びっくり。
本話は、バトル回だから、えちぃのはそんなにないよ! ホントだよ!
「……ベェェェゼェェェ!! アンタはぁぁぁぁぁぁ!?」
マジアサルファ。只今、真化の上、絶賛全力ダッシュで逃亡中。
「……な・ん・で、タコやねぇぇぇぇん!?」
サルファはタコが嫌いだ。見るのも食べるのも。……触るなんて論外。
……それに襲われるとしたら、逃げる以外に選択の余地があろうか。
「……おやぁ? 何を言うんです、マジアサルファ? 敵の弱点を突くのは当然ではないですかねぇ?」
サルファを見下ろすマジアベーゼの顔は愉悦に浸った余裕の笑みだ。
マジアマゼンタも、マジアアズールもこのタコに奇襲を受けて、すでに捕らわれている。
「……いやっ!? いやぁぁぁぁ!?」
「あふぅぅぅん♡」
本気で悲鳴を上げているマゼンタは、何とか助けなければ、と思うが、アズールは当面放置しておいても大丈夫だろう、ととりあえず考えから除外する。
どこかで攻撃に転じなければ、とそう考えても、ベーゼのタコは数を増やしつつ迫ってくる。
あのぬるぬるも、吸い付いてくる吸盤も、うねうねと動く触手も触れるのは正直遠慮したい。だが、この物量差は如何ともし難い。
(……押し切られる!?)
ちら、と後方を確認してしまったのがいけなかったのだろう。
うぞ、と回りこんでいた触手が、サルファの足に絡みついた。
「……ひっ!?」
一瞬で足を絡めとられて宙吊りにされる。ぬちょぉ、とした触手が、足に巻き付いて、更にその上を目指してくる。
……その目指す先がどこか、を想像して顔を青くする。
「……や、やめっ……!?」
悍ましさに、涙が零れる。無力さに、悔しさが込み上げる。
絶望が目の前を暗くする。
(……クソがぁ……!)
ギリ、と歯を食いしばるものの、抗う力が湧いてこない。
……目を瞑って、覚悟をした。
……その瞬間。
ばさり、という羽音と少しの浮遊感。
気持ち悪い触手の感触が消え、温かい人の体温を感じる。
……サルファは恐る恐る目を開けた。
「……大丈夫ですか、マジアサルファ?」
「……アトラ……?」
はっ、と自分の体勢がどうなっているのかに気づき、少しだけ頬を染めた。
マジアアトラは、サルファの背中を支え、膝裏に手を入れている。
……いわゆる、お姫様だっこというヤツである。
先日はちょっと顔を合わせただけなので、間近で顔を見るのはサルファも初めてである。
たれ目がちな目。
軽く開いた口から見える八重歯。
クセのないストレートの長い黒髪。
ぴょこ、と生えているアホ毛。
……誰かに似ているな、と思うが、その誰かがわからない。これも認識阻害の影響なのだろう。
ゆっくりと着地した彼女は、サルファをそっと地面に下ろす。着地と同時、アトラの背中の羽は黒い粒子のように宙に溶けた。
「立てますか?」
「……おおきに」
サルファの手を取りながら、きちんと立てるかを見届けた彼女は、ちらり、と周囲に目を向けると、右手をかざして、黒い光線を放って、マゼンタの周囲の触手の一部を焼き払う。
「……足りない」
『足りない』。前回も確かそんな言葉を呟いていたな、とサルファは考える。
アトラは周囲を警戒しながらも、ちらり、とサルファに視線を送ってきた。
「……マジアサルファ、魔力に余裕があるなら私に全力であなたの魔法を放ちなさい」
「はぁ!? アンタ、何言うてんのや!?」
少なくとも自分を助けた相手に、全力で魔法を撃てるほど、サルファは狂っていない。
だが、そんな当たり前の躊躇に、アトラは苛立たし気な視線を向けた。
「……できますか? ……できませんか?」
子供にでも問いかけるような二択。言い含めるような強い口調。
傲慢なその問にサルファも、いらっ、とした。
「……やったるわぁ!! ウチの全力の魔法は半物理やぞ!? 覚悟できてんのやろな!?」
「……別に効くところに当てろ、と言っているんじゃありません」
ほら、とアトラが左手を振る。
要は当てるなら、そこに当てろ、ということだろう。
……まぁ、確かに。その程度であれば、心理的抵抗は少ないが。
ばちっ、とサルファの周囲に電流が迸る。
「……雷霆掌・重!!」
ごぉぉ、と轟音を立てて、サルファの拳と雷撃が大砲のように放たれる。
……ぱん、と乾いた音が響いた。
……音の正体は、サルファとアトラの掌同士が接触したからだ。ハイタッチをするかのように、ただ、手と手がぶつかり合った音を奏でただけ……。
サルファの魔法は、アトラの手に触れる前に消え失せていた。
(……消えた……? ……いや……吸われた!?)
