(……えぇ……何なんだコイツ……)
マジアアトラはシンガーソングライターだが、事実上、アイドルとして認知されている。
……そんな彼女が、軽くでも踊ったならば、それは輝かしいアイドルとしての表情を覗かせた。……ハズだった……。
くるり、とターンをして見せたアトラの肌からきらめいた汗が飛び散る。
いつものように黒々とした目が、心なしか生き生きと輝いている。
わずかに上気した頬。ひっそりと浮かんだ笑み。
……内実を知らなければ、恋に落ちる者も多かろう。
「……うっふふふふふぅ♡」
楽しそうな笑い声を上げている彼女が、実は、痛みを楽しんでいるなんて、ふつーは思わないし、信じない。
……何なら、イミタシオが間違ってラブポーション#13を使った結果、とかの方がまだ信じられるだろう。
……でも、使ったのはペインフル#8である。間違いなく。
わずかな痛みでさえも何倍にも増幅するこの魔法で、最低でもアトラは全身をナイフで薄く切られ続けるくらいの痛みを受け続けているハズであった。
「……あはぁん♡」
……そうはまったく見えないが。
マジアアズールが痛みを快感に変えるドMとするならば、マジアアトラは痛みで生き生きとするドMである。……なお、ベルゼルガこと、多田蘭朶はドMというよりは、痛みを感じないというか、気にしない。でも、イミタシオこと田中みち子から責められるのはウェルカムな選択的ドMである。
「……っ、この変態め……っ!」
アトラの性癖には割とドン引きではあるが、しかし、彼女の現状は決定的な隙でもある。
思った形とは違うが、その隙を見逃すイミタシオではない。
……無防備なアトラに目掛けて、大剣を振る!
にや、と笑うマジアアトラと目が合って……。
(……!? ……コイツ……!!)
イミタシオは剣の刃がアトラを切り裂く直前で、その握りをわずかに変えて、大剣の腹でアトラを打った。
(……避ける気がないとか、死ぬ気かっ!?)
……さすがのイミタシオもアトラが避けるどころか、防御をする気すらないことに気づいて焦った。
現在のイミタシオは、魔法による基礎的な身体能力強化に加え、自身の魔法による強化を行っており、その威力は仮にアトラが魔法による防御を行っていたとしても、それを抜くくらいは十分にある。そして、もし、それを防御しなかったとしたら……?
……辛うじて、剣の刃を当てないことには間に合った。
しかし、そのダメージは……?
(……最低でも、骨は砕け、内臓にも深刻なダメージを与えるほどのハズ……)
真正面からトラックを受け止めたくらいと考えても差し支えないだろう。
それだけのダメージ。
……しかも、そのダメージの苦痛が何倍にも増加される。
……普通に考えれば、その痛みだけでも、ショック死するほど。
「…………………………あはっ…………♡」
……しかし、アトラは嗤った。
死に瀕するダメージを受けてなお……。
(……死んでなかったのは幸いだが……冗談だろう……?)
イミタシオが内心でほっとしたのも束の間、アトラは、ゆらりと立ち上がった。
……頭から血が流れている。腕が別の方向を向いている。足は別の関節が増えている。
「……くふっ♡ くっふふぅ♡ あぁ、すごぃぃ♡ こんなのハジメテ……♡ どうせなら斬られる感触も楽しみたかったのにぃ♡」
くすくす、けたけた、と嗤うアトラの姿はホラー映画でも見ているようであった。
(……いや、ダメージはある! あれでは、これ以上戦えまい……っ!)
……そう確信しながらも、イミタシオの背中には冷たいものが流れる。
ぺろっ、とアトラは無事な手で拭った自らの血を舐め上げる。
「……ん、ちゅ……♡ 鉄くさぁい♡」
言葉ではそう言いながら、とても愛おしいものを啜っているかのように、上気した頬と、恍惚に濡れた瞳。
……まるで、戦闘中を思わせない艶やかな顔。
「……もうちょっと楽しみたいけど、あんまり時間をかけてもね?」
ふぅぅ、と短く息を吐いたアトラの瞳が、イミタシオと交差した。
(……まだ、何かある……? …………いや、そもそもっ!?)
