悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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115 戦いの始まり

 ……柊家で行われた夕食会から数日。

 

 街はとても平和だった。

 

 ……少なくとも一般人にとっては。

 

暴君のお茶会(Nero's tea party)』。

 

 名前こそ物騒に聞こえるが、世間的に見れば、マジアアトラがエノルミータのネロアリスと元ロード団のシスタギガントを引き抜いて結成した新しい魔法少女グループである。

 

 マジアアトラと言えば、お助け魔法少女。自ら積極的に事態に介入はしないが、ピンチになれば現れて、その圧倒的強さで事態を収拾する。

 

 そんな存在が、むしろ、積極的に事態に介入することを是として、しかも、悪の組織から戦力を引き抜いて戦い始めたのだ。

 

 近時多発している影の魔物……エノルミータとは別の悪の組織が操っているであろうと思われる存在が度々出現するが、いち早く駆け付けた、彼女たちが圧倒的な強さで退治している。

 

 左手の手刀一つで影を切り裂くマジアアトラ。

 ネコのぬいぐるみを駆るネロアリス。

 巨体ですり潰すシスタギガント。

 

 ……苦戦すらない無双ショーである。

 

 そして、マジアアトラはファンサービスにも如才ない。

 観客がそれなりに集まっていれば、アカペラで一曲歌ったり、ネロアリスがぬいぐるみを躍らせたり、シスタギガントは薄っぺらい服でロリ巨乳を揺らして踊らされたりと、あっという間に多くのファンを獲得している。

 

 世間的な認知度ではシオちゃんズなどよりも高く、トレスマジアを超えているくらいだろう。

 

(……気に食わないな)

 

 田中みち子……イミタシオは現状が酷く気に入らなかった。

 

暴君のお茶会(Nero's tea party)』の人気が、ではない。

 

 ……世間が、マジアアトラのいいように操られていることが、だ。

 

 街の平和を守ることを公言しているトレスマジアに対し、『暴君のお茶会(Nero's tea party)』は、魔法少女がいらない未来と語っている。

 

 表面的には、魔物の脅威を無くす、ということであるが……。

 

(……魔法少女もマスコットも魔物も……全て貴様の糧とするということだろう?)

 

 マジアアトラが本当のところ何を企んでいるのかは、彼女の言動からはイミタシオでも想像がつかない。

 

 ……まぁ、おそらくそんなに悪いものではないだろう、とも思うものの、だからと言って、その結果を許容できるかは別の問題だ。

 

(……今の私は魔法少女だ)

 

 年齢が二十歳を超え、少女(笑)だったとしても、呼称は魔法少女だし、イミタシオの容姿は少女のそれだ。少女で問題ない! ないったらない!!

 

(……魔法少女であり続けること。それが今の私の願いであり、私の存在意義であり、目的だ)

 

 だからこそ、相容れない。

 

 アトラがお助け魔法少女として行動していたことには理解を示すことができた。

 

 彼女自身は、そんなものに興味はなかったのだろうが、しかし、彼女はエノルミータと遊ぶことや、いわゆる「魔法少女もの」の演出をすることに関しては一家言あったのだろうと思う。

 

 ……その点は、柊うてな……マジアベーゼと共通する部分があった。

 

 イミタシオはこれでも、悪として存在するマジアベーゼはそれなりの敬意を持つに至っているし、ある種同類であるマジアアトラに対しても同様だった。

 

 ……だが、明確に主義主張が異なり、敵対することが明白なら話は別だ。

 

 マジアベーゼとの緩い共犯関係などではない、明確な敵対……。

 

 シオちゃんズの目の前に降り立った三人の少女。『暴君のお茶会(Nero's tea party)』。

 

「……お疲れ様、イミタシオ。早かったねぇ?」

 

 くふ、と笑みを浮かべたアトラに、イミタシオは憮然とした目を向ける。

 

(……よく言う。……このタイミングを狙ったんだろう?)

