Black Dog White Knight~黒狗と白騎士~ 作:大正望
淹れなおした茶を一口飲み、吹雪が小さく息を吐く。そうしてしばらく天井を眺める。
「さて、どこから話すべきか」
「それは最初からだろう」
「そうよそうよ。私たちの出会いからよ」
姦しく口を挟む二人に苦笑して、吹雪は向き直る。
「そうだな。もうリンクを通した記憶で大体察しはついているだろうが、俺は……この三人と赤銅すずめは桜国の貧民街の出だ。そこでアーバン・レジェンドに誘拐され、魔術機動歩兵としての手術を受けた。後年君が解決する事件の話だな」
頷く。リンクで伝わってきた記憶と違いはない。とはいえそれは全てではなく、大まかなものでしかない。リンクで伝わってくる記憶とは理路整然としたものではなく、感情の起伏によって虫食いのように伝わってくるものだ。
ゆえにこうして改めて言葉にされると、子供を誘拐するという犯罪に対する憤りが吹き上がってくる。それは貧民街を調査しているとき、死んだ子供を棄てている闇医者を見つけた瞬間に感じた怒りと同じものだ。
リンクを閉じていてもそれが伝わったのだろう。吹雪が宥めるように首を小さく振る。
「アーバン・レジェンドは非合法組織でありながら……いや、だからこそか。非合法組織であるがゆえに適応手術に様々なコンセプトを掲げていてな。俺とすずめの場合は人体にどれだけ大きな結晶が適応するか、だった」
立ち上がって軍服を脱ぎ、シャツのボタンを外す。軍人として鍛えられた身体の中央、心臓の真上に埋め込まれているのはこぶし大ほどの大きさもある結晶だ。
シロガネを初めとして、人体に埋め込まれる一般的なものは人の親指ほどであることを考えれば、それこそ規格外の大きさである。
魔術結晶は人体に魔術神経を生成し、生体や大気から取り込んだ魔力を神経に注ぎ込んで人に魔術という強大な力を行使させる。
理論上としては大きければ大きいほど扱える魔力も大きくなる。だがそうすれば身体への反動も強くなるし、魔術結晶から注がれる魔力を扱いきれなくなれば魔術神経が焼き付き、生体細胞そのものに傷がついて死に至る。そういった事実は初期の治験結果によって明らかになった事実だ。
それに照らし合わせれば、吹雪に埋め込まれているのはあり得ないほどの大きさになる。少なくとも正規の手術では絶対に行われない。
だがむしろその大きさを忌むべきものとして、すぐに服を着直して隠す。
「何人もの失敗を経て、俺とすずめにはこの大きさの結晶が適応し、それが人体に耐えうる最大の大きさだと結論づけられた。訓練で俺の兵装、黒狗の動きに惑わされた時があっただろう? あれを制御できるのはこの大きさがあるからだ。この大きさによって行使される多量な魔力の大部分を、知覚や感覚の制御に回している」
人が扱う魔術の代表は魔術機動歩兵となるための魔術機甲、いわゆる兵装やお互いを繋げるリンクだが、その他であれば肉体そのものや思考の強化も一般的だ。そしてそれは扱える魔力が多ければ多いほど効果が高くなる。
一見無軌道でありながらも制御されたあの戦闘機動は、この大きさがあってこそだったのだ。
あの日、リンクで伝わったものが本人の言葉でどんどん形になる。それは不思議な感覚であり、子供の頃に読んだ曖昧な話を思い出すような、いわば既視感を事実にするような体験だ。
「私たちは双子に対する同一結晶を使用した実験だ。吹雪と違って私と燐に埋め込まれている魔術結晶は一般的な大きさだが、元はその倍の大きさである魔術結晶が二つに分割されて埋め込まれている。それにも沢山の失敗があったし、成功したところでそのデータがなんの役に立つかも分からない。私たちからすれば、面白半分に行われていたとしか思えない」
「そしてそれを主導していたのが新道というあの男。博士と呼ぶのもおぞましいぐらいに、醜悪な人間よ」
蓮と燐が言葉を継ぐ。どこか掴み所のない二人が、はっきりとした嫌悪の感情が浮かびあがらせていた。
ただ、同時に二人の浮き世じみた仕草にも納得する。おそらくその魔術結晶の影響でこうした振る舞い、そして吹雪の言う規格外の戦力を持つに至ったのだろう。
