……マジアベーゼはてかてかしていた。
推し成分を十分に吸収できたからであろうが、ここぞとばかりにエノルミータの総帥であるというその強権を活かし、親睦会の名目で、ライブでは決して味わうことができない、まさしく目の前でトレスマジアに声援を送るというファンであれば一度はやってみたいことをやり遂げたからでもある。
(……ある意味感心するぜ……)
……なお、ベーゼが完全に趣味に走っていた中で、漁夫の利を得ていたのはルベルブルーメである。
何故かと言えば……。
(……やっぱり、二人きりのときとは違う恥じらいがあったな……!)
……いつものとおり履いてないロコムジカを視姦していたからである!
エノルミータ内では周知の事実であるが、ロコムジカは基本的に履いていない。変身するとパンツが溶ける。……ちなみに改めて履こうとしても溶ける。どうやら変身コスチュームがすでにパンツを異物として認識しているらしい。
……ロコムジカは嘆くが、ルベルブルーメは、別にいいのでは? と思っている。……どうせ脱ぐか、脱がされるかするわけだし……。
(……しかし、見えるか見えないかのギリギリ……しかも、パンタノペスカがローアングルで狙っているのを知りつつ、それでも、ギリギリを攻める、か……)
ルベルブルーメの見るところ、パンタノペスカは決定的な写真は撮れていないだろう。全てがギリギリ! おそらく、写真を見れば、『あれ? これってもしかして履いてない……?』というくらいには、太ももの内側とか、お尻のお肉とかが見えているが、それでも肝心の中身は見えない! まるで大いなる意志に基づく、湯気さんや謎の光が働いているかのように!
パンタノペスカは大いに困惑したことだろう。現に彼女はバカでかい一眼レフで、写真を撮りながらも、悔しそうにしていたのだから。
……なお、仮に、中身が写った場合には、責任をもって、ルベルブルーメが色んな意味で処理をする予定だったことを申し添えておく。
「……ったく、レオパルトのアホが」
「……お疲れさん」
「……おぅ、おおきに」
レオパルトの言い争いを終えたマジアサルファが、どかっ、とルベルブルーメの隣に腰かけ、コーラを一口飲み終えたタイミングで、労いの言葉を掛けた。
マジアマゼンタにはベーゼが甲斐甲斐しくドリンクやフードを取って接待しており、レオパルトは次の標的をマジアアズールに定めて、いじり始めているようだった。
「……ところで、ご馳走になっておいて、こないなこというんはアレやけど……ホンマになんなん?」
(まぁ、そりゃそうだよなぁ……)
そもそも敵同士であるエノルミータとトレスマジア。本来であれば、こんな風に仲良く親睦会などできる間柄ではない。
パンタノペスカからの連絡を受け、共闘に異存がないことを確認するだけなら、こんなことをする必要はなかった。
ベーゼが少し考えた後に、親睦会を提案すると、まず、レオパルトが反対した。そして、それに同調したのはロコムジカで……ルベルブルーメはベーゼの提案に同意した。
……理由は幾つかあるが、最も大きな理由。
「……共闘だけなら親睦会なんていらねえだろうけどな? その後のことも考えるのであれば、互いに互いをよく知っておくべきだろうよ」
「……その後、っちゅうと……」
「まずは、今回の勝利条件。……あとは、勝った後の話さ」
……マジアアトラとシオちゃんズは完全に相容れない状態となっている。加えて言えば、エノルミータもそうなるだろう。……だが、トレスマジアは決定的ではないのだ。
「……アトラが目指すのは、魔法少女のいらない世界。イミタシオはこの思想とは相容れない。だからこそ、いち早く反応した。アタシらは同意できるところはあっても、やはり合わないだろう。だけど、トレスマジアは違うだろう? 世界の平和を目指すなら、アトラの側でもいいはずだ」
「……まぁ、ウチらが気になってるんは、マスコットの排除、ってところやからな」
