悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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121 捕らわれた二人

 ……イミタシオは暗闇の中で目を覚ました。

 

(……体はだるいが、変身は解けていない……)

 

 マジアアトラから敗北した瞬間のことを思い出すと、腸は煮えくり返るし、恥ずかしいしで、一瞬だけ、かっ、と頭に血が上るが……それよりも体のだるさが強すぎた。

 

 うつ伏せの状態から、何とか体を動かして仰向けになるが、全身が地面に引っ張られているような重さを感じていた。

 

(……状態としては魔力枯渇に近いのか……? しかし、何故、真化も変身も解けずにそのままなんだ……?)

 

 よく観察して見れば、魔力が吸われる感覚と同時に、魔力が補給されている感覚もある。

 

(……私の変身を維持するために、魔力を補給し……しかし、反抗はできないように、魔力は吸い上げているのか)

 

 自然回復している魔力も合わせれば、トータル的には吸われている方が多いのかもしれないが、マジアアトラの意図がよくわからない。

 彼女からしてみれば、イミタシオは特に邪魔だったハズである。

 魔力を吸い上げるだけであれば、変身状態なんて維持させる必要もない。無駄な魔力を使っているだけだ。

 

「……あれ? イミタシオ、もう起きたの?」

 

 淡い光を灯しながら現れたのは、ネロアリスを腕に引っつけたマジアアトラだった。

 

 ……どうやら自分は茨の檻に捕らえられているらしい、と気づくも、イミタシオは視線だけをマジアアトラに向けた。

 

「……っ、……っ!」

 

 ぐぃぐぃ、とネロアリスが何かをマジアアトラに催促している様子であったが、マジアアトラは特段焦った様子も見せずに、くすり、と微笑んだ。

 

「……だいじょうぶだよ、ネロちゃん。ベルゼルガはちゃんと治療したでしょう?」

 

(……ベルゼルガ……っ!!)

 

 マジアアトラの発した言葉に、イミタシオは重い体を必死に起こし、辺りを見渡す。

 

 ……手が届くほど近くに彼女は倒れていた。

 

「……っ、く、……ベルゼルガ……っ!?」

 

 ぐったりとした彼女の状態は酷いものだった。

 

 まずは、自身の魔法の使用に係る影響。ただでさえ白い彼女の肌は、多くの血液を失って、更に白い。

 そして、その白さ故に、目立つ多くのアザ。最早、無事なところの方が少ないほどであった。

 

 きっ、とイミタシオがマジアアトラたちを睨むと……ネロアリスが非常に申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「……あ~……イミタシオ? 敵対してたんだし、戦闘してたんだから、ケガするのは仕方ないでしょ? いちお~、ネロちゃんも、申し訳ないと思って治療したんだから、そんなに睨まないであげて?」

 

 ……心なしか、ネロアリスはしょんぼりしていた!

 

「……いや~……さすがに、全身骨折はやばいでしょ、ネロちゃん……」

 

『……そんなつもりはなかったのにぃ!!』とばかりに、ネロアリスが瞳を潤ませながら、意地の悪いことを言うアトラをぽこぽこと叩いている。

 

「……ネロちゃん的には、おともだちをおもちゃにして愛でただけのつもりだったんだろうけど。ばっちり肉体側に反映されるってやべぇ魔法だよねぇ……」

 

 あはは、と渇いた笑い声をあげるアトラの言葉に、イミタシオは大体の事情を察した。

 

 ……まとめるとこんな感じだ。

 

 ネロアリスは暗黒真化した結果、強化された魔法でベルゼルガをおもちゃに変えた。

 そして、おともだちであるベルゼルガがネロアリスのおもちゃ……ぬいぐるみになったので、テンションの上がった彼女はベルゼルガ(ぬいぐるみ)を抱きしめたりしつつ、ひとしきり弄んだ。

 捕虜としたベルゼルガの魔法を解いたら、まあ、大変! 全身の骨がバッキバキ!! ついでに、血が出すぎていたベルゼルガは瀕死状態!

