……私って自分で思っていた以上に人から好意を向けられていたんだなぁ、と今更ながらに考える。
いや、私にあこがれる要素があるのは自覚はありましたよ? 好かれるっていう感覚がなかっただけで……。
表面上はいい子ちゃんぶってはいたけれど、基本的に私の人付き合いはそれこそ表面上だったし。
そんな、中身のない相手に寄って来るヤツなんて、それこそ中身のない人間だろうと興味が無かった。
……狭い世界しか見ていなかったんだなぁ、と思う。
まぁ、だからと言って、学校生活で何か変えるつもりは全くないんだけども。
……それにしても困ったなぁ……こりすちゃんには!!
わちゃわちゃ質問責めにされた朝は予鈴のチャイムで解散となったが、休み時間の度にこりすちゃんが来襲して、私に抱き着いてきたのだ。
見た目はいつもの無表情だったが……。
『これはわたしのだ。さわるんじゃねぇ』
……って感じの威圧感が、もうね……。
おかげ様で、私もこりすちゃんも何ら答えてないのに、既成事実と化している……!!
そんでもって、昼休み。
色んな質問をのらりくらりと私は躱していたのだが、給食の後片付けと同時に、ばぁん、とこりすちゃんが教室の扉をぶち開けて特攻してきた……私は既に諦め顔である。
「♡」
……こりすちゃんの邪気のない笑顔を見たら、何も言えんっ!!
この笑顔の裏には色々計算があるのが、何となくわかっていても!!
「……こりすちゃん、中庭でも散歩しよっか……」
「♪」
ふぅおぉぉぉ、と謎の盛り上がりを見せるクラスでジロジロ見られるよりはなんぼかマシでしょ……たぶん……。
「……はぁぁぁ♡ 尊い……♡」
……だから、いいんちょ……きらきらした笑顔で涙流しながら拝むのはやめてください。
さて、中庭の散歩でも、とは言ったものの、より正確に言うならば、こりすちゃんと余人を介さない場所に行きたかった……要は二人きりになりたかったわけで……。
後を付けられていないかを探りつつ、私は腕にくっついているこりすちゃんを連れて、特別教室側の階段下……校内で一番人気のない場所である。
例に漏れず、若干物置みたいになっているものの、ちょっと人目を忍ぶくらいのスペースは十分にある。
「……こりすちゃん、学校でこれはまずくない?」
「……?」
こりすちゃんは、きょとん、と首を傾げる。
……どうも何が悪いかよくわかっていないらしい。
……まぁね? 確かにお付き合いしている子たちがいるのは私も知ってるけど。
私とこりすちゃんほど大っぴらにべたべたしている子はいないんだよなぁ!?
そりゃあ、無意味に手を繋いでたり、私物交換してたり、おそろにしてたりとね? 見る人が見れば、『あ、この二人、そうなんだ、ふ~ん』くらいの感じを醸しだしてたりはしても、ここまであからさまな子たちはいないんだよね……。
……そして、一番マズいのは、こりすちゃんの普段の無表情具合からすると、ぽわぽわしているというか、幸せ感が漂っていて……『あ、この二人、何かあったな』感がハンパないんだよね!
さて、こうなってくると痛くもない腹を探られる……いや、探られると痛い腹があるんだけども!
