悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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118 マジアアトラVSイミタシオ その一

(……分が悪いな……)

 

 対マジアアトラを考えたとき、優位に立てる相手とはどのような相手か。

 

 ……まず考えられるのは、フィジカルで圧倒すること。

 

 これは単純だが、『吸収』という彼女の魔法を無視するという意味で大変有効だ。

 

 もっとも。近接戦すら素で得意な彼女を圧倒する、というのはやや現実味に欠けるが。

 

 次いで、彼女の魔法の使用禁止ができることが考えられる。

 

 先般の事件では、ネロアリスがその役を担ったわけであるが、今、彼女はアトラ側である。

 全く同じではないにしろ、同様の方法ができる可能性がある者は、イミタシオの考えではいなくもないのだが……。

 

 しかし、こちらの方法でも、単純に彼女を倒すことは難しいだろう。レオパルドを相手にしたときは真正面からぶつかったようだが、彼女以外にそんな方法をとるとも思えない。

 

 最後に、『吸収』を問題にしないほど、膨大な魔力で圧倒する、という方法もある。

 

 今のところ、アトラが『吸収』の限界を見せたことはないが、許容値あるいは最大量は存在するハズである。これを上回る魔法をぶつけ……ぶつけ続けることができるのであれば、勝てる可能性は最も高いとさえ言える。

 

 ……とは言え、そんなアホみたいな魔力量があるのは、暴走時のマジアベーゼか、テンション爆上がりのネロアリスくらいである。

 

 つまり、イミタシオがマジアアトラが戦うとするのならば、勝ち筋というものは、おそろしく細い。

 

「……んふふ。魔法少女は辛いねぇ、イミタシオ? 負けることがわかっていても、戦わなければならないんだから」

「ほざけなの☆ 負けるつもりで戦う気はないの☆」

 

(……いつか、絶対に、敵になると思った脅威……準備をしないわけはないだろう?)

 

 ……そう、勝ち筋はあるのだ。ならば、負けてやる道理はない、とイミタシオは剣を構えた。

 

「……さすがはイミタシオ。準備はしてる、ってことでしょう? ……例えば、そうだね……身体強化ポーション、とかかな?」

 

(……コイツ……!?)

 

「……感度強化に、痛覚強化。ポーション、って形だったけど、これだけなら状態異常関係の魔法と捉えられる。なら他には? 毒、麻痺、気絶、睡眠、幻惑、石化、混乱、狂化……さて、でもそれが本当にイミタシオの魔法? あえて属性をつけるとすれば、『闇』でしょうけど……」

 

(……そうか、私の魔力も『吸収』されていたか!)

 

「……それだけじゃ弱い。闇属性ならデバフもできると考えられる。でも、本当にそれだけ? 状態異常……これを毒とするならば、その反対の薬は? ……だから、当然、できるでしょう? 身体強化……バフもね?」

 

「……まったく、イヤになるの」

 

 イミタシオは手元にポーションの水球を生み出し……自らに振りかける。

 

「……筋力強化、敏捷強化、体力強化、回復強化」

 

 ……可能な限りの身体強化の重ね掛け。

 

 訓練時はともかく、実戦では初めてとなるイミタシオのバフ盛り。

 

「……イミタシオ、あなたの選択は正しい。イミタシオがマジアアトラに勝とうとするなら、それ以外に手はない」

 

 ……かち、とイミタシオは腰を捻って、大剣を構えると……。

 

「……ふっ!!」

 

 だんっ、と大きく地を蹴って、マジアアトラに迫る。

 

 にや、と笑うアトラの顔に目掛けて、剣を振った。

 

 

 

「…………それだけで勝てるとでも?」

 

 

 

 ぼそ、と呟かれた声はイミタシオの耳元で聞こえた。

 

(……なっ……!?)

 

 ……剣はアトラをすり抜けた。……いや、そうイミタシオが感じたに過ぎないのだが。

 

(やはり、身体能力も化け物レベル!! それにその技量も!?)

