悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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127 マジアアトラはわからない

 闇をそのまま映したような、真っ黒な瞳。光さえ吸い込んでしまいそうなほどに黒々とした瞳。

 

 マジアアトラを見たとき、人々が思う印象は……黒。

 

 その出で立ち故か、それとも烏の濡れ羽色の長い髪のせいか、それとも、目立つ漆黒の翼のせいか。

 

 ……否。

 

 人々がマジアアトラを見たときに『黒』を連想するのは、深く昏い黒の瞳のせいであろう。

 

(……わからん)

 

 黒以外の色を写さないその瞳は、感情というものを写さない。

 

 それ故に、マジアアトラが何を考えているのか、それを推し量ることは難しい。

 

 彼女は割と表情豊かではあるが、それは瞳以外のもの……その表情が偽りではないとどうして言える?

 

 ……無表情であるネロアリスの方が何を考えているのかわかりやすいまである。……まぁ、彼女は彼女で感情表現豊かなのだが。

 

「……しかし、やはりパンタノペスカを逃がしたのなら、トレスマジアとエノルミータは協調路線を取るのは確定か……予測の通りとは言え、あまり面白くはないかな? ……結末はきっと私が思った通りになる」

 

「……()()()()()()()()、の間違いではないのか?」

 

「……うふふ♡ それがわかるから、私はあなたがすきよ、イミタシオ♡」

 

(……冗談でも誇張でもない……この女なら()()!)

 

 イミタシオにとって、それは確信だ。

 

 マジアアトラという少女は、ある種のゲームマスターだ。

 

 卓上のキャラクターにストーリーを紡がせ、しかし、自らの手の内で転がす。

 

 バッドエンドもハッピーエンドも自らの筋書き。……違いはサイコロ任せでないことくらいか。

 

(……コイツの筋書きを壊すなら、コイツの想定を超える以外にない)

 

 ……あるいは、この間のレオパルドのように。

 

(……厄介極まりない……)

 

 何故ならばマジアアトラは自らの『死』さえも楽しめるようなぶっ壊れた精神をしている。……少なくとも、イミタシオはそう判断していた。

 

 ……マジアアトラは究極的には、ハッピーエンドもバッドエンドもどうでもいい。

 

 彼女の匙加減一つで、世界のシナリオはどちらにでも傾き得る。

 

 ……だからこそ読めない。わからない。

 

(……マジアアトラはわからない……!)

 

 彼女の言う『幸せ』が万人にとっての『幸せ』か、彼女だけの『幸せ』なのかすらも。

 

 ……いや、もしかしたら、彼女が言う『幸せ』を強制されることだってあり得る。

 

 世界を幸せにする?

 

 ……単純にそんなかわいらしいことを考える相手では決してない。

 

「……あなたは心配しなくてもいいよ、イミタシオ♡ どうなってもあなたは幸せにしてあげる♡ ……させられるが、正解かな……ベルゼルガ?」

「……それはそう……シオちゃんはあたしが幸せにする……♡」

「あら、お熱いこと♡」

 

 ふふふ、とアトラとベルゼルガが笑い合う。

 

(……待て……!? 私は一体どうされるんだ!?)

 

 ベルゼルガと幸せになるのは望むところではあるが、アトラの『どうなっても』という言葉がとても気にかかる! 手足を取られてダルマになって匣に入れられて、ベルゼルガに愛でられる日々になるとかはさすがに怖い!

