悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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45 ドールハウスの中で

「……してやられたなぁ……」

 

 ちょっと油断し過ぎたなぁ、と私は反省するものの、後悔はしていない!

 だって、あんな素晴らしい光景、見るなという方が無理だし!

 

 パンタノペスカの能力を甘く見過ぎていたかもしれない。あの能力にはもっと発展性がある! どうしては私はもっと早く気付かなかったのか! ……あ、でもあれは目が嬉しいだけで、あんまり心は満たされないかも?

 

「……さぁて、これからどうしよっかな~?」

 

 ネロアリスのドールハウス内。

 

 予想通りに、魔法は使えなさそうだし、せっかくのイケてるボディも既に半ばほど散らされている。このままだと、真化前の通常マジアアトラまで戻るのも時間の問題だろう。

 

 幸いにして純魔力的なものとみなされていないらしい、服や翼は消える様子がないことから、すぐに変身が解けてしまうということはなさそうだ。

 

 ……まぁ、そのために設定したんだから当たり前なんだが。

 

『吸収』の能力や私自身の魔力の余剰分を結晶化して蓄える。これは私自身が魔力で変なことにならないようにするための防衛装置であると同時、魔力を私色に染めた一種のマーキングのようなものでもある。

 

 魔力のように挙動をするが、しかし、それまでの魔力ではないもの。魔力のようにも使えるが、必ずしも魔力と同じように働かないもの。

 

 ……身近なものに例えるなら、軽油とガソリンのような感じだろうか。

 

 同じ用途に使えはするが、同じようには使えない。それ専用の仕組みが必要。

 

 クリーチャーはそれを知らないまま私の魔力を使ったから、眠らせていたハズの私を起こす結果となった。

 

 私の体で私の魔力を使おうとすれば、私でしか動かせない。

 単に体を奪っただけでは、私の魔力は使えない。

 

 おそらくクリーチャーはその辺りをしっかり理解できていなかったのだろう。

 

 ……わざわざ魔力の使い方を二系統準備していた甲斐があったというものだ。

 

 一つは普通の魔力を使う系統。これは基本、何も手を加えていない私自身の魔力によるもの。

 もう一つは、貯蔵用に性質を変化させた魔力を使う系統。専ら『吸収』した魔力がこちらに当たる。

 

 私は意識して両者を使い分けしているが、クリーチャーには意味がわからなかったんだろう。魔力をわざわざ使い分けをする必要などないと思っているから。

 後者を前者のように使ったとして、一時的に使えはする。何らかの事情があれば、二系統を使い分けできない可能性もあるのだから、一応、多少の互換性は持たせている。

 しかし、一定以上にそのような魔力の使い方をすれば、後者の魔力は周囲の魔力を巻き込んで本来その魔力を使うべき系統へと流れを変える。

 

 ()という装置を使おうとする、という寸法だ。

 

 私が、クリーチャーに唆されたフリをして、素直に体を明け渡したのは、どうせ、あのクリーチャーには使いこなせないとわかっていたからである。

 

「……ふむ?」

 

 さて。これらのことを踏まえ、ドールハウスの性質を実験してみよう。

 

 通常の魔法の使用……失敗。

『吸収』……不発。

 貯蔵魔力を変換、魔法への転用……失敗。

 貯蔵魔力を変換せず、魔法を使用……やはり失敗。

 

(……魔力ではなく、魔法という事象に干渉されている感じか。魔力の使用禁止とかなら、変身も解けて然るべきだろうし)

 

 だが、服を維持する魔力……変身を維持する魔力は常よりも大きく消費している。

 

 あれこれ試している内に、私の姿は、マジアアトラの通常モードへと戻ってしまっている。

 

 ……やはり、あのボディは維持するだけでも、相当の魔力を消費している、ということなのだろう。

 逆に言えば、私の残存魔力が相当減っている、ということでもあるが。

 

 ……せっかく貯めた魔力を台無しにされた、とは思わない。私からすれば、あの程度の魔力はいくらでも用意する方法が思いつく。

 

(……しかし、やはりネロアリスの魔法は規格外過ぎるね)

 

 ちらり、とドールハウス内を見渡して考える。

 

『玩具を意のままに操る』

 

 ……これは彼女の魔法の一側面でしかない。

 おそらくは、対象を玩具に絞った『付与魔法』。これが彼女の能力の正体ではないだろうか。

 

(……結界、空間拡張、魔法制限、魔力霧散。おそらく制限はあるんだろうけど、それでもこの中に入ったら基本的にゲームオーバー)

 

 ……これを必勝の策として使ったレオパルトは意外に頭が回るようだ。

 

 ……もっとも。相手が私以外であれば、の話ではあるが。

 

(……外に向かって魔力が使えないだけ。それに、私の翼への干渉はない)

 

 体外への魔力放出ができない、というだけで、体内で魔力を運用することは特に問題ないようだ。そして、性質を変化させてある私の翼は、魔法としては認識されていないし、外に向けて使わなければ、魔力としても認識されていない。

 

 ……ならばいくらでもやりようはある!

