「……何だよ、うてな。気になることがあるんならちゃんと話せよ」
考え込んでいる様子のうてなにネモはそう声をかけた。
自分たちのボスは、どちらかと言うと、自分の欲望最優先で、陰謀を練るタイプではない。それがここまで考え込むなど、正直、尋常のことではない。
「……そうですね。考えていることは幾つかありますが、問題点は共有しておいた方が良いでしょう」
うてなは座り直すと両手を組むようにして、テーブルに肘をつくと、その手にあごを押し付けるようにして、神妙な顔をした。
……なるほど、これは総帥っぽい。とっても悪そうだ。
「…………………………あの子のちっぱい、とってもえっちじゃないですか?」
きりっ、とした顔で言うんじゃねぇ!
ネモが額を抑えてため息をつくと、真珠がどこからか取り出したハリセンでうてなの頭をひっぱたく。こりすが、何言ってんだコイツ、的な感じで嫌いな虫でも見るような視線をすると同時、血の涙を流しそうなキウィがうてなの肩を持って、がくがく、と揺らしている。
「ゔでなぢゃ~~~んっ!!」
「冗談!? 冗談ですからね!? 場を和ませようとした総帥ジョークですよ!?」
……まったく場が和んでいない上、まったく笑えない。一瞬で地獄のような空気を作ったのはある意味総帥らしいが。
「……ちょっとは本気だろ?」
「……えへ♡」
ネモの指摘にうてなはつやつやお肌で笑みを浮かべた。色んな栄養が補給できたのだろう。うてなの肌は今日もつやつやてかてかである。
……まぁ、うてなの気持ちはわからないでもない。
ネモが真珠に想う、かわいいな、という気持ちとは別種のかわいさを感じて……何故かいじめたくなる。……もっと正確に言えば、構いたくなるというか、いじりたくなるというか……そんなかわいらしさだ。
……悲鳴も嬌声も、もっと聞きたいと思ってしまうほどに。
「……くふっ♡ 強がっているマジアアトラは本当にかわいらしいですよねぇ♡」
ネモが珍しく真珠以外に頬を染めている様子を見てか、うてなは的確にその考えを読み透したようだ。
アトラを、かわいいかわいい、といううてなにキウィは不満そうにしながら、後ろから抱き着いた。
「……強がってるって、アイツがぁ~?」
「そうですよ、キウィちゃん。マジアアトラはとってもとってもウソつきなんです!」
くすくす、とアトラのその本性を見透かしたかのように、うてなは笑う。
「あの子は魔法少女として、強者振って私たちの前に立ってはいますが、あの子の精神構造はおそらく魔法少女のそれではないんです」
魔力でかたどられた黒い翼。
風でなびく黒い髪。
光沢のある黒い衣装。
見た目こそ、魔法少女らしいが、この色こそが彼女をよく表している。
「自分を偽り、他者を偽り、世界をも偽る……相当な腹黒ですよ、あの子。私の主義ではありませんが、こちらに鞍替えして欲しいくらいです」
然るべきとき、然るべきシチュエーションであればその限りではないですが、とうてなはアトラがこちらに来ること自体は満更でもなさそうだ。
……まぁ、確かに。あの子は屈するのではなく、主義主張を違えた結果、魔法少女と袂を分かち、闇堕ちしそうなキャラ立てをしているのは間違いなさそうだが。
「……能力も『吸収』だろう、と取り合えず当たりを付けましたが、これも下手をすれば違います。……いえ、正確ではない、と言ったところでしょうか? ……キウィちゃんわかりますか?」
「……魔法そのものを吸収しているのか、魔力を吸収しているのかってことでしょー?」
キウィはあんなだが、頭の回転は早い。
そして、うてながキウィを囮に使ったのも、キウィが彼女の能力をどう評価するのか改めて確認する意味もあったのだろう。
突っ走るきらいもあるが、キウィの対応力、応用力は敵に回したい相手ではない。
「はい♡ 花丸満点をあげます、キウィちゃん♡」
ぱちぱち、とうてなが拍手をして、キウィの頭を撫でる。
機嫌を良くしたらしい、キウィは、うてなの膝の上に乗って、ぴと、とくっつき始めた。
……ネモもちょっと人肌恋しくなったので、そっと真珠に近づいて、その隣に陣取る。
「……つまりは、アタシらの魔法をそのまま吸収して使っているのか……それとも、分解して魔力にした上で吸収して、解析、再構築してるのかってとこか?」
「……どっちだと思います、ネモちゃん?」
にやにや、とうてなが意地の悪い笑みを浮かべている。
「……どう考えても後者だろうよ。多少のロスはあるんだろうが、そうでなきゃ説明できないだろうが」
……語るまでもない。
レオパルトの『滅殺光線シュトラール』。
マジアサルファの『雷霆掌・重』。
マジアアトラはその魔法をそのままの形では使っていない。同系統の別の魔法として使っている。
レオパルトの『滅殺光線シュトラール』は光線と言っておきながら、その軌道は自由自在の破壊光線だが、アトラの使用は直線的。
