「……つぼみ~!!」
三姉妹に引っ張られつつ、何とかバランスを保っていた私は、自分の名前を呼ばれて振り向いた。
おお……! 姉だ!! 走っておる!!
……我が姉の走りはアレだね……女の子走りの中でもダントツに遅そうだね。ペンギンっぽい感じ?
……でも、よたよたと走って、ひぃひぃと息を切らせて、顔を赤くして必死な様子はかわいい! 許す!!
「おねぇ! そっちは大丈夫だった?」
「……ひぃ……ふぅ……っ、つ、つぼみのほうこそ、大丈夫だったの……!?」
まぁ、五体満足という意味では大丈夫だったのだが。
「ちゃんと魔物倒したった!!」
姉に心配をかけない妹なら黙っておくところ。だけど、私は心配して欲しいし、何なら褒めて欲しい……叱ってくれてもいいのよ?
「……えぇ……」
……ドン引きはやめてよぉ!? それは私がほしい反応じゃないのぉ!?
「……頑張ったのにぃ」
くすん、と泣いた振りをすれば、姉は、あわあわ、と慌てる。
「つぼみ、すごかった!」
「……つおい!」
「さいきょーだ!」
「……あれは惚れちゃうねぇ♡」
なつなあきほみふゆにはるかちゃんを加えた花菱姉妹四段活用。……って言うかはるかちゃん? しれっと何を言っているんですかね? 私は薫子ちゃんの恋敵になる気はないんですよ?
「……無事で、よかった……!」
……姉に、ぎゅぅ、と抱きしめられる。心配をかけたんだなぁ、と反省する気持ちもあるが、姉が私を心配してくれているという事実が嬉しい。
……それに、ちょっと走って汗ばんでいる姉のしっとりとした感じとか♡ 姉の匂いと汗の匂いが混ざった感じとか♡ いやぁ~、生きているって素晴らしい! ふんすふんす!!
「お~……つぼみ、おつかれ~」
こりすちゃんと手を繋いだキウィちゃんが、ゆる~い感じで、手を振りながらやってきた。
……姉と比して、キウィちゃんとこりすちゃんよ! 結果を知っているからと言って、心配の一つもないとかどうなの!? 私をもっと労って?
「……こりすちゃん、大丈夫だった? 一人ではぐれちゃったから心配したよ……」
「っ!」
サムズアップで答えてくれるこりすちゃん。
……いや、私はこりすちゃんがネロアリスだってわかってるからそんなもんだけど。
本当に魔物に襲われるタイミングで一人はぐれちゃっていたのだとしたら、顔面蒼白どころの話じゃないからね?
「……皆無事でよかったぁ」
はるかちゃんが、ほぅ、と息を吐いた。
「……ホントにな」
「……ねっ」
一応合流できたらしいネモちゃんと真珠ちゃんがその言葉に同意する。一応、はるかちゃんと面識のあるらしい二人だが。
……どうして私とはるかちゃんを見て複雑そうな顔をするんですかね?
「ネモちゃんたちも無事でよかったよ。……? ……それは何買ったの?」
若干よれよれでくたびれている様子の二人ではあるが、騒動前に買うものは買ったらしく、真珠ちゃんがちゃっかりと買い物袋を持っているのでのぞこうとしたのだが……真珠ちゃんの前に、さっ、と立ったネモちゃんにブロックされる。
「……これはアレだ! レコーディング用の衣装だよ!」
…………………………ほ~ん? ナニに使うか聞かないでおいてあげましょうかね~?
突っ込む私は楽しいが三姉妹の教育にも悪いしね。
「……それにしても買い物どころじゃなくなっちゃったねぇ」
建物は崩壊してはいないが、売り場は結構吹っ飛んだりしている。……私のせいじゃないよ? 魔物のせいだよ?
『~~♪ お客様にお伝え申し上げます。現在、当店は謎の悪の組織の襲撃を受けた結果、非常に危険な状態になっております。お客様におかれては係の誘導に従って慌てずに避難をお願いいたします。なお、現着したエノルミータにより、謎の悪の組織は討伐されております。魔物による襲撃はありませんので、どうぞご安心して避難していただきますようお願い申し上げます。~~♪』
……う~ん、ちゃんと今回の襲撃は別の組織だと認識されるエノルミータへの安心感よ! 何ならふつーに魔法少女扱いされている気がしないでもないが。
エノルミータは大体愉快犯というのがこの街の認識で、多少物を壊したりすることはあるが、彼女らはどちらかというと日常のスパイスっていう感じだ。基本、一般人への被害はないしねぇ……その分、魔法少女たちがえちぃ目にあうんだけども。
しかしそうだよなぁ? エノルミータじゃなければ、一般人があんな目やこんな目のえちぃ目にあうことになるんだよなぁ……なつなたちがそういう目にあうのは、ちょぉ~っと許せんなぁ?
