悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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個人的に、真珠ちゃんは泣き顔とかが好き♡


52 真珠の悲哀

 ナハトベースの中では少女の泣き声が響いていた。

 

「……うぇぇっ……!! ……えぐっ、えぐぅっ!!」

 

 ボトルのコーラ片手に机に突っ伏し、涙を流しながら、コーラを一気飲みする彼女の姿は、まるで、好きな相手に振られて、やけ酒を飲んでいる女性のようであった。

 

「……いい加減泣き止めって。コーラもせめて1.5Lじゃなくて、500にするとか、ゼロキロカロリーにするとかよぉ」

 

 少女の傍ら、姉母ネモは、何とか少女をなぐさめようとはしていた。……一応。

 

 カロリー無視で、彼女の体形が崩れてしまうのは、ネモにとっても本意ではない。

 

「……だって、だってぇ!? 何、アレ!? おっかしいでしょ!?」

 

 阿古屋真珠が叫んだ。

 

 涙で瞼を腫らし、鼻水垂らしながら泣いている彼女は、普段のアイドルにあこがれる姿からはかけ離れていた。

 

 彼女の視線の先には「うたBANBAN」の映像があった。

 

「真珠にはスカウトとか来ないのにぃぃぃ!? どうしてアトラがデビューしてるのよぉぉぉぉ!?」

 

 ……世の中は、時に理不尽である。

 

 アイドルになるために一生懸命自分を磨いた者ではなく、友達に応募されて、などという特に何もしていなかった者が、時としてアイドルにのしがってしまうように。

 

 真珠がどれだけアイドルを志そうとも、マジアアトラとの差は極めて大きかった。

 

(……露出状態のお前でも、アレの相手は無理だろう……)

 

 シンガーソングライターAtra。

 

 激しい曲調と退廃的な歌詞。厨二心を擽る言葉の選択でありながら、少女らしい恋心を歌い上げる。透き通るような高い声に、魂から叫んでいるような盛大なシャウト。

 

 作詞、作曲、歌唱。

 

 ……どれも並の才能ではない。……いや、おそらくは才能だけではないのだろうが。

 

 ネモの感覚からすれば、アイドル性という意味では、その心根や志といったものは、真珠の方が上だ。

 

 だが、アトラと真珠の差は極めて大きいと言わざるを得ない。

 

 ……そもそも、Atraはアイドルではない。その本質はアーティストなのだ。アイドルとしてデビューしたんじゃなくて、シンガーソングライターだし。

 

 ……故に、真珠とアトラでは、比べるべき根っこが最初から異なると言うべきではある。

 

 彼女の仲間とも言うべき、トレスマジアの売り込み方法はアイドルのそれだ。現状、Atraもそれに乗っかているとも言えなくはないが……天才アーティストと目されるのは時間の問題だろう。

 

 魔法少女という話題性もさることながら、あの年齢で、ほぼ完成された歌唱力と独特の感性による作曲と作詞。……おそらくは、中高生を中心に確実に刺さる。動画閲覧数や彼女の曲のDL数の伸び具合なども考えれば、彼女一人でも年末の歌番組に出れるくらいだ。……まぁ、そもそも、現在、ミリオンを飛ばしているし、それなりに大きい単独ライブの予定もあるようだし。

 

 ……ちなみに、ネモはこっそりチケットを押さえた。……一応二人分。

 

「……じゃあ、また『歌星ぱある』でもやるか? 一応、アカウント消されてないし、今でもちょこちょこ伸びてはいるし……この際、歌詞はお前が書くにしても、Atraに楽曲提供してもらえば、バズりそうではあるけどよぉ」

「くっ……それは何か負けたような感じで嫌なんだけど!! ……まぁ、でも? Atraがどうしても、って言うなら、考えなくもないけど?」

(……面倒臭ぇこと言うなぁ……あっちが、こっちのために提供してくれるメリットなんて全然ないだろうがよ)

 

 ……と、そんなことをネモは考えていたわけだが、テーン、と来た。

 

(……そういやつぼみのヤツ……DTMの機材は揃えてるとか何とか言ってたよな? 『単なる趣味の息抜き』、何て言ってたけど、ちらっ、と聞いた感じAtraと遜色ないレベルの腕だったような?)