「……充分です」
ばちばちっ、とアトラの周囲に青白い光が舞う。
「……っ!!」
頭上に掲げられたアトラの右手から、ばちぃ、と電撃が雨のように放出される。
細かく分かれたそれは、マゼンタの周囲の触手を爆ぜ飛ばした。
「……あ、ありがとう、アトラちゃん!」
触手から解放されたマゼンタは、粘液に塗れており、服の一部は破れて用をなさなくなっており、サルファは目のやり場に困った。
マゼンタの無事を確認したアトラは軽く頷くと、アズールの方向に目を向け……首を捻った。
「あふぅ♡ あぁん♡」
真化前に捕らわれたアズールは、あんあん言いながら、涎を垂らして、恍惚の表情をしている。
「……??」
それを指さしたアトラは困惑した様子で、助けを求める視線でサルファを見る。
……言いたいことはわかる。
何か特殊なプレイでも楽しんでいるから邪魔しちゃダメなのか、それとも助けていいのか判断がつかない、ということだろう。
「……………………助けられるんなら、助けてくれる……?」
こんなんでごめんなぁ、とサルファは情けなく思い、ちょっと泣きたくなった。
「っ!!」
ばちばちばちぃ、とマゼンタに対してのものとは比して、大きく電撃が荒れ狂う。
アトラの顔は結構なお怒りモードである。
気持ちはわかる、ものすご~くよくわかる!
でも、あんなんでも一応仲間なので、消し炭にされるのはちょっと困る。
「……ちょっ!? 待ちぃ!?」
……が、サルファの制止を振り切って、極大の雷が、触手にアズールを巻き込む形で、落ちた。
「……おほぉ♡ しゅご、しゅごいぃぃぃ♡」
……アズールは無事だが、アレな感じだった。まぁ、色んな意味で耐久力はアレなので。
そんなアズールの様子を見たアトラが、いらぁ、とコメカミに青筋を浮かべているのがサルファにもわかった。……何ならサルファもそんな感じである。
「あ、アズールぅぅぅ!?」
心配しているのはマゼンタくらいである。ホント、いい子や。
「……やはり現れましたか、マジアアトラ」
ゆっくりと地面に降り立ったマジアベーゼは、余裕の笑みを浮かべていた。
まるで、マジアアトラが来るのも作戦の内、と言いたげな様子である。
ぱちぱち、とベーゼは楽しそうに拍手をする。
「素晴らしい素晴らしい。ピンチのマジアサルファを救い、彼女の力を借りて、マジアマゼンタを解放し……マジアアズールは……まぁ、アレですが」
ベーゼからもアレ呼ばわりの安定のアズールである。
「よぉく、見させてもらいましたよ? 『吸収』ですか、その力は!? 怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ! 私、困ってしまいます!」
困る、などと言いつつも、ベーゼの顔は、その笑みで大きく歪んでいる。
楽しくて楽しくて仕方がない。新しいおもちゃでどう遊ぼうか、と考えているその表情に、サルファはぞっとした。
マジアベーゼの考えがわからない。
いや、元々、よくわからないヤツではあるが、強敵を前にして、より楽しそうに笑うなどまともな神経ではあり得ない。
……しかし、彼女はいつも
「さぁ、これはどうしますか!?」
ぞぞぞっ、とベーゼの近くに控えていたタコの魔物が一斉に動き始める。
「……ひぃ!?」
あまりの気持ち悪さにサルファは思わず悲鳴を上げるが、アトラは全く気にした様子もなく、一歩踏み出すと……。
……殴った。グーパンで。
それはそれは見事な左ストレートである。
本来なら、そんな攻撃は何の意味もなさないだろう。
だが、ベーゼが自分で言っていたように、アトラの能力は『吸収』であろう、とサルファも当たりを付けていた。
……結果は自明。
ぷしゅ、と音を出してタコの魔物は消え失せ、ぽて、と空から降ってきたタコをアトラは右手で受け止めた。
「……ありがとう、マジアベーゼ」
何故かベーゼにお礼を言って、アトラは初めて微笑んだ。
ばちぃ、とアトラの右手で電気が爆ぜ、タコは〆られた。
「……夕食のおかずが増えたよ」