悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

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56 こりすのこころ

 杜野こりすにとって、柊つぼみは別の世界の住人だった。

 

 元より内向的な性格かつ無口なこりすには、友人と呼べる存在もなく、ついでに言えば、周りの同級生にも関心がなかった。

 

 ……こちらを慮ることのない人を相手にするより、大好きな人形で遊んでいる方がいい。

 

 友人がいないことを寂しいとは思わなかった……母が多忙で一人でご飯を食べているときは寂しく感じていたが。

 

 さて、そんな他人に興味がないこりすであったが、それでもどうしても目についてしまう人間はいる。

 

 ……柊つぼみ。

 

 同学年の優等生。スポーツも万能。

 性格も明るく活動的な少女。

 

 当然のことのように彼女の周りに人は集まっていた。

 

 自分とはまるで違う、とは思いながらも、どうしてか彼女を見てしまうことが度々あった。

 

 どうしてだろう、と思いながら、彼女を観察して気づいたことがあった。

 

 社交的な彼女は愛想が良く、一見すると、周囲の人間とは良好な人間関係を構築しているように見えた。

 

 だが、彼女の顔には仮面で覆ったような笑みを崩さず、瞳はまるで笑っていない。人に囲まれていながらも、しかし、一定以上は自分の内側に絶対に踏み込ませない。

 

 幾人か例外はいるようではあるが、単に彼女との繋がりをメリットに感じているような相手(まぁ、本人たちは無自覚なのだろうが)には、嘘っぽい笑顔を張り付けて、威嚇していた。

 

 そんな彼女はよく見れば、同学年の中では浮いた存在であり……こりすとは別の意味でぼっちだった。

 

 そんな不思議な相手だからか、他人に興味がないこりすでも、彼女の動向には意識が向いた。

 

 体力測定で学内記録を軒並み更新したとき。

 運動会で、出る競技、出る競技一位を獲得したとき。

 合唱コンクールで見事な独唱を披露したとき。

 戯れに描いた絵がコンクールで入賞したとき。

 家庭科の授業でパティシエール張りのケーキを作りあげたとき。

 

 ……そして、最も意識するきっかけになったのは、体育の授業で転んだこりすをつぼみが保健室までおぶってくれたことだ。

 

 彼女は何故か無口なこりすの言いたいことを察することに長けていた。

 

 話したいことを話せないこりすの心を正確に推し量り、会話ができた。

 

 ……短い時間の関わり。だが、その短い時間の間で、心の中が、ぽっ、と温かくなったように感じた。

 

 しかし、それ以降、こりすから何かアクションすることは出来ず、彼女に関する同級生の会話に耳を傾けたり、すれ違うときに目で追ったりと慎ましいことしかできなかった。

 

 その関係が変わったのは、エノルミータで活動をするようになり、柊うてなとの友人関係ができてからだ。

 

 ……柊つぼみが柊うてなの妹であると知ったときの衝撃と言ったら!

 

 うてなの家に遊びに行った際、つぼみがアイスティーを出してくれたのだが、こりすは思わず、その大きい瞳をまんまるに開いた。

 

 それは、つぼみも同様で、意外なところで意外な存在を見た(実際そのとおりなのだが)と言わんばかりに、ぽかん、と口を開けていた。

 

 ……まぁ、彼女にしてみれば、ぼっち気質の姉の友人がまさか自分と同じ学校の生徒とは思わなかったのだろう。しかも、そこにいたのは、他人とあまり関わることのないこりすだ。

 

 どうして、姉と……? と本当に不思議そうな顔をしていた。

 

 それ以降、つぼみは学校内でもこりすに話しかけてくるようになった。

 

 ……最初の意図はおそらく情報収集。

 

 うてなとこりすがどうして友人になったのか。

 うてなとキウィがどんな関係なのか。

 この三人が一体どういった意図でつるんでいるのか。

 

 にこにこ、とした笑顔の裏で、何やらおぞましい気配すら滲ませていたが、こりすはすぐに理解した。

 

 つぼみは(うてな)が大好き過ぎる、と。

 

 キウィと同じ……あるいは、それ以上にうてなに執着している。

 

 それは見ていれば、わかった。

 

 ……たぶん、気づかないのはうてなくらいだろう。

 

 自分にあまり関心がないことには、少々、イラッ、としたが。

 

 しかし、それも最初の内だけで、彼女はちゃんとこりすを友人と認めてくれて……ついには親友と呼ばれるほどになった。

 

 ぽぽっ、とこりすの胸の内に温かい灯が点る。

 

 うてなやキウィたちとの仲間意識とも違う、はるかに向けるものとも違う、これまでに感じたことのない何かだった。

 

 そして、マジアアトラが柊つぼみだと知るに至り。

 

 こりすとつぼみの距離は急激に縮まっていった。

 

 つぼみがアトラだと知るのは、こりす以外ではキウィくらいで、秘密を共有していることの優越感があった。

 そして、Atraとして活動する彼女と遊ぶのはこれまでにないくらいに楽しかった。

 

 ……二人きりで過ごす時間が永遠に続けばいいのに、と思ってしまうほどに。

 

 その気持ちを特に自覚したのは、あの事件の後に、つぼみがキウィにアプローチし始めたせいだ。

 

 ドールハウスの中での様子は、こりすは全て知っている。

 手に汗握る白熱のバトルだったし、つぼみの本音を知ることもできたし、その場で、キウィがつぼみに言った言葉も知っている。

 

 その言葉のとおり、『大好きなもの、愛するものを一緒に増やしていく』のではなかったのか。

 

 うてなに対してはともかくとして、それがキウィ()()に向けられるのは、何だか納得がいかなかった。

 