 

 これまで、影の魔物相手にいち早く到着してみせた彼女たち。

 今回に限って、シオちゃんズが先着したのは何故か。

 

(……ヤるつもりか)

 

 影の魔物……魔法少女たちよりは弱く、しかし、マジアベーゼが生み出す魔物よりは強い。

 おそらくは、過去の魔法少女を模倣したのだろうと思われる影の魔物は意思がないように見えて、きっちり連携もしてくる。

 無論、イミタシオたちが苦戦する相手ではないが、それでもそれなりの時間を要するし、それに伴う疲労がある。

 

 歯牙にも欠けないで圧倒しているアトラたちがどちらかというと異常なのである。

 

 ……加えて言うならば。

 

(……斬った感触は……おそらく生身の人間と同じ……)

 

 これが意外にも精神的にクるのだ。……いや、ベルゼルガはあまり気にしていなさそうだが。

 少なくともイミタシオは、いい気持ちはしていない。

 肉を切り、骨を断ち、内臓を切り分けていく感触。

 相手は魔物だが、人を殺したような気分になる。

 

(……それなのに、マジアアトラとネロアリスは……)

 

 おそらくまるで気にしていない。

 

 ネロアリスはその純真無垢な無慈悲さと残酷さ故に。子供がいたずらに虫の羽を毟り取るかのような気軽さだ。

 ……だが、彼女の場合、その幼さ故とも言える。

 

 一方のアトラと言えば……。

 

 相手が本当の人間だったとしても、眉一つ動かさず屠るだろう。

 

 彼女は究極的には他者のことをどうでもよいと思っている。それ故に、相手を殺すことには無感情だ。

 

 ……およそ年齢通りの精神性ではない。

 

 ……つぅ、とイミタシオの頬に汗が伝った。

 

(……恐ろしいな。底が知れない……)

 

 戦いたくない、と心のどこかが拒絶し、気を抜けば、体はガタガタと震えていたかもしれない。

 

 ……しかし。それでも。

 

 ぶおん、と大剣をアトラに向ける。

 

「……そう言うお前は遅すぎなの☆」

「それは、ごめんなさい。……でも、手間は省けた。ありがとう、イミタシオ?」

 

 アトラが左手を掲げれば、影の魔物の残骸が、黒い砂のように分解されて、アトラへと集まっていく。

 

(……魔力の収集か。……これまでの分を合わせればどれ程になった? それに……)

 

 影の魔物を生み出している何者か。これがいいようにアトラに魔力を吸収させているだけとも思えない。

 

 アトラとその何者か。いずれは集めた魔力をどうするかで争うことになるのは明白だ。

 

(……シスタはおそらくソレと繋がっているのだろうが、それさえも是とするのは、アトラの度量故か、それとも遊んでいるからか)

 

 ……そして、おそらくはどちらもである、と直感する。

 

 裏切るなら裏切ればいい。それまでは十分に利用する(遊んでやる)

 

 覚悟とも、自信とも、自負とも取れる強さ。

 

(……思えば、私がシスタに裏切られたのは当然か)

 

 借り物だった力に溺れ、夢追い人の勘違い馬鹿女だった頃の自分を思って、イミタシオは自嘲気味の笑みを浮かべた。

 

「……ねぇ、私に向けた剣を下げないの?」

「笑わせるななの☆ ……そういうことはもっと殺気を消してから言え」

 

 くふ、とアトラは一層楽し気に笑みを浮かべた。

 

「……やっぱり、気づいたんだね、イミタシオ。あなたは私が思っていたとおりの人だ。……頭の回転が速くて、真っすぐで、夢見がちで…………………………………………そして、愚か」

 

 ……笑みを消したアトラの無機質な目がイミタシオを……シオちゃんズを捉える。

 

「……ベルゼルガ! ペスカ!」

 

「……任せて、シオちゃん」

「承りましてよ!」

 

 ……二人も臨戦態勢に入る。

 

「……♡」

「……ネロアリスと直接遊ぶのははじめて……」

 

「でゅふふふ♡ 元のモデル体型もとてもえっちぃのですが、ロリ化した姿もまた♡」

「……はぁぁ……変態の相手は疲れますぅ……」

 

 ………………………………アトラとイミタシオに比べると緊張感はないが気にしてはいけない!

 

「さぁ、戦いましょう、イミタシオ。互いに相容れない私たちは戦って示す以外に道はない」

「……同感なの☆ ……でも、負けるのは、お前なのっ! マジアアトラっ!!」

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