傍に立つ君は完璧で究極のアイドル 作:カミキヒカラナイ
恋愛リアリティショー『今からガチ恋始めます』の出演者の一人であるあかねは、番組内における自身の立ち位置を未だ掴めずにいたのである。
この二人──特にゆきの立ち回りは極めて巧みだった。持ち前のオーラから視聴者の視線を集めてしまう紫音が同じ場にいる際は無理に前に出るようなことはせず、さりとて引き立て役に甘んじることもない。控え目な立ち位置でさり気なく自己を主張することに余念がなく、そのカメラ映りというものに対する深い理解は流石プロモデルと言うべき巧みさだった。
そして紫音とは別のスタジオ──大抵は静かな教室や屋上など──にいる際は積極的に自己をアピール。ノブユキとのプラトニックな恋模様を視聴者に届けることに成功していた。
ともすれば紫音から逃げているとも取られかねない立ち回りだが、それに言及する声は限りなく少数だった。これで紫音が真っ当な異性恋愛を繰り広げているのなら話は変わったのだろうが、件の阿呆は己の失敗にアクアを巻き込んで同性愛ごっこに励んでいる。故に上手く差別化ができており、アク×シオとノブ×ゆきはそれぞれのファン層を獲得し見事な棲み分けがなされていたのである。
他方、
当初ケンゴはカメラの前でのコミュニケーションが上手く行かず、あかねと同様、番組内における自己の立ち位置を掴み損ねている様子だった。
しかし何回目かの放送の際に踏ん切りがついたのか、どこかおっかなびっくりに、しかしこれまでの彼と比べれば遥かに積極的にMEMちょへのアタックを始めたのである。
MEMちょを選んだ理由は定かではない。自分より話上手な彼女に
一方のMEMちょは、放送開始直後から非凡な立ち回りの上手さを発揮し、養殖お馬鹿キャラを遺憾なく発揮したムードメーカー的立ち位置を確立していた。
何も考えていないように見えてしっかりと周囲が見えた立ち回り。ユーチューバーとして培ったトーク力。そして空気を読むべき時は読み、読むべきでない時は読まず自ら汚れ役をも買って出る類稀なるムードメーカーとしての才能。およそ高校生のものとは思えぬ熟達したスキルを縦横に活かし、ある意味でメンバー中最も
だからこそケンゴからのアプローチに戸惑う姿が際立った。いつでも笑顔を絶やさず、道化のように振る舞いつつもどこか掴み所のなかったMEMちょ。そんな彼女がケンゴからのいじらしいアタックに戸惑い、普段のキャラも忘れてタジタジになる姿に視聴者の多くが沸き立った。
そう、これもまたギャップ萌え。ケンゴとMEMちょの二人は平時とのギャップを生かすことで新たなファン層を獲得しつつあったのである。
しかし、あかねは今に至ってもまだ空気だった。
どちらかと言えば彼女は一歩下がった位置から相手を立てるタイプの少女だった。あかねに必要なのは積極的に関係を持とうとしてくる相手であり、生来控え目な性格である彼女は自ら前に出ることを殊の外苦手にしていたのである。
「お前はクビになりてぇのか! ああ!?」
その結果がこれだ。日が落ちた夜の事務所にて、日課の稽古を終えレッスン室の鍵を返却するためにマネージャーの下を訪れたあかねは、そこで怒声を浴びる己のマネージャーの姿を目撃した。
「あかねが出てるリアリティショーが人気出てるって言うから観てみたら、何だこれは!? 総出演時間十分もいってねぇんじゃねぇか!?」
そう声を荒らげるのはあかねが所属する事務所の社長である。
彼は感情のままに怒りの丈を所属マネージャーにぶつけているが、まさしく彼の言うことはあかねが思い悩み、だが目を逸らし続けていたことだった。
「チャンスだって言うのにこれっぽっちも目立ってない! マネージャーのお前がしっかり指導しなくてどうする!?」
「ですが社長……あかねも十分頑張って……」
「頑張るだけじゃ金にならないんだよ! 他にもやりてぇって言う奴が大勢いる中で選んでやったんだ!」
「──爪痕の一つでも残させろ!!」
その後のことはよく覚えていない。マネージャーと何かしら言葉を交わしたような気がするし、居たたまれなくなって自宅に逃げ帰ったような気もする。
机上の照明だけが点いた薄暗い自室で涙を零しながら、あかねの脳裏には社長の怒鳴り声だけがいつまでも反響していた。
「わ、私が不甲斐ないから……」
社長を怒らせてしまった。マネージャーに辛い思いをさせてしまった。
