「……アタシの邪魔をしたのはどこのどいつだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ぶちギレ状態のレオパルトは、きしゃぁぁぁぁ! と怪獣のように吠えながら、ヴェナリータが影が出たと言った場所に臨場した。
(……残念なようなほっとしたような……)
怒り狂っているレオパルトの後を付いてきた形で、マジアベーゼも、ふわり、と地面に着地する。
がるるぅ、と唸り声を上げて威嚇しつつ、周囲を見渡すレオパルトの姿を見ながら、ほぅ、とベーゼは息を吐いた。
(……ここまで怒ってるっていうのは、その……やっぱり、それだけしたかったってことで……うぅ……嬉しいけど、恥ずかしい……!)
知らず火照った顔をぱたぱたと仰ぎつつ、ベーゼもレオパルトが怒り狂った原因となった影の存在を探す。
(……魔力の反応はあるけど……)
普段であれば、魔力の反応から、魔法少女や魔物の存在を感知できる。
しかし、今回はできずにいた。
(……魔力が溢れている? ……いや、無くなっている?)
……曖昧な感覚だった。
「……お前が原因かぁぁぁぁ、サルファぁぁぁぁぁ!?」
……そして、ベーゼが考え事をしている間に、自分たちよりも早く来ていたらしい、マジアサルファにレオパルトが絡んでいた。
「な、なんやねん!? なんでいきなりキレとんねん!?」
……当然、サルファが原因であるハズもなく、普段からバチバチやりあっている二人ではあるが、いきなりキレているレオパルトには、さすがのサルファも狼狽している様子である。
「……くっ、ぉぉぉぉっ、あ、アタシはなぁ……頑張ったんだぞぉぉぉ!? それを、それをあんなタイミングでまたぁぁぁぁ!?」
レオパルトが血の涙を流しながら、サルファをがくがくと揺すっている。
……問答無用で攻撃をしない辺りは、いちおーサルファが原因ではないことを理解しているのであろう。
……でも、怒りのやり場がないから、サルファにぶつけているのである!
「お、落ち着けっちゅうねん!? ウチより見るべきはアレやろがい!」
「あァン!?」
サルファが指を差した方向……黒い塔が聳え立っていた。
(……いや、違う……?)
塔、ではない……。何故なら、その塔は蠢いていた。
一体何か……。ベーゼは目をこらして、その黒い塔をよく見つめた。
……足。……腕。……顔。
幾重にも積み重ねられたそれは、影のようではあったが、表情がわかるほどに、人間の形をしていた。
影の……人の山が塔のように積み重ねられている。
……サルファの様子をよく見てみれば、彼女は額に冷や汗を浮かべ、その体はわずかに震えていた。
「……規格外過ぎるやろ」
半ば無意識に紡がれたサルファの言葉。そして、その言葉の向かう先、彼女の視線の先。
「……マジアアトラ……っ!」
黒の塔の天辺。
一番上に積み重ねられた影の頭を踏みつけて、アトラがこちらを見下ろしていた。
「……トレスマジア、シオちゃんズ。……そして、全員ではないけれど、エノルミータ。ようやく揃った」
にぃぃ、と大きく笑みを浮かべた彼女は、正義のお助け魔法少女と言うよりは、完全な悪役である。
(……いや、似合うんだけどね?)