要するに、小学生の時分に、不純同性交遊は、まずいよね、ってことである。
救いは、私もこりすちゃんもあまりそういうことに興味なさそう、かつ、普段の生活態度からそういうことはしなさそう、と先生たちからは思われていることか。
現場でも押さえられない限り、いきなりお縄になることはなかろう……。
……どうしたもんかなぁ、と考える。
こりすちゃんの距離感がバグってるのを確認したかったのと、本来であれば、互いの距離感の線を引き直すハズだったのが、まぁ、ずるずると……悪いのは私か……こりすちゃんがかわいすぎるせいで、どこまで許されるかな、とか余計なことを考えたのが悪い。自分に向けられる好感度というものを過小評価しすぎていたんだろう。
……こりすちゃんの本気度が思っていた以上に高い。下手するとネモたま以上まである。
はぁ、とため息をついていると、とん、と体を押されて、私の背中が壁にぶつかった。
「……こりすちゃん、どうした……んむっ!?」
……気づいたら、こりすちゃんの顔が目の前にあった。
くすっ、という笑い声を聞いた気がしたが、それを確かめる前に柔らかい感触が私の唇に触れた。
ちゅ、という小さい水音に、頬が少し赤くなる。
……昨日はそれ以上していたのに、相手からされるとこんなにも恥ずかしい……。
……そして、それ以上にマズいと思う。いくら人気がないとは言え、皆無ではない。誰かに見られたらアウトなわけで……。
「……こ、こりすちゃん、ここじゃダメだって……んっ!? ぷはっ……ぁん、ちゅ♡ ……ぁぅ♡」
どん、とこりすちゃんの空いた手が私の顔のすぐ近くの壁に押し付けられる。身じろぎをしようとする私をもう一方の手がきつく抱きしめて離さない。
有無を言わせずに唇を重ねられ、息継ぎでわずかに開いた口に、こりすちゃんの舌が、ぬるり、と侵入してくる。
……私の反応を試すように、少しだけ絡められた舌は、すぐに引き抜かれたが、私があまり抵抗しないとみるや再度の侵入を始める。
……ちゅっ、ちゅる……くちゅ、くちゅ……♡
(……あかん……抵抗できない……♡ 何も、考えられない……♡)
こりすちゃんが好きなように私の口腔内を蹂躙していく。
唇を重ね、舌を絡めて、舌の裏や歯の裏の辺りを舐られ、唾液を啜られる。
「……んんっ!? ……ぇろっ♡ ……ちゅ、ちゅばっ……♡ ……ちゅる……♡」
……膝に力が入らなくなり、ずるっ、と座り込みそうになったところで、足の間にこりすちゃんの膝が入っていることに気づく。
……私はどうやら座り込むことも許されないらしい。
ようやく離れた私たちの唇の間には、てらりと光る唾液の糸が見えた。
こりすちゃんは、その唾液を、ぺろり、と舌で舐め回し、溢れた分は、ちゅる、と音を立てて啜った。
恍惚の瞳で、上気した頬で、幸せそうに……しかし、邪悪に、こりすちゃんは、にたり、と微笑んだ。
(……あ、これ無理だ……)
昨日の……私に攻められて悦んでいた彼女ではない。
これは、姉が時折見せる、捕食者としての……攻める側としての愉悦。
……彼女は同類だ。
自らの
杜乃こりす……ネロアリスは玩具の支配者であり、彼女は彼女の気の向くままに、無邪気に、純真に、彼女の玩具になったものをかわいがる。……今回はまぁ、性的な方に振り切れているようだが。
くい、と顎を上に向けられる。
……私は諦めたように、瞳を閉じて、彼女の唇を受け入れた。
こりすちゃんが『こう』と決めたら、それを躱すのは困難だし、今の私に逃げる術はない。
……だから、受け入れるしかない。
……私の心を見直しても、別に嫌なわけでもないようだし。
いつの間にか、手を恋人繋ぎになって、互いに積極的に貪り合うようにして、キスを続けていた。
「……ぁむっ♡ ……ん……んっ…♡ ……ちゅ、ちゅっ♡」
「……っ♡ ……♡♡ んっ……♡」
ふわふわとした心地よさを感じながら、どれだけの時間、キスをしていたのだろう……。
……だ、誰にも見られなかった……よね?
どうやら満足いったらしいこりすちゃんが唇を離すと同時、私はペタリと床に座り込むことになった。
「……こりすちゃん?」
ちょっとだけ怒気交じりに彼女を見るが、彼女は至極ご満悦な顔であった。
(……そんな顔見たら怒るに怒れないよ……)
「……こりすちゃん、お手洗い、行こうか……」
私の言葉に、何かに気づいたらしい、こりすちゃんが少し恥ずかしそうな顔をしながら、もじもじしている。
……まぁ、大体私と同じ状態だろうな。
このぬちょぬちょになってしまったパンツは午後の授業のためにもさっさと変えなければならないよね?
……私たち二人がこっそり下着を変えていると、昼休みは終わっていた。