あかねとて頭では分かっていたのだ。このままではいけないと。あの名物プロデューサー鏑木Pの肝入りである恋愛リアリティショー『今ガチ』は本当に競争率が高く、あかねが出演できたのは奇跡に近かった。それはあかねという女優の才能と将来性を事務所が高く評価してくれた何よりの証明である。
「頑張らなきゃ……」
なのに、その期待を裏切った。それが悲しくて、悔しくて、何よりこうなるまで放っておいた自分自身が一番許せなかった。
「頑張って……」
「爪痕、残さなきゃ」
あかねが目をつけたのは、当然と言うべきか紫音だった。
ノブ×ゆきもケン×メムも人気だが、メンバー全員が並んだ際に一番目立つのはやはりアク×シオ……紫音の存在である。
紫音が画面に映った瞬間、一気に場が華やいだような錯覚さえ覚える。抜群のビジュアルに、思わず目を奪われてしまう圧倒的なオーラ。そして、見る者の悉くを魅了する星の輝きを湛えた
まさに魔性だ。嫉妬すら抱けない、憧れることすら憚られる天性の美貌。初めて会った時、あかねは紫音を同じ人間だとは思えなかった程である。
その紫音と並び立ち追従できる星野アクアもまた並外れたビジュアルの持ち主だ。だがやはり紫音と並べば明確にオーラ負けする。やはり『今ガチ』の中心人物と言えるのは紫音を置いて他にない。
故に、あかねは紫音と積極的に関わっていくことを決意する。否、関わるなどと生温いことを言ってはいられない。
自分が紫音と釣り合っているなどと思い上がるわけではない。だがそれを恐れて尻込みしていたのでは今までと全く同じだ。そういう後ろ向きな考えでいたから今の惨状がある。現状を変えたいのならば今まで通りではいけない。
番組に爪痕を残す。そのためにはアクアからそのポジションを奪うぐらいの気概がなければならない。でなくば紫音とのカップリングなど夢のまた夢だろう。
「ねえ、シオン君──」
あかねはこれまでの人生で一番かもしれない勇気を振り絞り、輝ける瞳の少年に声を掛けた。
【悲報】あかね、薔薇の間に割って入る間女と化す【アク×シオ民大激怒】
3:推し活の名無し ID:QihxNRiG4
BLの間に女挟んだら売れたわwww
4:推し活の名無し ID:GLX/SxAcj
ガッ……ガイアッッッ
5:推し活の名無し ID:0rh5GA+9D
なっ……なんで……
8:推し活の名無し ID:PAJkD/ZeT
何でも何も当たり前なんだよなぁ
10:推し活の名無し ID:Yt7FPnblg
売れたんじゃなくて炎上したんだよなぁ
12:推し活の名無し ID:yAL0ltr7x
はーほんとマジ……空気読めよ
15:推し活の名無し ID:8RrLpcqCZ
勘違い女がよォ
17:推し活の名無し ID:NFuzQPTpr
腐女子イライラで草なんだ
20:推し活の名無し ID:ft+StayL8
でも確かに急すぎてちょっと違和感だった
これまであかねってシオン様となんか関わりあったっけ
22:推し活の名無し ID:qZBLDvsNL
ない、シオン様はおろか他のメンツとも碌に関わりない空気状態だった
24:推し活の名無し ID:i/tWGhSe2
焦っちゃったのかねぇ
25:推し活の名無し ID:1WzSruTMj
それにしても相手は選べよとは思う
28:推し活の名無し ID:CAOA+cYtt
それな、やるなら他のカップリングに割って入った方がまだマシだった
31:推し活の名無し ID:lQYVF5/2g
あんな女がシオン様と釣り合うわけねーだろーが
32:推し活の名無し ID:uNxq2mqk/
シオン様と並んで恥ずかしくないのなんてアクア君ぐらいだよね
34:推し活の名無し ID:F8DDmErwD
やたらとシオンを持ち上げる風潮あまり好きじゃないけど、確かに二人並ぶと不釣り合い感が際立つよな
34:推し活の名無し ID:ek78zmjgh
持ち上げて何が悪い、カリスマやぞ
36:推し活の名無し ID:DJa3BMKGT
あーあ、せっかく美少年同士の絡みが見れて目の保養だったのに勘違い女のせいで台なしだよ
38:推し活の名無し ID:K4qm3PYL2
あかねマジ邪魔
39:推し活の名無し ID:U5mBmRWGd
そこはアクア君の席だろーが
41:推し活の名無し ID:EuZIUP3g2
そこ代われ
43:推し活の名無し ID:DcBjOZrlp
女が映ったらそれはもうBLじゃねーんだよ
44:推し活の名無し ID:o3AiZ+ci6
>>41 おいなんか裏切り者が混ざってるぞwww
46:推し活の名無し ID:slBKiBc7h
>>41 BL警察だ!
