悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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25 恋の終わりと始まり

 私は、ごそごそ、と姉の布団に潜り込んだ。

 

「……えっへへぇ♡ おねぇ♡」

「……もう、仕方ないなぁ、つぼみは」

 

 お風呂は一緒に入らずに、姉が油断したところに夜襲だよ!

 

 元々、毎日一緒に入っているわけでもないし、どっちかと言うと、私が意図的に姉の後にお風呂に入っていることの方が多いくらいだよ!

 

 ……え? 何で、姉の後に入っているのかって?

 

 ……言わせないでよ、恥ずかしいなぁ♡

 色々捗るからに決まってるじゃない♡

 

 そりゃあね? 本物はもちろん良いに決まってるんだよ?

 

 でもね……一日中姉の体を包んでいた服とか下着とかをくんかくんかしても全然バレないのってこの瞬間しかないじゃん? 何なら、一回全部着て、全身で姉を感じることもできるし? ちょっと汚してしまってもあとは洗うだけだし? 効率的だよね☆

 その後は、姉がお風呂に入っていた後の、香りとか、姉が浸かった姉出汁の抽出されたお湯とか私にとっては、ご褒美にしかならないよね!

 

 ……あ、でも姉が私の下着に興味を持ったりするように、わざと先に入ることもあるよ? まぁ、でも、こっちは期待薄かなぁ……。

 

 そんな感じでお風呂は私の都合で別々のときが多いけど、寝るときはまた別。

 エアコン代が節約できるとママも推奨しているので、割と二人で寝るときは多い。

 

 ……まぁ、私の寝相が悪いので、朝、裸になってたりするんだけど、そんな私の姿を見て、ママが顔を青くしたりしたことは何回かあったけども。姉が何かするわけないな、とママは最近はそんな姿を見ても呆れた顔をするだけである。

 

「ん~~♡ おねぇ、今日もいい匂い♡」

「つぼみは私と同じの使ってるんだから、いい匂いも何も同じ匂いでしょ?」

「違うよ、おねぇだからいい匂いなんだよ♡」

 

 私は姉に、ぎゅ、と抱き着き、姉の香りを堪能する。

 

 いや、自分の体臭なんて、なんの面白みもないしね? 姉だからいいのであって、自分のを嗅いでも何もない。

 

 甘い花のようで、果実のような姉の香り。

 私はやっぱり姉の胸の中が一番落ち着く。

 

「……もう」

 

 姉が優しく、私の頭を撫でながら、背中に手をやり抱きしめるようにして包み込む。

 

 姉は姉で私が腕の中にいるのが心地良いらしい。

 

 寝ている間、互いに寝返りを打ったりしているわけだが、最終的に、私はいつも姉の腕の中に抱かれて目を覚ますことが多い。姉も私がいないと、少し大きめのぬいぐるみを抱いていたりする。

 私たち姉妹にとっては、これが自然なのだ。

 

 ぽふ、と私は姉の胸に顔を埋める。

 

「……つぼみ、くすぐったい」

 

 ぐりぐり、と頭を動かして姉のおっぱいを堪能する私に、姉は、困ったように、抗議の声を上げる。いつものことなので、嫌がっているというよりは、本当にくすぐったいのだろう。

 

「……おねぇ、おっぱいおっきくなった?」

「え? ど、どうだろ? おっきくなったかな?」

 

 本人にあまり自覚はないようだが、私の感覚によれば、確実に大きくなっていると思う!

 

「ん~……この感じは春ごろより二センチ以上は……」

「ど、どうして、そんなに具体的な数字なのっ……!?」

「それは私がおねえちゃんマイスターだからだよ!」

 

 姉の体のことなら隅から隅まで知ってるよ! 私は調査を欠かさないからね!

