料を与える結果になってしまっているが、当然本人は気付いていない。

鷲見(すみ)ゆき】
 紫音にちゃんとプロになる意思があると分かって一安心したが、まさかのプロモデルではなく霊能力者として売り出すと聞いてかなちゃんのお株を奪う顔芸を披露する羽目になった。
 この後は原作通りノブユキとのカップリングを成立させ、色物枠に堕ちた紫音とは違い真っ当な恋愛模様を繰り広げていくことになる。

熊野(くまの)ノブユキ】
 天然のムードメーカーとして早くも番組内で立場を獲得しつつある。この後ゆきとのカップリングが成立し、まともな恋愛を繰り広げ全国のノンケ達を安堵させた。

森本(もりもと)ケンゴ】
 原作通りであればゆきを巡りノブユキと三角関係を繰り広げるが、アク×シオなどという色物枠が爆誕してしまった関係上、そうなるとあかねとMEMちょが取り残され下手すればBLに続きGLまでもが生まれてしまうという恐ろしい事実に気付いてしまった。
 しかしどちらか片方を選べばもう片方があぶれてしまう。図らずも究極の選択を突き付けられる形となってしまったケンゴは、藁にも縋るような思いで参考資料としてギャルゲーを買い漁るという暴挙に走る。
 しかしこの経験が後にミリオンセラーを記録する大ヒットラブソングを生み出す切っ掛けになることを、この時のケンゴには知る由もないのであった──

MEM(メム)ちょ】
 苦悩するケンゴの思いとは裏腹に、自分のチャンネルに導線を引ければそれで満足なためそこまで真剣に恋愛するつもりがない。安全圏で面白枠としてムードメーカーをやれれば満足なため、ケンゴとのカップリングはあかねに譲るつもりでいる。
 しかし肝心のあかねが恋愛劇における自分の立ち回りを掴み切れておらず、どうにも空回り気味な様子。何かアドバイスしたいが、さりとて自分もそこまで恋愛経験があるわけではない──というか全くない──ため、有効なアドバイスができずにいた。
 紫音とコラボの約束を取り付けられて大満足。

黒川(くろかわ)あかね】
 あの天才子役有馬かなをして天才と認めざるを得ない、実力派集団「劇団ララライ」の若きエース。
 しかし明確な役や筋書きの存在しない恋愛リアリティショーに大苦戦。生来の控え目で引っ込み思案な性格が足を引き、中々前に出れずにいた。
 そんな足踏みを繰り返す日々がしばらく続いたある日、所属事務所の一室で社長から激しく叱責される自分のマネージャーの姿を目撃してしまう。
 爪痕を残すぐらいしてみせろ──そう叫ぶ社長の怒声を耳にしたことであかねは臆病な自分を叱咤し、遂に本気で恋愛劇に臨むことを決意する。

 そう、爪痕を残す決意を──
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