「……う~む……」
せっかくタコが手にタダで手に入ったから、いっぱい使わねば、という謎の使命感からタコ尽くしのご飯にしたのだが、姉の反応はびみょ~だった。
いや、いつもどおり、「おいしい」って言ってはくれたけど……。
涙を流して、褒めてくれる様子は、そうだけどそうじゃないんだよ!?
……タコ嫌いだっけ? いや、でも、今日も反応が微妙だっただけで、お代わりしてたしなぁ……。
まぁ、明日のリベンジに懸ける! タコはまだ余ってるからね!
いやぁ、でも、食費が浮いたのは嬉しいな。月五千円の小遣いだけじゃ色々厳しいからね! ママはお手伝いした分は、ちゃんと上乗せしてくれるのだ! そして、私たち姉妹が二人で食べているときの食費は浮いた分、私の懐に入るという!
ママは楽ができて嬉しい。おねえちゃんはおいしいごはんが食べれて嬉しい。私は懐が温かくなって、おねえちゃんに褒められて嬉しい。
……一石四鳥である。つぼみはできる子ですよ?
だから、今日、おねえちゃんにあんまり甘えないのも作戦です!
私が甘えてこないのが、寂しいなぁ、とおねえちゃんに思わせるのだ!
【……楽しそうだね、柊つぼみ。悪だくみかな?】
「……アンタと一緒にしないでくれる?」
まったく……楽しいひと時が台無しだ。
今日だって最終的にタコ(無料)という成果があったから良かったようなものの、すごい無駄な時間だったんだからね!?
何でお給料も出ないのに、世界の平和なんて守らなければならないのか!?
【……柊つぼみはあれだね、結構、俗物だね】
「天使なつぼみちゃんに何言ってくれちゃってんの? 無給でやってあげてるだけ、ありがたいと思いなよ」
【……そうだね、ありがとう、柊つぼみ】
……こんな心が籠っていない「ありがとう」は久しぶりに聞いたよ。
正直、コイツにとってみれば、必ずしも私である必要はないのだろう。それでも、私を選んだ、というのは、何らかのメリットと思惑があるというだけで。
マジアアトラの能力が『吸収』というのは、私側の問題ではなく、コイツ側の問題だ。
能力としての強さとコイツの目的への直結。この二つを兼ね備えているのだろう。
【能力の使い方は慣れたのかい?】
「……まぁね。すっごい頭痛くなるけど」
よくわからんうちにトレスマジアとエノルミータの戦いの中に突っ込んでから、私はどうあるべきかを考えながら動いてきたつもりだ。
……まだ二回目とは言え、
トレスマジアと仲良しこよしをするつもりは毛頭ないが、彼女たちがいなくなっても困る。彼女たちがいなくなれば、エノルミータの活動は良くてこの街以外になり、最悪は解散だ。それじゃあ、私がベーゼ様と楽しく遊べない。
だから、彼女たちを助けつつ、向上心を煽り、しかし、盲目的な信頼を受けないように立ち回る。
マジアマゼンタはいい子ちゃん過ぎるし、マジアアズールはアレだし……消去法的に彼女たちで私の意を汲んでくれそうなマジアサルファだけ。彼女であれば、私を利用しつつも、絶対に信頼せず、適度な距離感を保ってくれるだろう。
一応、敵対関係にあるエノルミータは、その点、そう言ったことを考える必要もない。
ベーゼ様は自分の役割がどうあるべきかを考えて立ち回っているから、結果として私がどういう立ち位置であるかを理解した上で対峙していると思うし。
……これらを踏まえると、私自身は周囲との関係に問題はない。
問題があるとすれば、アトラの能力そのものと、コイツの目的だろう。
「……何なのアレ? 呪文? 計算式? 化学式? 脳みその中がいじられているみたいで気持ち悪いんだけど?」
【あっはっは。頭が痛いとか、気持ち悪いとかで済んでるんだから、大したものだよ、君!】
……まぁ、わかったことがあるとすれば、魔法というのは、実のところ、そんなに気持ちの良いものじゃない、というところか。