 

「何、それ……。それなら、私もつぼみマイスターだよ?」

 

 姉は私の発言を冗談か何かだと思ったらしく、くすくす、と笑い声を上げる。

 

「え~……じゃあ、何か当ててみて?」

「ん……っと」

 

 姉が確かめるように手を動かすと、私のお尻の辺りを、むに、と揉み解す。

 

「……あん♡」

 

 結構、遠慮なく触られたので、これはこれで、気持ちよくなっちゃう♡

 

「へ、変な声、出さないで!?」

 

 姉は、焦ったように、そう叫ぶが、私は、くす、と笑う。

 

「おねぇが触るからだよ♡ ねぇ、おねぇ……もっと触って♡」

 

 姉の耳元でそう囁くと、姉が、ごく、と唾の飲んだ音した。

 そっと、伸びてきた姉の手が、腰の辺りを優しく摩り、もう一つの手は私の頬を撫でる。

 

「ん……♡ 優しく撫でられるのもすき♡」

 

 私は更に姉に身を寄せる。そうすると、姉は私の体全部を確かめるように、強く抱きしめた。

 

「……つぼみ、大きくなったね」

「え~……それだけ~?」

「……それだけじゃないよ。とても、とっても嬉しいことなんだから。……私以上に人見知りで、どこにいくにも、私の手を握って……あんなに小さかった手が、今はこんなにおっきくって、こんなにあったかくって……」

 

 姉が私の手を取り、指を絡める。恋人繋ぎに繋がれた手には、姉の高めの体温と、とくんとくん、という鼓動を感じる。

 

「……まぁ、つぼみは私の手を離しちゃうのも早かったけどね」

「……だって、おねぇに守られてるだけなんてイヤだったんだもん」

「……わかるよ。つぼみは強くて優しい子だから」

 

 きゅ、と姉の手を握る。

 

 ……きっと、私は強くなんてない。

 

 人見知りで引っ込み思案な姉が、それでも無理をして私の手を引いて、外に連れ出してくれたから、弱い癖にそれでも守ろうとしてくれたから、せめて、姉に迷惑をかけないように、と私は虚勢を張り続けている。

 

 自分だって外に出るのが怖い癖に、私のために、とお散歩に手を引いてくれたおねえちゃん。

 道に迷って泣きそうになっても、私のために、と涙をこらえて、道を尋ねてくれたおねえちゃん。

 犬に吠えられて泣いてしまった私の前に立って、かばってくれたおねえちゃん。

 

 幼心に姉に無理をさせている、と思った私は、自ら姉の手を離して、一人で立った。

 

 怖いものなんてない、と一人でも街の中を探検し、道に迷ったらお巡りさんのご厄介になり、やんちゃな犬には自ら向かって行って撫で回す。

 

 そうやって、私はずっと強がっている。

 

 本当は、ずっとこうして、おねえちゃんの腕の中にいたいのに。

 

「……おねえちゃん」

 

 ……いや、それだってウソだ。

 

 本当の私は何を考えた?

 

 姉に恋をしていると気づくそれ以前から、私が考えていたことはもっと醜いもののハズだ。

 

 強い自分を見せれば、姉が私を頼ってくれると思って。

 何でも自分でできる姿を見せれば、姉が私に任せてくれると思って。

 それでも甘える姿を見せれば、姉は私から離れられないと思って。

 

 ……そうやって、姉を自分のものだけにしたい、とそう思っていたのだ。

 

 何て醜く我儘な独占欲だろう。

 

 そして、きっと、私のこんな想いが、結果、姉を一人にしていたのだと思う。

 

 私が自分の強さを見せつける度、私と比べられることになった姉は劣等感に苛まれたのだろう。ただでさえ、引っ込み思案だった姉は、一層、自信なさ気に隅っこに一人きりで、交友関係を広げることもなく、一人遊びを好むようになった。

 

 私はそれでいいと思っていた。姉が私の側にいてくれるなら。

 

 ……でも、姉がキウィちゃんと……キウィちゃんたちと出会ってから見せるようになった笑顔は、輝いて見えた。

 

 自分だけにその笑みを見せて欲しいのに、それを見るためには、私ではダメだという事実。胸が張り裂けそうになった。

 

 ……キウィちゃんは、おそらく私の醜い本性を察している。

 

 でも、だからこそ、彼女は私を責めることはない。

 同じだとわかっているから。

 そうしなければ、私が壊れてしまうとわかっているから。

 

 私とキウィちゃんは同じように狂おしい気持ちを抱えている。

 

 この世で、(柊うてな)さえいてくれればそれでいい。

 それほどまでに私たちは、柊うてなを愛している。

 

「おねえちゃん……おねえちゃん!」

 