 

 ……何せネモとゲームしながら、即興で作詞・作曲しながら、音声チャットでピアノで弾き語りしてくるくらいだ。

 

 ……その状態でどうやってゲームの操作をしているのかは極めて謎だったが。

 

「……Atraは無理にしても、つぼみに頼んでみる、って言うのは、ありかもしんねぇなぁ……」

「……あの子も多芸ねぇ」

 

 ……あれで性格がまともならなぁ、と二人で遠い目をする。

 

 彼女はドの付くシスコン……狂信的うてな原理主義者過激派であり、姉であるうてなを性的に狙っているやべぇヤツだ。そして、近頃、うてなと良い仲であるキウィとも異様に距離が近い。

 

 あの二人、趣味嗜好が似通っているせいか、確かに元から仲は良いのだが……。

 

 キウィには自覚のないところで、つぼみが秋波を送っている感がありありである。

 

(……あいつのことだから、なし崩し的にうてなもキウィも囲んじゃえ、とか考えてそうで怖いんだよなぁ)

 

 ……まぁ、事実考えているわけであるが!! ネモはまだその事実を知らない。

 

「…………聞くだけ聞いてみっか」

 

 ネモとつぼみは毎夜毎晩ともに狩りをする仲であるし、真珠も真珠でつぼみと一緒にショッピングに出かけていることもある。

 

 ……姉のことだけ考えている社会不適合者っぽいつぼみであるが、意外と交友関係は如才ない。少なくとも、姉周りに関して言えば。

 

 逆に言うと、同年代の交友関係はちょっと怪しい。自分たちの仲間でもある杜乃こりす以外だと、花菱はるかの妹の三姉妹くらいしか聞いたことがない。

 

(……………………あれ? アイツ、これでまともに学校生活できてんの?)

 

◇◆◇

 

「こりすちゃ~~ん! いっしょにかえろ~~ぅ!!」

 

 私がこりすちゃんの教室に突入すると、教室内がざわついた。

 

 ……まぁ、割といつものことではあるが。

 

 ててっ、と走り寄ったこりすちゃんが私の手を、ぎゅっ、と握る。

 

(あらかわいい♡)

 

 こりすちゃんがお人形ちっくでかわいいことは知っているけど、やっぱり普段の様子だと庇護欲がそそられるんだよね。

 それは、私に限らず、クラスの皆さんも同じなようで。

 

 私に飛んでくる視線は若干の嫉妬が含まれているものの、何と言うか生温かく見守れている感じ?

 

 こりすちゃんが積極的に誰かに関わるのが珍しいっていうのもあるんだろうけど……一体全体、この生温かい感じはなんじゃろな?

 

「……それじゃあ、皆様、ごきげんよう?」

 

 私はこりすちゃんの手を握り返しながら、そう教室内に言い残した。

 

「………………やっぱりあの二人、付き合ってるの………………!?」

 

 ……何か聞こえたけど、そこは知らんぷりで。

 

 そして、こりすちゃんは何で満更でもなさそうに、むふぅ、っていう顔しながら、頬を紅くしてるのかな?

 

「……え? それだけ、仲がいいって思われてるってことだから? いや、まぁ、そりゃ、仲はいいでしょ、親友だもの」

「……♡」

 

 くす、とこりすちゃんが微笑んで、更に私の腕に抱き着くようにしてくる。

 

 年の割に大きいこりすちゃんのお胸が、ふにふに、と私の腕に当たってくる。

 

「……あ、あの~……こりすさん、当たってるんですが? ……え、当ててんのよ? や、私たち親友であっても、そういう関係じゃないよね? ん? おねぇとキウィおねえちゃん? あれ参考にしちゃダメでしょ……」

 

 こりすちゃん的に、親友と言うと、姉&キウィちゃんか、真珠ちゃん&ネモちゃんになるらしく……うーむ、どちらもまともな友人関係とは言い難いなぁ……。

 

 一応、姉とキウィちゃんの関係は、今のところ親友にカテゴライズするしかないが(はよくっつけや)、真珠ちゃんとネモちゃんはガチ勢である。あれで周りには隠せてるとか思ってるんだろうかw

 あんなお互いがお互いの匂いをさせて、雌臭いんだから、何してたかなんてすれ違った人だって気づくよねぇ、って感じ?

 

 ……まぁ、こりすちゃんくらいだとさすがにそんなセンシティブな内容までは知らんかもだけど。

 

 だが、これは困った問題だ。あれらを友人関係の普通だと思われると、今後のこりすちゃんの人生が狂ってしまうかもしれない!

 

 こりすちゃんはかわいい私の妹分! ……胸は負けてるけどねっ!!

 

 ……もうちょっと危機感ってヤツが必要だと思うんだよね、私。

 

「……こりすちゃん、今日、暇? ウチで遊んでかない?」

 

 こくこく、と楽しそうに頷くこりすちゃん!

 

 …………おっもちかえりぃ~☆

 

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