「おねぇ! おねぇってば!!」
「……ぅ……うぅ~ん……もぅ……なぁに……?」
昨日、夜更かししていたらしい姉は、布団を頭まで被って籠城戦の構えを見せた。
「もうキウィおねえちゃんが来てるよ! 一緒にお出かけするんでしょ?」
「……ぇ……ぅ……んっ。……そうだけど、待ち合わせはお昼過ぎ……」
すやぁ、と寝息が聞こえる。
……まぁ、まだちょっと早いけどさぁ?
乙女的にもうちょっと準備とかするんじゃないの?
……それに危機感が足りないよね☆
「はぁ……仕方ない……私、キウィおねえちゃんと先にお昼食べてるからね~?」
「……ぅ……ぅ~ん……」
一応、返事があったので、了承とみなす。
「それじゃ、キウィおねえちゃんには、つぼみちゃんの愛がたっぷり入ったお昼をご馳走しようっと♡ おねぇが起きてこなかったら、私たち二人だけで出かけちゃうからね~? そしたら、私、今日は帰ってこないから♡」
「……ぅ……?」
ぱたん、と姉の部屋の扉を閉めると、「今何て言ったの、つぼみぃ!?」という姉の声とともに、どたばた、と慌ただしく着替えを始めたらしい姉の気配がした。
きひひ、と笑って、階段を下りる。
「キウィおねえちゃん、おねぇ、起こしたよ☆」
「ん~……」
キウィちゃんはすっかり我が家に馴染んでいる。合鍵も渡しているので、気まぐれに朝ごはんを食べに来たり、お風呂に乱入してきたりと、現時点でほぼ家族同然である。なお、一応慎みはあるらしく、ベッド乱入はしてこない模様。
ぽちぽち、とテレビのリモコンを操作しながら、キウィちゃんは椅子の上であぐらをかいて何やら録画した番組を探しているようだ。
「……キウィおねえちゃん、何見たいの?」
「昨日やってた「うたBANBAN」」
「あ~……」
おねぇの夜更かしの原因になったヤツ。
いくら感動したからと言って、当日にそんなに何回も見るもんかな?
『さぁ~、今週も始まりましたぁ、「うたBANBAN」のお時間ですぅ』
おっぱいがギガントなMC『天花寺ホリィ』のちょっと間延びした声が耳に心地良い。
『……皆様、ご存じぃ、お助け魔法少女こと、マジアアトラさんですぅ。この度、シンガーソングライター『Atra』としてデビューされましたぁ。最初に発表した曲がぁ、あっという間に百万再生突破ぁ。再生回数は未だに伸び続けているぅ、黒い天使さんですぅ』
『ご紹介にあずかりました『Atra』です。よろしくお願いします』
テレビ画面では、マジアアトラが笑顔で手を振っていた。
『Atraさんのデビューのきっかけはぁ、これですねぇ?』
画面が切り替わり、ビルの屋上で、歌を口ずさんでいるマジアアトラの姿があった。
『……悪の組織、エノルミータとの戦闘前の映像ですぅ。眼下ではぁ、トレスマジアが戦っていますねぇ?』
『そうですね、先輩方より遅く現場に付いてしまったので、邪魔をしないように状況を見守っていたんですが、手持無沙汰で何となく思いついたメロディーを口ずさんでいたところです。……何ともお恥ずかしい』
『ですがぁ、これがSNSで拡散されてぇ、本格的にデビューする話になったんですよねぇ。曲も詩もご自分でぇ、ということですがぁ』
『はい。人様にお聞かせするのは、ちょっと恥ずかしいんですけどね』
『それとぉ、この後、動画共有サイトへの投稿のためにご自分で撮影されていると思うのですがぁ、とても不思議な空間での撮影となっておりましてぇ……これって合成とかぁ?』
『してませんよ? 魔法的なアレです』
『魔法的なアレだそうですぅ。……Atraさんに頼めばぁ、他の人も撮影可能でしょうかぁ?』
『原理上できますけど、許可できるのは、トレスマジアの先輩方くらいですね』
『残念ですぅ。……それでは、歌の方の準備をお願いできますかぁ?』
『はぁい!』
ステージに移動したアトラが、スポットライトを浴びながら、歌って踊る。
透き通った声。メタルバンドを思わせる激しい曲調。退廃的な歌詞。しかし、確かに恋心を歌いあげる。
わぁぁ、という歓声と、万雷の拍手が響き渡り、突如、ライトが消灯した。
ざわつく観客席を落ち着かせるように、ホリィの声が響いた。
『……本日は、新曲の発表もあるということでぇ。当番組が初披露となりますぅ。Atra feat.トレスマジアで『夜を染めて』』
ぱっ、と点灯したライトの先には、マジアアトラとトレスマジアの三人の姿。ミラーボールが回っているような派手な照明が四人をそれぞれ照らし、激しいテンポの曲が始まった。
……姉は昨日これを見て、狂喜乱舞していた。
自宅でサイリウム振るのって、どうなの……?
