……電気を消すと間もなく、すぅすぅ、と姉の寝息が聞こえ始める。
恋人繋ぎのように絡めた指はそのまま、反対の手が私の背中に伸びて、ぎゅぅ、と抱きしめられる。
「……んっ……ふふっ……♡」
満足気な姉が無意識の内に笑みを浮かべた。
(……う~ん……私は抱き枕じゃないんだけどな~♡)
抱きしめられた私は、自然、姉と密着している。何ならお胸に顔を埋めている。
す~、は~、す~、は~、す~……、す~……、ふんす~~!
「……っぷはっ!」
姉の胸から顔を上げる。いい匂い過ぎて、深呼吸してても、吐く息を忘れそうになる。さすがの私も呼吸しなきゃ死んじゃうからね!
むにゅ、むにゅ、と顔の位置を変えながら、姉の胸を堪能しつつ、一番、寝心地のいい場所を探る。
「……んっ……、はぁ……♡」
……姉の吐息がちょっと色っぽい。
単に私がもぞもぞしているくらいであれば、姉が目を覚ますことはないし、ちょっとさわさわしたところで、ちょっとえちぃ声が出るくらいだ。
……そのくらいにはいつものこと、ということである。
ぽふ、と姉の双丘の間に耳をくっつけるような形が最終的なベストポジションになった。
とくん、とくん、と姉の心臓の音が聞こえる。
(……あぁ……安心する……)
……甘えるだけじゃなくて、ちょっとくらいえちぃことをしようかな、とどこかで思っていたのだけれど。
そういった感情が消えてしまうくらいに安心している自分がいた。
頬に伝わる体温。
ぎゅ、と握られた指先。
背中に伸ばされた腕。
互いに重なり合う脚。
髪の毛にかかる吐息。
(……おねえちゃんがここにいる……)
……たったそれだけで。
私は自らの幸せを自覚する。
……もう、他に何もいらない。
そう思えるほどの幸せ。
(……でも)
自分はそうだとしても、姉はどうだろうか。
内向的な姉は、小さな世界だけで満足していた。
昔のままなら、姉もそれだけで満足していたのかもしれない。
だが、姉の世界は少しずつ大きくなり、姉は少し欲張りになった。
……それは悪いことではないのだろうけど、私としてはちょっぴり寂しい。
(……いや、お互い様かな?)
何となくだけど、姉も同じことを思っているのかもしれない、とそう思った。
お互いに姉離れ妹離れができない仲の良過ぎる姉妹。
その関係が心地よくて、大すきで……だからこそ閉じ込めてしまおうと思ってしまうほどに。
大すきなものを集めて、箱にしまって、すきなときに眺める……そんな幼いわがまま。
いつまでもそんなわがままが許されはしない……そんなことはわかっている。
だからこそ、願ってしまう。
宝物が宝物のまま、きれいでありますように、と。
……鍵をしめて閉じ込めて、思い出の中だけで楽しむのか。
それとも、誰にも盗られないように、後生大事にしまい込むのか。
……あるいは、きれいなままで全てを終わらせるのか。
いずれの選択も傲慢だ。
自分のことだけで相手のことなんて考えていやしない。
だけど、そうしてしまいと思うほどに……。
「……すきだよ、おねえちゃん……」
私は少しだけ体を起こして、姉の頬に唇を落とす。
……ちゅ、と小さな水音。
姉が少しだけくすぐったそうな顔をしながら、にへ、とだらしない笑みを浮かべる。
……夢の中のおねえちゃん? それはいったい誰に対しての笑顔なの?
ずき、と胸が痛む。
私の恋心は私の心に棘を刺していく。
……きっとずっと、死ぬまで消えない呪いのように。
傷口がじくじくと鈍く痛む……そして、同時に、きゅぅ、と苦しくなるように甘く痛む。
恋をしているんだ、と自覚する。
いけないことをしているんだ、と自覚する。
……そして、それを楽しんでいる自分の醜さを自覚する。
……そして、そんな自分を認めない世界の狭量さを呪う。
「……ふふっ♡」
だけど、そんな醜い世界をこそ、祝福しよう!
世界は私を嫌うけれど、私は世界が大すきだ!
狭量で、傲慢で、醜悪で……ああ、なんて愛おしい!
「……おやすみ、おねえちゃん♡」
……でも、今は世界なんてどうでもいい。
おねえちゃんの体温を感じながら眠りに落ちる幸せと比べれば、些細なことだ。
私は姉のお胸を枕にして、深呼吸。
花のような香りに包まれて……私はゆっくり眠りに落ちる。
…………………………………………とても、幸せな夢を見たような気がした。
◇◆◇
「……んぅ……」
カーテンの隙間から差し込んだ陽光に目を覚ました。
「……くぅ……くぅ……」
……姉の眠りはまだ深いようだ。目覚める気配はない。
「……おはよう、おねえちゃん♡」
無防備な首筋に吸い付く。……ちゅ、と音を立てて、そこには赤い痣がうっすらと残った。
……まぁ、一つくらいならバレはしないだろう。
私は体を起こそうとするが、未だに姉と指が絡まっていて、ぎゅう、と抱き着かれていることに気づく。
「……ん、っと……」
姉を起こさないように丁寧に指を離していく。……指の温かさが離れていくのが、寂しく、また、名残惜しい。
許されるなら、このまま二人で惰眠を貪りたい気分なのだが。
(……そうもいかないよね)
そっ、と姉の腕を自分からはがして、私はゆっくりとベッドから降りる。
カーテンからのぞいた空は雲一つない晴天だ。
今日も暑くなるのだろう。遠慮無しに紫外線を降らせる元凶に少しだけ恨めしい視線を送る。
……しかし。いや、だからこそ、と言うべきか。
いつもと変わらない朝。いつもと変わらない日常。その始まりを心から美しいと思えた。
……だから、ちょっとだけ、名残惜しい気分になった。
「……
さようなら。くそったれのこの世界!
さようなら。醜いものだらけのこの世界!
「
……さぁ、新しい一日を始めよう。
さぁ、新しい世界を始めよう。
カーテンを開けて、窓を開こう。
……ああ、今日は、とてもいい日和だ。
「……おはよう、おねえちゃん♡ いい朝だよ♡」
くふ、と私は微笑んだ。