「こりすちゃ~~ん、一緒に帰ろう!」
放課後、こりすちゃんの教室でそんな声を上げたら、教室内がざわついた。
……あれ? 私、何かやっちゃいました?
「……」
こく、と頷いたこりすちゃんが、ぽてぽてと私の下までやってくると、きゅ、と私の手を取った。
ああ~、これこれ~♡ 私、妹も欲しかったんだよ~♡
まぁ、こりすちゃんは同い年だけどね。
「……それでは、皆様、ごきげんよう♡」
私は未だざわついている教室内に、そう言いながら、一礼すると、こりすちゃんの手を引いて帰り道につく。
……あの反応、どっちに対してのものかな?
こりすちゃんは無口だが、とてもかわいい。クラスでの扱いはマスコットのようなものである。見て愛でるのは、特に何も言われないが、やはり直接ちょっかいをかけるのはご法度とかあるんだろうか。
ちなみに、私は私で学校の中では結構浮いている。
……う~む。割と文武両道で頑張っているつもりだが、どうしてこうなった?
仲の良い友達は一応何人かいるのだが。
別にいじめられているとかそういうのは一切ないが、びみょ~に遠巻きにされる感じ?
……だとすると、私が声をかけた、という意外性か、相手がこりすちゃんだった、ということに対する反応……。
「……どっちだと思う?」
私がそうこりすちゃんに問いかけるが、彼女は、すんごいどうでも良さそうな顔をした。
こりすちゃんは全然喋ってくれないが、表情は結構豊かだ。もはや顔芸と言っても過言ではあるまい。
目は口ほどに物を言う、どころか、顔が全てを物語る、というか……。
だから、彼女と話しをしても苦痛になることはない。
「こりすちゃん、今日はこの後どうするの? ……え? おねぇたちと約束? いいなぁ……私も混ざっちゃダメかな? え、内緒の遊び!? な、何それ何ソレ!? ずるいずるい!! いいなぁ!? 私もおねぇといけない遊びしたい!!」
……ところで、こりすちゃんと私が楽しく話していると、私が危ない人に見える件。
あ、半分くらいは私が変なこと言ってるせいか。
ふふん、とこりすちゃんはちょっとどや顔。かわいい。
「……え? どうせ一緒に遊べないくせにって? そうだけどさ……」
塾があるから、確かにどんなに一緒に遊びたくても、今日は遊びにはいけないんだよね、私。
でも、本当に塾に行く必要があるのは、私じゃなくて姉の方じゃないかなぁ……。
要領があんまり良くないだけで、姉は頭は悪くないんだけど。
今、割かしエロい方向に頭使ってるせいか、ふつーのお勉強方面に手が回っていない感じ?
「……そういや、こりすちゃんはおねぇに変なことされてない? 大丈夫?」
これだけは本当に心配!
姉は否定していたが、本人自覚していないだけの可能性もあるし、双方同意だったらまだいいけど(ホントは良くないが)、やましいことしているようであったら、妹として戦うべきところは戦わねば!
何で私にしないんだ、ってね!!
「……あ、何もない……そ、そう。良かった……」
こりすちゃんが言うからには、本当らしい。姉よ、疑って済まない! でも、私を安心させるためには、私とキウィちゃんにやるべきことをやった方が良いと思うんだ!
「……羨ましい? こりすちゃん、一人っ子だもんね。私がおねえちゃんになるよ? ……え、いらない? ひ、ひどい……何でそんなひどいこと言うの……? ……友達がいい? こ、こりすちゃん……♡」
こりすちゃんは、姉のいる私が羨ましいと言う。
まぁ、姉は私という存在がいるせいで、あれで大概の年下の扱いは慣れているからね!
こりすちゃんが懐くのも納得です。
でも、こりすちゃんは私とは姉妹よりも友達の方が良いらしい。
これは、きゅん、ってくるね。これからは妹扱いじゃなく、親友として扱うよ!