「適応した後はお決まりの訓練だ。適応した俺とすずめと連兵を組んでリンクをして、そうして同じように適応したこの二人や他の子供たちとひたすら訓練とデータ取りをさせられた」
「訓練というか、ほぼ殺し合いだな」
「そうね……常に全力、限界まで魔力を絞り尽くさせられていたから。できない子たちから死んでいったわ」
吹雪からリンクで伝わってきた記憶はその言葉を証左している。年端もいかない子供に常に全ての魔力を振り絞らせる。それは想像以上の影響が出る。
魔術結晶が発見されて以来、魔力というのは大気と魔術結晶という鉱物、そして生物の体内に偏在していると定義されている。大気中にあるものを消費しても影響はないが、生体にある魔力を消費しすぎると生体活動そのものが鈍くなり、人間であれば酷い頭痛や目眩、意識の混濁などを引き起こす。そして、使い尽くせば死に至る。それは魔術神経の焼き付きとは別の意味での危険である。
ただ、それを耐えることができたなら体内の魔術神経が強化されていくこともまた証明されている。個々人における魔力の総数自体は変わらないが、魔術神経の強化により消費の効率化ができるようになるというものだ。
吹雪とすずめ、そして燐と蓮があれほどまでに強力な魔術機動歩兵であるのは、そういった経験があるからなのだろう。
幾度も幾度も魔力を使い切り、そのたびに死の淵から這い上がったがゆえの、極限まで研ぎ澄まされた魔力消費の効率化。それが彼らの強さに他ならない。
「訓練じゃない時間は常に四人一緒の部屋に押し込められ、リンクを全開にさせられていた。おそらく、どこまで繋がることができるかという実験もあったのだろう」
「私たちは双子で同一の魔術結晶を使っていたから特にだな。最初の頃は大変だった。お互いの思考が溶けあいそうになって、実は私が燐なんじゃないかって認識が混同したり」
「そうだったそうだった。たまーに二人で全く同じことをやってたりね。あれは怖かったわね」
あっさりと言ってのけるが、それはリンクを行う上で危険な状態であることを示している。
リンクを行う際に一番注意を促されるのが感情と記憶の混濁である。あまりにもリンクに依存しすぎると相手の感情や記憶に引きずられ、自我が曖昧になる。
統合軍ではそうならないように定期的に精神鑑定や医者によるケアを行っているが、違法組織であるアーバン・レジェンドがそんなことをするはずもなく、むしろ限界を見極めるために促進さえさせようとした。
「そのたびに吹雪が呼び掛けてくれてね。君は蓮ちゃんだよ、君は燐ちゃんだよってね。お陰で狂ってしまわずにすんだわ」
「そうねえそうねえ。あの時の声は今でも思い出せるわ。だというのに大人になって統合軍に入ったらこんな他人行儀になっちゃって。私は哀しいわ……ああ……」
「軍で他人がいる中、くだけた態度をとるわけにはいかないでしょう」
あからさまな嘘泣きに顔を顰めると双子は楽しげに笑う。これが彼らの、彼らとすずめがアーバン・レジェンドで過ごしていた光景だったのだろう。
そうして自分を保っていたのだ。あるいはそれは、擬似的な家族として耐えてきていたのかもしれない。
その辺りの記憶も断片的に吹雪からのリンクでシロガネへと流れ込んでいる。
「毎日が殺し合いのような中で、俺たちが繋がりを得ていくのは当然だったよ。新道たちにとって意外だったのは、早々と死ぬだろうと目されていた俺たちがしぶとく生き残り続けたことだろう。S・025、
複数の魔術結晶を埋め込まれた子供、三人、四人と多数のリンクを繋げられた子供、胸ではなく頭に魔術結晶を埋め込まれた子供。沢山の子供が実験体にされ、そうして簡単に死んでいった。死体から魔術結晶を取りだして、用済みの身体は乱雑に棄てられる。そんな光景が日常茶飯事だった。
シロガネからすれば唾棄すべきような凄惨な行為がいとも平然と行われていた。伝わってきた記憶を改めて言葉で認識して、知らず拳を握りしめてしまう。
「そうする内に俺とすずめ、燐と蓮はアーバン・レジェンドの中で特筆すべき戦闘力を持つようになった。それが才能かどうかは分からないが、俺たち四人はお互いの戦術が特に噛み合っていたからな」