「……トレスマジアが共闘したい、っていうのは、それに加えて、イミタシオとベルゼルガを解放したいから、ってことだろ? 逆に言えば、解放した後はどうするのか、って話だ」
また、敵対関係に戻るのか。あるいは、マジアアトラを脅威と捉えて、引き続き共闘路線を取るのか。
「……実際、イミタシオとベルゼルガが捕らわれていなければ、お前たちは別にアタシらと共闘する必要性はない。アトラは考え方の違いこそあっても、結果、平和になる、っていう意味なら、あっちとも共闘できるわけだ。そもそも、アタシらと共闘する以前に、アトラと交渉してもいいわけだ」
……しかし、交渉しなかった。
この事実は、トレスマジアが考えている以上に大きい。
「……アトラとは交渉できない。パンタノペスカがそう思ったのか、お前たちの誰かがそう思ったのかは知らないが……いずれにしろ、トレスマジアがそう決断した、っていう事実は、思っている以上に重い」
正義の魔法少女、として認知されているトレスマジアが、彼女たちとは別の方法で平和を目指すお助け魔法少女マジアアトラとは交渉できないと判断した、ということ。
人気と認知度という意味では、現在、アトラの方が上であろうが、しかし、どちらが正しいか、という問いに世間は単純にアトラを推すことはしないだろう。これまでの活動歴や活動に対する真摯さという点において、トレスマジアのそれはアトラをはるかに上回る。
「……意識的にしろ、無意識的にしろ、トレスマジアはアトラを敵として見ている、ってことだろ?」
「そないなつもりは……ないんやけどな……」
若干自信がなさそうなサルファの姿を見て、ルベルブルーメは、ふっ、と苦笑した。
「まぁ~、ウチの総帥が深読みし過ぎている、ってだけかもしんねえけどな? だけど、実際、その後、どうするか、っていうのは重要なわけだ。共闘路線を続けられると、アタシらとしては困るわけだし?」
「……そりゃ、どういう意味なん?」
「……そのままの意味ですよ? 私たちは、魔法少女
……いつの間にか歌は終わり、近くまでやってきていたベーゼが、えへ、と笑いながら、爆弾発言をした。
「……いや、薄々、そんな気はしてたけどな……?」
……ひくっ、とサルファの頬が引きつっている。
「……もうちょいオブラートに包まんかいっ!? なんやねん、『で』って!? せめて、『と』って言えへんのかい!!」
マイクも通してないのに部屋中に響く大音量。予想していたらしいベーゼはちゃっかり耳にフタをしていたが、不意打ちを食らった一番近くのルベルブルーメは、耳キーンである。
「まぁまぁ、ウソをついても仕方ありませんし? 共同戦線を張るのであれば、むしろ、私たちの行動原理を知ってもらうのは最低条件と言いますか……」
「……だからって、それを知ったウチらはどないせぇっちゅうねん……」
「難しく考えてもらう必要はありませんよ? つまりは、私たちにとって、魔法少女は存在してもらわないと困るわけです」
にこにこ、と胡散臭い笑みを浮かべるベーゼ。その笑みは某黒いマスコットと同じくらいに胡散臭くて信用できないものではあるが、今、口に出していることは一応は本心であろう。
「……はぁぁぁぁ……つまりは、イミタシオとベルゼルガの身の安全は最優先ってことやんな……?」
ベーゼの言葉が一応は本心である、と気づいたサルファは大変疲れた様子で大きく息をはいた。
「ええ。そのように思ってもらって差し支えありません」
「……だとすると、やはり、それが最優先の目標になりますわね」
「……でも、イミタシオたちはどこに囚われているのかしら?」
「そりゃ、ここと同じようなところじゃね~の? アリスもアトラもこんくらいできんだろ?」
「……ってことは、そこに誰かが潜入しないとね」
「……潜入かぁ」
……何故かその場にいる全員からの視線を集めるルベルブルーメ。
「……え? ……アタシか!?」
……コソコソ潜伏工作員。まさか、その役職名のとおりの仕事をすることになろうとは……!