悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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122 ナハトベースにて

「……由々しき事態ですねぇ」

 

 ナハトベース。

 

 総帥席に座りつつ、うてなは、……ふぅ、と憂鬱そうにため息をついた。

 

「……マジアアトラが敵になるのは仕方がないとして……アリスちゃんは取られて、シオちゃんズは敗北。……まぁ、彼女のことですから、殺しはしていないでしょうが、イミタシオとベルゼルガは現状、消息不明、と」

 

 暗黒真化したシスタギガント、ネロアリス、マジアアトラ……シオちゃんズとの闘いで見せた彼女たちの戦闘能力は、うてなが見ても規格外と感じていた。

 

「……そして、特にアリスちゃん……」

 

 ……本人はおそらく無自覚なのだろうが、あの『相手をおもちゃにする魔法』はヤバい。

 

 暴君、とそう名付けられるにふさわしい能力がある。

 

「まぁ、アリスらしいっちゃらしい魔法だけどなぁ。……発動条件不明、範囲不明。しかも、アトラがいる限り無制限に使ってくるだろ、アレ」

「……うわ、最悪じゃない……ただでさえ、アリスって、楽しくなってきたら手加減とかしないのに……」

 

 ネモと真珠の言葉に、うてなはまた一つため息をついた。

 

「……アリスちゃんとアトラの組み合わせは、考え得る限り最悪です」

 

 膨大な魔力量とチート染みた能力のネロアリス。

 吸収と解析で隙のないマジアアトラ。

 加えて、アリスはアトラの側にいる限り、テンションが上がりまくって、魔力は上限振り切るだろうし、使った魔力はアトラが回収して、何なら補給するから、二人が組み合わさって戦えば、基本的に相手は磨り潰される。

 ……いや、そこまで競り合えたとしたら御の字、と言ったところだろうか。

 

(……シオちゃんズですら、彼女たちの本領を活かすところまでは至らなかった)

 

 映像で見る限り……アトラもアリスも本気ではあっても、肝心の連携は行っていないのだ。

 

 つまりは、暗黒真化した素の能力で、圧倒したということ。

 

 ……ある意味、勝負なしだったシスタギガントも、未だに切り札を隠し持っているだろうし。

 

「……考えても仕方なくね~? あの二人の相性がアホほどいいのは見てりゃわかるし、対抗策なんて一つしかないんだしさ~?」

 

 深刻そうなうてなに対し、のほほん、としているキウィ。両足をテーブルに乗せるという行儀の悪い恰好をしつつ、しかし、上半身はソーサーとカップを持って優雅に紅茶を啜っている。

 

「……キウィちゃん、対抗策って?」

「アイツらを分断する以外にあんの?」

 

(……それはそうなんだけど……)

 

 アトラとアリスを分断する。当然の対抗策ではあるが……。

 

「……まぁ、アトラはともかく、アリスが離れないだろうけどな~」

 

 ……そうなのだ。

 

 マジアアトラがネロアリスを憎からず想っているのは間違いないが、しかし、ネロアリスのマジアアトラに対する感情は、好きとかそういう次元じゃなく、執着に近い。

 

 絶対、離さん!! とばかりの気迫が籠っているのである。……正直、重い。

 

「……しかし、アトラはともかく、ですか……」

 

 攻略の糸口になるとすれば、その一点。

 

 アトラはアトラで目的がありつつ、しかし、何やらアリスのためにも画策しているようではあるが、彼女はアリスほどに執着してはいない。

 

「……ヴェナさん。アトラの目的……いえ、やろうとしていることに当たりは付いているんですか?」

「さて、難しい話だね。キミたちも理解しているとおり、マジアアトラという魔法少女は単純な善悪や利益で動く存在じゃない。だから、彼女言った言葉や態度、行動から推測するだけではわからないことが多い」

 

 ……いつもどおりのヴェナリータ。

 しかし、その口元は心なしか楽しそうに歪んで見えた。

 