「……つぼみ。お前さぁ、コレ狙ってやっただろ~?」
「え? 何言ってるのキウィおねえちゃん……当たり前じゃない!」
撮影したのも投稿したのも私だ!
それなりに知名度もあったし、見た目はそれなりの美少女! そして、魔法少女という話題性! 先般、トレスマジアがデビューしていたこともあり、拡散は一瞬だったね!
そして、その間に、私はせっせとPVを作成……話に上がってた舞台装置? 自分でも用意できなくはないけど、そこはプロにお任せしたよ。何か、歌星ぱあるのときにやったのが結構面白かったらしく、本人はノリノリだった。
まぁ、これがバズったからと言って、即デビューとならないのが、芸能界の恐ろしいところ。そこはそれ、蛇の道は蛇ってね? 暗躍大好きな誰かさんが、こっそり手伝ってくれているのだ。その分、それなりの謝礼をお支払いしているわけだけど……今後の利益から考えれば、妥当なものだろう。私は面倒なことをしなくてもデビューできて嬉しい。誰かさんはこっちでの活動資金が得られて嬉しい。WIN-WINの関係である。
トレスマジアがあとどれくらい活動するのかわからないが、私の活動期間は少なく見積もっても、彼女たちがこれから活躍する期間プラス四年くらいある。
十分儲けは出る。ついでに、私は作詞も作曲も自分でやってるし、何ならトレスマジアの楽曲も提供するから、私の懐はとってもあったかくなるという寸法だ!
……これで私の夢を詰め込んだおうち買うんだぁ♡
「……キウィおねえちゃん、お昼食べるでしょ?」
「お~、食べる食べる~。でも、うてなちゃんが来てからな~、それまでは一緒に見ようぜ~」
ふむ、と考えて、私は、てちてち、と歩いて、キウィちゃんの近くに来ると、そのお膝の上を占拠した!
むふぅ、と私は鼻息荒く、特等席のおっぱい枕に後頭部を埋める。
「……つぼみぃ、邪魔~」
「やぁん♡ ここがいいのぉ♡」
「……ったく、しゃ~ねぇ~なぁ~」
ぽむぽむ、とキウィちゃんは私の頭を撫でてから、ぬいぐるみでも抱くように、私の腰を両手で包んだ。
「……ぁん……♡」
「おい、変な声だすなって~」
「……だって、キウィおねえちゃん、そこぉ……♡ もっと、ぎゅっ、てしてぇ♡」
「な、な、な、何やってるんですかぁ、二人してぇ!? ……?」
私たちの声を聞いて、慌てて姉が乱入してきた。
……が、そこにあるのは、膝の上に私を抱いたキウィちゃんがいるだけで、やましいことは何もない!
姉は、あれぇ、と首を傾げている。
……まぁ、おへその辺りが気持ちよかったのはホントだが、変な声出したのは、姉の気配がしたので、わざとなんだけどね!