48:推し活の名無し ID:zboTfIeCB
>>41 薔薇園を荒らす間女に氏の鉄槌を!
49:推し活の名無し ID:BKUrnlrNR
BL厨こわ……戸締りしとこ
50:推し活の名無し ID:gpKcRZbqZ
うるせぇそういうお前らだって百合の間に男が挟まったらキレるだろーが
53:推し活の名無し ID:midnCvSZL
は?
56:推し活の名無し ID:wEe41fjVM
そんなの“戦争”ですが?
58:推し活の名無し ID:F72Dr+mhP
当たり前だよなぁ?
61:推し活の名無し ID:jDc4dts79
百合厨も薔薇厨も本質は同じなんやなって
64:推し活の名無し ID:cB++X3THU
そう考えるとあかねを叩く女どもの気持ちも分からなくもないような……
67:推し活の名無し ID:Fd0dwwCgv
どうせお互い相手より自分達の方がマシって考えてるんだぞ、俺は詳しいんだ
68:推し活の名無し ID:fqK7dRTJg
ノンケのワイ、高みの見物
69:推し活の名無し ID:AYttpFEOi
実際のところあかねは普通の男女間恋愛をしようとしてるだけで、そこまで責められるようなことしてるわけじゃないのでは
71:推し活の名無し ID:dO7MiPoLV
あかねが本当にシオン様と釣り合ってたらこんなに燃えてない、顔もオーラも何もかも不釣り合いじゃん
73:推し活の名無し ID:g84z8HYqR
なんというか、説得力がないんだよね
これまでこれといった関わりがあったわけでもないし
74:推し活の名無し ID:FyWjzdmU7
撮影外で何かあったとか?
77:推し活の名無し ID:95z8lECja
それこそ視聴者の知ったことじゃないだろ
78:推し活の名無し ID:G0m1xMRfL
完全に視聴者側の需要とはズレてるんだよな
81:推し活の名無し ID:W/b+7fta1
アクアとの仲はあくまで視聴者の需要に応えた営業的なやつに過ぎなくて、実は裏であかねとよろしくやってたとか?
82:推し活の名無し ID:fLXXUVbX4
>>81 やめろやめろ!
84:推し活の名無し ID:WDpy6AAel
>>81 なんだろう、軽率に脳を破壊するのやめてもらっていいですか?
86:推し活の名無し ID:y03OQF4mi
>>81 想像しただけでゲボ吐くからやめろ
87:推し活の名無し ID:N+8MCD/JQ
アクアはキープ君で本命はあかねということか
88:推し活の名無し ID:3v5H+LVP5
シオン両刀説
91:推し活の名無し ID:pNtGK9CQy
純粋そうな顔してとんだ悪女だぜ
92:推し活の名無し ID:XWlVAgU/x
男なんだよなぁ
94:推し活の名無し ID:xyEwSoMvH
ぶっちゃけ画面外でどんな関係があろうがどうでもいい、シオン様とアクア君の間に本当に恋愛感情があるかなんて分からないわけだし
結局のところ問題なのはシオン様とあかねがあまりにも釣り合ってないってことでしょ
96:推し活の名無し ID:RJVhGBOmI
それ
98:推し活の名無し ID:qtAHmDzXP
単純に見てて面白くないんだよね
99:推し活の名無し ID:0hyp2WKrG
あかねも無理してるの丸わかりでなんというか痛々しい
100:推し活の名無し ID:6HtS7Kx2i
せめてMEMちょにしておけば……
102:推し活の名無し ID:uE9RzLt41
ケンゴじゃなくて?www
105:推し活の名無し ID:j4yagpptm
薔薇があるんだから百合の花も咲かせなきゃ釣り合いが取れないでしょーが!
