……怒り。
……そして、悲しみと悔しさ。
そんな色でレオパルトの……キウィちゃんの瞳が濡れている。
「……………………………………ふざけんなよ、つぼみ……」
「……いやだなぁ、レオパルト……今の私はマジアアトラ……」
「んなこたぁ、どうでもいい!!!!」
がん、とキウィちゃんが、私の服を掴んだまま、頭突きをしてきた。
じん、とした痛みをおでこを中心に広がっていく。
「……アタシはお前が同類だと思っている」
誰かに認められたくて。誰かに愛されたくて。
多くの人に認められたくて。多くの人に見てほしくて。
……でも、世界でただ一人に認められて、愛されればいいと思った同志。
かつてはともかく、今の私たちは
「……お前がうてなちゃんを好きな気持ちはアタシが一番わかってる! お前がうてなちゃんを愛しているって気持ちはアタシが一番わかってる!! でも、そんな強い気持ちを持っているお前が、何でうてなちゃんのことを考えてやれないんだ!! お前が死んで、お前が殺されて、一番悲しむのはうてなちゃんだろ!? 何でそれをわかってくれないんだ!? どうしてそれをわかってなお死のうと思うんだ!? ……答えろ、つぼみぃ!!」
今にも口づけをしてしまいそうなほど近くに、キウィちゃんの顔がある。
怒っている、というポーズではなく、キウィちゃんは本気で怒っている。
ちょっとたれ目のキウィちゃんの目から、はらり、と涙がこぼれ落ちた。
……人って、本気で人を想って怒ると、涙が出るんだなぁ、とぼんやり考えた。
「……私の同類なら、わかるでしょ、キウィちゃん。キウィちゃんが、自分を認めない世界を壊したいと思ったように、私はただ一人に認められたから……愛してくれたから、今のキレイなままで死にたいんだ! 汚れてしまうところなんて見たくない! この醜い世界の中でただ一つキレイなものだけを見て死にたいんだ! 私は私が大嫌い! どうせ私はこの世界では異物なんだよ! 私は皆が醜いと思うものしか美しいと思えない! 皆が唾棄して忌むべきものしか愛せない! そんな中でおねえちゃんだけが、醜くなくてもキレイだって思えたんだよっ!! おねえちゃんだけいればいいっ!! 世界におねえちゃん一人いれば十分なんだ!! 私はいらない!! だから、おねえちゃんに私を刻ませてよぉぉ!!」
そう言って、キウィちゃんを突き放す。
……あれ、おかしいなぁ? 思った以上に、力が入らない。
キウィちゃんを一歩後ろに下がらせる程度しかできなかった。
……だから、怒っているキウィちゃんの顔がよく見えた。
そして、キウィちゃんは、ゆっくり、拳を振り上げて……。
「……てめぇの都合でうてなちゃんを傷つけるんじゃねぇ!!」
がっ、と頬を殴られた。
ちかちか、と目の前に星のような光が見える。
……しかし、キウィちゃんも限界のようだ。
魔力で強化もされていない、普通の少女の拳だった。
そして、どうやら私も魔力で強化する余力はなさそうだ。
……これじゃあ、魔法少女らしくもない、ただの殴り合いである。
だが、それでも負けるつもりはない。私も、ごっ、と頬を殴り返した。
「キウィちゃんにはわからないでしょ!?」
……更に殴る。
「……所詮、私はおねえちゃんにとっては妹でしかない!!」
次は正面から顔を殴る。ぺき、と鼻の軟骨が折れた感触があった。
ぶぁ、とキウィちゃんの鼻から血が吹き出ている。
虚ろな目で、ふら、と足元も覚束ない様子だ。
「……私じゃ、どうせ、おねえちゃんの一番にはなれないんだ。だから、おねえちゃんが絶対に忘れないように私を刻むんだ。おねえちゃんに」
くふふ、と笑う。
色んな望みはある。醜い欲望がある。
……でも、一番はこれだ。
