悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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114 尊敬すべき人

「…………悔しいが、うまい」

「……ん、おいしい」

「……♡」

 

 田中がちょっと納得いかないような顔で食べているが、概ね好評のようで何よりである。

 

「……甘辛いたれが衣によく染みている。これ単体だったら塩っ辛いだけに感じてしまいそうだが、ごはんと同時に食べることで、それが緩和される。食感もいい。揚げ立てのせいか、まだ表面のカリッと感が残っているし、豚肉の表面はぱりっとして、厚目に切ったせいか、中からは肉汁がじゅわっと溢れてくる」

 

 ……何か批評家みたいなことを言って分析している田中。

 

「……ん、ごはんが進む」

「そうだな、蘭朶。私はバイト終わり、蘭朶は学校終わりで大なり小なり汗をかいているから、塩辛いものが更に美味しく感じる……この辺りを計算し尽くしての献立か。やや脂っぽくなる丼に対して、サラダはさっぱり感を演出し、豚汁は野菜多めにして野菜自体の旨味を上手く使って、味付け自体は少し薄味にしている。塩分量や食物繊維の摂取量にも気を配った見事な献立と言えよう……だから野菜も食え、蘭朶」

 

 ……多田さんにしっかり野菜を食べさせようとする田中。多田さんはちょっと嫌そうな顔をしていたが、いくつか口に入れると、それまでとは打って変わって、ぱくぱく、と食べ始めた。

 

 ……お口にあったようで何よりである。

 

 こりすちゃんはこりすちゃんで、もきゅもきゅ、と順調に食べ進めており、大方皆が満足いっているようでほっとする。

 

「……しかし、貴様が料理上手というのは、半信半疑だったのだが。見事な手前だった。謝罪しよう。……だが、本当は角煮でもするつもりだったのではないか? 蘭朶が急ですまなかったな」

「別に謝罪とかはいいけど……田中、どうして角煮だと思ったの?」

「……食材と時間だな。我々が押しかけなければ、夕食の時間はもっとあとだろう?」

「そうだけど……」

 

 ……ま、まさか……田中……お前、料理するのか……!? ……に、似合わねぇ……!!

 

「……? どうした?」

「あ、いや……何でもないよ?」

 

 生活能力皆無の夢追い人だと思ってたのに!

 ……あ、でも、年下の学生と同棲して、基本生活を依存している状況は変わらないから、クズはクズ……変わらず、田中は田中だな!

 

「……貴様……何か失礼なことを考えていないか?」

「ん~? 田中(クズ)田中(クズ)だなって思ってただけだよ?」

「……言外に何か含んでいるだろう、貴様ぁ!」

「え~……だって、田中って、多田さんに寄生している上で、あんなことやそんなことまでしてるんでしょ♡」

 

 大人な関係というヤツである。首元のキスマークもそうだけど……何というか、匂いがね……。まぁ、昨日もお楽しみでしたね、って感じなのだ。

 

 私の指摘に田中は顔を紅くして、口をぱくぱくさせているけれども……。

 

「……みっちゃん、昨晩はよく鳴いてた……♡」

 

 えへ、と恥ずかしそうに、しかし、幸せそうに微笑む多田さん。

 

 ……私的には、多田さんが受けと思ってたけど、やっぱり田中が受けなのかぁ……。

 

 夜まで尽くさせるってどうなのかね……。

 

「……衣食住だけでなく、夜までごほーしさせてるとか……」

「……♡」

 

 思わず口に出した私の言葉に、多田さんが、ぽっ、と頬を染める。

 

 ……対する田中

 

「……ん、がっ、ギギギっ!」

 

 ……何とも言えない顔で言いたいことを我慢している様子。

 

 まぁ、多田さんが認めちゃってるからね。ここで田中が何を言っても、私が面白がるネタが増えるだけだから、何も言わないのは一応正解ではある。

 

「……しかし、多田さんは田中の何がここまで好きなの?」

 

 いや、おもろいおねいさんなのは認めるけども。

 

「……みっちゃんは、強くてカッコいい……♡」

 

 ……強い……のか? 百歩譲って、カッコいい系だとは思うけど……。

 

「……っ! ……っ!」

 

 ……そして、こりすちゃん……対抗するように私のカッコ良さは訴えなくていいです。

 

 こりすちゃんの言葉に多田さんが、うんうん、と頷き、それに対し、こりすちゃんが、こくこく、と答える。

 

 ……この二人、実は相当、仲が良いよね……。目線だけで惚気られるんだから大したものである。

 

「……強くて、カッコいい……だってさ、田中?」

「……う、うむ……」

 

 真正面から答えられて若干照れている様子の田中。

 

 ……こうしてみると、ちゃんと恋人してるんだなぁ、とも思う。

 

「……田中は多田さんのどこが好きなの?」

 

 私の問いに、田中は答えたくなさそうに顔を顰めるが、いつの間にか、その答えを待つように潤んだ瞳の多田さんが田中を見上げ、ついでに、わくわくした様子のこりすちゃんが田中にまとわりついた。

 

「……ぁ、ぐっ……そ、その……い、一途なところ、だ」

 

 …………あれ? 若干、田中の顔、青ざめてる?

 

 田中の答えに、一応満足したらしい多田さんは、ぴと、と田中の胸に顔を寄せているが、田中は顔を引き攣らせている。

 

(ん~……? 何かあったのかね……?)

 

 田中が多田さんのことを大事に思っていることは間違いなさそうだが、だからと言って二人の出会いなんかがドラマチックであるとは限らず、田中に何らかのトラウマを与えていたとしても不思議ではないが……。

 

(……多田さん、多田さんなぁ……結構、病的な感じはするなぁ……)

 

 田中が言ったとおり、一途な性格なのは何とな~くわかるが、行き過ぎて、病的な感じがひしひしとする。

 

 しかし、そんな多田さんをちゃんと真正面から受け止めている田中。

 

(……これで夢追い人じゃなければなぁ)

 

 田中がちゃんと大学通っているなら素直に応援できるんだけど。

 

 ……まぁ、でも。多田さんは、私の想像するまともな田中じゃなくて、今の田中が好きなのだろうし。

 

(……恋愛ってやっぱり難しい)

 

 数式に当てはめて答えが出るものでもない。更に言えば、正解があるものでもない。

 

 私の気持ち。

 姉のことを好きだと思う気持ち。

 キウィちゃんを慕う気持ち。

 

 ……こりすちゃんを大事に思う気持ち。

 

 全部大事な私の気持ち。

 

 ……だから、その気持ちにウソはつかないし、私は全てを諦めない。

 

 食事を終えた食器を片付け、洗い物のお手伝いをしてくれるこりすちゃんと二人で台所に並ぶ。

 時折、こりすちゃんと目があって、互いに、くすり、と微笑む。

 

 ……ゆったりと流れる時間。

 

 どきどきなんてしなくても、この時間が大切なのだとわかる。

 

 私の親友の心は未だ幼い。

 私に対する好意も、もしかしたら、それ故のものかもしれない。

 

 ……だからと言って、それに向き合わないというのは不誠実だろう。

 

 幼いものであろうと、歪なものであろうと、まずは受け止めなければわからない。

 

(……まさか、田中を見習わないと、なんて……)

 

 ……ちょっと屈辱的ではあるが。

 

 ……しかし、姉が田中に敬意を抱いている理由を何となく察する。

 

 夢追い人、などと茶化しておいてなんだが、田中は田中で尊敬すべき大人なのだろう。

 

 

 

 ……まぁ、ああはなりたくないけどね!

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