 

 ……イミタシオの剣は逸らされたのだ。

 

 悠然と構えたアトラは、剣が自らに向かってくる一瞬……回り込むように前に出ながら、剣の腹の部分をそっと払った。

 

 剣を前にして、更に前に出るという精神性。微小の力で相手の剣を操作する技量。

 

 とんとん、と軽くステップを踏むアトラの姿を振り返る。

 

「……私はつおいよ?」

 

 くふ、とどや顔をするアトラ。

 ……イラッ、とさせる技術も巧みだった。

 

「……知ってるの☆」

 

 ……しかし、それでもイミタシオは前に出るしかない。

 

「たぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 剣を振る。振る。振る。振る。振る!

 

「んっふふふふ♡」

 

 楽しそうに微笑みながら、アトラは剣を避け、時折、素手で剣を逸らす。

 

(……クソッ! 冗談だろう!? 魔力で強化されている身体能力を更に、強化しているというのに……っ!)

 

 魔法少女になるだけでも、でかい岩を簡単に持ち上げる程度には、身体能力が強化される。そして、イミタシオは真化によって、もう少し上の段階まで強化されていた。そして、それをイミタシオは更に自らの魔法で倍以上に引き上げているのだ。

 

 一方のアトラと言えば、初期条件こそ同じであるが、今のところ、真化すらしていない。何なら、彼女の本来の魔力量からすれば、身体能力の強化度合いは、イミタシオより数段劣る。

 

「……そ~れ♡」

 

 アトラのふざけた掛け声とは裏腹の鋭い攻撃がイミタシオのみぞおちを穿った。

 

「がはっ!?」

 

 まるで自らを矢として放ったような踏み込みと、真っすぐに突き出された拳。

 

 追い突き……いや、強いて言うなら、崩拳だが……。

 

(……胴体を突き破ったかと思うほどの威力……素人ができるものじゃない……)

 

 ……確信する。

 

 マジアアトラは数種類の武術を修めている。おそらくは高いレベルで。

 

(……つまり、私の勝ち筋は更に細くなった)

 

 技量で上を行くアトラを、フィジカルで圧倒することが難しいと判断せざるを得ない。

 

 ……どうするべきか。

 

 イミタシオは事前に考えていた戦闘プランをいくつか放棄しつつ、次の最善を考える。

 

「……そんなに困らないでよ、イミタシオ。私、まだ全力じゃないんだよ? もっと楽しませてよ。ライバルでしょう? ……使ったらいいじゃない、状態異常ポーション。今なら私は避けないよ?」

 

 傲慢とも言えるアトラの言葉。

 

(……何の意図がある? 私の魔法の効力を確認したいのか? ……だが)

 

「……乗ってやるの☆ ペインフル#8!!」

 

 放ったポーションを避けるでも吸収するでもなく、アトラは頭から被る。

 

 相手の苦痛を強化するペインフル#8。

 わずかな風の動きが肌を撫でただけでも、痛みを感じるようになる。

 

「……あはぁ♡」

 

 ……だと言うのに、アトラは恍惚の表情を浮かべていた。

 

「すごいすごい♡ ちょっと体を動かしただけで、肌がぴりぴりする! じんじんって痛い! うっふふふふ♡」

 

 痛風ってこんな感じ? などと笑いながら宣う彼女は、イミタシオの理解の範疇を超えていた。

 

 ……いや、マジアアズールという例外もいるわけではあるが。

 

「……あぁ……♡ ……痛い、痛い……いたぁい♡ 痛くて……生きてるって感じがする♡ ……死に向かって歩いているって実感がある♡」

 

 あははははは、と、くるくる、と回って、踊るようにしながら、アトラは痛みを愉しんでいる。

 

(……アズール側かと思ったが、どっちかと言うと蘭朶のような感じか?)

 

 性的快楽のために痛みを欲するのではなく、愛や生を感じるために、自らを傷つける。

 

 蘭朶という身近な存在を見ているから、そういうこともあるだろうとは思うが……。

 

(……いや、怖いわっ!)

 

「ほら、イミタシオ? 早く攻撃してみてよ♡ どんなに痛いのか興味あるなぁ♡」

 

 未知の痛みを興味深々に待ち構える姿のマジアアトラは、ドMを通り過ぎて、理解不能なナニカだった……。

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