107:推し活の名無し ID:LfMG9s3rf
男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの
109:推し活の名無し ID:sAGyk2ft5
百合豚はキモいから黙っててくんねーかな
111:推し活の名無し ID:6HtS7Kx2i
>>109 は? BL厨に言われたくないんですけど
113:推し活の名無し ID:sAGyk2ft5
>>111 あ?
115:推し活の名無し ID:6HtS7Kx2i
>>113 お?
117:推し活の名無し ID:eVrNkwMMn
しょーもないことでケンカすんなやwww
118:推し活の名無し ID:UIbKFcf+i
争いは同じレベルの者同士でしか発生しないとか何とか
121:推し活の名無し ID:juaNU/rPC
言うてあまりにシラけるようなら番組側からストップ掛かるでしょ
124:推し活の名無し ID:USx8B2nMS
いやいや、そこに口出ししたら“リアリティ”ショーじゃないでしょ
シラけようが何だろうが番組側は放置するはず
125:推し活の名無し ID:JTLw/ltLG
そういや撮れ高欲しさにヤラセが横行してたのがバレて過去大炎上して、それからは出演者の自主性に任せるようになったんだっけ
126:推し活の名無し ID:T8PqlzK6u
そうそう、だからよっぽどのことがない限り番組側は関与しないはず
今回のあかねみたいに炎上しようがね
127:推し活の名無し ID:x5PKT/fSj
ちなみによっぽどのことって?
128:推し活の名無し ID:k0cVbDIey
そりゃ番組放送中に出演者が自殺しちゃったりとかでしょ
130:推し活の名無し ID:xs6ZqbHhg
あー……
131:推し活の名無し ID:EZr2Xf03n
恋愛リアリティショーと自殺問題は切っても切れないからねぇ
132:推し活の名無し ID:NI/O/E6k/
え? あかね自殺しないよね?
133:推し活の名無し ID:EnocKAKJc
薔薇園荒らした結果炎上して自殺とか不名誉すぎるwww
「私、もう『今ガチ』やめたい……」
教室を模したスタジオであかねさんが涙混じりの弱音を零す。メンバーはそれに同情の眼差しを送り、そもそもの原因となった僕はそっと目を逸らした。
ちなみに現在カメラは回っていないので安心されたし。
『うわー、あかねちゃんバチボコに燃えてるねぇ。それも大炎上! って感じじゃなくて、特定層からのヘイトがすごいって感じ!』
スタッフの目がないのを良いことにアイは僕の背中に隠れてスマホを弄り、今回の件におけるネット上の反応を確認している。
今回起きた炎上は、アイが言った通り特定層……僕とアクアの絡みを楽しんで見ていた層からあかねさんがヘイトを買ってしまったことに端を発している。
そしてそうなった原因は、あかねさんが積極的に僕に話し掛け、関係を持とうとアプローチをかけてきたことにある。それがアク×シオの支持層からの怒りを買う結果になってしまったらしい。
問題はその特定層の声が大きく、思いの外数が多かったことにあった。するとその目立つ声に便乗する輩が徐々に増えていき、やがて燃え広がって炎上へと発展したのである。
「私だって良い反応が貰えるなんて思ってなかったけど……お邪魔虫なのは分かってたし……それにしたって間女とかBLに挟まる女とか薔薇を枯らす女とかMMFとか呼ばれるのは嫌すぎるよ……こんなデジタルタトゥーはいやぁ……」
「不名誉すぎる……」
「BLにしろGLにしろ、そういう界隈の人は関係性に割って入る存在に敏感だからねぇ……」
しゃくり上げるあかねさんをゆきさんとMEMちょさんが慰めているが、確かにどれもこれも色んな意味で不名誉な渾名ばかりである。これなら直接的な罵倒の方がまだマシなのではないだろうか。
