電気を消して暗くなった姉の部屋。
姉はこりすちゃんとベッドに。私はキウィちゃんと床に敷いた布団に入っている。
ふんふん、と鼻を鳴らして匂いを嗅げば、キウィちゃんの匂いでいっぱいになる。
やはり、お布団に一緒に入ると相手の匂いがダイレクトに感じられてすごくいい!
そして、ちょっと暑い上に、下着だけの相手ならなおのこと!
「……えへー……♡」
あぁぁぁぁぁ♡ しゃあわせぇぇ♡
「……人の匂いを堂々と嗅いで悦に入るんじゃねぇ……」
ぷに、と私の頬をキウィちゃんがつまむ。
「んににっ!」
頬を離されると、ぺちん、と音がした。
「お~……よく伸びたな~」
「ひどいよ、キウィおねえちゃん! 私のもちもちほっぺが伸びたままになったらどうしてくれるの!? ……責任、取ってくれるの?」
「いや、まぁ、あ~……それは置いといて、早く寝ような~」
ちっ! 言質取ろうと思ったのに!
……さすがに、姉もいるところでは迂闊なことは言えないか。
……あれ? そういや、姉は……?
「……すーっ、……すーっ……」
寝るのはやっ!? 確かに姉は、元から寝つきがいい方だけども!
いつもより二時間以上は早いんだけど……。
こりすちゃんが安心しきって寝ている姿を見て、自分も眠くなっちゃったのかな?
……そして、私。全然眠くない!!
でも、キウィちゃんにあんまりいたずらして、姉が起きると嫉妬の嵐だろうしなぁ?
……大人しく寝るしかないか。
……よじよじ。
「うむっ!」
「『うむっ!』じゃねぇんだわ……」
キウィちゃんの体に覆いかぶさって、おっぱいを枕にしてうつ伏せに寝ようとしたら、怒られました。
仕方なしに、ふつーにキウィちゃんの隣に寝ようとしたのだが……。
「……あれ?」
キウィちゃんに体をがっちりホールドされてしまった。
なんと言うか、抱き枕状態? キウィちゃんのお胸がむにむに当たって私的にはご褒美だけど。
「んー……熱帯夜なのに抱いていても暑苦しくない。いい感じ」
「キウィおねえちゃん……私、抱き枕じゃないんだけど」
「いや~……うてなちゃんがさ~、つぼみを抱っこして寝るとよく眠れるっていうから」
あー……確かに。姉と寝ると、いつの間にか私が抱きしめられて寝ているね~……。
朝ごはん作るのに、姉を起こさないように、そっとベッドを抜け出すのは中々大変なのだ。
「あったかいけど、暑くなくて……う~ん、ほっとする感じ?」
まぁね……私も姉に抱かれて眠るの好きだしね? こうやってキウィちゃんに抱かれて眠るのも、普段と違って新鮮でいいよ!
「……仕方ないなぁ。今日だけはキウィおねえちゃんのために、抱き枕つぼみちゃんになってあげるよ!」
「お~……さんきゅーな~」
きゅっ、とキウィちゃんが私を抱きしめてくれる。
……お互いの呼吸を感じる。お互いの体温が気持ちいい。お互いの鼓動の音に安心する。
「……四人で眠れる、おっきぃベッドが必要かな……」
それはたぶん、遠くない未来。
……どうしようもない程、幸せで。だけど、ずっと抜け出せない檻。
互いが互いを好意で縛って雁字搦めになって解けない歪な絆。
世間の人は非難するかもしれない。だけど、私にとってはとても美しい形。
とてもとても素敵な未来の話。怠惰で淫靡でこの上ない幸福な未来の話。
……さぁ、新しい設計図を書こう。きっと、それはすごく楽しい。
「……くふふっ♡」
……でも、今は。
愛しい人の体温を感じながら、心地よい眠りに堕ちていく。
……おやすみ、おねえちゃん♡
◇◆◇
次の日、私はこりすちゃんと登校している。
……朝食? いや、食べましたけども? 何だか幸せな日常を先取りした感じでお得だったけども。
私がごはんを作って、こりすちゃんがお手伝いして、キウィちゃんはテレビとスマホを眺めて……遅れて姉が起きてきて。
恐縮しきりの姉をいじりつつ、キウィちゃんにいたずらして、こりすちゃんの世話を焼いて、と。
……まぁ、そんな幸せな朝食だった。
……が!
幸せだった分、今の現状に困惑している。
……こりすちゃんは、私の右腕に抱き着いている。
まぁ、それはいいよ? 昨日も帰りはそんなんだったし。
……問題は、昨日の帰りと違って、多くの人に目撃されてるんだよなぁ!?
さっき、バイトに行く途中の田中に生温かい目で見られたし!
