悪の女幹部にあこがれて   作:MIA

58 / 132
57 料理と魔法

 ……ちゃんと手を洗った私は、今、キッチンに立っている。

 

 傍らでこりすちゃんが興味深そうに私の手元を覗いていた。

 

 お手伝いかな? とも思ったが、私の鮮やかな手並みに手を出すところがないと考え直して、きらきらした瞳で私が料理するところを眺めていらっしゃる。

 

(……子どもができたらこんな感じ?)

 

 ……いや、こりすちゃんは同い年だけど。私の親友であり、妹分みたいな感じだけども。

 

 キッチンに立ってるお母さんを手伝いたいちょっと大人ぶりたいお年頃の娘さんみたいな図になってるので。

 

 ……個人的にだが、料理は魔法によく似ていると思う。

 

 何に使ったらいいかわからない材料が、とんとん、と刻まれ、ことこと、と煮込み、しゅーっ、と蒸され、ぱちぱち、と揚げられ、じゃーっ、と炒められ……美味しい食べ物へと調理される。そして、それを一口食べたら、おいしさで幸せそうに笑みを浮かべるだろう。

 

 まさにこりすちゃんが、今、私の手元で起こっている現象をそのように捉えているのではないだろうか。

 

 ……まぁ、私はこんな素敵な魔法を姉とキウィちゃんの篭絡のために使ってるんだけどね?

 

 フライパンにバターを引いて、全体に馴染ませたら、卵を流し込み、くるりと一回し。薄い卵の膜を作ったら、タイミングを見て、チキンライスを投入。フライパンを軽く煽りながら、持ち手を、とんとん、と軽く叩いて振動を与えて、少しずつ中身を丸めていく。ある程度まとまったところで、くるり、と中身を全て包めば、オムライスの出来上がりだ。フライパンにお皿を被せてひっくり返す。

 

 綺麗な黄色の楕円形。焦げ目もなくほわほわなそれは、実にスタンダードなオムライスである。

 

「こりすちゃんはケチャップお願いね~?」

 

 まぁ、作り手からすると、オムライスの弱点は、一人分ずつしか作れないところか。それでもチキンライスが出来ていれば、いくらも時間はかからないけども。

 

 同じ工程を繰り返すこと五回。一つのお皿はサランラップをして、自分たちの分から除けておく……いちおー、ママの分。

 

 オムライスの他には、カットしたトマトときゅうり、アボカドのサラダ、オニオンスープ。あとはお好みで私の作ったピクルスが箸休め、という感じの夕食だ。

 

 こりすちゃんは、姉とキウィちゃんのものには、ネコっぽい何かを書いてテーブルにお届けしている。

 

 ……うん、そのネコっぽい何かはとても腹黒そうで、とっても見覚えがあるけれども、私としては、ネコということにしておいてスルーしといていいかな……。

 

 ……あれ? こりすちゃん、どうして私たちのオムライスはハートマークなんですかね?

 

 私が苦笑して、こりすちゃんを見つめると、くすり、とこりすちゃんは楽しそうに微笑んだ。

 

 ……いや、さっきのあの状況から夕食の準備、と誤魔化した私もアレだが、あんなことがあった後に、ハートマークを平然と書いちゃうこりすちゃんは何というか、肝が据わっているよね……。

 

 テーブルに着いたら、案の定、姉がすんごい目で見てくるの!

 黒々とした目で、どよん、とした感じで、何かこっちが悪いことしてるみたいに!

 

 ……気づかなったことにしよう!

 

「はい、いただきましょう! いただきます!!」

 

 ぱん、と手を叩いて、私は、にっこり、と笑顔を作る。

 

 温かい食事を前に、食べないというの失礼に値する。

 

 姉も不承不承ながら、手を合わせて、小さな声で「……いただきます」というと、オムライスを一口、口に運び。

 ……そして、ほわぁ、と幸せそうな笑みを浮かべた。

 

 いやいや、やはり料理は魔法だね! あんなに機嫌の悪かった姉も、にこにこ笑顔ですよ?