「……こういうSNSはあまり詳しくないんだけど、これって僕から何か言えば鎮静化したりしない? 一応? 僕のファンみたいだし、もしかしたら静かになってくれるかも……」
「やめろやめろ。俺もそこまでツイッターとか詳しいわけじゃないが、こういう炎上系は放置が一番って相場が決まってるんだよ。下手に反応すれば火に油を注ぐだけだ。たとえお前の言葉であってもな」
絶対に反応するな、と念を押すアクア君。
釈明や謝罪、それらは炎上対策としては下の下である。まして謝罪など以ての外。明確にこちら側に非があるならいざ知らず、今回の件に関して僕やあかねさんに明確な非は存在しないのだから、鎮火するまで無視を決め込むのが最上の炎上対策……なのだそうだ。
「今の時代、ネット関連……特に炎上に関する知識は普通事務所側から教育が入るものだが、紫音は現状フリーのアマチュアだからな。良い機会だし覚えておけよ」
「うん、分かった」
『はーい!』
「だから差し当たっては、ストレスに負けてうっかり変なことをSNSに呟いたりしないよう……あかねのメンタルケアに努めるのが最善かな」
言われてベソをかくあかねさんを見る。
彼女がこうなった原因は僕にあると言っても過言ではないだろう。そもそも僕がアク×シオなどという意味不明なカップリングを生み出さなければ、あかねさんもわざわざ割って入る必要はなかった。何せ『今ガチ』のメンバーは男四人の女三人という奇数人構成。普通にしていれば女性側が余るという異常事態など起きよう筈がないのだから。
「その、ごめんね、あかねさん。僕が最初に変なことやらかしちゃったせいで……」
「ううん、シオン君は悪くないよ……! 私、焦っちゃって……私が不甲斐ないせいでマネージャーも事務所から叱られちゃって……どうにかしなきゃって……っ」
うわ、予想以上に深刻な話が出てきた。
確かに所属タレントが問題を起こしたり番組等で結果を出せなかったりすれば、それはマネージャーの監督責任と言えるのかもしれないが……責任感の強い彼女のことだ。彼女はそれを自分の責任に感じたことだろう。それであのような少し強引にも感じるアプローチに繋がったというわけだ。
「……ごめんね。シオン君にもアクア君にも迷惑かけちゃった」
「迷惑だなんてとんでもない。むしろあかねさんから話し掛けに来てくれて、僕は嬉しかったよ」
『嬉しかったの?』
──心臓に悪いから、急に真顔で視界に映り込んでくるのやめてくれませんかねこの幽霊は。瞳孔開いてるわ、星の虹彩は黒く染まってるわで軽くホラーである。
『やっぱりシオンも男の子なんだねー。若い子に言い寄られて嬉しかったんだねー』
ドロドロと謎の情念を垂れ流し始めたアイを努めて無視する。
というかアイは僕がこの仕事受けた理由を忘れたのだろうか。 映像系の経験を積むというのが第一として、もう一つに同世代と恋愛する感覚を思い出すという理由があった筈なのだが。何なら言い出しっぺは彼女の方だったと記憶しているのだが。
「でもどうして僕に? ノブユキ君やケンゴ君みたいに真っ当な異性恋愛してる方に声掛けた方が丸く収まったかもしれないのに」
一人の女性、または男性を巡っての三角関係というのは男女間恋愛のスパイスとしては王道だ。視聴者からの需要は十分見込めるだろうし、わざわざ奇数メンバーで組んだ番組側の意向にも沿うものだろう。
なのに何故、敢えて特殊な関係性を築いてしまった僕とアクアの方に絡みに来たのか。
「そんなのできないよ……! 私なんかがゆきとノブ君のあまあま空間に割って入ったり、一生懸命頑張ってアプローチしてるピュアピュアなケンゴ君の邪魔するなんてできるわけない……!」
「は、はあ!? だだだ、誰があまあまな恋愛してるって!?」
「そ、そうだぞ! 無理に頑張ってもないしピュアピュアでもない! このぐらい普通だ!」
実はあかねさん割と余裕あったりする?