 

 ……まぁ、これは極端だが、無いとは言えない辺りが、アトラとベルゼルガの怖さ……。

 

 ぞぞっ、とイミタシオの背中に怖気が走った。

 

「……マジアアトラ……あのこをどうするつもり……?」

 

 ……先ほどまでアトラと笑い合っていたベルゼルガが、ぴりっ、殺気をアトラに向けた。

 

(……あのこ……? ネロアリスのことか……)

 

 ベルゼルガはネロアリスのことを気に入っている。マジアベーゼに捕らわれた際に、何やらあったらしいが、詳しいことはイミタシオは知らない。

 

 ……しかし、ベルゼルガがイミタシオの次に気に掛けるくらいには気に入っていることは事実だ。

 

 もし、彼女に害を与えるようなことがあれば……。

 

(……ベルゼルガは今、この場でアトラに牙を剥くだろう)

 

 捕らわれていることなんて関係なく、ベルゼルガは自らの血の鎌を振るう。

 

 ……情が厚いと言うべきか、執着が強いと言うべきか……。

 

 しかし、イミタシオにとってはそれが誇らしいとも思えた。

 

(…………変わったな、蘭朶)

 

 イミタシオと自分さえいれば良い、と世界を閉じようとしていたベルゼルガ。

 イミタシオに殉じても良い、と考えていたベルゼルガ。

 

 ……だが、今の彼女は、自らの友人を守る、という余裕を手にしている。

 

「……いやだなぁ、ベルゼルガ。私がアリスちゃんを傷つけるとでも?」

 

 ちょっと困った様子のアトラ。

 

「……あなたの『幸せ』の選択肢の中ならあり得る……」

 

 憮然とした様子のベルゼルガの言葉に、アトラは、むむっ、と眉を寄せた。

 

「……ふむぅ……? ……嘘を付かずに答えるなら、それは確かにあり得る……」

「……そうでしょう?」

 

 先の例ではないが、アトラは常人とは考えがズレているところがある。

 

 また、別の考えとして……本人の『幸せ』が相手の『幸せ』と一致するとは限らいないし、その逆もまた然りだ。

 

 ネオアリスの望んだ『幸せ』がアトラと二人きりの生活だったとして。

 例えば、身動きも思考も制御された状態でアトラが介助する生活を果たしてネロアリスが幸せと思うだろうか。

 ……逆に、アトラがハーレムを築き上げて、一週間の内、一日をネロアリスのために捧げるのだとしたら、彼女は幸せを感じないのか。

 

 人の『幸せ』は千差万別であり、万人が『幸せ』な世界なんてあり得ない。誰かが『幸せ』な分、誰かが『不幸せ』になる。

 

「ん~……積極的に私からその選択肢を取らない、ということで妥協してくれないかな?」

「……それでいい……あのこを傷つけるのは……許さない……」

 

 ……後は興味がない、とばかりに、ベルゼルガはシーツを引っ張って体に巻くと、ごろん、と寝転んだ。

 

 ベルゼルガのこの態度はある意味アトラへの信頼ととってもいいだろう。

 

 言質を取ったからにはアトラは裏切らないという確信があるのだ。……少なくとも対ネロアリスについては。

 

(……だが、本当にどうするつもりだ? 世界全てを幸せにするなんて無理な話……!?)

 

 ……気づく。……いや、気づいていながら、無意識の内に思考から外していた。

 

 ……『魔力』という理外の力。

 

『魔力』があれば何でもできる。

 世界の法則を塗り替え、その場に新たな事象を書き込み、捻じ曲げ、あるいは掻き消す。

 

 ……理論上は可能だろう。だがそれを為すだけの魔力をどうやって得るのか。その問題が常に立ちはだかるだけで。

 

(……いや、あるのか!? 前例として、私たちの前に!!)

 

 誰もが、大魔法として認識していない些細な効果。

 

 魔法少女が誰なのかは確信をもって看破しなければその認識が阻害される。

 

 ただ、それだけの効果……しかし、全世界の規模で、全人類規模で行われている『最古の大魔法』。

 

「……まさか解析できたのか!? 『認識阻害魔法』……その魔力維持の方法まで!?」

 

 これだけの規模の魔法を常時維持するのは普通の方法では不可能に近い。

 

 しかし、逆に言えば、これを解き明かすことができれば、大魔法を維持するための魔力を常時使えるということに等しく……その魔力の限りでは、何でもできる。

 

「……ふふん♡」

 

 どやぁ、とアトラが得意そうに胸を反らした。

 

 ……まぁ、真っ平なんですけどね?

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