「……っはぁぁぁぁ♡」
変身を解いた私は、自分の部屋に戻り、ベッドにダイブした。
いやぁ、間近で見た生ベーゼ様は最高でしたね。
遠目では何回か見たことあるし、何ならSNSで拡散されているから映像にはこと欠かないのだが、やっぱり生は違いますよ、生は。
写真だけではわからない肌を滑る汗。
動画だけでは伝わらない甘い香り。
対面しているからこそ伝わってくる体温。
……どれもがものすごく新鮮だった。
【……まぁまぁのデビュー戦だったんじゃないかい、柊つぼみ?】
コイツ、どうやらあのコンパクト……というか、宝石もどきに封印されているらしく、しっかり私に付いてきやがった。
「……余韻に浸っているんだから、邪魔しないでくれる?」
【そう言わないでよ……魔法少女とマスコットは一蓮托生だよ?】
「……私、頼んでないし、望んでなったんじゃないけどね」
……どうせなら、ベーゼ様と肩を並べる方が良かったのだが。
いや、でもそれだと、ベーゼ様の興味は私じゃなくて、トレスマジアの方にいっちゃうしなぁ!?
私的には悪の女幹部の方がやりたい気持ちが強いのだが、それだと気になるあの人に振り向いてもらえないという
ぱたぱた、と足をばたつかせて、枕に顔を埋める。
「う~~~~~にゅ~…………」
……考えるものの、良い考えは浮かばず……。
ごろん、と体の向きを変えて、天井を見上げる。
(……まぁ、ベーゼ様ときゃっきゃうふふするなら今の立ち位置の方がベターか? ベーゼ様はレオパルトと仲良さそうだし、そこに挟まるってのもちょっとなぁ……?)
マジアベーゼが表舞台に登場して以降、彼女とレオパルト、ネロアリスの三人は一緒に行動していることが多い。その中でも、マジアベーゼとレオパルトはしっかりと信頼関係以上のものを作り上げている……気がする。
私はカップリング論争に加わる気は毛頭無いが、それでもあの二人はガチ勢だと思っている。
別に私は、ベーゼ様とどうこうなりたいわけじゃない。
あこがれのような何かを感じ、彼女の手で滅茶苦茶にされてみたいと思っている
……そう考えると、トレスマジアに対してメラメラと嫉妬の炎が燃え上がる。
【……そう言えば、柊つぼみ。トレスマジアとは共闘しないのかい?】
「あのとき言ったけど、私の目的はエノルミータ……というか、ベーゼ様であって、トレスマジアは眼中にない。だから、彼女たちとおてて握って仲良くなんて全く考えてないよ。……まぁ? 横やりを入れるのであれば、彼女たちが戦っている瞬間が一番だとは思っているけど……」
エノルミータとトレスマジアは争っているが、全く決着が着いていない。
……と言うのも、トレスマジアはともかく、エノルミータに殺る気がないからだ。
当初こそ、世界征服を企む悪の組織、という体裁だったが、マジアベーゼが総帥になってからのエノルミータは、そんなことは考えていないだろう。
……どちらかと言えば、魔法少女
もっとも、魔法少女
マジアベーゼが何を考えているか。
それは彼女以外にはわからないだろうが、彼女は世界征服とかくだらないことは一切考えていないだろう。彼女は自分の立ち位置をよく理解している。
……光あるところに影あり。だが、光を光と認識するのは、影があってこそ。
おそらく、彼女の考えは、私に近しい。
私は醜いものこそを愛しているが、彼女は光を愛するが故に、自らが醜く汚れていても構わない、と考えているのではないだろうか。何て尊いんだ! 推せる!
……だが、だとすれば、エノルミータがトレスマジアに止めを刺さないことにも説明が付く。
トレスマジアが正義であるために、エノルミータは悪として対峙する。
わかりやすい正義と悪の二極図を作るために。
ライバルとして立ちはだかり、トレスマジアをより高みへと昇らせるために。
「…………でも、それじゃあ、いけないなぁ」
ぽつり、と私はそう呟いた。
何となく思いついた私の感想だ。
……
だが、その後のことはどうか。私が想像する限り、あまり考えられていないように思う。
エノルミータのバックにより巨悪な組織があるとするなら話は別だが、今のところ、そんな影は見えてこない。
(いや……表立っていないだけで大きなスポンサーはついているのかもしれないし、既に用意されている可能性もあるけど……)
トレスマジアがCDを出したりと営業活動をしたり、グッズを出したりと、大々的にスポンサーを募っているのに対し、エノルミータはニッチなマニアがちょっとだけグッズを出しているだけで、その資金源ははっきりしない。彼女たちにはあまり必要がないだけかもしれないが、『歌星ぱある』(と言うか、ロコムジカ)のときには、それなりの組織力を見せていた。彼女たちが活動する上でお金はあっても困らないものだし、集められるなら何がしかの方法で集めていると考えるのが妥当だろう。
魔法少女の経済効果。
一小学生にはそんなもの想像もつかないが、それなり以上のお金が動いているのは確かだ。
悪の組織がなくなってしまえば、魔法少女の活躍の場はなくなる。
彼女たちが活躍しなければ、せっかく作ったグッズもCDもただのゴミへと成り下がる。
……それでは、スポンサーたちは困ってしまう。
だから、双方のスポンサーたちにとっても、エノルミータが倒れるのだとしたら、その後を引き継ぐ巨悪が必要なのだ。魔法少女の戦いを続けるために。魔法少女の戦いを魅せ続けるために。
より強大で、野心に満ち溢れた敵が。
マジアベーゼがそんなことを見落としているとも思えないが……。
ちらり、と私は自らの手の中にあるコンパクトを見る。
(……あるいは、
自分自身としては、現状、巨悪を引き継ぐなんてことは考えていない。まぁ、そもそも、世界征服なんか興味もないし、大きな目的があるわけでもない。
ベーゼ様といちゃらぶできたら嬉しいなぁ、とそんな邪な考えくらいしかない。
だが、自らを魔法少女に変貌させた得体の知れないコイツはどうか?
いや、もしかしたら……コイツを含めたマスコット連中は、もっと別の目的で動いているとしたらどうか?
(………………………………十分あり得そうだね)
……気を許してはならない。コイツらは自分たちとは別の価値観で生きている別の世界の生き物だ。こちらに親し気に振る舞っているのは、擬態と思って然るべき。
「…………んふふ♡」
……ああ、面白いなぁ……。
こうして考えれば、私、マジアアトラは圧倒的に不利だ。
仲間もおらず、組織的なバックアップもなければ、資金と言えば、月五千円のお小遣いのみ。更に唯一の味方と思われる存在ですら、いつ背後から刺してくるか分からない。
孤立無援。
……つまりは、個人の力のみで対峙する必要があるわけで。
……そんな無茶を続ければ、おそらくは長く持たない。
そう遠くない未来に、滅茶苦茶に凌辱される自分の姿が目に浮かぶ。
姉とその周辺以外何も見えなかった世界に、破滅的な未来の姿が加わる。
あぁ……何て甘美で、淫猥で、背徳的で、冒涜的で、禁断な素晴らしい未来なんだろう。
「……ふふふふふふふふっ♡」
…………楽しみだなぁ。それまでにちゃんと準備を終えなきゃね♡