 

 ……あの、ところで、こりすさん?

 どうして、私の方にオムライスをすくったスプーンを向けてくるんでしょうか?

 

「……っ。……っ!」

 

 いや、あーん、しろ、というのは伝わってるけど、何でそうなってんのかなー……?

 

 私がそんなことを考えて、ちょっとフリーズしていると、こりすちゃんが悲しそうに目を伏せた。

 

(……うぬぬっ……!)

 

 これじゃあ、私がニブチンのダメダメな悪い人みたいじゃないか!

 

「……あ、あーん」

 

 ……こんなん勝てるわけないでしょ!?

 

 私は諦めて口を開くと、こりすちゃんが、私の口の中にスプーンを持ってくる。私はそれを、ぱくっ、と口に入れると、オムライスの味を確かめるように咀嚼する。

 トマトの酸味、マッシュルームの食感、鶏肉から染みる肉汁、卵のコクとその上に乗ったケチャップの味。

 定番ながら外れのない、家庭のオムライスの味である。

 

 ……でも、人に食べさせてもらうと、妙に美味しく感じてしまうな。

 

 私はわずかに微笑んでいたらしく、それを見ていた、こりすちゃんは、むふぅ、とやり遂げた顔をすると、自分の分を口に含み、ほわぁ、と幸せそうな顔をしている。

 

 ……あ、ちなみにキウィちゃんは、こりすの様子を羨ましそうに見ていたが、オムライスを頬張る姉の幸せそうな顔に、あーん、は断念したらしい。今は、おいしそうに、ぱくぱく、とオムライスを口に運んでいる。

 

「……っはぁぁぁ♡ ふわとろなオムライス……♡ しあわせぇ♡」

 

 ……姉のトロ顔ごちそう様です!

 

 いやぁ、原価いくらもしないこの料理で姉のこの顔はコスパ最高かよ、って感じですな!

 

 これには、キウィちゃんもにこにこですっ!

 

「「……うへへ♡」」

 

 なので、私と二人で怪しい笑みを浮かべてしまうのも仕方がない。

 

 姉は私とキウィちゃんの様子に気付くことなく、食事を続けている。

 

 ……私はそういう鈍感なおねえちゃんが大好きだよ?

 

◇◆◇

 

 ……食後。私たちはお茶を飲みつつ、リビングでだらだらしていた。

 

「……そういや、キウィおねえちゃんはともかく、こりすちゃんはそろそろ帰る? 送ろうか?」

 

 今の世の中は物騒だからねぇ……暗い夜道にこりすちゃん一人なんて危険しかない!

 

 何と言ってもこりすちゃんは魔性の女だからねっ!

 おにんぎょうさん遊びがしたい大人の人には垂涎だろう。私ならおもちかえりするね! ……まぁ、今日、実際おもちかえりしているわけだけども。

 

 すっ、とこりすちゃんがスマホを私に差し出した。

 

「……えぇっと、なになに……? 『今日はつぼみちゃんのおうちに泊まります♡♡♡』……?」

 

 ……こりすママ宛てのメッセージのようだ。その直後には『了承!』を示すスタンプが返信されている。

 

 ……ちなみに、時間はこりすちゃんが私の部屋に入った直後辺り……。

 

 じとっ、と私がこりすちゃんを見つめると、こりすちゃんは、ぽっ、と頬を赤くして視線を逸らす。

 

 ……その仕草はとてもかわいらしいのだが。

 

(……確信犯じゃんっ!!!!)

 

 いや、まぁ、そうだろうな、とは感じてはいたけれども!

 どこまで!? どこまでがこりすちゃんの想定内……いや、計算だったのか!?

 

 学校から妙にべたべたしてきたとき?

 私が家に誘ったとき?

 ……それともずっと前から考えていた?