「……『魔法少女はいらない』、『クリーチャーどもの排除』。言葉の通りに受け止めるなら、ボクたちをこの世界から消して、魔法少女がいない世界を作る、ということだ。だとするなら、簡単に方法は三つ」

 

「……お前らをぶっころ」

 

「そうだね。言葉どおりにボクたちをこの世界から消す。だけど、その数は? 新たにやってくる者はどうする?」

 

「あ~……だとすると、世界の繋がりを断つ、ってことが必要になるな」

 

「ああ。それが二つ目。ボクたちとキミたちの世界の繋がりを切断する。さて、なら、残った魔法少女はどうする?」

 

「……魔法少女を殺して回る、ってのはあのコのイメージじゃないわね」

「……やりかねね~けどな~」

 

「………………魔力、そのものを無くす、ですか?」

 

「さすがだね、うてな。マジアアトラは最終的にそれを目標にしているだろうさ」

 

(……なるほど。やろうとしているのは兵糧攻めのようなものですか)

 

 援軍を送れないようにして、補給をたたき、殲滅する。

 

 ……ある意味、基本に忠実であるとさえ言える。

 

「……『さいこーにさいきょーな物語』……」

 

「ああ。そこだけはボクにも理解できないんだけどね。……どうだい、うてな? キミなら何かわかるのかな?」

 

 ……うてなは口元に手を当てながら考える。

 

(……おそらくはこちらが本命。それ以外は単なる手段に過ぎない? ……いえ、それ以上に、彼女が明確に敵としているのは、マスコットの存在。……まぁ、確かに前回の件も彼女は被害者のようなものだし、その感情は、私も理解できるけど……それだけじゃない、影の問題も残っているし、あえて、シスタギガントを引き込んだのも何か理由があるハズ……)

 

 ……読めない。マジアアトラが何を考えているのか。

 

 だが、わかることもある。

 

(……アトラは非常に欲張りだ)

 

 全てが彼女の計算通りに進めば一番良い。

 だが、どこかで失敗したとしても、何らかの利益を得られるようにしている。

 

 彼女にとってはイチかバチかのギャンブルなのではなく、既にどの程度の利益を得るかの計算となっていると考えた方がいい。

 

(……つまり、私たちこそが、どこで妥協するか、と問いかけている……)

 

 全てを彼女に譲るのか。それとも、これだけは、と死守するのか。

 

 イミタシオはいち早く決断した。自分が魔法少女であるために。

 

 なら、柊うてなは……マジアベーゼはどうするべきか。

 

「……まずは共闘が必要ですね。パンタノペスカもこちらに引き込まなくては」

 

 トレスマジアが乗ってくるかは微妙ではあるが……。

 

 シオちゃんズが敗れ、イミタシオとベルゼルガが消息不明となっている事実は、彼女たちの決断を後押しすることにもなるだろう。

 

「へえ……。勝算が浮かんだのかい、うてな?」

「……勝算、というほどのものではありませんけどね」

 

 ……互いに勝利条件が異なる。

 

 だから、アトラの勝利が即うてなの敗北とは限らないし、その逆もまた然り。

 

(……本当に厄介な相手ですね、マジアアトラ(あなた)は……)

 

「……楽しそうだね~、うてなちゃん♡」

 

 いつの間にかうてなの側にやってきていたキウィが背後からうてなを抱きしめる。

 

 ふにょん、と彼女の大きい胸の感触と温かさを感じる。

 

「……た、楽しそう、って、キウィちゃん……?」

「ん~? だって、うてなちゃん、笑ってたよ~♡」

 

 うてなは確かめるように自分の顔を触る。

 

 自分でも気づかないうちに、口角が吊り上がり、にぃ、と口が笑みの形を作っていた。

 

(……そうか。私は楽しみにしているんだ……)

 

 誰もが考える王道とは外れた物語。

 

 腹黒な魔法少女が紡ごうとしている『さいきょーでさいこーな物語』。

 

 ……その舞台に上がることを。その結末を。

 

 ……あるいは、自分が全てを台無しにしてやって、泣きじゃくるであろう魔法少女を甚振る未来を思い描いて。

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