無軌道な機動でかき乱す吹雪と全方位から正確無比な射撃を行うすずめ。同一の結晶を使うがゆえに完璧な連携を行い、ただ強い燐と蓮。経験を積めば相手がいなくなるのも当然だ。
そうして同時にこの三人が若くして序列の三位までを占めている理由を理解する。吹雪たちはただ普通に士官学校で学び、配属されたのではない。
この三人は正式に任官されたときから何年もの経験を持つ歴戦の兵士だったのだ。
「そうすれば当然脱走の思惑も出てくる。奴らも何年も大人しく従っている俺たちに油断していたんだろうな。監視はあったがたった一度だけ、それをかいくぐるのは難しくなかった。それでも当然追っ手は厳しく、どちらかでも逃げ切れるように連兵同士で逆方向に逃げ――」
言葉を区切って後悔を乗せた深い溜息を吐く。それだけは強く流れ込んできていた、吹雪とすずめの別れのやり取りが脳裏に浮かぶ。
「追っ手の多かったこちらははすずめを守りきれず、俺は一人で逃げた」
「それ、は……それは違うでしょう。あなたの記憶には――」
「同じことだよ。経過がどうあれ俺はすずめと一緒に逃げられず、残されたすずめはああなってしまった。それは俺がやってしまったことだ。俺が防げなかったことだ」
シロガネが垣間見た記憶は包囲した追っ手にすずめが自ら向かっていき、機動力で勝る吹雪だけを逃がしている。その時の状況も、会話も、まるで自分のもののように思い起こせる。だが、吹雪はそう思っていない。
なにかを言うべきだ。でも、それがなにかが分からない。
他人の記憶を自分のもののように語れるという経験に、シロガネはただ歯がみするしかない。
「その後は略歴に書いてある通りだ。俺も燐たちも統合軍に拾われ、事情聴取が終わった後に士官学校へ入れられて今に至っている」
気付けば沈黙が降りている。吹雪も燐も蓮もいつの間にか押し黙ってどこか遠くを見るような目をしており、机に置かれた湯飲みから漂う湯気だけが唯一の動きとなって天井へと立ちのぼっている。
不意にシロガネの中に激情が湧きあがる。なにに対してかと問われれば、全てに対しての感情だ。吹雪が新道に抱いたものでも、吹雪が自分自身に抱いているものでもない。
ただひたすら、理不尽に対する怒りだ。吹雪、すずめ、燐、蓮、そして名も知らない子供たちへ降りかかる理不尽に対する憤怒だ。
どうしてこんな目に遭う人間がいなければならないのか。なぜ、彼らがこんな目に遭わなければならないのか。現実が理想になることなどはない。いつだって理不尽はありったけの力でこちらを殴りつけてくる。二十二年の短い人生ですらそれを理解している。
でも、それでも――こんなことがあっていいはずはない。
そう思えることこそが、吹雪のいうシロガネの善性そのものだ。
その感情のままに口を開く。
「それで、黑金大尉。君はどうしたいの?」
強く問うシロガネに吹雪は顔を上げる。
「どう、とは?」
「これからどうするか、よ。すずめ……赤銅さんは生きていた。あなたは死んでいたと思っていたけれど、彼女は生きていた。酷い目に遭っているけれど、それでも生きている。それで、あなたはどうするの?」
シロガネの言葉に口を開きかけ、しかし言うべき言葉を見いだせずに閉じる。まるで迷い子のようにそれは頼りなく脆い。
今まで仮面をかぶっていたような顔からすれば新鮮にも見える表情だ。
「俺、は……俺は」
ぐるぐると吹雪の中で感情が渦巻いている。だが、それが流れ込んでくる前に初めて自分からリンクを閉じる。
これは魔術で知ってはいけない。自分の意思で伝えてくれなければ意味はない。
なんの理論も根拠もないが、そう思う。
「言って、黑金大尉。あなたの言葉で、あなたの望みを、私に言って」
「俺は……すずめを助けたい。助けて謝りたい。謝って、一緒に生きたい。すずめと、燐と、蓮と大尉と、あそこから逃げ出した四人と君と、皆で――」
ぽつりぽつりと語られるうちに知らず涙が頬を伝う。ほんの一筋、流れゆく雫は粒となって机に落ち、散らばって再び雫へとなる。
誰も笑いはしない。それが吹雪の心からの言葉だからと理解しているからだ。五度も連兵を喪い、それでも戦ってきた言葉だからだ。
「生きていきたい」