「おっはよ~、うてなちゃん♡」
「おねぇ、おそよう」
「あ、あぅ……お、おはよう、二人とも……ごめんね、寝坊しちゃって。あ、これ、昨日の!? はぁぁぁ、何回見ても感動するねぇ!!」
姉がテレビの前に陣取って、目をキラキラさせながら、歌って踊るアトラwithトレスマジアを見ている。
やれやれ、と私は苦笑を零してから、キッチンへ向かう。
愛情たぁっぷりのお昼ご飯を作らないとね♡
◇◆◇
昼食の後は三人でお出かけだ。
私が自然にキウィちゃんの腕に自分の腕を絡めて、こつん、と頭をぶつけるようにべったりくっつくと、姉が、あわあわ、と離そうとしてくる。
「こ、こら、つぼみ! キウィちゃんから離れて!」
「やぁだもぉん♡」
くひひ、と笑って、姉に見せつけるように、キウィちゃんの腕を胸に抱く。
……まぁ、私には当てる程の胸はないがなっ!! ……悲しい……。
「えっへへ~♡ キウィおねえちゃん、しゅきしゅき~♡」
キウィちゃんの腕を軽く引っ張りつつ、背伸びをして、その柔らかい頬にキスをする。
「……お? なんだよ、今日、すげぇ甘えるじゃん」
キウィちゃんにとっては、義妹がじゃれてきているだけ、という認識なのか、さして気にした風もないが、姉は、んむむ、と頬を膨らませ、顔を紅くしている。
「……は・な・れ・な・さ・い~!!」
「え~? どうして、おねぇがそんなに必死になるのぉ?」
「そっ!? それは、キウィちゃんは私の……っ!?」
「『私の』、何なのかなぁ、おねぇ? まだ、何も伝えてないおねぇ?」
いい加減覚悟決めればいいのに……まだヘタれて「好き」の一言も言ってないんだよ? キウィちゃんは言ってるのに!
正直、キウィちゃんは優良物件だよ? もたもたしてて、愛想付かされたって知らないんだから!
……そうなったら、私が貰っちゃうよ?
「……んぐぅ……」
姉はどうやら私の考えを正確に読み取ったらしいが、そこからまだ一歩踏み出せないらしい。悔しそうな顔をしている姉の顔がかわいらしい。
私は、くす、と笑うと、姉の手を引いて、私の胸の前で大好きな二人の腕を抱く。そして、その二人は、互いに、恥ずかしそうに、顔を見合わせながらも、私の胸のところで、恋人繋ぎに指を絡めた。
キウィちゃんは顔を紅くしながら、汗を滲ませ。
姉は恥ずかしそうに顔をうつ向かせて、顔真っ赤。
それでも、その指を解こうとはしない。
「……もう、おねぇもキウィおねえちゃんも初心なんだから♡」
くふっ、と笑って私は二人の手に自分の手を重ねる。
「……私は二人とも大好きだから。ずっと一緒にいてほしいな♡ ず~っと、ず~っと♡」
私の言葉に、くすり、と笑った二人が、その指を解いて、私の手を取った。
……三人並んで歩く。
それはとても幸せな光景。私が目指す夢の一つ。
……こうやって、そっと、少しずつ。二人だけの世界に私がいることが普通と思わせて。私がいないと何もできないようにして。
ずっとずっと三人で生きていくんだ♡
それはきっと、とっても素敵で、とっても気持ちいい♡
人はどうしたって、死に向かって歩いていかざるを得ない。
……だから、これは緩く伸びる破滅への道。
……私は絶対叶えるよ、私の夢を♡
~FIN~
ふぅ……やり切った!
気まぐれ更新とか言いつつ、毎日更新で一応完結まで持ってこれました。
これもひとえに、感想を下さった皆様方、評価を下さった皆様方、読者の皆様方のおかげです。
ちょっとでも楽しいと思っていただけたのなら幸いです。
ご愛読ありがとうございました。