電撃をまとったマジアサルファの拳と緑の騎士の風をまとった剣が交差する。
「……ちぃ!」
一度の攻撃で、それ以上の追撃をせず、サルファは後方に距離をとった。
……あまり相性の良い相手ではない。
サルファの持ち味はそのスピードと攻撃力。
対する相手は、スピードと防御力に秀でている。
魔法の属性面でも、相反する属性ではなく、同系統……決定力に欠ける。
(……わざわざ相性が悪そうな相手と戦わせるなんて、いい性格してはるわぁ)
マジアアトラは何の考えもなしに相手を選んだわけではない。
意図的に相性が悪い相手を選んだのだろうと思う。
ネロアリスにしても、あのねこのぬいぐるみで戦おうと思うなら、見た目的に相手は火だろうし、良い相手とは言えないだろう。アトラは……正直、彼女の魔法の特性からすれば、誰が相手でも同じ……強いて言うなら、性格の相性が悪そうなくらいか。
『半殺し♡』と彼女は宣ったが、言うは易く、行うは難し。
ただ一度の交錯で理解できる彼女たちの強さ……少なくとも昨日今日に魔法少女になったわけではないと知る。
加えて、相性が良いとは言えない相手となれば、その難易度は上がる。
……それでもなおその相手を、と選んだアトラの思考を考えれば。
(……倒せて当然。『半殺し』……要は加減しても倒せる、と)
……おそらくはサルファの実力をその程度には買っているということ。
……そして、さらに言うならば。
(……それができん言うなら、価値なしっちゅうことやろ? ……ようなめ腐れてくれはるわぁ!)
にぃぃ、とサルファは好戦的な笑みを浮かべる。
先般の事件で、アトラがマジアベーゼに性的に執着しているということは良くわかった。
加えて、彼女がトレスマジアに助力をしているのは、マジアベーゼを含めたエノルミータ
……勝たせ過ぎず、負かせ過ぎず。やり過ぎず、行き過ぎないように。
正義と悪のバランスを適正に保つ。
結果として、一般市民は、トレズマジアとエノルミータの戦闘行動を一種の娯楽としてとらえることができる。……もっとも、これはエノルミータがそもそもそのように動いているフシがあってこそだが。
だからこそ、マジアアトラはマジアサルファを試すのだろう。
舞台の上に立ち得る役者であるか否かを。
(……マゼンタでもなく、アズールでもなく、ウチを、な)
一応リーダーと言っていいマジアマゼンタは、純粋過ぎるが故に裏を考えることはない。
色々アレだが、戦闘能力の高いマジアアズールは、物事を真っすぐにしか考えられない。
よって、大局を見据えて、トレスマジアをコントロールできるのは、マジアサルファであるとマジアアトラは考えているのだろう。
(……いざというときは、手加減せぇ、ってか? それができれば苦労せんわ!)
マジアベーゼも、レオパルドも、ネロアリスも、ロコムジカも、ルベルブルーメも……今、目の前にいるこの相手すらも……そう易々と手加減できる相手ではない。
……だが、だからこそやらなければならない。
アトラからの歪な信頼。だが、歪であっても、信頼は信頼だ。
頼られるなら、応えなければ、魔法少女ではない! そう名乗ることは許されない!!
(……やったるわぁ!!)
……サルファの胸に闘志の炎が灯る。
動いたのは緑の騎士が先だった。
「はぁぁぁぁぁっ!」
緑の騎士が剣を振るい、風の刃が解き放たれる。
「……じゃかぁしぃ!!」
気合一閃。
ごぅ、と吹き荒れたサルファの魔力に風の刃がかき消される。
真化状態のサルファの本領は攻撃にこそあるが、真化前の段階では、自らの拳を隠し、防御も担っていた。それは真化状態になったからと言って、劣るものではない。
相手はまさか、一瞬で消されるとは思っていなかったのか、少し驚いた顔をするものの、次の手を打つ。
ごぅ、とサルファを押しとどめるように、つむじ風のようなものを打ち付けられた。
(……距離取って削る気か? ……そんなら)
左手を前に出し、右拳を腰だめに構える。
……サルファに相手の遠距離攻撃に付き合ってやる義理はない。
(……行くでぇ、新技!!)
