「…………へぷしゅっ!」
私はパソコンを打つ手を止めて、口を押えた。
……う~ん……これは、あっちでは作戦会議でもしてるのかな?
私の隣に座っていたこりすちゃんが、すっ、とボックステイシューを差し出してくれる。
大丈夫、と軽く手を振ると、それは、ずずっ、と私たちが座っているソファに吸い込まれていった。
(……便利だなぁ、このソファ……)
こりすちゃんことネロアリスが作った私たちの活動基地、『不思議の国』。ちょこちょこ気が向くままに建築物が増えていっているが、今、私たちがいるのは、専ら私が創作作業を行っている部屋だ。
飾りっけのない部屋には、謎の素材でできたデスクと同じく謎の素材のソファ(二人掛け)。……休憩用にベッドもある。……なお、本当に休憩する用なので他意はない。少なくとも私には!
さて、問題はこのソファである。お察しのとおり、アリスちゃんの魔法で作られたものだが、変身解除後でもある程度の操作は可能なようで、飲み物やお菓子やあれこれが常備されている。……たぶんこりすちゃんの家か部屋辺りに繋いでいるのだと思うが、こりすちゃんはこれに座っているだけで、移動の必要がまるでない。ついでに、座り心地は、やべぇの一言である。人をダメにするとかの次元じゃない。柔らかいというよりも、浮いているという表現が正しいかもしれない。……いや、実際、ソファ自体がぷかぷか浮いているのだけども。
まぁ、そんな感じで、自宅よりも作業が捗る……ノートパソコンじゃ我慢できなくて、つい、新しいパソコンを買って設置してしまったよ……。なお、回線がどこから飛んできているのかは、私にはわからない……WiーFiって異空間にも届くのかな……。
……と言うか、アリスちゃんができることに深く突っ込んではいけない。魔法という割と何でもできるふんわりとした概念を持っているからこそ、この世界を構築できているわけで、詳しいテクノロジーを理解した途端、脳がこの状況を拒否して、魔法が崩壊する……なんてことも考えられるしね。
「……?」
私の肩に頭を載せて、私が作業をしている様子を眺めているこりすちゃんはおそらくそういったことは全然考えていないと思う。
「……よしっ! 終わりぃ!!」
……タンッ、とエンターキーを勢い良く叩き、投稿予約を終了する。
せっかく新しく魔法少女ユニットを組んだのだから、新しくMVを作るしかないよね! ……ということで、私ことマジアアトラ、ネロアリス、シスタギガントで新曲のレコーディングとMVの撮影を行って、編集まで済ませたのである。
……とは言っても、アリスちゃんは声が小さいので、歌ってないし、シスタは胸がでか過ぎて、バランスがとれずに踊れない、と割とぐだぐだだ。
だが、当然見所もある。
シスタは歌はふつーに上手だし、変身後のアリスちゃんはキレッキレッに踊っている。
そのほかにも、上半身のみ登場のシスタが軽く体を横に揺らすだけで、ぽよぽよするきょぬーには、ぐぬぬっ、となるし、歌の代わりに、囁き声を収録したアリスちゃんの『……すき♡ ……すき♡ ……だぁいすき♡♡♡』は脳が揺れて鼻血が出る。
……というか、私とシスタは出た。なので、よほど耳が余程良くないとわからないくらいには音を絞ることにしたが、ぽそぽそっ、と聞こえるそのかわいらしい声に気づいたら、私たちと同じ運命を辿るだろう。……ある意味、無差別テロかもしれない。
……と、そんな風に全世界に向けた幸せになる地雷を設置し終えた私は、ふぅ、と息を吐いた。
終わった? とばかりに、私の顔を覗き込んでくるこりすちゃんの頭をぽふぽふと撫でる。
んゃ~……、というか細い声を聞きつつ、私はくしゃみの原因であるエノルミータたちの動向に頭を巡らせる。
(……どこまで気付いているかな?)
……現状、私が舞台を整えた。その上で私に真正面から勝つことは、まず不可能だ。
考えてみれば当たり前の話である。私が勝つべく用意して、ちゃんと戦力を整えているのだ。……と言うか、勝てない勝負は娯楽以外でやる必要ないしね!
