放課後はいらんことを詮索される前に逃げるが勝ち!
私とこりすちゃんはさっさと学校を後にした。
……今日も一緒に帰ったら、余計に誤解が広がる? もう遅いよ! 下級生から上級生まで何か言いたそうにちらちら見てくるような状態だもん!
……それに今日はちゃんとした予定もあるので仕方ないのだ!
私とこりすちゃんは、私の家に置き配されていたとある荷物を受け取ると、こりすちゃんの家に向かう。
こりすママは仕事が忙しく、家にいることは少ないし、我が家と違って、キウィちゃんが強襲かけてくることもない。レンタルスペースを借りてもいいのだが……場合によってはマズイことになるかもしれないので、こりすちゃんの家が最適。
……レンタルスペースから二人で出てきたら、二人は中でいったい何をしていたの、と妄想が捗ること請け合いだ。特にいいんちょとか!
……まさか、後を付けてはおるまいな……。こりすちゃんのおウチの近くでは、ちゃんとチェックシックス!
……うむ。大丈夫だろう。
私の手を引いて、自分の家に誘導するこりすちゃんのなすがままに引っ張られ、こりすちゃんの部屋に二人で入ると、私は回収してきた段ボールを開けて準備に取り掛かる。
こりすちゃんは後から私に抱き着いて、興味津々に箱の中を覗き込む。
……購入したのは、大きめの宇宙船の模型だ。
最近、キウィちゃんの(悪?)影響のせいか、人形関係以外の模型にも興味を持ち始めたこりすちゃんは、ほほぅ、と物珍し気である。
……ふにふにと当たる彼女のお胸はしらんぷりしておこう……。指摘したところで、『当ててんのよ』と微笑まれるだけだろうしね……。
「……じゃあ、こりすちゃん始めようか」
……何をするのかって?
そんなの決まってる! Atraの新曲MVの撮影だよ!
「
私とこりすちゃんがトランスアイテムを使って、それぞれ変身する。
変身と同時、私は周囲に隠蔽結界を発動。……そうしないと、魔力に反応したエノルミータやらトレスマジアやらが文字通り飛んできちゃうし。
ネロアリスに変身したこりすちゃんは、模型をしげしげと眺めた後、こくり、と私に一つ頷いて、彼女の能力を発動させた。
◇◆◇
「……お、さすがアリスちゃん、無重力の再現も余裕かぁ」
ネロアリスの能力で模型の中に囚われた私は、ふよふよ、と空中を漂っている。
ぐっ、と親指を立てた彼女は、どや顔のまま、ゆっくりくるくる回っている。
「よっ……と。
くる、と体勢を変えながら、私は自身の体を少し成長させたマジアアトラ……シンガーソングライターAtraとしての姿へと変わる。
その姿を見るなり、アリスちゃんがもの凄い勢いで突っ込んできた!
「わ!? なにっ!?」
「♡」
普段、私とこりすちゃんの身長は大体同じくらいだが、この姿だと、私の身長はキウィちゃんくらい……こりすちゃんより一頭大きい……胸はこの状態でも負けているが。
無重力空間でアリスちゃんの勢いを殺せる訳もなく、二人で壁際にぶつかるが、その隙に、アリスちゃんが、ちゅっ、と私の唇に口付けをする。
くす、と悪戯っぽく微笑んだ彼女は、どうやらこの状態で、イチャつきたかったようだ。
「……もう。今日はお仕事だよ、アリスちゃん」
アリスちゃんはつまらなそうに、ぷーっ、と頬を膨らませるが、一応、彼女は演出や撮影のプロ……という扱いだ。少なくとも、シンガーソングライターのAtraとしては。
それは彼女もわかっているらしく、ぽん、と出現させたカメラを設置していく……しかも器用に自分の周囲だけ無重力状態を切って。
(……いやぁ、マジチートだわ、アリスちゃんの能力……)
便宜上、『ドールハウス』と呼ぶが、色々と制限はあるものの、この能力は実に危険な代物だ。
中に入ったものを自在に操ることができる。人も物も空間さえも。
今回も外側は宇宙船にしたが、おそらくこの能力、単なる段ボールでも発動できる。
マジアベーゼが夜なべして作ったとかいう怪しげなブツでもダンジョンとして機能していたらしいし? まさか、中身を細かくダンジョンに作りこめたというわけではないだろう。概ねこういった機能をもった部屋というのを区切った程度ではないだろうか。
つまり、実際にダンジョン化させたのは、マジアベーゼとネロアリスの話し合いによるものであり、内部の構成はマジアベーゼの趣味が多大に反映されているものの、それを実現させたのはネロアリスの能力に他ならない。