そもそも彼女の精神性は、正義のヒロインに向いていない。それは先般の彼女の暴走事件で明らかである。
……が、だからと言って、彼女が悪の組織側に積極的に加担する訳がない。
彼女は自分の役割を理解しているから、積極的にその役割を演じている。
故に、彼女は魔法少女たちがピンチにならなければ基本的に手出ししない。
彼女がアーティストとしてデビューしたきっかけになったときのように、鼻歌交じりで観戦していることがほとんどだ。
……しかし、今回に関してはどうにも異なるようである。
(……アトラが、現場に一番乗り……そして、一掃、といったところでしょうが)
よく見れば、サルファ以外のトレスマジアのメンバーも揃っているし、警戒するようにシオちゃんズが展開している。
マジアマゼンタ、マジアアズールが青い顔をしているのに対し、イミタシオは警戒こそしているものの笑みは崩さず、彼女に付き従うベルゼルガも同様……はぁはぁしているパンタノペスカは……まぁ、いつも通りだろう。
「……どういう状況だよ、サルファ?」
「……どうもこうもあらへんわ。ウチらが、アトラの次に到着したんやけど……一瞬や。一瞬でアイツは影を倒しよった! ……真化もせんと、魔法もなしの素手でや! ……まさか、ここまで差があるとはなぁ。……ハハ。震えが止まらんわ……」
「ほ~ん……。まぁ、アトラだからなぁ……」
怯えとも取れるサルファの言動とは異なり、レオパルトは余裕があるように見えた。
「……んで? どういうつもりだよ、アトラ?」
ギロ、とレオパルトがアトラを睨みつける。
「……ふふ。さすがはレオパルト。それに比べて、トレスマジアは期待外れと言いますか……正義のヒロインの情けなさと言ったら」
くふ、と笑ったアトラから、ぶわり、と魔力の波が放たれる。
(……なるほど……周囲の魔力の違和感は彼女のせいでしたか……!)
アトラの周囲が魔力で満ち溢れ、同時に吸い尽くされる。
アトラの魔力。それ自体はベーゼよりも少ないが、彼女の『吸収』の能力は、魔力量の絶対的少なさを補って余りある。
……現に、今の彼女が放っている魔力はベーゼをも超える。アトラが暴走状態でないのが不思議なくらいである。
だからこそ、トレスマジアはその凄まじい魔力の前に竦んでいた。
(……いえ、それだけじゃありませんね。アトラの敵意が、私たちとトレスマジアに対して強く向いている)
アトラは元々、トレスマジアを助けることが多く、彼女らにアトラの敵意が強く向いているのは暴走事件以降では初めてだろう。
味方と思っていた相手からの強い敵意。それこそが、トレスマジアを委縮させている原因だ。
……逆に言えば、エノルミータは彼女からの敵意に慣れているとも言える。
怯えを隠しているのはベーゼも同じであるが、レオパルトに限って言えば、死力を尽くしてガチンコバトルをした相手であるが故に、最も慣れていると言ってもいいだろう。
「……さて。それでは仕上げてしまいましょうか」
そう言って、アトラは薄い笑みを浮かべたまま、左手を掲げる。
ずっ……、と魔力が根こそぎ引っ張られるような感覚。
(……『吸収』!?)
ベーゼは慌てて、魔力を自分の内へと押しとどめる。幸いにして、全てを無視して吸い尽くすような威力はないようではあるが……影は全てが魔力へと還元され、アトラへ吸い込まれ……。
……かっ、と黒い光が瞬くと同時、アトラの背に七対の黒い翼が現れた。
(……『魔王』、とでも呼ぶべきでしょうか……)
圧倒的なまでの魔力の奔流。決して常人では扱いきれない莫大な魔力量。それを翼という形に圧縮した。
アトラは自分が使用できる魔力を超えたものは、そのように形作ってプールするのは、かつての暴走時と変わらない。
……しかし、その圧縮率はそのときの比ではない。
一対でも魔法少女一人分に並ぶ魔力量を感じる。つまりは、当の本人を含めて、単純計算で魔法少女八人分の魔力量。
「……シスタ」
(……何故、アトラが彼女を……!?)
「……はぁい♡」
気配も察知させず、かしづくようにしながら、シスタギガントはアトラの側に現れる。
普段、泣き笑いの顔が恍惚に染め上げられている。それはまるでカルト教の信者がその教主に救いを求めるようでもあった。
「……お膳立て、ご苦労様」
「ありがとうございますぅ♡ 女王さま♡」
(……アトラが黒幕とでも!? いえ、それはあり得ない! だとすれば、アトラはシスタを利用していた……?)
アトラが黒幕であることはあり得ない。
彼女は自らの立ち位置を理解し、演じているから。
……だが、彼女は彼女の
「……さぁ、一緒に幕をあげましょう、シスタ。さいこーにさいきょーの物語を紡ぐために」