 自分は親友ではなかったのか。

 

 そう思ったときに、ずきり、と胸に痛みが走った。

 

 嫉妬、という感情を自覚してから、自分の感情に名前を付けるのは早かった。

 

 だって、周りには見本があったから。

 

 そして、こりすは自分の気持ちを自覚して、それでも何も知らない振りをして、つぼみの腕に自分の腕を絡めて微笑む。

 

 逃がさないように。逃れられないように。

 

 ……美しい蝶を糸で絡めとるように。

 ……その美しい羽を手折るように。

 

◇◆◇

 

 復旧した姉は、顔を紅くしながら怒っていた。

 

 そんなことしちゃダメでしょ、とか、まだ、早い、とか、責任取れるの、とか……。

 

 言いたいことはわからないでもないが、あまり理論立てて話せていない。感情が先に来ているのが良くわかる。

 

 あわあわしながら、目をぐるぐるにさせながら、少し頬を膨らませて怒っている姉。

 

(……我が姉ながら、かわええなぁ……♡)

 

 一生懸命怒っている姉がかわい過ぎる♡ 

 ……一応、私は表情を崩さないようにしているが、傍らのキウィちゃんと、こりすちゃんの、じとっ、とした目が、私が何を考えているのか、わかってるぞ、と言わんばかりであった。

 

 そろそろ何を言っているのかわからなくなってきた姉が、クッションをぽふぽふ叩いて怒りを露わにしているが、普段、あんまり見ない姉のこういう表情は私にとってご褒美でしかない。

 

 はぁ、とため息をついて姉を押しのけたのはキウィちゃんだった。

 

「……うてなちゃん、すと~っぷ! 言いたいことがいっぱいあるのはわかったけど、これはつぼみとこりすの問題で、あたしらがあんまり立ち入っちゃダメでしょ~?」

「で、でも!? キウィちゃん!?」

「……大体、あたしたちが責めることができるような話じゃないじゃん?」

「……うぅ!?」

 

 ……まぁ、そうなるよねぇ。

 

 だって、同性同士であることを責めるのだとしたら、姉とキウィちゃんを私が責めてもいいわけだし。年齢だって、姉たちからすれば私たちはまだまだ子どもっていう認識なんだろうけど、ママたちからすれば、姉たちだってそうだろうし。責任云々だって、こりすちゃんが泣いて助けを求めているならまだしも……。

 

「……♡♡♡」

 

 ……当の本人が幸せそうに(楽しそうに?)私の腕に引っ付いているんだから、何を言ったところで無駄にしかならない。

 

 唯一、二人に私が責められるとしたら、私が二人に向けている好意に対する、私の不誠実さであるのだろうけども。

 

 姉とは姉妹関係であるとは言っても、私は一応、振られた側だし。

 キウィちゃんは、私の気持ちをあんまり本気にしていない感じだし。

 

 真正面から私を責めるのは難しいだろう。

 

 ……それでも姉が怒っているのは、家族だから、というのもあるけれど、妹を盗られるという潜在的な嫉妬だろう。……んふふ♡ 素直になれない姉の嫉妬は心地よいのぅ♡

 

 一方のキウィちゃん……うん。嫉妬とか何もないね! ……おかしいなぁ、一定以上の好感度は稼いでいるハズなんだが……。相手が姉だったら嫉妬して、例えこりすちゃんでもあっても排除に動きそうだけども。私相手では、そこまでは……という感じか?

 

 ……いや、キウィちゃんの胃はがっつり掴んでいる自信があるので、攻めるならそっちの方かも? ふーむ……?

 

「……まぁ、今回は私が調子に乗っちゃったのは間違いないから、そこは素直に謝ります。ごめんなさい」

 

 私が殊勝な顔で頭を下げると、姉も「……う、うん」と不承不承ながら頷いた。

 

「……こりすちゃんもゴメンね……怖がらせて、嫌なことしちゃったかな……?」

 

 少し悲しそうにこりすちゃんにそう言うと、こりすちゃんは、ふるふる、と首を振って、笑顔のまま私に、ぎゅう、としがみついてくる。

 

 ……お、思ったより、力がすごいなぁ……。

 

 何と言うか、逃さん、とか、離さん、とか強い意志を感じる。

 

 まぁ、こりすちゃんがこう反応してくるのは予想ができていたわけで。

 これを含めると、私が一応ながらも頭を下げれば、姉も何か言いたくても言葉を飲まざる得ないだろう。

 

 ……あ、いや、実際、ぐぬぬっ、って顔をしてるわ……。

 

「……こほんっ! ま、まぁ、こりすちゃんも……ど、同意だった、って言うなら……うん……まぁ、仕方ないというか……い、いいんだけど……けどぉ!?」

 

 姉の顔はめっちゃ複雑そうだった!

 

 ……まぁ、私も、今、納得として、とは言わないし。

 

「まぁまぁ、おねぇ♡ 皆で夕ご飯でも食べよ?」

 

 物事考えるにはエネルギーが必要だからね!

 いっぱい考えた姉には、糖分が必要なのだ!

 

 ……ついでに言えば、運動量はそれほどでもないのに、私もお腹空いた!

 

「……う、うーん?」

 

 はい、とも、いいえ、ともつかない返事をする姉の背中を押して、一度部屋から追い出す。

 

 扉を閉めた私はこりすちゃん顔を向ける。

 

「……………………下着替えよ? 私の新しいのあげるから」

「………………(こくこく)♡」

 

 ……私たち二人は湿っぽくなった下着を姉二人には気づかれないように着替えるのであった。

 




二人はお着換え中です♡

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