……私の恋は終わった。
でも、私のおねえちゃん愛は終わってないよ!
朝ごはんのオムレツには、ケチャップでハートマークとLOVEの文字。
「……えぇ……?」
姉が若干困惑しているが、そんなことはお構いなし!
「おいしくな~れ♡」
手でハートマークを作って、念を込める。そして、最後に、姉に向かって投げキッス。
「めしあがれ♡」
「はぅ……! うぅ……い、いただきます」
姉が思いっきり顔を赤くしている。
ふふふ……かわいいつぼみちゃんの攻撃には抗えないだろう、そうだろう!
「……ん~……おいしい」
簡単に作ったサラダと普通のオムレツ、そして、バターたっぷりのトースト。
それでも、幸せそうに食べてくれる姉が「おいしい」と言ってくれるのは、本当に嬉しい。
「……でしょ? 愛情いっぱい込めたので♡」
「う、うん……あ、ありがとう? で、でも……何で……?」
まぁ、姉としては、昨日の夜に、私の気持ちには応えられない、って言ってるからね。まさか、朝からこんな風にすきすき光線出してくるとは思っていなかったんだろう。
しかし、私にとっては、ごくごく単純なことだ。だって……。
「……私がおねぇのこと好きな気持ちに変わりはないもの」
えへ、と笑うと、姉は慌てたように、コップの牛乳を、ごくごく、と飲み干した。おー……顔真っ赤♡
「……ぇほっ! つぼみ……本気?」
姉は私が、姉を好きでい続けることが意外だったようだが……そんなに変なことだろうか? そんなにすぐに気持ちを切り替えられるなら、最初から、すきって何て言わないよねぇ?
「私はおねぇと一緒にいられるだけでも結構幸せだよ? だから早くキウィちゃんをお嫁さんにしてね?」
まぁ、元々、私の中では、キウィちゃんがウチにお嫁に来ることは既定路線。
キウィちゃんは私の同類だから、野放しは危険だしねぇ……姉が貰って、私とキウィちゃんが互いに見張るくらいが丁度良いと思うんだ。
「んんっ……! ご、ごちそうさま!!」
姉が残りのトーストを口の中に放り込んで、食器を流しに下げる。
時計を見れば、そろそろキウィちゃんが、ウチに特攻しかけてくる時間である。
最近は勝手知ったる、と言った感じで、ごく自然に椅子に座っていることも多い。
姉がわたわたと朝の準備を始める姿を私は笑みを浮かべながら見送る。
食器を洗って片付けていると、玄関が開く音がした。
「うてなちゃーん、おはよーぅ……あ、いない。つぼみ、おはよー」
「おはよう、キウィちゃん。おねぇなら支度中だよ、座って待ってて。何か飲む? 私、コーヒー淹れるけど」
「んー、じゃあ、お願い。砂糖とミルク多めでねー」
「はいはーい」
まぁ、コーヒー淹れると言っても、ペーパードリップのヤツだけどね。
沸かしたお湯を少し注いでちょっと蒸らしたら、更にお湯を注ぐ。
私は、お砂糖一つ。キウィちゃんには、お砂糖三つと、ミルクを多めに入れる。
「……どうぞ」
「あんがと。んー、あまーい。おいしー」
えへー、と大したものでもないだろうに、キウィちゃんはおいしそうに飲んでいる。
そんな様子を、にこにこ、と笑みを浮かべながら見ていると、キウィちゃんが、私の顔を覗き込んだ。
「……んん?」
「……なぁに?」
「目のとこ、腫れぼったいなぁ……つぼみ、何かあった? アタシでいいなら、話聞くよ?」
……ありゃ。どうやら、昨日泣きながら眠ったことがバレてしまったらしい。
特に聞いてもらうようなことでもないけど、相手はキウィちゃんだしなぁ……。
「……昨日、おねぇに告白した……」
「お? 何だ、やっとかよ……」
……まぁ、キウィちゃんに限らず、私が姉のこと大好きなのは周知の事実だからね。寝耳に水だったのは、当事者である姉くらいだ。
「……そんで振られた」
けろっ、とした顔で私が言うと、キウィちゃんは、けらけら、と笑った。揶揄うような笑みではない。
