悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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124 隣の席のあの子

(……大人になったなぁ……)

 

 隣のテーブルに座っているつぼみの姿を見て、小夜は一人、しみじみとしていた。

 

 もっと幼い頃のつぼみ。花菱三姉妹やその他の子を連れて、よく境内で遊んでいた。

 

 ガキ大将と言うか、変なリーダーシップを発揮して、突拍子もないことをするグループを作り上げていた。

 

 自分たちで木を集めてきてイカダを作って川下りをするわ、御神木にツリーハウスを作ろうとするわ……行動力がヤバかった。ついでに言えば、どこかで失敗しそうなものを、ちゃんと作り上げてしまう辺りがつぼみが指揮するグループの困ったところである。

 

 ……まぁ、オチとして、滝に落っこちたし、木からも落っこちて、散々叱られまくったわけだが。

 

 隣に誰かを侍らせているのは、あの頃と変わらないが、あの頃よりも優しくなったというか……他人に心を許しているというべきか。

 

 ……特にこりすに対する態度は、三姉妹には妹に対するように接していたのに対して、恋人のように甘ったるい。手ずからポテトを口に運んでやっては、くすくす、と微笑んでいる姿は、ゲロ甘で砂糖を吐きそうですらある。

 

「……おいしい?」

「……♡」

 

 ……対するこりすもとても幸せそうにしている。

 

 ……しかし、距離感が近すぎて、別のことを想像してしまう。

 

(……え? 待って……? もしかして、あの年で、あんなことやそんなことを……!?)

 

 つぼみがこりすの唇についたケチャップを指で拭って、ぺろり、と舐める。それを見たこりすが、恥かしそうに俯く。……普段からこんなことやってるのか、やけに手馴れているように見える。

 

(……お、大人になったなぁ……!)

 

 少しだけ顔を赤くして、どきどきしながら、誤魔化すようにストローでアイスティーを啜る。

 

 ふと、友人たちに目を向けると……。

 

「……はふぅ♡」

「……けっ」

 

 目がハートになっているはるかとやさぐれている薫子の姿が目に入る。

 

(……はるか……この間、話は聞いたけど、『つぼみちゃ~む♡』の影響が抜けていないみたいね……)

 

 全周囲攻撃である『つぼみちゃ~む♡』の威力は凄まじい。……何なら依存性もある。花菱姉妹は特に影響を受けていることが多いから、三姉妹の煽りを受けて、はるかも相当にくらっている。そのダメージはやはり数日では抜けきれないのだろう。

 

 ……一方の薫子。

 

(……嫉妬……だけじゃない……?)

 

 はるかの態度に対するつぼみへの嫉妬……だけではないように思える。

 

 薫子がはるかに好意を抱いているのは、小夜にもわかっている……というか、気づいていないのははるか本人くらいだし、薫子も隠しているつもりなのだろうが、態度でバレバレである。

 

 故に、一時的に、とは言え、はるかがつぼみに心を寄せているような現状において、薫子がつぼみに対して面白くない感情を抱くのは当然と言える。……言えるのだが……。

 

(……えっと……もしかして、はるかにも……?)

 

 ……どうにも薫子ははるかにも面白くない感情を抱いているように見えた。

 

 そして、それは、はるかがつぼみに向ける感情を面白くないと言うよりは、その感情を素直に出せることに対するものに思えた。

 

(……つまり……?)

 

 ……薫子がはるかに好意を寄せているのは間違いない。

 

 しかし、つぼみに対しても……?

 

(……そう言えば、食事にお呼ばれしたんだったかしら……)

 

 ……それじゃあ抗えないなぁ、と内心で苦笑する。

 

 かっこよさで周囲を魅了するのが『つぼみちゃ~む♡』。

 

 ……そして、その手で作られる魔性の料理で相手の胃袋と心を虜にするのが、つぼみのもう一つの特性……『つぼみぽいずん☆』である。

 

 なお、常態的にこれを摂取しているうてなは取り返しのつかないレベルでつぼみに依存しているのは言うまでもない。

 

 さて、現状を俯瞰して見てみよう。

 

 諸悪の根源、つぼみ。

 その腕に引っ付いて、恋人のようにしているこりす。

 そして、彼女たちの友人である巨乳の少女。こちらもつぼみに対する好意のようなものは隠していない。

 

『つぼみちゃ~む♡』の影響で目をハートにして、つぼみを見つめるはるか。

『つぼみぽいずん☆』の影響もあり、春香とつぼみに複雑な感情を向ける薫子。

 

(……カオスだなぁ……)

 

