悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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30 憤怒のマジアベーゼ

「ひー、ふー、みー……あはは。マジアベーゼだけでも事足りるというのに、全員集合とは恐れ入るね。これでは、さすがのボクも喰いきれないかもしれないよ!」

 

 マジアアトラの姿をした何かは、そう言いながら笑って、余裕の笑みを崩さない。

 

「……私たち全員をあなた程度が一人で相手取る気ですか?」

 

 エノルミータ、シオちゃんズ……そして、トレスマジア。

 

 到着したばかりのトレスマジアは、未だ混乱した様子を見せるが、イミタシオは完全に状況を把握している様子だし、ベルゼルガはイミタシオの指示に従うだけで、アトラには興味がなく、パンタノペスカは、常のアトラと異なる様子のアレに、好色な視線を向けている。

 

「……一体、何がどうなっとるん? 何やねん、あのパチモンは……」

「って、えぇぇ!? あれ、アトラちゃんじゃないのぉ!?」

「確かにいつもと雰囲気は違いますが……うーん」

 

 カンの良いマジアサルファはすぐさま、アレはアトラではないと判断したが、マジアマゼンタは目を白黒させている。その一方で、マジアアズールは、一目で雰囲気が違うことは気づいたものの、簡単に偽物と判断するのは、早計と考えているようだ。

 

「……偽物、というよりは乗っ取りでしょう。まぁ、そう言いたくなる程度には酷いですが」

 

 ふん、と不機嫌そうにマジアベーゼが答えると、サルファがその言葉に怪訝そうな顔をする。

 

「……乗っ取りぃ? アトラがぁ? 何の冗談やねん、それは……アレがそないなタマかいな」

「……それ以外に説明できますか、マジアサルファ? アレを」

「せやなぁ……」

 

 ベーゼもサルファも、アトラが、簡単に身体を乗っ取られるとは考えていない。

 

 余程のことがあったか……それとも、何かの罠か。

 

 しかし、そのどちらであったとしても、アトラの意思なしで、こういった状況になるとは思えなかった。

 

「……もっと単純に考えた方がいいの☆」

 

 ふふん、とイミタシオが二人の横に並んで自信あり気に口を開いた。

 

「……イミタシオ?」

 

 ベーゼの困惑するような瞳に、イミタシオは、悪戯っぽい笑みを返す。

 

「これも、王道なの☆」

「………………………………なるほど」

 

 イミタシオの言葉、サルファは、あぁん、と意味がわかっていないらしいドスの効いた顔をするが、ベーゼはイミタシオが言いたいことを理解した。

 

 てっきり、闇落ちイベントと考えていたが、これは、お助けキャラの洗脳イベントや邪悪な存在による身体の乗っ取りイベントと考えれば……なるほど、王道の話ではある。

 

 ……アトラ本人は、乗っ取られる側より、乗っ取る側のような気もするが。

 

「しかし、困りましたねぇ……アレを攻撃してしまば、アトラを殺しかねない」

「……あのアホなら、ぶったたけば起きるのと違う?」

「些か乱暴ですが、とりあえずはそれを試してみるしかなさそうですねぇ……」

 

 既に真化を終え、やる気満々で、左右の拳をぶつけるサルファに、未だ、事情が掴めずに、頭の上にははてなマークを浮かべているマゼンタも取り合えずは槍を構え、真化したアズールのその羽衣を身に纏わせた。

 

「まぁ、アイツのことだから、どうせ殺したって、簡単に死なないの☆」

「……シオちゃんが、殺れ、って言うなら、殺るよ?」

「ダメですわよ、ベルゼルガ。ちょっと小突くだけですわ」

 

 イミタシオが大剣を構え、それに合わせるようにベルセルガが鎌を構え、一人、パンタノペスカは、モノクルを押し上げるようにしながら、アトラを何度も見返している。

 

「えっ!? アレ、身体はアトラだって言うなら、魔法当てたのダメだった!?」

「……別にいいんじゃねぇの? 何回か当てれば、その内、目も覚ますだろ?」

 

 戦闘中だと言うのに、妙に距離が近いロコムジカとルベルブルーメ。

 それを見て、レオパルトは、塩でも食らったかのような顔をした。ネロアリスはそんなレオパルトを見上げて、彼女の袖を引く。

 