にたぁ、とアトラの口元が弧を描いた。
「……
世界を黒が塗り潰す。おぞましいほどの魔力が集まる。
……そして、黒色の魔力は少女の姿を象った。
……いつもの黒翼の天使の姿ではなく、無数の茨をまとったその姿。
「暗黒真化!? ……いや、そうか!!」
マジアマゼンタがマジアベーゼの魔力の影響で暗黒真化したとするならば、常に他者の魔力を『吸収』しているアトラが暗黒真化できない道理はない。
暗黒真化・マジアアトラ<茨の女王>
……かつて、暴走した彼女が、最も効率良く他者の魔力を得るために創った姿……それに近い無数の触手のような蔦を従えた女王。
「……さぁ、遊びましょう、イミタシオ? 本番はこれからだよっ!」
毒々しい黒いバラのような花がアトラの頭の上で花開く。
魔力を喰らい、傷を癒し、更に貪欲に周囲の
……その標的は?
「……くっ!?」
……もちろん、イミタシオである。
「っ、あぁぁぁぁぁぁっ!!」
襲い来る蔦を剣で振り払う。
強化されたイミタシオが手加減無しで振るう剣はまるで嵐のようであった。
襲い来る蔦は全てが粉微塵に切り裂かれる。
(……アトラは!?)
蔦の攻勢が弱まり、イミタシオはアトラの姿を追う。
……ぞっ、としたのは、イミタシオの勘が鋭かったが故か。
……それとも、そうならざるを得ない程にイミタシオに危機が迫っていたからか。
「……後が、隙だらけだよ……♡」
……つぅ、と太ももの付け根から上の方に指でなぞられる。
「……なぁ……っ!?」
……アトラの姿はイミタシオの後にあった。そして、にやぁ、と笑った彼女の手は……。
ぺちん、とイミタシオのお尻を叩く。
「……くぁっ、ん……♡」
そして、さわさわ、と優しく撫で上げ、ぎゅうっ、と握る。
「や、やめっ……!?」
「やめなぁい♡」
片手から両手へ。むにむに、むにゅむにゅ、とイミタシオのお尻の肉を弄ぶ。
「……くっ!!」
反撃を、とイミタシオが剣を構えようとするが、しかし、それはアトラの触手が邪魔をする。
「ぁぐっ!」
茨を持った蔦が、イミタシオの体を絡めとっていく。
「……こ、れしき、のことでっ……!!」
腕も、足も、体も。全てがアトラの蔦で縛り上げられる。そんなイミタシオの状況を楽しそうに見ながら、アトラはイミタシオのお尻を撫で続けている。
「……ふふっ♡ 強がりだねぇ、イミタシオ♡ ……だったら、もっと正直にさせてあげる♡」
「……!? 何を……っ!?」
ちくり、と何かがイミタシオの肌を刺した。
……次の瞬間、イミタシオの世界が融けた。
「ぁ、ぁ、……♡♡♡」
ラブポーション#13と同様の……いや、それより性質の悪い別のもの。
(……快感を増幅するのではなく……快感を強制する……?)
「ほぉ~ら♡ 素直になりなさぁ~い♡」
アトラの手が、イミタシオのお尻の肉をつまみ、弾き、双丘の間にある穴を、ぐり、と抉る。
「……ぁ、っ、~~~~~~~~~~♡♡♡」
びくん、と体が震え、目の前が一瞬暗くなり、次いで、ぴかぴか、と瞬く。
……くたっ、と体が脱力するのと同時……ずずっ、と体の内側から何かが外に引っ張られる。
「あぐぅ♡ あっ、あっ、あぁぁぁぁぁ、~~~~~~~~~~~~…………っっっ♡♡♡」
(……魔力が……吸われ……て……)
全てが真っ白になっていく。そして、全てが黒で塗り潰される。
……イミタシオの記憶は、ぷつり、と途切れた。