「……はぁぁぁぁ……」
はるかは珍しく落ち込んだ様子で、パフェの上に載っているさくらんぼをつついていた。
魔法少女の活動のカロリー消費は激しい。年頃の少女となればなおのこと。
よって、活動後のおやつタイムは必要不可欠である。
……そして、ちょっぴりカロリーがお高めであったとしても仕方ない。仕方ないのである!
「……何や、はるか。えらい落ちこんどるやん?」
ずずっ、と薫子はコーラを飲みながら、はるかを見た。
「……だって、アトラちゃんが、論外って」
ぷくぅ、とはるかは頬を膨らませる。
元は、はるか一人が魔法少女をしていたところ、小夜、薫子を勧誘し、現在、トレスマジアとして活動している。
実戦経験も一番長いはずのはるかが真化に至っていないという事実は、彼女に劣等感を抱かせるには十分だった。
「……そんなこと気にしてたん? 気にすることあらひんやん」
……言う方は簡単なものである。
はるかにとっては、気にするな、という方が無理であった。
自然、不機嫌そうに口を尖らせることになる。
「そうよ? それにアトラははるかには優しい方じゃない?」
「……アンタ、さんざんやったもんな?」
小夜は、極大の雷撃を直撃させられ、ネロアリスのドールハウスにぶち込まれ、彼女に縛り上げられて、打ち出されては、マジアアトラに雑に蹴り上げられた。
そんな対応に比べれば、ケガをさせないように気を使って助けられている。はるかにかけられた言葉は一見キツいものとも思えるが、その言葉の裏を考えれば、激励ともとれる。そう思えば、終始雑に扱われた小夜とは異なり、アトラのはるかへの対応は優しいものであったとも言えるだろう。
「……ま、あの子の言うことは話半分に聞いとくことやな」
薫子の言葉の意味が分からず、はるかは、きょとん、と首を傾げる。
「……どういうこと?」
はん、と薫子は面白くなさそうに鼻で笑う。
「……あの子は、大ウソつき、っちゅうことや。ウチらに見せている態度は全部作りモン。素だったのは、嬉しそうにタコ拾ってるときくらいやったで?」
……確かに、あのときだけは、はるかにもアトラが年相応の……いや、それよりも幼い少女のそれに見えた。
「何ならウチはエノルミータの自作自演も疑っとるくらいや。……まぁ、だとしても、ベーゼの反応見る限り、アイツは知らんのやろうけど」
「……ベーゼは一応総帥でしょう? 仮にそうだとして、知らないなんてことがあるかしら?」
エノルミータの内部分裂は、確かに今だ記憶にも新しい。ロード団なる、元エノルミータの幹部を打倒し、現在のエノルミータの形を作ったのは確かにマジアベーゼであり、彼女たちの活動に、彼女の意向が大きく反映されているのは間違いない。
「……あるやろ? 表向き、アイツを総帥に据えておいて、裏で動いた方が動きやすい。アトラが黒幕やった、なんて結末でもウチは別に驚かんで?」
「……薫子ちゃん、それ、どれくらい本気で言ってるの?」
キツい言葉を浴びせられたものの、一応は恩人、と言うべき彼女がそのように思われるのは、はるかとしては、あまり面白くはない。
はるかの咎めるような視線に、薫子が思わず苦笑する。
「……ま、アトラが黒幕言うんは言い過ぎやと思うけどな。あり得る、っちゅうんは、考慮に入れといて然るべき、っちゅうこっちゃ。背中から刺されたら堪らんもん」
警戒は必要だ、と言う薫子の言葉に、はるかは、慎重な薫子ちゃんらしい、と頷いた。
同じように、小夜は、薫子の言葉を受けて、ふむ、と考える仕草をとった。
「……完全な味方とは見れない、ということですか。……それにしても、薫子は随分アトラのことを見ているみたいだけど?」
にや、とした笑みで小夜が薫子の方を見れば、ぷっ、とストローに空気を逆流させ、ぽこ、とグラスの中で泡立った。
薫子は少し頬を染めて、二人から視線を逸らしながら、少しだけ慌てるようにしながら答える。
「んんっ!? ……まぁ、あの子には借りができてしもたからなぁ……」
「……あのときのアトラちゃんは、カッコ良かったよねぇ♡」
ほぅ、とはるかがため息をつく。
ピンチに颯爽と現れて、ヒロインを助けるその姿。
特に薫子はお姫様抱っこまでされている。
あれは女の子なら誰でもあこがれるシチュエーションの一つだろう。
「……なん? はるかもああいうのにあこがれてるん?」
「そりゃあね! 私もお年頃だもん!」
「ふーん……」
えへへ、と笑うはるかに薫子は少し不機嫌そうな視線を返してきた。
……これはまさか!? もしかするのか!?