「……」

「……何だよ、アリスー?」

 

 ふるふる、と首を振ったアリスは、諦めたような顔をしている。ふ、と笑ったレオパルトは彼女の頭を撫でて、同じように諦めたような顔をした。

 

 ……こんなまるで緊張感のない様子に激怒したのは、アトラの姿をした何者かだ。

 

「……エサ風情が、舐めてくれたものだね」

 

 ……ぴり、と空気が震える。

 

 ばさり、と開いた彼女の黒い翼から、大量の魔力が吹き荒れ、嵐のような風がベーゼたちの肌をたたいた。

 

「……やはり、素晴らしい性能だよ、マジアアトラの体は。若く、生気みなぎる体! 高い身体能力! 魔力が溢れる! あらゆる魔法も手の内! あははははっ! まさか、こんな未開の土地にこれだけの才能が埋もれていようとはね! 僥倖、僥倖だ! さぁ、パーティを始めよう! 食い放題だ! 思う様食い散らかしてあげるよ!」

 

 アトラの六対十二枚の翼の内、八枚の翼が丸くなり、四つの球体を作った。

 

 ……そして、雫のように零れ落ちて、地面に触れると、ソレはアトラの姿を象った。

 

「……苦労したよ、マジアベーゼ。君の魔法を再現するのは」

 

 先日、ベーゼが支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)でアトラの翼を叩いたとき、彼女の翼は魔物化した。

 

 ベーゼはあの翼は魔力を可視化したもので、宙を飛ぶためのイメージを補完するものと考えていたのだが、その感触から、ソレが魔力を具現化させたもの……自分たちの服と同じようなものだと気づいた。

 

 ……素材が魔力というのは置いておくとして、それは物質だ。

 

 つまりは、魔物化の対象物であり、生物的な意思が小さいそれは、ベーゼが行った限りにおいて、タコなどの生き物に比べれば、制御は容易い。

 

 元がアトラの魔力というだけあり、その気配は普通の魔物と比べれば異様だ。

 

 溢れ出る狂気染みた魔力が、それが手強いことを伺わせる。

 

 ……先日はアトラが、手刀で貫き、そのまま吸収とあっさり片づけたようだが。

 

(……相性の問題ですねぇ。アレがそのまま『吸収』の能力も使ってくるのなら、少々面倒ですが……)

 

 ちらり、と仲間と……そして、ライバルたちの様子を伺う。

 

 ……誰もが、殺る気に満ち溢れていた。

 

(……まったく問題ありませんね)

 

 負ける気はまったくしなかった。

 

「……トレスマジア、シオちゃんズ、ロコちゃんとルベちゃん、レオちゃんとアリスちゃんでそれぞれ一体ずつお願いします。……私はアレを片付けますので」

 

 ベーゼはそう言うと、図るような眼で獲物を見ながら、鞭を構える。

 

「……あぁんっ!? 何でアンタが仕切っとんのや!?」

 

 不満そうな声を上げたのは、サルファである。当然ながら、彼女からすれば、悪であるはずのベーゼが指揮を執るのは面白くはない。

 

「おや、マジアサルファ……あなたがやりますか? 勝算はあるのでしょうね? あれはマジアアトラではないとは言え、マジアアトラ並みには強いですよ、アレ」

「……ほんなら、アンタは勝てんのやろな?」

「無論です。マジアアトラでないのなら、私が負ける道理はありません。マジアアトラが強いのは、彼女が彼女であるからこそ。それ以外の何かがその体を使ったたとして、強敵であったとしても、脅威とは成り得ない」

 

 確信めいたベーゼの言葉と、爛、と光る瞳の強さに、サルファは思わず、ごくり、と唾を飲んだ。

 

 マジアベーゼは自分たちの前に立ちはだかる強敵だが、彼女はいつもどこか楽しそうだった。

 

 そんな彼女が、まるで楽しそうにしておらず……しかし、いつも以上の気迫に、背筋が震える。

 

(……こらぁ、ブチキレとるなぁ……)

 

 悪の組織と魔法少女は、バチバチにやり合っていなければならないが、互いに認め合っている存在である。

 

 ……己の認めた存在を汚されたどうする?

 

 今の怒気というにも生温い、殺気とも、鬼気ともいうべき気配を身にまとったマジアベーゼの姿が答えである。

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