「……あ、でも、おねぇのハーレムに入るなら、こりすちゃんは姉になるね?」
冗談めかしてそんなこと言ったら、すっごい嫌そうな顔されました。
……私と姉妹になるのが嫌なんじゃなくて、姉のハーレムに入るのが嫌なんだよね?
……そう言ってくれ、親友!
◇◆◇
いつものコンビニの前、ばいばい、と手を振って、こりすはつぼみと別れた。
先ほどまで握っていた手の温もりを確かめるように、手を握り締める。
……柊つぼみ。柊うてなの妹で、こりすたちの学校での有名人。
文武両道を地で行く彼女は、模試で優秀な成績を修めたり、校内記録を塗り替えたり、絵画コンクールで賞を取ったりと実に才女らしい活躍を見せている。
一方で、人間関係には頓着がないらしく、彼女の幼馴染とも言える友人たち以外との関係は希薄だ。
興味がない、というのが正直なところだろう。
彼女は度の超えたシスコンで、姉であるうてな以外は割かしどうでもいいという感じがありありとする。
……それでもこりすに声を掛けてくる辺りは、何か探りを入れているのか、それとも別の目的があってのことか。
純粋な気持ちでこりすに接しているのかすら、よくわからない。
うてな曰く、「……あれで何も考えてないよ?」とのことだが、本当だろうか。
まぁ、うてなも、色々考えているように見えて、自分の欲望に忠実な辺り、考えているようで考えなしではあるが。
「……」
こりすは今の生活に充実感を覚えている。
一人遊びしかしてこなかった自分に、友人というべき人たちができた。
……新しいおもちゃもみつかったし、新しい遊びも始まった。
とてもとても、刺激的で楽しい遊びだ。気を付けることと言えば、おもちゃを壊してしまわないようにすることくらいか。
家に戻り、一人きりなのを確認すると、こりすは今日も、黒い空間の扉を潜る。
扉のその先、ナハトベースでこりすを迎えたのはエノルミータのマスコット、ヴェナリータであった。
「……おや、杜乃こりす。ひとりかい?」
何を考えているかわからない猫?みたいな生物?ではあるが、こりすはコレのことを気に入っている。お気に入りのぬいぐるみのようなものとして。
「おやおや」
ソレを両手で抱きしめると、普段はうてなが座っている総帥用の椅子に座る。
普通なら咎められそうなものだが、うてなはそんなこと気にしない。
くす、と笑ってこりすを抱きかかえ、座り直すくらいだろう。……まぁ、それはそれで、キウィが嫉妬の視線を向けてくるので、対処に困るのだが。
つーっ、とテーブルの上を撫でるとこりすは満足そうに笑みを浮かべる。
とんとん、と足音が聞こえる。
こりすは一層笑みを深め、幸せそうに微笑んだ。
「……あれ? こりすちゃん、もう来てたんだ」
「おう、こりす~、新しいおもちゃ仕入れてきたぞ~」
うてなとキウィ。
こりすが大好きな二人。
「……こりすちゃん、今日は何をして遊ぼうか?」
気弱そうな笑みを浮かべるうてな。
だが、変身後の彼女、マジアベーゼは、その欲望のままに振る舞う悪の総帥そのものだ。
「ほら、こりす! これいいだろ? ……え、かわいくない? いや、カッコいいじゃん!」
うてなのことが大好きなのに、それでもこりすに構ってくれるキウィ。
レオパルトに変身しても、彼女の性格はあまり変わらない。暴走気味に突っ走るその姿は、確固たる自分を表しているようでとても眩しい。
そして、自分。杜乃こりす。
引っ込み思案で弱気。
……だが、ネロアリスとなることで変わった。変われた。
だから、こりすは皆と過ごす時間を愛している。
例え、それが悪と呼ばれるものであったとしても。
「あ……」
「お……?」
「……!」
三人一緒に立ち上がる。
……さぁ、今日も楽しく遊びましょう?