要は中に入ってから、中の状態の変化も可能、ということだろう。……まぁ、その分、できることが限られてくるのだろうが。
ないものを作る、仕掛ける、普通と違うルールを設定をする、魔物を配置する……上限はあるが、その発想ができ、理解が及ぶ範囲内なら彼女の自由、というわけだ。
今回は、宇宙船の模型というガワを用意することで、無重力空間や窓の外に宇宙を再現するという状況を作りやすくし、外から、色々な機材を持ち込むことで、魔力的制約のコスト削減をしている。
……まぁ、こんな風に彼女の能力で何ができるかを検証を行いつつ、MVを撮影するというのが、現在の私たちのスタイルである。
「……じゃ、アリスちゃん、音楽と演出よろしくね! とりあえず一回リハーサルしようか」
「っ!」
ぐっ、と力強くサムズアップしたアリスちゃんは何故か気合十分のようだ。
まぁ、お人形遊びもそうだけど、姉が直してくれたのを見て、自分で直すことも覚えようとしているみたいだし、お絵かきや模型を作ったりと、最近はこういった芸術方面には意外に興味があるようなので、結構意欲的なのだ。
……もしかしたら、Atra経由で入ってくるギャラに惹かれている可能性もあるかもだけど。
おもちゃも結構高いしね……特にこりすちゃんは、ふつーのかわいいのも好きだが、特に好きなのはアンティーク系のようだし。それ系を買おうと思ったら、結構な金額になってしまうからなぁ……。普段はぬいぐるみ多めだけども。
……私とアリスちゃんはドールハウスの中でしばしの間、お仕事を続けた。
◇◆◇
撮影終了! ……え? 終わったら、次はわたしの番って、アリスさん……? 物欲しそうな顔をしても、何もしませんからね? 早く解除してください!
……さて、撮影も終わったので、次は編集だ。
これは私の部屋で専ら私がやるのだが、今日は昨日に引き続いて、こりすちゃんは我が家で夕食の予定。
……こりすママは今日も遅いらしく、夕食代は置いてあったが、こりすちゃんは私の料理が食べたいと甘えるので、私の家で食べることになっている。
私に後ろから抱き着いているアリスちゃんの体温を感じつつ、今日の献立を考え、ふと、時計を見ると、すでに結構いい時間。
「……あっ、タイムセール!?」
商店街のタイムセールを狙うなら、ちょっと急がないといけない時間になっている!
こりすちゃんから材料費はもらうにしても、ちょっとでもいいものを食べさせるのであれば、良い物をより安く手に入れるのは当たり前!
「………………まぁ、たまにはこんな使い方もいいでしょ」
幸いにして私たちはまだ変身中だ。少なくともマジアアトラならひとっ飛びである。
「アリスちゃん、このままいくよ!?」
「♪」
こりすちゃんの家を出た私たちは、私がアリスちゃんを抱えて、商店街へ向かう。
……まぁ、私的にはちょっとした緊急事態ではあるものの、よくよく考えればちょっとうかつだった。
でも、私とエノルミータの反応を両方察知するならば、戦闘中かなんかだと思うのが普通でしょ?
……だから、私は……私たちは少し油断していたのだと思う。
「……っ!?」
「……なに? この反応……」
トレスマジアでもエノルミータでもシオちゃんズでもない全く別の魔力反応。
(……別の町の魔法少女? でも何だろう……この反応はエノルミータの……もっと言うなら、魔物の反応に近い……?)
……魔法少女そのものを捉えたものではなく、どちらかと言うと、魔力……魔法そのものを捉えた感触に近い。
……そして、その何とも言えない気持ち悪さ。
この気持ち悪さはアリスちゃんも察知しているようだった。
(……敵にしろ、それ以外にしろ、広い場所がいいな)
今の時点では、ドンパチすることが決まっているわけではない。しかし、そうなることを見越して対応すべきであろう。
……もっとも、私の勘は十中八九戦闘になると言っているが。
「……降りるよ、アリスちゃん」
こくり、と頷いた彼女は、少し不安そうな顔をしながら、私の平な胸に頭を押し当てる。
……まぁ、こんなんでも精神安定に寄与するなら、別にいいけども。
(……さて、鬼が出るか蛇が出るか)
……出るのは魔法少女なんだろうけど。