いや、まあ、普通に介入しやすい方に介入したというだけの話だろう。端から同性愛なんてアブノーマルなことやってる僕らの方が、他二組に介入するより罪悪感が少ないというあかねさんの主張は当然のものだと思う。
それに僕にとっても都合が良い。先ほど言った“嬉しい”という言葉は慰めのための放言ではなく、本心からの言葉だった。
それは「恋愛のリハビリ」という僕個人の目的もさることながら、そもそも「アク×シオという関係は長続きしない」という根本的な問題があるからだ。
何故なら僕もアクアも普通に異性愛者である。今は“普通以上に仲の良い男友達”程度の距離感でお茶を濁しているが、これから更に話数が進めば視聴者は恐らく
流石にそこまで踏み込んだ同性愛は僕もアクアも無理だ。いや、役者であるアクアは演技としてならできるかもしれないが、役者経験皆無な僕にそんな真似は無理である。
というかそれ以前に、何が悲しくて
アクアにアイコンタクトを送る。すると僕の視線に気付いた彼は即座に頷いた。
お互いにあるのは「黒川あかねを逃がしてはならない」という共通認識。そう、彼女こそがこのアク×シオなどという戯けたカップリングに終止符を打つべく舞い降りた救世主なのだ。
「あかね」
キリッと表情を引き締めたアクアが真剣な声であかねさんの名を呼ぶ。顔を上げた彼女を真っ直ぐ見据え、彼は説得を開始した。
「あかね、お前は何も間違っていない。ただ恋愛リアリティショーという番組の趣旨に沿った行動を取ったというだけだ。何も責められるようなことじゃない」
「アクア君……」
「だってそうだろう? 女そっちのけで野郎同士つるんでる方がよほど番組の趣旨を無視してる。たまたま一部の視聴者からのウケが良かったから何も言われなかっただけで、俺と紫音の関係性は制作側の思惑ってのを蔑ろにし過ぎてるんだよ。コンテンツとファンの解釈不一致ほど不健全なものはない。遅かれ早かれ破綻していたことだ」
その通り。このまま続けばアク×シオなど早晩破綻していた虚構のカップリングに過ぎない。そんなものを後生大事に抱えていたところで何になるというのか。
「あかねさんはそんな破綻の見えた流れに一石を投じてくれたんだよ。視聴者の声という後押しを受けた流れは僕とアクアの力だけでは止められなかった。それを身を呈して止めようとしてくれたあなたに、僕はとても感謝しているんだ」
「シオン君……」
「さっきは僕らに迷惑かけたなんて言ってたけど、むしろ迷惑を掛けたのは僕の方さ。番組として正しいことをしたあなたが責められるような流れを生み出してしまった僕が悪い」
ほんとにね。僕がアホなことしでかさなければ、あかねさんがこんなに苦労することもなかっただろうに。
「それにこんな一生懸命で頑張り屋な女の子に話し掛けられて嬉しくない男なんていないんだから、あかねさんはもっと自分に自信持って良いんだよ」
「へ……?」
「責任感が強くて何事にも一生懸命なのはあかねさんの美点だ。僕はそれを好ましく思う。だからもっと自分に自信を持って、良ければこれからも仲良くしてほしい。もっとあなたの話を聞かせてほしいんだ」
「え……えええ!?」
いつも番組中に僕と話す際にオドオドしていたのは緊張してたからだろう。さきほど言っていたような罪悪感など抱く必要はないし、緊張なんて以ての外。もっと普通の友達のように、どうか気安く接してほしい。
何事もなかったかのように平然とこの関係を続けること。きっとそれが最善の炎上対策であり、アク×シオを自然消滅に導く最適解なのだ。
「ナチュラルに口説きにかかってる……」
「収録中にやれよそれ……」
「アクたんも必死だぁ……」
外野が何か言っているが知らん知らん。こちとらアク×シオを亡き者にするため必死なんだ。
「やめるなんて言わず続けようぜ! 俺達全員揃っての『今ガチ』なんだからさ!」