 ぎゅぅ、と姉にしがみつく。

 

「……なぁに、つぼみ?」

 

 優しく微笑む姉の顔を見て、私は、ぽろぽろ、と涙を零す。

 

「……すき。おねえちゃんがすき。だいすき」

「……私もつぼみが大好きだよ?」

「ちがうよ! わたしはおねえちゃんをあいしてる! どうしようもないくらい、めちゃくちゃにしたいくらい、めちゃくちゃにしてほしいほどにおねえちゃんがすきなの……っ!」

 

 ……ああ……言ってしまった……。

 

 あるいは、一生口にすることがないと思っていた私の想い。

 

 気持ち悪い、とでも思われるだろうか。

 もしかしたら、ベッドで一緒に寝ていることすら嫌悪されるかもしれない。

 それどころか、私がそんな気持ちで接していたことを知って、二度と口を聞いてくれないかもしれない。

 

 ……ぐる、と良くない考えのせいで、視界が暗く回る。

 ……ゆら、とこれまで築き上げたものが壊れていくような浮遊感がする。

 

 ……そして、どこかで、そんな自分を笑って見ている自分の姿が見える。

 

 だけど、姉は……私を、強く抱き返してくれた。

 

「……ありがとう、つぼみ。こんなダメなおねえちゃんを好きになってくれて。愛してくれて。私はつぼみのこと大好きだし、妹として愛してる。……つぼみの気持ちには応えられないけれど、ずっとずっとつぼみのことが大好きなことだけは誓うよ。ありがとう、つぼみ、大好きだよ」

「……おね……おねえちゃん! うぅぅ……あぁぁん……!」

 

 おねえちゃんの柔らかい胸に抱かれながら、私は泣いた。

 

 ……………………………………そして、私の恋は終わった。

 

◇◆◇

 

 泣きつかれて眠るつぼみ()の眦に浮かんだ涙を優しく拭って、うてなはそっと微笑んだ。

 

 つぼみは冗談めかして、「すき」「愛してる」ということはよくあったが、まさかここまでの想いを抱えているとは正直思っていなかった。

 

 元々、たった二人きりの姉妹。ほかの姉妹の形がわからないうてなは、自分たちの関係が普通だと思っていた。

 出来の良い妹。でも、甘えたがりなところは小さいときから変わらず、一緒にお風呂に入ったり、一緒に眠ったり。えっちなことに興味が出始めたのか、割と際どい悪戯をしてくるようになってはいたが、うてなは別に嫌ではなかった。何せかわいい妹のすること。単なるじゃれ合いのようなものだと思っていたから。

 もちろん、好きでもない相手にそんなことをするのはどうか、という思いはなきにしもあらずではあったが、甘えてくる妹を邪険にすることもできず、ずるずると甘やかしてしまった。

 

(……ごめんね、つぼみ)

 

 本当なら、もっと早い段階で、うてなからつぼみを突き放す必要があったのだろう。

 

 ……だが、それはできなかった。

 

 そうしてはいけない、という気持ちと同時、どこかでつぼみを求めている自分がいたから。

 

 ……少なくとも、キウィに出会うまでは。

 

 しかし、今、うてなの心の多くを占めているのはキウィだ。

 彼女と睦み合い、しかし、途中で終わってしまった行為は、悶々とうてなを悩ませた。

 

 一番大事な友達と、約束だから、とそんな理由で最後まで行ってしまっていいのか。

 

 発端は確かにキウィの『約束だからするの?』という問いだが、覚悟ができていれば、決して止まらなかったハズだ。

 

 未だ答えは見えず、キウィを待たせてはいるが、朧気に答えは見えてきた。

 

 今日、アトラに色々されてしまったとき。

 キウィの顔が目に浮かんだ。

 

 ……つまりはそういうことだ。

 

 うてなはキウィに恋している。

 

 勇気がなくて、踏み込めなくているが、しかし、自分より幼い妹が勇気をくれた。

 

 ……答えを、出そう。

 

 そう心に決めて、自分の服にしがみついたままの、つぼみの姿に笑みを零す。

 

 そっと、その柔らかい頬に口づけをする。

 

「……ありがとう。おやすみ」

 

 ベッドの中には、甘い果実のような妹の香りがした。

 

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