あの「わかっている」的な目は何だったのかなぁ!?
……くそぅ、多田さんの細長くて縛るためのアレ的な存在のクセに!
「……あ、あの~……こりすさん?」
離して……? と言おうとしたら、ぷいっ、と顔を逸らされた。
……こりゃ絶対離してくれんヤツ……。
こりすちゃん、意外に頑固なところがあるから、一度、こう、と決めたら、気が済むまではやめてくれない。
……で、普段はわがままとか言わないから、皆、仕方ないなぁ、ってなって、なんだかんだで許される。
……これって、天然? それとも作戦?
「……こりすちゃん……実は結構強かだよね?」
「♪」
……ものすっごくいい笑顔をしていらっしゃる!!
まぁ、この様子を見れば、どちらかなんて言わずもがな訳で……。
はぁぁぁぁ、と私はため息をついて……諦めた。
「……姫の御随意に……」
「♡」
……大人しそうに見えて、実はとってもわがままなお姫様に振り回される未来が見えた。
◇◆◇
……案の定、学校に到着したら、周囲がざわついた。
「……柊さ……つぼみちゃん!!」
「あ、おはよ、いいんちょ」
「おはよう! ……じゃなくて、つぼみちゃん!!」
先陣を切ったのは、私のクラスの『いいんちょ』だった。
三つ編み眼鏡で、委員長っぽい彼女は、あだ名が『いいんちょ』であって、学級委員とかではない。あくまで見た目が委員長なだけで、実は全く委員長していないので、『いいんちょ』なのだ!
「……つぼみちゃんと杜野さんって、付き合ってるの!?」
いや~……ズバッと切り込んできたな~……。
朝からちらちら見られているな、とは思っていたものの、彼女だったか……。
いいんちょは幼稚園時代からの知己であり、家は私のご近所である。
……つまりは、昨日、こりすちゃんがウチに来て、朝、一緒に家から仲良さそうに出てきたところまでバッチリ目撃されているわけで……。
昨日、仲良さそうに帰る → どうにもお泊りしたらしい → 朝は更に仲良さそうに登校
結論……ゆうべはおたのしみでしたね。
……まぁ、そうなるよなぁ。完全に否定できない辺りもね……。
「……付き合っては……いないかなぁ?」
事実、そうなのだが。未だに私の腕に引っ付いているお嬢様は不服そうに、頬を、ぷくぅ、と膨らませている。
「そうなの? ……でも、杜野さん、昨日はつぼみちゃんちに泊まったでしょ? ……そ、そんなの、まだ早いよっ!」
……いや、同性同士のお泊りで、どうしてそこまで話が飛躍するのかな? お花咲かせ過ぎじゃない?
実際やらかしている私が言えたことではないが!
「……いいんちょ、ナマモノで妄想しちゃダメだよ?」
しれっ、と私がそう答えると、いいんちょは顔を紅くした。
「……だ、だって……我が校の
……『騎士様』って、私? こりすちゃんの『人形姫』は聞いたことがあったけど……。
……ちなみに、お人形さんみたいでかわいい、っていう意味での人形姫という通り名のようである。
「……いいんちょさぁ……頭の中でお花咲かせ過ぎじゃない?」
たぶんゆりの花が咲き乱れている!
「つぼみちゃんは自覚が無さ過ぎるんだよ……っ!?」
拳をぎゅっと握りしめたいいんちょが、血を吐くようにしながら叫んだ。
「スポーツ万能! 成績優秀! 描いた絵はコンクール入賞! 歌えばAtraもかくやの歌声! パソコンなんかも自由自在! その上、お料理上手で、実はとっても家庭的という……! ナニコレ、何の主人公なのっ!?」
……加えて言うなら、ドのつくシスコンで、被虐趣味で、年齢に比してえっちぃこと好きというのもあるわけだが。
「……こんなの、皆、あこがれるしかないじゃないっ!?」
(……そうかぁ?)
字面だけ見ればそうかもしれないが、私は基本的に好かれる性質ではないと思っている。
友達付き合いは基本的に表面的だし……これはクラスメイトの多くが気付いていることだ。
嫌われこそしていないとは思うものの……だからと言って、ここまで熱弁されるほどあこがれられる存在かと言うと、私的には『?』という感じである。
……一般的には私みたいなヤツより……小夜ちゃんみたいな? それこそ騎士様扱いされるなら、あれくらいの凛々しさが必要だろう。私は姉と同じでどっちかというとたぬき顔だしね!
……だけど、そう思っているのはどうやら私だけらしく。
私の腕に抱き着いたままのこりすちゃんが、うむうむ、と鷹揚に頷いていた。
……ついでに懐疑的な顔をしている私に他のクラスメイトが、『マジか、コイツ……』みたいな呆れた目を向けてくる。
…………………………あれぇ?