 

 おそらくキスは想定内で、でぃーぷなやつは覚悟の上……そこから先のあれやこれやは最後まで想定していた? ……いや、これは、姉たちが今日、家に直接帰ってくることまで想定済? 普段なら、ナハトベースでだらだらしていてもおかしくないし、何ならトレスマジアが何かしらの動きをしている可能性もあった。

 

 ……だが、この辺りを調整できるとしたらどうだ?

 

 ……こりすちゃんは、私と最後までいたす前に姉たちが来るように仕向けたのではないか?

 

 だとすれば、私といちゃいちゃすることも、それを姉たちに目撃されることも想定済で、このお泊りすら計画通りということではないのか?

 

(……なるほど、それは全く警戒していなかったなぁ……!)

 

 私の注意は基本的に姉とキウィちゃんに全振りしているから、自分自身に対するアプローチというのは、確かに私の計算外ではある。

 

 ……と言うか、私がそういう対象として見られることを全然考えてなかった!

 

 ……あっれぇぇぇ!? 私、学校でそういう好感度稼いでいるつもり一切なかったんだけどなぁ!? こりすちゃんだって、最初はもっと私のこと警戒してたでしょ!? 何でこんなに好感度爆上がりしてるのぉぉ!? いや、確かに最近仲良くしてたけども!? ドールハウスの中で二人きりでも何もなかったじゃん!! 何でこんな急に距離詰めてくるのぉぉ!?

 

 私としては、駒すら並べていなかったのに、いきなりチェックメイトされた感じだよ!? 

 

 ……って言うか、お泊りですよ!?

 私にああいうことをされた後のお泊りですよっ!?

 

 ……覚悟完了ってことですかねぇぇ!?

 

 だらだら、と冷や汗を流しながらも笑顔を崩さない私に、こりすちゃんは、ふふん、という少しだけ悪い笑みで答えた。

 

(……あぁ……うん……私の負けだよ、親友……今回はね!)

 

 こりすちゃんの想定通りだったとしても、()()以上のことは、今日起こり得ないだろうし。

 

 ……じとーっ、とこちらを見てくる姉の様子から、私に対する(あるいはこりすちゃんに対する)警戒が高まっているようだから、密室で二人きりはあり得ない。

 

「……キウィおねえちゃんも泊まっちゃう?」

「んぁ?」「なぁっ!?」

 

 きひ、と笑った私に、キウィちゃんはいつも通りだが、姉が過剰に反応した。

 

 ……まぁ、そりゃあね? 妹がそういうことしてたんだから、意識はしちゃうよねぇ?

 

「ちょ、ちょっと、つぼみ! キウィちゃんは何も用意を……」

「……してるよねぇ? キウィおねえちゃん♡」

「そりゃ、下着くらいはな♡」

 

 姉は知らないようだが、私はキウィちゃんが、自分と姉用の下着を常備していることを知っている。

 私の悪い笑みに、キウィちゃんも、にひ、と笑みを返した。

 

「……あ、あの……キウィちゃん……どうして下着が……?」

 

 姉が少し顔を赤くしながら、しかし、どこか怖々と疑問を呈するが、私とキウィちゃんは聞かなったことにする。

 

 ……何でって、そういうとき用の替えの下着だよ? 偉大なる先駆者であるネモたまがそうしているようにね!

 

「こりすちゃんのパジャマは私のでいいとして……キウィおねえちゃん、おねぇのパジャマ着れる?」

 

 じっ、と私はキウィちゃんの大きいお胸を見つめる。

 

 姉のお胸も成長著しいが、キウィちゃんほどじゃない。身長の分を考えれば入りそうではあるが、胸元ぱっつんぱっつんになりそうだね……色々捗りそう♡

 

「大丈夫だろ? いざとなったら、あたしは下着でうてなちゃんとベッドで寝るし♡」

「うーん、じゃあ、私たちはおねぇの部屋でお布団かなぁ? それでいい、こりすちゃん?」

「……っ(こくこく)」

 

 そんな感じで私たち四人のお泊り会は決定したのであるっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、あの……私の意見は……?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。