サルファの『雷霆掌・重』はサルファ自身の加速に加えた、雷のエンチャント。しかし、アトラは単純な雷撃魔法として放出した。
吸収した魔法をそのまま使うのではなく、おそらくは解析、分析して、別種の魔法として再構築しているであろうことが予想できる。
現状、何らかの制限があるのか、混ぜて使ってくることはないようだが……アトラが自分たちの、トレスマジアの魔法を全て解析してきたのだとしたら……一体、どれほど恐ろしい魔法を繰り出してくるか想像もつかない。
……だが、うてなは笑った。
「私もそう予想しています。とても強いですね、マジアアトラは。でも、彼女が恐ろしいのは、そこじゃないんです」
「……もったいつけんじゃないわよ、うてな。アンタ、アイツの何がそんなに気に入ったっていうのよ?」
にたぁ、と笑ったうてなは真珠の咎めるような視線に、自分の頬を揉むようにして、真剣な顔を作り直した。
しかし、それも数瞬。楽しくて仕方ないらしいうてなの顔は、すぐにだらしのないものに変わった。
「ふふ……あの子は見られていることを理解しています。自分が常に魔法少女として好機の視線を向けられていることを。人々がどういう目で彼女を見ているかということを。頭が良いのでしょうね。だから彼女は演じるほかない。……魔法少女を! ヒロインを! 強者を! よって、偽るしかない。自分の力も気持ちも行動もです! あの子はトレスマジアをより高く舞わせるための翼です! あの子は、トレスマジアに見せつけるように、お手本となるように空に羽ばたいて……」
爛、とうてなの瞳が黒く輝く。
天井に伸ばした手の中の空気を、ぐしゃり、と握り潰す。
「……でも、墜ちる運命しかない! イカロスの翼のように、彼女の翼はウソで塗り固められた偽りの翼なのだから!」
あははは、と高笑いをするうてな。
そんな彼女の膝の上のキウィがぽつりと零す。
「……………………………クソやべぇ」
それな、と心の中で同意して、ネモは遠い未来のマジアアトラに同情した。
◇◆◇
「……ただいまぁ」
「……おかえり、おねぇ!」
ぱたぱた、とスリッパを鳴らして、夕ご飯の支度をしていたらしい、つぼみがうてなを出迎えた。
「……つぼみ、今日はちゃんと火止めた?」
「つぼみちゃんは何度も同じ失敗はしないよ! つぼみはできる子ですから!」
どや顔の妹はかわいいが、自分でそれを言うと割と台無しである。
「……今日も夕飯の支度ありがとうね……。お母さん、やっぱり今日も遅くなる感じ?」
「そうみたい……おねぇ、ふたっりきりだね……♡」
ぽぽっ、と頬を桜色に染めながらつぼみがうてなを上目遣いで見る。
「いつものことでしょ、もう……」
昨日、あんなことをしたとは言え、うてなにとってつぼみは妹である。
ぽんぽん、と彼女の頭を撫でると、つぼみは完全な妹扱いに、ぷぅ、と頬を膨らませて不満そうにした。しかし、それでもそんなやり取りすら嬉しそうにして、キッチンへ配膳に向かった彼女の姿をうてなは、くす、と笑みを浮かべて見送る。
手洗いうがいを済ませ、荷物を部屋に置くと、デート用の服から部屋着に着替えてから、ダイニングへと向かう。
……今日も香ばしい、良い匂いが漂っていた。
「へへ~☆ 今日はおねぇも大好物だよ☆」
「……え、好物? 何だろ……?」
うてなは辛いもの以外ならさほど好き嫌いはない。
「私たち姉妹と……ついでにママの好物と言ったら~?」
……母をついでにするのはかわいそう過ぎるのでやめてあげて。
「……言ったら?」
勿体つけるなぁ、とうてなはお腹の減り具合を感じながら、待ち遠しく思う。
「芋蛸南瓜! いっぱい作ったからね♡」
ああ、それは確かに好きなヤツだが……。いや、しかし……。
「……た、タコ……?」
できれば今日はお目にかかりたくなかったヤツである。
「そうだよ? 今日安売りしてたから、いっぱい買っちゃった♡」
「い、いっぱい……?」
「今日はタコ尽くしだよ! いっぱい食べてね?」
……妹の笑顔には抗えない! うてなは覚悟を決める!
(南無八幡大菩薩!!)
……まぁ、心理的抵抗を除けば、結果、大変おいしかったわけだが。
はい、皆さんの予想どおり、既定路線として出ましたタコ。
皆様がタコ料理案を上げてくれたので、
へそ曲がりな作者は全然別のメニューを推しました。
当たった人いるかな?
「とかく女の好むもの 芝居 浄瑠璃 芋蛸南瓜」から、
きっと好きだろうと(何時の時代だよ、という突っ込みはスルー)。
ちなみに、柊さんちの今晩の献立
里芋とタコとカボチャの煮物(いもたこなんきん)
タコとカボチャのマヨサラダ
タコのからあげ
タコ入りつみれのお吸い物
夏野菜とタコのマリネ
タコのパエリア
まぁ、これは僕のつぼみちゃんが作りそうな料理(願望)なので、
いもたこなんきん以外はお好きに想像して、
泣きそうなうてなちゃんを考えて、によによしてください。