 一人、知らん顔をするが、自らも後方師匠面的につぼみを見ていることには自覚がない小夜。

 

(……それにしても……)

 

 聞き耳を立てているわけでもないが、つぼみたちの会話が途切れ途切れに聞こえてくる。その中には、『報酬』とか、『〇万円』とか、『収益』とか、お金の話がチラホラと……。

 

「……な、何の話をしているのかしら……?」

 

 小学生が気軽に話す金額ではないので、内心でドキドキする。

 

「……動画の広告収入の話やろ? 小夜は見てへんの? ウチの子が天才過ぎて……っちゅーやつ」

「あぁ……はるかと何回か見たことはあるかも」

「アレすごいよね~♡」

「……あっちの子も、そういう動画繋がりみたいやな」

「ちょっと、薫子……盗み聞きは……」

「隣の席なんやから、多少聞こえるんはしゃあないやん。……なぁ?」

 

 薫子の言葉に、気にしてないよ~、とばかりにつぼみがひらひらと手を振って答えた。

 

「……ウチの妹たちもアレ好きなんだよね~♡ ……あ、あと最近はアトラちゃんの歌番組とかよく見てるよ! 普段のアトラちゃんはどっちかと言うと、きりっ、としてるのに、歌を歌っているときはかわいい感じがして……♡」

 

(……はるか……今、アトラは敵になる、っていう話をしてたのに……! そんなつぼみさんに向けるのと同じような目で……っ!?)

 

 小夜の視界が一瞬だけ、ぱりっ、とひび割れるような感じがするが……軽く目を擦ると、その違和感はいつの間にかなくなってしまった。

 

(……何だったかしら……?)

 

 何か重要なことに気づきそうだったのに……しかし、それはわからなくなってしまった。

 

 小夜が一人首を傾げていると……。

 

「……皆様、お揃いですのね。……あら? そちらは……?」

 

 見た目はおっとり眼鏡の知的巨乳少女、桃森百花がいた。薫子が軽く手を挙げている様子から、さっそく彼女が連絡を取っていたらしい。

 

「あー……田中と多田さんのお友達の……」

 

 一応、面識があるらしいつぼみ。ただ、名前は思いつかなかったらしく、はて、と首を傾げるが、こりすが、袖をくいくいと引っ張ると、ぽん、と手を打った。

 

「そーだ、桃森さんだ。ありがとう、こりすちゃん!」

 

(……あれ? どう見ても、杜乃さん、喋ってないような……)

 

 あの二人の以心伝心振りは一体どうなっているんだろう、と小夜は不思議に思うが、他の誰も気にしている様子がない。

 

「……こ、これは!? ロリハーレム!? ロリハーレムですわっ!? な、何ということ……っ! こんな……こんな奇跡が許されるとっ!? ……素晴らしいですわ! 感動ですわ! 捗りますわっ!!」

 

(あ~……教育に悪いな、この人……)

 

 はぁはぁ、と息を荒げて、興奮した様子でつぼみたち三人を見ながら妄想を捗らせる百花。

 

 どうしたものか、と小夜が頭を悩ませるより早く、ばしん、と百花の脳天にチョップが刺さる。

 

「……やめんかい!!!!」

 

(さすが薫子! ツッコミが早い!)

 

「……こほん。……失礼しました。……確か、うてなさんの妹の……そう、つぼみさんでしたわね。きちんとした挨拶はまだでしたかしら。桃森百花と申しますわ」

 

 きり、とした表情を作って、お澄まし顔での自己紹介を行う百花であったが……。

 

「こちらこそ、改めて。柊つぼみです。よろしくね、エロ眼鏡のおね~さん☆」

 

 先ほどの痴態に引いた様子は見せないが、あっさりと『エロ眼鏡』呼ばわりするつぼみ。

 

「……んんっ……♡ 幼女に罵られるのって、新感覚ですわ……っ!」

 

 ……なお、百花はまったく堪えていなかった!




『つぼみちゃ~む♡』
 自身の魅力に無自覚なつぼみちゃんの一挙手一投足が全周囲に魅了を振りまく。繰り返し受けると、より魅了にかかりやすくなるほか、魅了状態に対する依存性が出る。
 つぼみへの好感度が高いほど効果が増大するが、つぼみからの好感度が高いほど効果が減少する。ただし、一部の相手に対しては、無条件でクリティカルヒットする。

『つぼみぽいずん☆』
 つぼみちゃんの手料理を口にした相手の心と胃袋を鷲掴みにする。直接的な魅了効果はないが、確実に好感度が上がる。繰り返し口にすると、好感度が天元突破する。依存性が高く、一定期間口にしないと禁断症状が出る。
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