そして僕やアクアのような変な思惑のないノブユキ君の熱い一言が後押しとなり、あかねさんは涙を拭いつつ頷いた。
「わかった……私、頑張る。頑張って『今ガチ』続けるよ!」
こうしてあかねさんは何とか番組に留まってくれることになり、『今ガチ』の収録は変わらず続いていくことになった。
しかしメンツは変わらずとも関係性は変化する。中でも一番大きくポジションを変えたのはやはりアクアだろう。彼は僕の親友という立場からあかねさんの恋路を応援する、
アク×シオの片割れとして番組中でも目立つ位置にいたところから突然の引き立て役への降格には番組内外から様々な声が上がったが、あくまでアクアは満足げだ。「こういう安全圏でやり過ごせる美味しいポジションこそ俺が求めていたものだ。最高すぎる」というのが本人の弁である。
そしてあかねさんはアクアの助言を受けつつ僕との関わりを続けていくことになる。アクアとの関係もあった手前、僕が急にあかねさんに夢中になるのは不自然に映るためどうしても僕が受け身にならざるを得なかったが、こちらも「シオ×あか」として徐々に番組内での立ち位置を確立。少しずつではあるがファンを獲得することに成功するのだった。
だが今回の一件で生まれてしまったあかねさんのアンチとでも言うべき一部の者達は、僕やアクアのみならずあかねさんまでもが無反応だったことで拳を振り下ろす先を見失い、今度は「あかねとシオンは不釣り合い」だという主張を主軸に再びその声を大きくしつつある。
やはり炎上とはそう簡単に鎮静化するものではないらしい。彼らは新たな火種を得て再び炎上の兆しを見せようとしていた。
【
戦犯。コイツが変なことしなくともあかねは原作通りの流れで炎上していたが、別方向に不名誉な炎上の仕方をしたのは大体コイツのせい。
あかねへの口説き文句は概ね本心。それはそれとしてアク×シオ解消のためという意図が強く、あかねを異性として見ているわけではない。
【
タッチペンを器用に使って幽霊の身ながらスマホを使いこなす。ルビーのように掲示板でレスバはしない。
あかねと恋愛劇をするシオンには内心複雑な思いを抱いているが、
【
ノブユキとあまあまな恋愛を繰り広げる。原作のような小悪魔キャラではなく、より清純なキャラクターを売り込む方向で着実にファンを増やしている。
お前もノブ×ゆき最高と言いなさい。
【
裏表ないけど味のあるヤツ。マジで裏表ないため吐き出す言葉は全てが本音。ある意味で作中で一番ピュアな男であり癒し枠とも言える。きっとその真っ直ぐさがゆきの心を射止めたのだろう。
お前もノブ×ゆき最高と言いなさい。
【
皆様ご存知の通りアイドルへの未練が捨て切れないため恋愛する気は微塵もないが、それはそれとして年下イケメン男子からのピュアピュアなアプローチにタジタジ。
正気に戻れ年齢差八歳だぞ。
【
様々な資料()を参考にした結果、やはり男なら一人の女性を真摯に見るべきだと思い直しターゲットをMEMちょ一人に絞る。ここであかねを選んでいれば丸く収まったかもしれないが、話し下手×2という組み合わせは画面映え悪過ぎてリスクが高かったため、結果的には正解だったのかもしれない。
断じてピュアピュアではない、俺はバンドマンだ、と本人は容疑を否認している。
【
アクアに続く『今ガチ』被害者枠その二。「あかね」と検索するとサジェストに「間女」や「ガイアッッッ」が候補に出てくるようになってしまった可哀想な子。一時はあまりに不名誉なデジタルタトゥーに尊厳を破壊され心折れそうになったが、紫音とアクアの熱い()説得によって何とか持ち直した。
しかしネット上の批判意見を全て受け止めようとする真面目過ぎるところは改善されておらず、シオ×あか否定派の意見にもしっかりと目を通してしまう。その中でも特に多い「釣り合わない」という旨の批判意見に心を痛め、それは徐々に彼女の心に影を落としていくこととなる──