 

「……さて、やるか!」

 

 ぐる、と私は肩を回して準備運動を始める。

 

 ……困ったときはとりあえずぐーパンだ!!

 

「……やらせね~よ? アトラ……いいや、()()()

 

 私がアリスのドールハウスから出る算段をつけたところで姿を現したのはレオパルトだった。

 

「……なぁんだ、気付いちゃったんだ、()()()()()()

 

 私がそう口にすると、どこかで、ぱりん、という音が響いた気がした。

 

「……何だよー、気づいてたのかよ?」

「ううん、気づいたのは()だよ」

 

 ……何となく、予感はあった。

 しかし、レオパルト……キウィちゃんが私を「つぼみ」と呼んだから、確信した。

 

 認識阻害の厄介でもあり、便利なところでもある。

 

 確信に至り、看破しなければ、認識阻害は破れない。

 ()()()()程度では認識阻害の効力を突破できないのだ。

 

 ……そして、突破しない限り、思考がずれる。

 

 確信を持てない推測は、別の考えに塗り潰されてしまう。

 

 ……本当に、恐ろしい魔法……いや、呪いだ。認識阻害は。

 

 魔法少女たちは、おそらくこの呪いの仕組みに気づいていないのだろう。

 

 大したことがない、と思っているのかもしれないが、とんでもない。

 

 私たちが普段使っている魔法は、多少の物質化を伴うものはあれど、効果は基本一時的で、場所も限定的だ。

 

 それに対し、認識阻害の効果はおそろしく広く、しかも持続的。

 

 SNSで戦闘シーンやらえっちぃシーンを散々拡散されているというのに、未だに身バレしていない、という時点で気づくべきだ。

 範囲は()()()。対象は()()()()()。効果時間は看破されるまで()()()

 

 こんな大魔法とも呼べるものが、何の代償もなく使えるわけもない。

 

 ……しかし、この魔法(呪い)が魔法少女たちを守っているのもまた事実。これなしでは活動ができないほどに。

 

 これによる恩恵を誰が得ているのか。……考えるまでもないだろう。

 

(……随分とまぁ手の込んだことを考えるものだな、クリーチャーども)

 

 ……まぁ、アレらが何を考えていようが、私の邪魔をしないなら、どうでもいい。

 

「……アタシのことがすぐにわかったってことは他も見当ついてるんだろ? お前の考えているとお……」

「あー!! あー!! 聞こえなーい!! 聞こえなーい!!」

 

 油断していたら、レオパルトことキウィちゃんが知りたくないことまで話しそうになったので、私は慌てて全力で耳を塞ぐ。

 

「お、おい、つぼみー……? あのなー……?」

 

 そして、なおも話そうとするキウィちゃん!!

 

 キッ、と私はキウィちゃんを睨む。

 

「ネタバレやめて!?」

「お、おぅ……さすが姉妹……反応がそっくり」

 

 聞こえないったら聞こえない!!

 

「あー、もー!! 私は魔法少女マジアアトラで、キウィちゃんはエノルミータのレオパルトでしょ!? それでいいでしょ!? それ以上の情報は必要ない!!」

 

 正直、レオパルトの正体がキウィちゃんだった、ということも私にとっては余分な情報だ。

 

「……今、ここにいる私は『柊つぼみ』じゃない。『吸収』の魔法を使う、魔法少女マジアアトラ。……せっかく誰もいない世界に二人きり。野暮なこと言っちゃイヤだよ?」

 

 私がそう言って、レオパルトを見つめながら笑うと、レオパルトも口の端を吊り上げて笑った。

 

「……ハ。そうかよ」

 

 レオパルトの瞳に剣呑な光が灯る。

 

 ……私がやる気を理解しているからだろう。

 

「……ここであなたを犯して、私は願いを叶えるよ、レオパルト」

「……やらせねぇよ? お前は私が倒して、私の義妹にすんだからな~」

 

 ……私たちは互いに構えを取った。

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