沈黙が落ちる。それが先ほどのものと違うのは、なによりもここにいる四人が理解している。
ゆえにシロガネも胸を張って口を開く。そうすることが当然だというように。
「なら、私は力を貸すわ」
自然に手を取る。強ばった吹雪の手の平をしっかりと掴む。
子供のように涙に濡れた瞳で吹雪がシロガネと視線を合わせる。
「本当にいいのか? 今までの連兵も皆、君のように力を貸してくれて……死んでいった。俺が殺した。ここまで話したのは君だけだが、だからこそ一番危険になる。本当に、本当にいいのか? 俺を……助けてくれるのか? 死ぬかもしれないのに、君が死ぬかもしれないのに。俺に殺されるかもしれないのに。連兵殺しの俺を助けてくれるのか?」
怯えたように言葉を紡ぐ吹雪へ笑ってみせると、手の中が少しだけ柔らかくなるのが伝わってくる。
「もちろんよ。言ったでしょう。これを見過ごしたのなら私は私でなくなると。腐って安穏と生きていくぐらいなら、死にものぐるいで必死に生き延びた方がいい。それが私の生き方よ。だから君が嫌だと言っても力を貸すからね」
今なら理解できる。これまで連兵をしていた者たちが吹雪を忌み嫌わなかった理由を。彼らにどこまで伝えていたのかは分からないが、それでもこんな風にすがってきている人間を突き放せるはずもない。
あるいは彼に幸運があったとすれば、そんな人間と連兵を組めたということかもしれない。
もしかすれば、それこそ伝わって来た記憶に引きずられているのかもしれない。
でも、それでも。あるいはだからこそ。シロガネは握った手に力をこめる。
「黑金大尉。あなたは連兵殺しなんかじゃない。私が、それを証明してみせる」
「……グリューネヴァルト大尉、ありがとう」
握られた手を捧げるようにして頭を下げ、微笑みながら頷く。
お互いリンクを閉じていながら、それでも今この時は確かに理解し合えている。そんな確信がある。
「気にしなくていいわ。でも、そうね。君がこれを借りだと思ってくれるのなら――」
言って、悪戯っぽく片眼を閉じる。
「私が困ったときは助けてくれると嬉しいかな」
「っっっっっ! 可愛いいいいいいいいいいい! この子、可愛過ぎるっ!」
その言葉に反応したのは吹雪ではなく、燐だ。隣から抱きつき、子供にするように身体を擦りつける。
突然の愛撫に目を白黒させているシロガネをよそに、蓮も頭を撫でながらくつくつと笑う。
「いやはや、いい連兵じゃないか。ここまで言ってくれる子はそうはいないよ」
「本当本当。吹雪、シロガネを泣かせたら私たちが許さないからね」
「いや、あの、少佐どの、私は子供ではないのですが」
「だめだめ。少佐だなんてそんな呼び方しないで、燐って呼んでいいわ。いや、呼んで!」
「私も蓮でいいよ」
相変わらずされるがままのシロガネに好き勝手に言葉をぶつける。どうしたものかと自分を見てくる彼女に、吹雪は小さく溜息を吐いて首を振る。諦めろという仕草だ。
握られていた手がいつの間にか解かれていることに少しだけ残念な気持ちを抱く。
「それで、結局二人はなにしに来たんだ? まさかグリューネヴァルト大尉を可愛がるためだけに来たんじゃないんだろう?」
少し砕けた口調に、二人は笑いながらシロガネから離れる。
「そうだな。まあ可愛がるという行為に間違いはなくもないが……その前に」
「そうねえそうねえ。私たちがここに来た理由はね、あなたたちの任務に一枚噛むためよ」
視線で続きを促すと燐は楽しそうに笑う。好意からの笑みではなく、獣が牙を剥くときのような好戦的な笑顔だ。
「新道が現れたとはいえ、基本的に受け身なのには変わりがない。なにしろアーバン・レジェンドがいつ取引……に偽装した襲撃を仕掛けてくるなんて分からないのだからな」
「でもでも、それだと面白くないわよね。というよりはあいつを捕らえられる可能性が低いわ。そもそも次もあの男が戦場に出てくるという保証もないだろうし。だからね……蓮、あれを」
燐の言葉を受けて蓮が鞄から書類袋を取り出す。だが、そこから中身は出さずにひらひらとその存在だけを示して見せる。