……まぁ、そんな状態であっても、勝算を用意してきたイミタシオはさすがと言わざるを得ない。
対して、エノルミータとトレスマジアの連合+パンタノペスカであるが……。
戦力的にはシオちゃんズよりも上と言ってもいいが、より整えられた舞台に上がる彼女たちの勝算はシオちゃんズよりも薄くなる。
……だとすれば、戦略目標は、『私を止める』よりも『イミタシオたちを救出する』に傾くことは予想がつく。
(……適任はルベルブルーメしかいない……予定通りだね)
現状、私とアリスちゃんの魔力源として確保されているイミタシオたちだが、これを奪還されるのは別に構わない……と言うか、魔力以外の用は済んでいるというか。
(……認識阻害の解析も終わってるし、ついでに、イミタシオとベルゼルガの魔法も解析済……)
……って言うか、クリーチャーどもはやっぱり性格悪いわ、と再認識するに至った。
『変身』の魔法とリンクしている『認識阻害』の魔法は、クリーチャーたちとの契約のほかに、あちら側との契約の意味もある。……これらが複雑に絡み合い、簡単に解くことができないようにした上で、『存在』そのものを代償に、足りない『魔力』を前借りして、大きな大きな結界を維持しつつ、戦闘で使った魔力の一部はあちらに送られる……大雑把に説明するとこんな感じか。普通では、解けないという意味において、契約というよりは呪いに近い。
(……んで、この魔法……開発には、アレが関わっていたことに間違いなさそうだね……)
ニセアトラというべき、アレが本来使っていた魔法。『吸収』。
魔法少女が使用した魔法は、最終的に宙に霧散するのではなく、結界に『吸収』されて、あちらの世界に送られているようだ。
(……それに加えて、最低三つ……『契約』、『代償』、『隠蔽』の魔法)
中核を為しているのは『契約』。これら全ての魔法をこの魔法で複雑に結び付けている。これがなければ、『認識阻害』という大きな結界魔法の一種が成り立たない。
(……それに、『代償』、か……)
私としては、代償を捧げることで、全体的な魔力使用量を低減させているただの一機能だと思っていたが、詳しく解析するにつれ、「……あれ? これ違うぞ?」ってなった。
私が予想した通りの効果もある……あるが、それよりも恐ろしいのは、代償があれば、無制限に未来にある魔力を前借りできるという機能と……代償の取り扱いだ。
……支払いに使われた代償は、受取側が自由にできる。
まぁ、魔力と交換する質入れと考えればわかりやすいだろう。
……しかし、この魔法の代償は、魔法少女の存在そのものである。
志半ばで亡くなった場合は、その魔法少女の存在そのものを代償に。
円満に引退するときは、その魔法少女の魔力を根こそぎ代償に。
……つまり、魔法少女になった時点で、いずれ魔力を奪われる、というクソみたいな縛りをしているのである。……まぁ、私たちの世界では、魔力なんてなくても生活できるわけだけども。いらないから搾取されて良いものでもなかろう。
……と言うか、ロクな説明もしていない状態で、こんなリスクを抱えているなんて正しく詐欺師のやることである。やっぱりクリーチャーどもはロクでもない!
おかげで、私やこりすちゃん、キウィちゃんたちまで知らん内に未来が確定されて
(……でも、そんなのは許さないよ)
……くくっ、と昏い笑みが浮かぶ。
ぜぇったい許してやんねぇよ、クリーチャーども? 私を……私とこりすちゃんを敵に回したことを後悔するといいさ! ふははははは!
「……☆」
私が、くつくつ、と笑みを浮かべている間に、こりすちゃんは、楽しそうにしながら、私の膝の上に載ってきた。
「……っと、ごめんごめん」
若干、彼女を放置していたことに誤りを入れるが、こりすちゃんは気にした様子もなく、むしろ楽しそうに……と言うか、艶っぽく目を潤めて……?
ぽすん、とソファの上で押し倒される、ちゅ、と頬に柔らかい感触。
ちょっとびっくりしながら、こりすちゃんを見ると……。
「……♡♡♡」
(……何かスイッチが入ってらっしゃるぅぅぅぅ!?!?)