……おそらくはクリーチャーどもが暗躍しているのだろうけども。何らかの対策は必須か……どうしてくれようかな?
……避難誘導に従って移動しながら、私はそんなことを考えていた。
◇◆◇
建物の中には結構人がいたらしい。
避難した人たちは帰路についている人が多いが……。
「う~ん……私たちは今日はここまでかなぁ。……夕ご飯の材料を商店街で買って帰ろうか」
三姉妹は、ぶ~ぶ~、と不満を言っているが、それでもはるかちゃんの言葉には従うようだ。はるかちゃんと手を繋いだり、はるかちゃんのズボンを引っ張ったりしながらも、それ以上の駄々をこねることはなさそうだ。
ばいば~い、と手を振って、四人を見送る。
「……私たちはどうしようか……?」
「……そうねぇ……」
姉が頭を悩ませ、同じように真珠ちゃんが、う~ん、と考えている。
「……☆」
ちなみに我らが姫は、いつの間にかゲットしたらしいオモチャを楽しそうに抱えている……って、さっき使ってた、クトゥグァとイタクァじゃないですか、ヤダ~!?
「……こりすちゃん……それちゃんと買ったんだよね……?」
万引きはダメですよ? あ、一応、買ったのは買ったのね……どのタイミングで、って、一人で行方をくらませたとき? てっきり行き当たりばったりでその辺にあったオモチャを使ったのかとも思ったけど……こわぁ……こりすちゃん的には、ソレらを使って私が無双するのは既定路線だったわけでしょ?
……襲撃されそうだ、と気づいたあのタイミングでそこまで考えていたのだとしたら……。
「……やっぱりこりすちゃんは魔性の女だぜ……」
「♡」
くすり、と親友が微笑む。
改めて、絶対に敵に回したくないなぁ、と考える。
「あっ、そう言えば、アタシ、いいもん持ってるぜ!」
きら~ん、とキウィちゃんが取り出しのは…………スパの優待券?
「これ持ってけば、半額だぜ~? どうよ?」
「スパ! いいじゃない!!」
「あ~……スパかぁ~……」
「……スパなぁ……」
反応は大きく二つに分かれた。
スパとか最高じゃん、という美意識高い勢、キウィちゃんと真珠ちゃん。
……でも、裸を見られるの恥ずかしいし……、という羞恥勢、姉とネモちゃん。
……私? 私は美意識は高くないけど、サウナとお風呂上りの牛乳大好き勢。
……こりすちゃんは……にやぁ、と大きく笑みを浮かべている様子から察するに、別に好きとか嫌いとかないけど、
「私、ちょっと汗をかいたから、お風呂入りた~い!」
姉とキウィちゃんと……ついでにこりすちゃんから、『ちょっと……?』とか変なものを見るような視線を感じるけど、私的にはちょっとである。何ならカバディの方がキツイし。
「あ~、でも私もちょっと埃っぽいかも……でも下着がなぁ」
「アタシ、持ってるよ、うてなちゃん?」
「……う、うん? いや、キウィちゃんは自分のも持ってるかもだけど……」
「うてなちゃんの分もちゃんと持ってるから♡」
「……あ、うん」
キウィおねえちゃんは覚悟完了してるから、準備万端なんだよね。……いざとなったらヘタレそうだけど。
事情を大体察しているらしいネモちゃんと真珠ちゃんは、後方師匠面で、うむうむ、と頷いている。まぁ、元祖、互いに互いの下着を準備しているカップルさんだからね♡
……ぐぃ、と私は手を引かれて、その相手を見る。
「……♡」
あんまり見ることのない満面の笑みのこりすちゃん。きらきら天使な笑顔のハズなのに、その背後に悪魔が見えるのは私の気のせいでしょうか……?
「……ま、まさか……」
「♡♡♡」
……持っているというのか、親友! それをされると親友と呼んでいいのかすらわからなくなるよ、親友!?