アレはこの世界では理外の法だ。完全に理解しようとすれば、正気を失う。
だから、理解するのではなく、図や絵として脳に焼き付けるのだ。
使うときは、その図と絵を関連付けして単純に思い出す感じで。
……ソレらが頭の中にあるというだけでも大分気持ち悪いが。
特に理解できない魔法はより気持ち悪い。マジアベーゼとネロアリスの魔法は解析せずに、焼き付けだけして今のところ放置プレイだ。
ベーゼの魔法は、生命生成に近い何かで、今の私が再構築しようものなら、SAN値直葬まっしぐら。アリスの方は、おそらく付与魔法的な何かだが、こちらはこちらで独自の理論で動いているから、直ぐには理解できない。言語が違うというか、そもそもOSの段階で致命的に間違っているというか……。
いずれにしろ、私が吸収した魔法の中では、現状、再構築不可能と判断している。
【『吸収』だけじゃなく、再構築までできるとは思わなかったよ】
「……あるいは、その方がアンタの都合は良かったのかしら?」
【……ふふっ。どうだろうね?】
ふっ……腹芸なら私の方が上手のようだな、クリーチャー!
『吸収』は強力だが、欠点もある。
簡単でしょ? 吸った分、どう処理するか、という問題。
魔力とかいう謎のエネルギーを無尽蔵に蓄えられるわけもなし、適度に発散しなければ、私が、ぱぁん、と弾け飛ぶこと請け合いだ。
だから、魔法を分解し吸収するのと同時、解析して再構築するのは、私からしてみれば、自分の体を守るための義務。一応、対外に取り出して一時的に保管できるよう、服と翼には既にある程度改良を仕込んではあるが……おそらくこのクリーチャーにはお見通しだろうし。
……さぁて、コイツの裏を取るにはどう動いたら良いだろうか。
「ふふふふ……」
【ふふふふ……】
互いに含み笑いを浮かべあう。
私たちには信頼関係など一切ない。
あるのは、打算という名の協力と、いつか互いを陥れるための腹の探り合いである。
……まぁ、ひりひりするようなこの緊張感は嫌いじゃない。
死が隣にあるという危機感。
それによる生の実感。
命を賭けることに対する罪悪感とどうしようもないほどの快感。
姉に恋をしたとき、劣情を催したときから、私、柊つぼみの中にある一つの願望。
全てを滅茶苦茶に壊してしまいたいと思う。
どうしようもないほどに堕ちていきたいと思う。
優しい揺り籠を壊し、温かな檻を抜け出し、厳しく寒い世界へと行きたいという衝動。
破滅願望とも言うべき、それこそが、私を突き動かすのだ。
◇◆◇
【……ふふふ】
眠る柊つぼみの姿は年相応のあどけないものだ。
この年で、これだけの想いを……闇を抱えているものはそうはいまい。
想いの強さ、これはイコール、魔力の強さである。
想いの中身は、味こそ違えど、特に意味などない。
愛情も、勇気も、正義も。
色欲も、傲慢も、怠惰も、嫉妬も、強欲も、憤怒も、暴食も。
美徳であっても悪徳であっても、魔力という名の単位でみれば、変りがない。
故に、より強ければ、それで良い。
その点、柊つぼみの想いは誰よりも強い。
他者の全てを飲み込んでしまうほど圧倒的な魔力を誇るマジアベーゼよりもだ。
彼女の稀有な点は、常に暴走気味な魔力をその体に宿しながらも、しかし、理性は決して手放さない点だろう。
あまつさえ、その暴走気味の魔力を具現化させることで、自身の体内の恒常化さえ図っている。
今のこのただ眠っているような姿もあるいは擬態。
驚異的なほどのスピードで、異界の理を解析しているのではないだろうか。
……何とも恐ろしい。
だが、同時に、非常に頼りになり……そして、優秀な道具だ。
だから、今は、眠れ、眠れ……。
明日の世界のために。未来の世界のために。
……大望を成就するために。