……かちゃり、と開いたドアの向こう側には、枕を抱いたつぼみが軽く俯き、顔を赤くして立っていた。
「……おねえ……い~い?」
(……あざとい……!)
あらかじめ一緒に寝る約束をしていたというのに。
……そもそもかなりの頻度で一緒に寝ているというのに。
なんか今日初めて勇気を出しました感を出して、恥ずかしそうにもじもじしている妹の姿。
……だが、かわいい!!
姉の贔屓目を抜いたとしても、「優勝!!」と叫びたいくらいには、妹らしい妹のかわいさを演出している。……というか、演出だと理解していても、「ウチの妹はかわいいなぁ!」と姉バカにならざるを得ない。
「……ほら、おいで、つぼみ」
ぽんぽん、とベッドを叩いて、了承の意を伝えると、えへ、とつぼみが嬉しそうに笑みを浮かべた。
とてて、と小走りに近寄ってきたつぼみがうてなのベッドに、ぽふり、と乗っかる。
うてなが少し体をベッドの端に寄せると、つぼみは自分の枕をうてなの枕の隣に並べると、こてん、と横になった。
……自分のものとは違うシャンプーとトリートメントの香りが鼻孔をくすぐった。すっきりとしていて、だけども甘い果実の香り。
「……えっへへぇ♡ おねえちゃ~ん♡」
「はぁい」
きゅっ、と抱き着いてくるつぼみをうてなは優しく抱き留める。
「おねえ」ではなく、「おねえちゃん」。
……どうにも今日は妹として甘えたい日らしい。
『……すき。おねえちゃんがすき。だいすき』
……つい先日。そうつぼみに告白されたことを思い出す。
未だその気持ちに変わりがないであろう妹は、隙あらばすきすきアピールをしてきたり、ボディタッチによるスキンシップをしてきたりと、特にうてなを諦めた様子は見えない一方で、積極的にキウィ
……本来ならうてなは怒ってもいいところであろう。
自分をすきと言っておきながら、自分にアピールしつつ、自分の想い人(仮)にもコナをかけているのである。
……言葉だけをなぞるなら不誠実極まりないものだ。
だが、つぼみの視点に立って、彼女が妹であることを意識して考えてみる。
だいすきな姉と一緒にいたいから、姉がすき(あるいは姉をすき)な人もすきになろうとしている。
……そう考えれば、姉がだいすきなだけのただの妹なのだ。
……まぁ、つぼみの場合、単なる姉妹愛というものではなく、そこに性的な好意も含まれるので性質が悪いところはあるが。
視野が狭く、およそ愛を向ける対象を限定していた彼女が、姉以外にも愛を向ける余裕ができたとも取れるし、そうできるほどに成長できたとも言える。
うてなにとってそれは好ましい変化であった。
同年代の少女に比べて要領が良い……
前にも、隣に並べる者がいないから、彼女の視界に入らない。彼女が前を見続ける限り、誰も視界に入らない。ずっと手を握っていたうてなだけしか彼女の意識に残らなかったのだ。
……本当はそっと見守っている人もいた。後を追いかけようとする者もいた。
……あるいは別の道で合流しようとしている者もいただろう。
だが、世界を狭くしてしまった彼女はそういった人々を一顧だにしていなかった。
……でも、今の彼女は違う。
立ち止まって、後ろを振り向く余裕ができ、自ら手を差し出すこともできるようになった。
……いや、この表現も少し違うだろうか。
強過ぎた彼女は、倒れた誰かに気づいて後ろを向き、その誰かの手を引くことは元々できていたのだ。立ち上がった誰かに興味がなかっただけで。立ち上がった誰かが彼女にどういった想いを抱くのかもどうでもよかっただけで。
未だ拙い部分はあるのだろうが、立ち上がった誰かを気遣ったり、あるいは抱きしめたり、手を握って一緒に歩くことができるようになった。……まぁ、自分に向けられる感情への鈍感さ具合は酷いものだが、それでも一定以上の感情を持つ者には、一応、気づくようにはなった。
その顕著な相手がこりすだろう。
つぼみ自身、鈍感なりに彼女の好意に無意識に気づいていた。……だからこその
何だかんだ言い訳してはいたが、あれはつぼみなりにこりすの好意に応えようとしていた結果だとうてなは考える。
……そうでないとすると、うてなに対する当てつけか。
(……いや、その線もないとは言えないなぁ……!)
ハハハ……、と脳裏で空虚な笑いを浮かべる。
自分を振った姉に、彼女が妹分として仲良くしている相手とそういうことをしているところを見せつける。
……あのとき、うてなは確かに嫉妬していた。
『つぼみは自分の妹なのに何で!?』と、意味のわからない独占欲があった。
……うてな自身、既に自覚している。
……うてなはキウィに恋している。しかし、つぼみのことは妹以上に愛している。
この先、キウィと共にあるとする未来に、つぼみが欠けるなんてことは想像できない。
姉妹だから当然? ……いや、姉妹であっても疎遠になることなんて十分にあり得る話。
だけど、うてなには
つぼみが妹だから?
つぼみがいれば便利だから?
つぼみが作る料理がおいしいから?
つぼみが掃除、洗濯、炊事と何でもやってくれるから?
……確かにそれは理由ではあるだろう。
つぼみが張り巡らせた糸に雁字搦めにされている自覚もある。
……だが、それ以上に……つぼみを愛しているからに他ならない。
妹が幸せに笑っている姿を一番近くで見ていたいからに他ならない。
「……おねえちゃん?」
不思議そうな顔で顔を除いてくるつぼみの額に唇を落とす。
「……つぼみ……」
「……え~、なに、おねえちゃん♡ ……デレ期?」
「……つぼみが甘えたいように、私だってつぼみを甘やかしたいときはあるんだよ?」
「ふ~ん? じゃあ、目いっぱい甘やかしてね♡」
ぽふっ、と胸に顔を押し付けてくるつぼみ。すーはー、思いっきり深呼吸している息がくすぐったい。
片方の手で、よしよし、と彼女の頭を撫でる。少しだけこちらを見上げたその顔には、にへ、という幸せそうな笑顔を浮かんでいた。
「……さぁ、もう寝ましょう、つぼみ」
「……は~い♡」
互いに向き合って、きゅ、とくっ付き合う。
どちらかともなく伸ばした手に互いに指を絡め合う。
温かい……しかし、暑すぎることはない、丁度良さ。
「……ママが見たら、また呆れるかな?」
くすくす、とつぼみが悪戯っぽく笑う。
……まぁ、母が仲の良すぎる二人が一緒に寝ている様子を見て呆れるのはいつものことだ。
『つぼみに変なことしてないでしょうね……?』と、何故かうてなにだけ疑いの目を向けてくるのはどうかと思うが。どちらかと言うと、されているのはうてな側なのに……。
(……仕方ないよね?)
柊姉妹は仲が良いのだ。互いがドのつくシスコンであるくらいには。