はるかは顔色に出さないようにしながらも、少しだけ、どきどきわくわくしていた。
(あの薫子ちゃんが!? アトラちゃんに!? ふぇぇぇ!?)
そう想い込んでしまったはるかは気づかない。
薫子が何に対して不機嫌そうにしたのかということに。
「……しかしなぁ、あの子が言うのももっともなんよね。ウチらはもっと強くならんと……!」
ぎゅ、と握った薫子の手が白くなる。
悔しい、とそう思ったのははるかだけではない。薫子も、小夜も同じように思っている。
「……ならなろう! もっと強く!」
おー、とはるかが拳を突き上げる。
小夜も、薫子もその姿を眩しそうに見つめた。
「……そうね。また、特訓でもしましょう!」
「せやね。いつもより、がっちりやろか!」
二人の声を聞いて、はるかは真っすぐ拳を突き出し、その意図を察した二人が、こつん、と拳をぶつけた。
◇◆◇
ネロアリスのドールハウス内。
医務室と化したそこで、うてなはナースこりすによる治療を受けていた。
「……うてなちゃん、だいじょーぶー?」
心配そうに顔を覗き込むキウィにうてなは柔らかく微笑んだ。
「ええ、問題ありませんよ、キウィちゃん。こりすちゃんもありがとう」
「……!」
むふぅ、と嬉しそうにナースこりすが親指を立てる。……かわいい。
マジアアトラが吸収した『ヴォワ・フォルテ』の攻撃を受けたマジアベーゼは、見た目こそ派手にやられたが、ダメージとしてはそれほど大きくはない。だが、それでも小さなすり傷は無数にできていたし、衝撃波というその性質上、体内へのダメージも懸念される。
故に、ちゃんと回復しておけば、安心。心配せずに眠れるというものである。
(……それに、つぼみに心配をかけるわけにもいきませんし。何より、カンの良いあの子に余計なことに気づかれるのは絶対に避けたい)
身内に身バレとか死ねる!
あんなエロい格好を人様の前でしていることはもちろん、結構な痴態も晒しているし!
「……あいつぅぅぅ、うてなちゃんにケガさせやがって! 死なぁす! 殺ぉす!」
うがぁぁ、とキウィは怒り心頭である。
心配してくれるのは嬉しいが、うてなにとって、アレは既定路線である。そんなに怒る必要ないのに、とちょっと苦笑気味だ。
「ま、まぁまぁ、キウィちゃん……私は気にしてないから、ね?」
「ちょっとは気にしてよ、うてなちゃん!? こりすが助けに入らなきゃ、吸われてたかもしれないんだよ!?」
それは確かに、アリスが割って入らなければ、ベーゼはアトラに捕まっていただろう。それはそれで、色々確かめることはできたのだが。
「まぁ、そのときはそれだけど……キウィちゃんこそ平気?」
うてなとしては、キウィの方が心配だった。
多少の無茶は言ったつもりだったが、キウィは何の躊躇もなくうてなの作戦に乗ってくれた。
囮役などという、傷つく前提の作戦であっても。
「うん? まぁ、ちょっとダルい感じはあるけど、体的にはそんなに……」
殴られたり、蹴られたりはしたが、終わってみれば、不思議なほどにダメージがない。
キウィは身体能力に自信はあった。
変身後の身のこなしについても、真っ当なガチンコなら、エノルミータの中では随一と思っていたし、肉弾戦に特化していると言っても過言ではないマジアサルファと小細工抜きに格闘戦をやるのだとしたら、キウィ以外では務まらない。
しかし、アトラは、そんなキウィを軽くあしらってみせた。
目くらましからの接近戦。彼女の不意を打ったハズなのに、こちらが的確に迎撃された。体の動きに多少のぎこちなさはあったものの、あれは場数を踏んだ者のそれだ。
だからこそ、このダメージの無さには首を傾げている。
「魔力はちゃんと戻ってますか?」
「……うん、そっちも問題ないなーい」
ぐーぱーしてキウィが具合を確かめているが、確かに問題はなさそうではあった。
「こりすちゃんはどうです? ぬいぐるみは魔力を吸収されて制御が外れていたようですが……」
ふるふる、とこりすが首を振って、特に問題はない、と答えた。
「真珠ちゃんは?」
「真珠? 真珠は全然……あ、でも、キウィが前に言っていたように、込めた魔力よりも多く持っていかれたかも?」
「……ふむ」
うてなはあごに手をやって考える。
(……アレはちょっと厄介かもしれませんね)
……能力も確かに厄介だが、本当に厄介なところは別のところだ。
しかし、どうにも彼女が執拗にマジアベーゼを狙っているらしいことは間違いなさそうである。
……不思議と笑みが浮かんだ。