世間で言うところの姉妹は、いずれ疎遠になっていくだろう。
そうすれば、姉も妹もいずれ互いのことを気にしないようなっていく。
せいぜいで前はこんなこともあったな、とただの良い思い出にされて、いずれは思い出されることも少なくなってしまうだろう。
……そんなのは、嫌だ。
「……ハ……もっと根性のあるシスコンだと思ったのによ~……やっぱ、その程度じゃんかよ、つぼみ!」
顎を突き上げられた。
がく、と足の力が抜けていくのを何とか踏ん張る。
しかし、それは十分な隙だった。
「結局、諦めんのかよ!! うてなちゃんの一番を!! それならいいさ! アタシが遠慮なくもらってやんよ!!」
再び頬を殴られる。
……カチン、と来た。
ぶん、と拳を振るう。
「諦めたくないよ!? でも……でも、私は妹以上にはなれないんだよ……」
キウィちゃんは私の拳を躱した。
……いや、嘘だ。私の目からは悔し涙が溢れて、キウィちゃんを捉えられていないのだ。
「だから、逃げるんだな、お前は!! 死んでしまえば、うてなちゃんの心に永遠に残るって!? 残念でしたー!! アタシがお前のことを思い出せないように、うてなちゃんとらぶらぶちゅっちゅして、ぐっちょぐちょのぐっちゃぐちゃに愛し合うのは確定だからな! あー、ライバル減ってせいせいするわー!」
そう言いながら、キウィちゃんは私の追撃を躱し、私は、ぽふ、とキウィちゃんに抱き締められる。
「……どうすんだよ、つぼみ? そうしたら、お前の望みは叶わない。うてなちゃんは一時は悲しんでくれるかもしれないけど、アタシはそれすらも利用して、うてなちゃんを愛しちゃうぜ~?」
きひひ、とキウィちゃんが悪戯っぽく笑う。
キウィちゃんの語る未来。それは確かに想像し得るものではある。
「……ズルいよ、キウィちゃん……ズルい……」
私はキウィちゃんの胸の中で泣く。
……本当はわかっているんだ。自分の自己満足に過ぎないって。
おねえちゃんから逃げ、恋敵のキウィちゃんから逃げているだけなんだって。
……でも、私にはそれしかなかったんだ。おねえちゃんの愛を独り占めするには。
ぎゅう、とキウィちゃんが私の体を強く抱きしめた。
「……たくさん、たくさん考えて……。一生懸命考えて……。偉かったな、つぼみ。結論は褒められたモンじゃないけど、それだけうてなちゃんが大好きだったんだってこと、素直に尊敬する……でも、でもな? それで、大好きな人に悲しい顔をさせるのはちげぇだろ~? お前がうてなちゃんが本当に大事で大好きで愛しているなら、うてなちゃんが笑顔になるように、うてなちゃんが大好きなものも愛してやれよ。……具体的には私とお前な? そうして、大好きなもの、愛せるもの……一緒に増やしていこーぜ、つぼみ」
よしよし、とキウィちゃんが私の頭を撫でる。
「…………………………………………………………できるかな、私に」
正直、あまり自信がない。
しかし、キウィちゃんは笑った。笑いながら、私を抱きしめた。
「できるさ! お前はうてなちゃんの妹で、未来の私の義妹なんだからな!!」
自信満々に笑うキウィちゃんの胸に顔を埋めて、す~は~、と深呼吸する。
姉とは違う柑橘系の匂い。……この匂いは嫌じゃない。
ぽよんぽよん、と弾力のあるこのお胸。……ちょっと嫉妬しちゃうけどいいものだ。
……私はゆっくりと顔を上げて、微笑む。
「…………うん♡ キウィ
……困ったなぁ。大好きなおねえちゃんが増えちゃったよ♡
大好きなおねえちゃん二人に愛してもらうため、次の作戦を考えないと♡
大好きなもの、愛せるもの……一緒に増やしてくっていうことはそういうことだよね、キウィおねえちゃん?
……ちゃあんと、私の愛も受け止めてね♡