「『雷霆掌・
前に出した左手から雷光が放たれる。
「くっ!?」
相手は足止めのつむじ風を放ったのみ。この雷光は防ぐの精一杯だ。
……しかし、それだけで十分だ。
放った雷撃は空間すら歪んだように見え、その道中の物を全て薙ぎ払う。
物理的にも魔法的にもぽっかりと道が開いた。
その着弾点に向けて、サルファが……サルファの構えていた右拳が体ごと、一瞬の内に電流のように奔った。
電撃と雷撃を纏った拳……そして、超高速移動。魔法と物理の二段構え。
ずがん、という相手の体を打ったような音と、ばちぃ、と大きく音が響く。
『雷霆掌・流』を受けた相手は、魔法と物理、双方の防御が強いられれる。
「ぐぅぅっ!?」
……しかし、相手もさるもの。自身に纏わせた風の防壁がその多くの威力を散らした。
……だが、防御は穿った。
(……ここや!!)
サルファは仕掛けどころはここと見て畳みかける。
『雷霆掌・流』も含め、これから行うのは、エノルミータとシオちゃんズと自分たちの実力差を知り、文字通り血の滲む努力を行った修行を超えてなお未だ開発中の技……しかし、出し惜しみをして勝てる相手でもない。
相手が散らした雷撃をもサルファは活かす。……更に踏み込んで、魔力を練った双掌打を放つ。
「『雷霆掌・
散った雷撃。付近に霧散したハズのサルファの魔力。そして、今吐き出したサルファの魔力。乱れていたサルファの魔法は、その言葉とともに、それが整然に囲むようにして、さながら檻の様な雷撃を迸らせる。
……マジアベーゼやマジアアトラあるいはネロアリスに比べ、サルファの魔力は少なく、一撃の威力はともかく、長時間の戦闘行動には向いていない。
それ故に、一度、使い、周囲に散った魔力でさえも利用する……現状、三割程度は回収できているだろうか。……それでも、必殺と言っても良いほどの火力。
「……っく、ぁぁぁぁぁぁっ!!」
(……まだ耐えれんのか。大したやっちゃで)
それでも、まだ耐える相手に内心で称賛を浴びせながら……。
……パン、と両の掌を合わせる。
「……『雷霆掌・
静かに瞑目したサルファの声と合掌に合わせ、檻の雷撃は全てが内側に向かって、収束し、ばちぃ、と青白く大きく光った。
その場にあるサルファの雷撃を全てを一点へと収束させる『雷霆掌』の締め……物理と魔法を両立させた戦闘スタイルのサルファにとっては珍しい純魔力攻撃。場にある雷撃が多ければ多いほどその威力は乗算的に上昇する。
しゅぅぅぅ、という焼けたような音とともに、雷撃が霧散した。
「……がっ……ぁ……」
……ずさり、と緑の騎士は、膝をつき……それでもなお剣を離さず、その切っ先をサルファに向けようとしている。
……しかし、全身が黒く焦げるほどのダメージである。ふら、と動いた切っ先はサルファに向けて振られることなく、重力に導かれて地面に落ちた。
「……っはぁぁぁぁぁっ……しんどいわぁ……」
大きく息を吐いて、サルファは汗の流れる額を袖で拭った。
(……結局、全部使ってもうたし……)
完成、というほどの練度ではなく、未完成であるからこそ、相手を殺さずに倒したとも言えるが……使う予定ではなかった技まで使わされた、という自責の念があった。
(……実戦でもイケるっちゅうのを確かめられただけ、ヨシとしよか)
ふぅ、と短く息をつき、アトラとアリスの方を見る。
「……………………嘘やろ」
視線のその先の光景に、サルファは、はらり、と冷たい汗が流れたのを自覚した。