「……♪」
ご機嫌なこりすちゃんを腕に引っ付けての帰り道。
……ファミレスで山盛りポテトをもりもり平らげ、先ほど我が家で夕食を食べ(おかわりもした!)、デザートのコーヒー寒天を貪ったこりすちゃんのお腹はぽんぽこりんである。
……正直、腕に当たるふにふにのおっぱいより、ぽっこりお腹の方が気になる……!
「……っ?」
……何か咎めるような視線のジト目が私を射抜くがそこはしらんぷりで!
それにしても、私がこりすちゃんを送るというのはそんなに意外だったのだろうか。家を出る間際の姉は、『うわぁ……』って感じの目をしていたけど……。あと、ちゃんと帰ってくるように念を押された……何でだろう?
「……そういや、こりすママはもう帰ってるの?」
「♡」
こりすママの仕事が一段落ついて、帰宅する旨の連絡があったからこそ、こうしてこりすちゃんを送っているのだが。もし、帰れなさそうなら泊まってもらうつもりだったので、その準備もしてはいたんだけども……。
……と言うか、こりすちゃんも、最近は替えの下着持ち歩いてるし……いつでも泊まれる準備ができているという……ま、まぁ、いつ不測の事態に陥るかわからないからね! 準備しておくのは大事だよ!
杜乃家の部屋の前に着いたので、玄関のチャイムを鳴らす。
「……は~い! おかえり、こりす~♡」
「♡」
玄関を開けたこりすママがこりすちゃんを、ぎゅぅ、と抱きしめる。
こりすママはこりすちゃんと比べると、ものすごくアクティブな感じである。
「つぼみちゃん、こりすを送ってくれてありがとうね」
「いえ、遅くまで付き合わせてしまって……あ、これ私が作ったんですが、よかったらどうぞ」
「わぁ♡ ありがとう♡ これが噂のつぼみちゃんの手料理かぁ♡」
……あ~……こりすママは私が料理が上手なことは知っていても、直接食べたことはないからね。こりすちゃんは一体どんな話をしているのやら。
料理を振る舞うのは嫌いじゃないけど、あまり期待をされると、ちょっと照れ臭い。
「……つぼみちゃん、よかったら、少し上がっていかない? ……あ、それとも泊まってく?」
「……っ☆」
いいアイディアとばかりにこりすちゃんが目を輝かせて、ぐいぐい、と私の手を引き、家の中に連れ込もうとする……って、強引だなっ!? そして、体重が増量しているこりすちゃんの力が強いっ!?
「あ!? いや!? 家で姉が待っているので……って、こりすちゃん、押さないで!?」
む~、と頬を膨らませたこりすちゃんが、更に強硬手段に出て、私を後から押し始めた。
「え~……私とこりすと一緒にお風呂に入って、三人で一緒にベッドで寝ましょう?」
……こりすちゃんとこりすママと私の三人でっ!?
さらさら金髪で超美少女なこりすちゃん……!
こりすちゃんの姉くらいにしか見えない美人なおねえさんのこりすママ……!
何なんだ、その淫靡な空間は……っ!?
……くそぅ、ものすごく興味が引かれるっ!!
「……いえ、急にお邪魔するのもご迷惑ですし! 姉からも早く帰ってくるように言われていますので!」
……うぅ……後ろ髪を引かれるような想いはあるけど……絶対、普通にお泊りじゃなくなるしなぁ……! だって、こりすちゃんもこりすママも目が獲物を狙うソレなんだもん!!
「……あら~、そうなの……残念ね。……遅いけど、つぼみちゃんは一人で大丈夫?」
「……っ、っ!」
しゅっしゅっ、とこりすちゃんがワンツーパンチを繰り出す。どうやら、私は強いから大丈夫、と伝えているようだ。
「そう……じゃあ、気を付けて帰ってね?」
「はい。それでは失礼します」
ばいばい、とこりすちゃんと手を振りあって、玄関のドアがバタンと閉まった。
……ふぅ、と私は息を吐いた。
『……ちょっと、こりす? つぼみちゃんに何かしたでしょう? 警戒されてるじゃないの』
『……♡』
『ダメよ~? ああいう子は押すと押した分だけ引いちゃうから、ちょっとは引かないと……。あと、積極的過ぎるより、大人し目の方が好みなんじゃないかしら? こりすは普段は大人しいけど、一度興味を持っちゃうと加減が効かないくらい攻めちゃうからねぇ……こう、弱ってる姿を見せて、寄ってきたところを、ぱくり、っていくのがいいんじゃないかしら?』
……………………耳がいいのも困りものだなぁ……。
……聞かなかったことにしよう!
……って言うか、娘に何を教えてるんでしょうかね、こりすママは……!
(う~む……こりすちゃんの性格は遺伝だったか……!)
意外に計算高いと言うか何と言うか……。
(こりすママはあれで完全に悪戯好きな小悪魔系だよ、たぶん……)
……学生時代はさぞかしモテたことだろう。
(……まぁ、ウチのママとは比べちゃいけないんだろうけども)
柊家は母も姉も私もたぬき顔。目立たず日陰でのほほんとしているのが似合う一族なのだ。
……夜道を一人歩く。
午後八時を過ぎた街並みは、点々とした街灯に薄く照らされている。
空を見上げれば、星が見えた。
……今の日常は嫌いじゃない。
もし、魔法少女になっていなければ……きっと、この日常はどこかで破綻していた。
母を想う気持ちはあれど、おそらくそれは愛ではなかった。
……姉だけがいればいいと思っていた私は、早晩、そうなるようにしていただろう。
人付き合いが苦手な姉である。
優しく、甘く、蕩けるような籠を作って、姉自身も私以外いらないと思えるようにして。そうやって、私以外の世界のその他から切り離して。私以外の全ての人が姉を忘れてしまうようにして。
宝物を仕舞うように誰にも見せず、私だけのものにする。
「……くふっ♡」
……そんな未来も捨て難くはある。
だけど、あれから私は愛するものを増やしていった。
……だけども、胸の中では燻っている。
どうしようもないほどの独占欲と破滅願望。
世界を二人だけのものにして……でも、互いに互いの命を手折る。
……そんな甘い誘惑。
……しかし、既にそのような子供時代は終わりを告げたのだ。
私は私のまま。……でも、新しい物語を紡ぎ始める。
とびっきりわがままで自己中心的で……でも、きっと幸せな物語。
……星に向かって手を伸ばす。夜空で一際明るく輝くその星を掴むように手を握った。
「……さぁ、物語の幕を開けよう? ……そして、私は手に入れる」
……私は幸せを望んでいる。この世の全ての人の幸せを望んでいる。
私が描く未来を人々が非難するというのなら……?
私が描く未来こそが幸せだと思わせればいいだけ。
そうできるだけの準備を進めてきた。そうできるだけの力を付けてきた。
だから、後はその未来を描くだけ。
……でも、その未来を選ぶのは私じゃない。私じゃなくていい。
物語は必ずしも主人公だけが作るものじゃない。
悲劇であっても喜劇であっても、未来を創るのは一人ではできない。
「さぁ、選択のときだよ? …… 」
……虚空にその名を呟き、私は、くふ、と笑みを深める。
……彼女が選択した未来がどうなるのか。
私はどれでも構わない。いずれの未来も私にとっての幸せだ。
………………だけれども。
……できれば、もっとも良い未来が選ばれることをそっと願った。