その程度で、私が諦めるハズがない、とわかっているからだ。
ぽんぽん、とキウィちゃんは、私の頭を撫でてくれる。
「……つぼみ。ちゃんと言えて、偉いな」
よしよし、とキウィちゃんが優しく私を抱き寄せる。
あぁ……やっぱり、キウィちゃんだけはわかってくれるんだ。
私が抱えていた闇を。その苦しみを。そして、それを口にすることの勇気を。
ふふっ、と私は笑う。
「……あとは、キウィちゃんがお嫁に来てくれる日を待つだけだよ?」
「ウチはもうGOサイン出てるから、あとはうてなちゃん次第だなー」
「……なら、そんなに時間かからないね」
……姉が私を振ったのはそういうことだ。
もし、気持ちが固まっていなかったなら、姉は私の告白も保留にしたことだろう。
それをしなかった、ということは……その日は近い。
「キウィちゃん! ごめんね、お待たせ!」
支度を終えた姉の姿に、私は少し見惚れる。
キウィちゃんも少し顔が赤い。
「……? どうしたの、二人とも?」
私たち二人を見て、姉はちょっと、首を傾げた。
きょとん、としたような顔がやっぱりかわいい。
「……おねぇはかわいいなぁって再確認してたとこ」
「右におなじー」
うんうん、とキウィちゃんと頷く。
「えぇ……何なの、二人して……」
姉は恥ずかしそうに、頬を染めて、少しだけ俯く。
「ほら、おねぇ、学校遅れちゃうよ! 行った行った!」
私は、そんな姉の背中を玄関に向けて押した。
姉は苦笑しながらも、私に押されるまま、玄関に向かうと、靴を履いて振り返る。キウィちゃんはそんな姉を追い越して、靴を履くと、振り返った姉の右腕に抱き着いた。
「……じゃあ、行ってくるね、つぼみ!」
「行ってきまーす!」
楽しそうに笑っている二人を送り出す。
「……行ってらっしゃい、おねぇ、キウィちゃん」
私は笑みを浮かべたまま、手を振った。
玄関の扉を閉めて、私はそこに寄り掛かる。
「………………………………おねぇのばか」
姉がキウィちゃんを好きなことはわかっている。
キウィちゃんが姉を好きなことはわかっている。
私には確かに二人を応援したい気持ちはある。
でも、未だ、姉を独り占めしたいという気持ちがなくなっているわけでもない。
そもそも、昨日、告白した私に、二人のそんな楽しそうな姿を見せつけるなんて、姉はちょっとデリカシーに欠けているのではなかろうか。
「…………でもすき」
「惚れたら負け」とは良く言ったものだ。そんなところですら、愛しく思える。
「……すきだよ、おねえちゃん」
……どうしてだろう。昨日、全部吐き出して涙は出尽くしたと思ったのに。
ぽろぽろ、と溢れてくる涙を止めることができない。
知らず、私は走り出して、姉の部屋に飛び込んで、その枕に顔を埋める。
「……おねえちゃん……おねえちゃん、おねえちゃん! おねえちゃん!!」
……どうして? どうして? どうして!?
私だけを愛してはくれないの!?
蓋をしたハズの醜い感情が溢れてくる。
……もとより叶うとは思っていない。
だから、蜘蛛の巣に絡めとるように、少しずつ、優しく、甘く、糸を巻き付けていったのに!
私はいい子ちゃんじゃない。
理解のあるフリをしていただけで、その先には、もっと醜い感情があった。
姉がキウィちゃんを好きになったのは仕方ない。
キウィちゃんが姉のことを好きなのは許してもいい。
だって、まとめて、二人ともぐずぐずに甘やかして抜け出せない沼に沈めてしまえばいいから。
私からずっと逃げられないように。逃げたいとすら思えないように。ずっと側にいて欲しいとすら思ってしまうように。
……でも、そんな妥協すら許せない醜い私がいる。
なんて狭量なんだろう、私は。
【……自分だけのものにしてしまえばいいじゃないか、柊つぼみ】
……そして、悪魔は囁いた。