 慌ててナースアリスが出動して、治療を行いつつ、アトラが魔力を補給。

 一命を取り留めたベルゼルガは、イミタシオと一緒に茨の檻の中へ。

 

 ……ネロアリスは自分の魔法がそんな効果があるとは思っていなかったので不幸な事故である。

 

「……まぁ、本来なら捨て置かれたとしても仕方ないのに、治療を行ってくれたのだからな。文句は言うまい」

「あら優しい♡ さすがのイミタシオもネロちゃんにはそんな感じか」

「……相手が貴様だったら遠慮はしないのだがな?」

「……捕らわれた状態で言ってもカッコ悪いだけだよ?」

 

 くすくす、とマジアアトラは笑いながら、ことり、ことり、と檻の中に二つの皿を置いた。

 

「……あんまり食欲ないかもだけど、おかゆくらいなら大丈夫でしょ? ……あ、さすがに今の状態のベルゼルガが『……肉』とか言っても出さないからね? 骨だけじゃなくて、内臓もやばいんだから」

「……っ、……っ!」

 

 ネロアリスのぽこぽこが強くなった!

 

「……どういうつもりだ、アトラ? 私たちを捕らえるのは、まだいい。だが、治療した上に食事? 一体何を考えている?」

「いやいや、捕虜に死なれちゃ困るでしょ? 最低限のお世話くらいするよ。それに……」

「……それに?」

 

 何かを考えている様子のアトラは、ふむ、と顎の辺りに手をやってから、にやり、と悪い笑みを作った。

 

「……あなたたちには利用価値があるからね」

「……魔力の生成装置にでもする気か?」

「……ま、しばらくはそうかな~?」

 

 現状の分析からすれば、魔力の生成装置にする、というのはそんなに大きく外れてはいない。

 

 ……だが、効率は悪い。

 

(……副次的な産物、というところか。私たちを捕らえている……それ自体に意味があるのか?)

 

「……大人しくしてなよ、イミタシオ。どちらにせよ、あなたもベルゼルガも戦える状態でないのは確かだしね。……あ、いちゃいちゃするのはいいけど、あんまりベルゼルガに負担をかけるようなことしちゃダメだよ♡」

「こんな状態でそんなことするかぁっ!?」

 

 くすくす、とアトラは楽しそうに……微笑ましいものを見るように、邪気のない笑顔を浮かべた。

 

「……んふふ♡ まぁ、あなたたちはそこで見ていればいいよ。私が……私たちが作る新しい世界を。誰もがしあわせになれる世界をね。……もちろん、そのしあわせの中には、あなたたちも含まれているから、心配しなくていーよ♡」

 

 ……アトラが踵を返す。傍らには、彼女の腕にしあわせそうにしがみ付くネロアリスの姿。

 

 ……彼女の言う『しあわせ』。それは別に悪いことではないのだろうが……。

 

 それを本当に許していいのか。許してしまっていいのか。……少しの不安がイミタシオの心にこびりつく。

 

 ずりっ、と体を動かして、ベルゼルガの傍ににじり寄ったイミタシオは、ベルゼルガの頭を自分のふとももの上に抱えた。

 

「…………シオ、ちゃ………」

「いい。そのまま休め、ベルゼルガ」

「……ぅ、ん……」

 

 ……すぅ、と再び眠りに落ちるベルゼルガ。

 少しだけほこりで汚れている彼女の顔を軽く指で拭って、髪を優しく撫でる。

 

 ……敗北した事実は苦く。捕らわれた状況に救いはない。

 

 しかし、自分の愛しい相手の無事には、ほっとした。

 

 暗い檻の中……イミタシオとベルゼルガの二人きり。

 まるで、ここだけで世界が完結しているような、甘い世界。

 

『しあわせ』と言うには、少々物足りないが……いや、そう考えてしまうこと自体が欲張りなのかもしれない。

 

 ……これまでの日々を思い出しながら、イミタシオは眠ったままのベルゼルガの頬に唇を落とした。

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