「私たちは独自に仕掛ける。アーバン・レジェンドに繋がりのある組織、あるいはそのものの施設を潰して回る。あの実験をしているような所から順にな。幸い、奴らの所在には当てがある。昔の記憶とこれまで私たちが独自に調べ続けた結果だ」
「そうそう。そうすれば、きっと焦ったあいつは私たちを止めようと目論むわ。そこで、私たちが取引の調査に加わるという情報を流してみせればきっと食いつく」
愉しそうに、本当に愉しそうに笑う。吹雪とは表現は違えど、それでも新道に対して煮えたぎるものがあるのは確かなのだ。
「……そんなことをして大丈夫なのですか?」
シロガネ自身、似たような案件に手を出して懲罰のように異動させられたのだ。今ではこの縁は得がたいものだと思ってはいるが、それと上層部の思惑は別だ。
ウォルフ01がそういう風に動けば必ず妨害する派閥が動く。
だがそれも二人は笑い飛ばす。
「まあなにかしら横槍は入るだろうな。でも気にしなければいい」
「そうそう。私たちはいつもそういう風に動いてきた。今さらよ」
「それを俺たちが手伝うわけにはいかないのか?」
吹雪の提案に蓮が首を振る。
「残念ながらこの情報の閲覧が許されているのは佐官クラスからでね。ついでに言えば、魔術機動歩兵が独自の行動を許されるのも、佐官からだ。それにこのことでウォルフ02が動きづらくなっては本末転倒だ。露払いは私たちに任せておけ。吹雪たちは本命を獲るために控えておくんだ」
「そうよそうよ。私たちは伊達や酔狂で昇進して、好きに動いていたわけじゃないのよ。私たちだってあのいけ好かない男の顔面に一撃を入れてやりたいんだから。これはそのための準備。あの性格からして、散々人を利用したあげくにそのデータを元にして自分を魔術機動歩兵にしたんでしょうよ。どうせ、考え得る最高の魔術機動歩兵を作り上げるとか打ち立てていたに違いないわ。腹立たしいったらありゃしない」
野放図ともいえる二人の行動には理由があったということに、言葉にこそしなかったがほんの少しだけ眼を細める。
「それを伝えるのが一つ。これは言わば新道を釣り出すための撒き餌だな」
「うんうん。そしてもう一つはあなたたちへの特訓よ」
「特訓?」
妙にアナクロな言葉に疑問符を浮かべると二人は不敵に笑う。
「新道と交戦した報告書にはあの術式を使用した後も新道とすずめはリンクを繋いでいると書いていたけれど、私たちはそうは思わない。奴に影響がないのならばなぜ口頭ですずめに指示を出していたんだ?」
「そう言われてみれば……そうでした」
あの戦場を思い出す。最初は吹雪に聞かせる意味もあったのだろうが、引き上げる際も肉声ですずめを動かしていた。あの術式が自分たちだけ除外されているなら、リンクを使えばいい。
そうしなかったというのは、あの術式は自身も対象ということになる。
「ただ新道はすずめを自分の意のままに操ることができて、それをリンクの変わりにしている。自身の指示を完全に遂行できる従者……あの男が考えそうなユニットだわ」
「ゆえにウォルフ02はあの場ではしてやられた。疑似連兵ともいうべきシステムと、すずめの能力によって。だから――」
四つの瞳が吹雪とシロガネを見据えてくる。
「特訓だ。リンクが切れていてもお互いの連携が繋がるように。あの二人を打ち倒せるように。私たちと共に戦えるように。強くなくては誰も助けることもできない」
蓮の言葉が吹雪にのし掛かり、ぶつけられた意志を噛み砕くように奥歯を食いしばる。
二人が笑う。どこか母性のようなものを垣間見せるような、柔らかな笑みだ。
「いい顔だ。統合軍に来てから吹雪のそんな顔は始めて見るかも知れないな」
「そうねそうね。でも、だからこそ私たちは本気であなたを鍛えるからね」
統合軍最強の連兵ユニットであるウォルフ01による特訓。シロガネからすれば吹雪からしてどこか遠い強さを持っているのに、その彼をして規格外と言わしめる二人が手ずから行ってくれるという。
ありがたいことである。だが、それと同時に緊張感も張りつめてしまう。
そんな二人を見て今度は艶然とした笑みを浮かべる。
「楽しみにしていてね。たっぷりと可愛がってあげるわ」
評価や感想、ここを直せばいいなど頂けるとありがたいです。